3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
サトシやアイリスの予感通り、ベスト4まで残ったのはマサト、ユリーカ、バンジロウ、オモダカの4人であった。
「チャンピオンサトシ、ありがとうございました!」
「どうも。ふう。」
「ぴかぴ…。」
準決勝が始まるまでの30分、ロトムが入ったサポートロボットがフィールド整備をしている規則的な動きを眺めているだけでは暇で暇で仕方ないサトシが、退屈しのぎにVIPルームから出たならば、あっという間に見つかってサインや記念撮影をねだられるのは自明の理であった。
「ようやく済んだかぁ…やっぱり外に出たのはよくなかったかな、ピカチュウ?」
「ぴっか。」
サトシにピカチュウはうん、とハッキリ頷く。
PWTとPWCSという大会間の微妙な関係などは、直接関わる出資者や一部の頑迷かつ強硬な原理主義者くらいなものであり、イッシュ地方でもサトシの名声は広く知れ渡っていた。
PWTに限定してみても、サトシはジュニアカップを準優勝しているので実績はじゅうぶんなのだ。
「ん。あれは。」
「ぴかちゅ。」
ふとサトシとピカチュウが視界に捉えた先には、木陰に座り込み、タブレットと睨めっこしながらサンドイッチを齧るマサトの姿があった。
傍で見守る相棒のサーナイトが、サトシと目が合う。
「(マサト。サトシさんが。)」
「よっ。マサト。」
「サトシ。」
サーナイトからのテレパシーを受け取り、彼女の視線を追うマサトも遅れてサトシに気付いた。
サトシは片手を挙げて応えて見せながら、ベンチの隣に座り込み、軽くタブレットの画像を見る。
そこには、細かい注釈がいくつもタッチペンで書き込まれたユリーカのポケモンたちのデータが並んでいた。
試合直前に、集めた情報を頭に叩き込んでいたのだろう。
「相手はユリーカだけど、どうだ?」
「僕もユリーカちゃんも、3年前のマサムネみたいなことにはならないから安心してよ。」
「そっか。」
サトシが3年前のホウエン時代に出会ったライバルの1人であるマサムネ。
同年代の中では恰幅が良く、豪快で根性のある有望株のトレーナーだが、根性と同じくらい強く持った気の優しさが災いして、サイユウリーグの舞台で、事前に知り合ったサトシを相手に、本気の勝負に徹しきれない有様をマサトは直に見ていた。
ポケモントレーナーは皆、それぞれに定めた頂点を目指す為、日々ポケモンと共に切磋琢磨し、真剣勝負に挑む。
見知った仲や、親しい相手を前にして優しさを理由に引き下がったり、譲ったりするのは違うのだ。
実際3年前でも、試合中にポケモンを逃げ回らせることしかできなかったマサムネに対し、サトシは激昂した。
『逃げ回ることしかできないんならやめちまえ!そんなザマじゃ、ポケモンたちがかわいそうだ!!』
この一言と、愚直なまでに自分に従ってくれるポケモンたちの頑張りを前にマサムネが調子を取り戻し、後半以降は見違えるような試合となったのだ。
自分だけが馬鹿を見るのなら、勝手に見ればいい。ただ、ポケモンバトルとはトレーナーだけでは決して出来ない。
実際に戦うポケモンたちのことを考えるなら、どんな相手であろうと、どんな舞台であろうと真剣勝負あるのみなのだ。
それが、マサトの精神にしっかり根付いているのが見えてサトシは嬉しくなった。
「ユリーカちゃんに勝って、決勝も勝って、エキシビジョンでチャンピオンアイリスにも勝つ!それがジュニアカップのためにはるばるイッシュ地方まで来た僕の目的なんだからね。」
「頑張れよーマサト!」
「ぴっぴかちゅう!」
サトシが拳を突き出せば、それを見たマサトも拳を突き出し、コツン、と合わせる。
「任せてよ!」
トレーナー同士、男同士のやりとり…まさに青春と言えよう。
「せんせー!」
「でねね〜。」
「おや、ユリーカではないですか。」
サトシがマサトを見つけたのと同じ頃、フィールド整備中のうちに用を足す目的で放送席を出たナンテの、目的を済ませて戻る道中の後ろ姿をユリーカが捉えた。
『先生』と呼び止められ、ナンテは振り返る。
「どうです?相手はマサトですけど。」
「全力でぶつかってくだけだよ。」
「それが分かってれば結構。」
1年前、ナンテはホウエン地方トウカジムのジムリーダーセンリからマサトを、カロス地方ミアレジムのジムリーダーシトロンからユリーカを、それぞれ自身の経営する私塾に預けられた。
ジョウト地方アサギシティに構えていた私塾に2人が預けられた理由としては、親元から離してのデビュー前最後の詰めの部分のトレーナー教育を、と言う保護者側たっての依頼を受ける形であった。
『『よろしくお願いします、先生!』』
1年間の指導の中で、マサトはデータを活かした理詰めの戦い方に活路を見出し、ユリーカは瞬間的な思考力に特化した野生的な戦い方が肌に合う、と各々が持ち味を発見してから故郷へと帰っていった。
そんな2人が同じ大会で顔を合わせ、この後戦おうとしている。それは、指導を行なったナンテとしては感動もひとしおであった。
「ミーちゃんは来てないの?」
「アサギの塾で勉強してますよ。多分お2人の試合は、テレビで見るんじゃあないですかね。」
「そっかー。よーしッ!」
ユリーカが全身を震わせる。それは紛れもなく、武者振るい。
強者との戦いを前に、彼女の口角は吊り上がる。相手が同門であることは、むしろ闘志に火を付けていた。
「先生見ててね!ユリーカ、マサトくんに勝って、決勝も勝って、チャンピオンアイリスにも勝っちゃうから!」
「でね〜!」
「えぇ。えぇ。あなたなら大丈夫。信頼してますよユリーカ。」
若さに身を任せた、あまりにも大胆な布告にナンテはにっこりと笑みを見せながらユリーカの頭を撫でる。
えへへ、と照れ臭そうに、それでも嬉しさを見せてからじゃあ!とユリーカは来た道を駆け戻っていった。
ナンテも放送席へと戻ることにした。
「全国のポケモントレーナーの皆さん、ポケモンバトルを愛する皆さん!お待たせいたしました!イッシュ地方より明日の未来へ羽ばたく才能たちが集う夢の舞台!ポケモンワールドトーナメントジュニアカップ!いよいよその準決勝が行われます!それまでの激戦の模様は、ポケチューブ公式チャンネルよりご覧になれます!」
ジッキョーのアナウンスの最中にナンテが放送席に戻り、一礼しながら席に座る。
「これから準決勝第1試合、ホウエン地方ミシロタウン出身のマサト選手vsカロス地方ミアレシティ出身のユリーカ選手の試合が行われます!」
ナンテは、改めて電光掲示板にてマッチアップされた2人の写真を眺めた。依然、感無量が続いている。
「実況はこの私ジッキョーが!解説はポケモン評論家のナンテさん!スペシャルゲストにはこのジュニアカップでもベスト4の実績があるイッシュリーグチャンピオンのアイリスさんにお越しいただいております!お二方、引き続きよろしくお願いします!」
「ん、はい。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!」
ナンテのリアクションが一瞬だけ遅れたのを、ジッキョーもアイリスも見逃してはいないが、特に気にせず捨て置いた。
これは生中継でもあるからだ。
「さてチャンピオンアイリスにナンテさん、ここまで勝ち上がってきた選手たち、どう見ておりますでしょうか?」
「そうですねー、4人ともそれぞれに個性が全く違うといいますか。なんて言ったらいいのかしら。今のところは、実際バトルになってみないとわからないけど、勝敗を分けるのは、それぞれが持つ個性をどうやって相手より前面に出せるか、だと思います!」
「流石はチャンピオン。解説として言いたかったこと、全部言ってくれました。」
「あっ、ごめんなさい!」
「いえいえ。全然大丈夫ですよ。」
ペコリと頭を下げるアイリスに、ナンテは構わないと返す。
ウオオオオオオオ!ヒューヒュー!!
「おっと、観客席からの大歓声!両サイド入場口からマサト選手とユリーカ選手!出て参りました!いよいよ試合開始となります!」
これから戦う両者がフィールド中央まで歩むのを見れば、アイリスもフィールドに顔を向けた。
この後試合する4人のうち誰か1人と、自分は戦うことになるのだ。エキシビジョンとはいえチャンピオンという立場から、勝負となれば勝ちを譲る気などは一切ない。
その為には、たとえルーキーたちの登竜門という扱いのジュニアカップの参加者と言えど、その戦略や癖は頭にインプットした上で、真っ向から叩き潰す。
それがアイリスのチャンピオンとしての矜持であり、ポケモントレーナーといういち競技者としての在り方に他ならないのだ。
ワー!ワー!ワー!ウオオオオオオオ!!
フィールド中央にて、マサトとユリーカが視線をぶつけ合う。
カゴメタウンまでの道中を一緒に旅し、絆を深めた。
それ以上に、同じ相手を師と仰ぐ者同士。同門対決。それは、最高のテンションを互いにもたらした。
「ユリーカちゃん。この勝負、僕が勝たせてもらうよ。」
「だーめ。勝つのはユリーカだもん。」
互いに勝利宣言。すぐにガッチリと握手を交わし、背を向けてはトレーナーサークルへ走って行く。
2人の駆け足は、若くフレッシュな印象を見るものに与えた。
「これよりPWTジュニアカップ準決勝第1試合を開始します!試合方式は3C1Dルール!メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタルは試合中、どれか1つを1度だけ、使用できます!ヘイ、ロトム!試合準備を!バリア展開の後、人工ガラテラ粒子、散布!」
「リョウカイ。」
お決まりのフィールド処理が済めば、あとは両者のポケモンが投げ込まれ、試合開始のジャッジが入る。
マサトとユリーカは、同時に先発のポケモンをフィールドに投げ入れた。
「いけッ!バルジーナ!!」
「いくよー!ウォーグル!!」
「試合開始ィィィィィ!!」
「マサトはバルジーナで、ユリーカはウォーグルか!!」
「ぴっかぁ!」
「ば、るじぁぁぁ!!」
「うおおおおおお!!」
ボールからそれぞれ飛び出した鳥ポケモンが2体。
睨み合いもそこそこに先制は、インディアンを思わせるウォーボンネットのような翼を硬質化させて迫るウォーグルだった。
「「はがねのつばさ!!」」
「うおおおおッ!」
「ばぁるじぁッ!」
両者同時に指示が飛ぶ。
ウォーグルが硬質化した翼を叩き付ければ、バルジーナも同様に硬質化させた翼をガードに使う。
ガキィィィィィン!!バチバチバチバチバチィ…!!
はがねエネルギー同士のぶつかり合いが轟音を起こし、激しいスパークを見せる。
始まりの攻防は、全くの五分と五分。
マサトとユリーカは、互いに不適な眼光と笑みを浮かべ、白い歯を見せていた。
『マサムネ』
13歳。ホウエン地方出身のポケモントレーナー。
気は優しくて力持ちを地で行くタイプの快男児。3年前、ホウエン地方を巡っていた頃の『根性』のサトシに『気合い』でくらい付いていた。
当時のエースポケモンはダンバルから育てているメタングで、現在はさらに強くなっていることだろう。