3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ユリーカが2番手に繰り出すメガチルタリスの猛攻をマサトは紙一重で掻い潜る。
 マサトもエースのサーナイトをメガシンカさせ、フィールドの双方同時にハイパーボイスをぶつけ合うのだった…。


死闘!PWT ジュニアカップ準決勝 マサトvsユリーカ②

 メガシンカポケモン同士のスタジアム全体を襲う絶唱の激突は、まさに実況殺しであった。

 放送席のジッキョーが、負けじと名調子を展開するもろくに聞き取れるものではない。

 

「一見互角なぶつかり合いに見えるけど…!」

 

「流石に盤面構築は、マサトの方が上手い…!」

 

 バリアフィールドが軋むほどのフェアリーエネルギーのぶつかり合いを見ながら、アイリスとナンテがそれぞれ呟く。

 

 

 

「(ひかりのかべかーッ!)」

 

 ユリーカは歯噛みした。サーナイトがメガシンカする前に展開したひかりのかべの特殊攻撃減殺効果が効いていた。

 メガサーナイトが出てくる際、ユリーカ側にはもう一つの選択肢があるにはあった。

 それは、ゴッドバードによる直接攻撃にて一気に打撃を与える作戦。

 メガシンカ直後を狙うのは変わらないが、決まればより確実に大ダメージを通せたかもしれない。

 しかし、相手がマサトのサーナイト、という時点でその択は使い物にならないと引っ込めた。

 メガシンカ直後のタイミングが狙われることの想定など、当のマサトが何より熟知しているのだ。

 事実、メガサーナイトは、メガシンカ直後に最速のレスポンスを叩き出している。ゴッドバードによる突撃などしようものなら、メガチルタリスは至近距離からこの絶唱を叩き込まれていたに違いない…。

 

「こぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「ちるるるる、がぁッ!?」

 

 均衡が、崩れた。

 ハイパーボイスをぶつけ合う絶唱対決、競り勝ったのはメガサーナイトだ。

 彼女の絶唱がメガチルタリスを襲い、吹き飛ばす。メガチルタリスの体は、バリアフィールドにバウンドして地面に落着した。

 

「チルタリス!」

 

 

 

「これぞエースの貫禄!マサト選手のメガサーナイトがハイパーボイス対決でリードを奪ったーッ!!」

 

「自分はひかりのかべの恩恵を受けた状態から、より強いフェアリーエネルギーをドラゴンタイプでもあるメガチルタリスに叩き込む。抜け目ないわね。」

 

「マサトの盤面構築はこれだけじゃあない。だけど…。」

 

 ナンテが一旦、息を置く。

 

「これで押し切られるユリーカでも、ない。」

 

 アイリスが冷静にここまでの流れを言語化する中、ナンテは評論家としてではなく、2人の師としての顔を覗かせていた。

 

 

 

「ち、ちるぅ…。」

 

 落着したメガチルタリスはどうにかと起き上がる。

 多大なダメージこそ受けたが戦闘不能にはなっていない。そこに追撃が来ないのに、ユリーカは不審がりながらボールを構える。

 

「チルタリス、戻って来て!」

 

 自分なら同じ盤面では必ず追撃をかけた。それこそフォレトスにしたように。

 メガサーナイトのスピードならば、たとえフルパワーの絶唱の直後であっても、サイコパワーでメガチルタリスを捉えるくらいは出来たであろうに…。

 

「でぇーね?」

 

「ううん。なんでもない。」

 

 メガチルタリスを引っ込めたユリーカのリュックから声がする。

 その声の主に、ユリーカは頷いた。

 猛毒状態のウォーグルでは軽くあしらわれることは目に見えている。こうなれば、あとはエース対決に活路を見出すしかない。

 

「出番だよ!デデンネ!!」

 

「でーねねー!」

 

 

 

「ユリーカ選手、ここでポケモンをチェンジだ!出て来たのはデデンネ!エースの投入です!!」

 

「お互い、残りの2体は手負いだわ。となれば…。」

 

「はい。この盤面で決めるつもりでしょう。」

 

 

 

「(やっぱり来た、デデンネだ!)」

 

 ユリーカがフィールドを指差せば、リュックの中からパートナーであり、エースのデデンネが飛び出した。

 

「んッ!?」

 

 デデンネの姿にマサトの眼鏡がキラリと煌めくのを見ては、そこでユリーカはハッとする。

 この刹那に、メガチルタリスに対して追撃がなかった理由に勘付いたのだ。

 

「走ってデデンネ!」

 

「でね!」

 

 ユリーカの指示に、フィールドへ降り立つデデンネは即座に四足で疾走を開始する。

 それを追うように地面から浮き上がったのは、どくびし。

 フォレトスが撒いて残したものを、メガサーナイトがサイコパワーで操作していた。

 

「予想通りだね!」

 

「さな!(はぁッ!)」

 

 メガサーナイトが両手を動かし、さながら指揮者のようにどくびしを放っては走るデデンネを取り囲ませ、一斉に飛び掛からせた。

 

 

 

「あーっとメガサーナイト、フォレトスがバラ撒いたどくびしをサイコパワーで操りデデンネに放った〜!!」

 

 

 

「デデンネ!お兄ちゃんのエレザード直伝の〜!」

 

「でーねーねー…!」

 

 いつまでも逃げていては埒が開かない。

 四方から放たれるどくびしを前に、デデンネは立ち止まり、その全身から頭上にバチバチとでんきエネルギーの球が打ち上げられる。

 

「パラボラチャージ!!」

 

「でねねぁ〜ッ!!」

 

バチバチバチバチバチィ!!

 

 ボトボトと空中に打ち上げられたエネルギー球からの広範囲の放電により、どくびしが焼け焦げて落下していく。

 

 

 

「おお!これは上手い!デデンネがパラボラチャージで迫るどくびしをまとめて薙ぎ払ったーッ!!」

 

 

 

 マサトに動揺はない。

 技の終わり際の硬直という、絶対的な隙…それがマサトの狙い目であった。

 

「今だよサーナイト、もう一丁!」

 

「ッ!飛び退いてデデンネ!」

 

「でね!」

 

「(逃がさない!)」

 

 デデンネが打ち払ったどくびしはコットンガードに阻まれた第一陣。だいもんじを前に放っていた第二陣が地中から掘り起こされ再度デデンネを襲う。

 これは流石に回避し切れるものではなかった。

 

ガリィッ!

 

「でねぁッ…!」

 

「くうッ!」

 

 どくびしの棘が僅かにデデンネの体を掠め、猛毒の状態異常をもたらしてゆく。

 苦悶に歪むデデンネに対し、ここからがメガサーナイトの本格的な攻撃開始であった。

 

「ムーンフォース"拡散弾"!」

 

「さぁなぁぁッ!」

 

 メガサーナイトが飛び上がり、デデンネの上を取る。

 その胸元には両手を構え、生成されたフェアリータイプのエネルギー球が輝いている。

 

ババババババババ!!

 

 

 

「おーっとメガサーナイト!どくびしの効果で毒を受けたデデンネにすかさずムーンフォース!しかもこれはまるでショットガンのようにエネルギーを拡散させて放ち、逃げ場を与えないーッ!」

 

「技の応用が上手い!」

 

 アイリスが素直に感嘆している。

 

 

 

「パラボラチャージッ!」

 

「でねねねぇ〜ッ!!」

 

バチバチバチバチバチィ!チュドドドド!

 

 フェアリーエネルギーの拡散弾を前に、デデンネもでんきのエネルギー球を放ち、放電により相殺させていく。

 相殺されたムーンフォースのエネルギーが、デデンネに吸収されていった。パラボラチャージによる回復効果だ。

 ムーンフォースが相殺されたこと、それもまた、マサトの計算通りだった。

 

「ドンピシャ!!」

 

「でねぁッ!?」

 

「ッ、しまった!!」

 

メコァ!ズドオオン!!

 

 

 

「これは!何が起きたーッ!?パラボラチャージを凌いだはずのデデンネが、巨大な圧力を叩き込まれたーッ!?」

 

「みらいよちね。」

 

「はい。完全に"置きに行った"一発です。」

 

 

 

 飛び上がったままであったメガサーナイトが、サイコパワーを用いた瞬間移動でニュートラルポジションに戻る。

 みらいよちを仕掛け、炸裂させた箇所に巻き上がった土煙が徐々に晴れてゆく。

 

「で、でねぇ…。」

 

 みらいよちによる圧力攻撃を受け、地にふせさせられたデデンネの顔色はよろしくはない。

 ダメージ以上にどくびしから受けた毒のダメージが、その20cmほどの小さな体から体力を容赦なくむしり取ってゆく。

 

「サーナイト、一気に決めるよ!」

 

「(了解!)」

 

 マサトの号令に、純白のドレスを纏うかのようなメガサーナイトは、それを見下ろしたまま右手を空に掲げれば、先程生成したものと比べ、倍以上のエネルギー球を作り上げている。

 

 

 

「あーっとメガサーナイトの追撃が入る!先程の拡散弾とは、まるでサイズが違うエネルギーの塊!今度は直接ぶつけようというのかーッ!!」

 

 

 

 良心の呵責などあろうはずがない。

 愛するマサトに勝利を捧げるため、メガサーナイトはひたすらに必死であり、冷酷であった。

 

「トドメだ!サーナイト!」

 

「さぁなぁ!(これで終わりよ!)」

 

ゴオオオオッ!!

 

「で、ねーね…!」

 

 メガサーナイトが右手を躊躇なく振り下ろせば、特大のムーンフォースが放たれる。

 迫る桃色のエネルギー球を睨み付けるデデンネの体が再度帯電し始めた。

 

 

 

「どうするんだユリーカ、パラボラチャージじゃあ、とても防ぎ切れる威力じゃあないぞ!」

 

「ぴかぴかぁ〜!」

 

 ピカチュウをパートナーとし、でんき技の威力に関しては、それこそ幾度となくその身で直接受けて来たサトシは、デデンネの放電技では、巨大ムーンフォースを相殺することはとても出来ないと直感する。

 それは予想ではない。確信であった。

 

 

 

 ユリーカの脳裏に兄シトロンとのやり取りが浮かぶ。

 それは時を遡り少し前、ジュニアカップに参加する際に、ミアレ空港まで見送りに来た兄は、妹と同じトレーナーとして、視線を合わせている。

 

「いいかいユリーカ。デデンネの"奥の手"は、本当にいよいよって時にしか使っちゃあいけないよ。アレはベースとして使う技から来る反動ダメージも大きいからね。」

 

「分かってるよお兄ちゃん。あたしが考えついた必殺技だもん。欠点くらい把握してる。」

 

「あ〜ん流石は賢いユリーカちゃんだわ〜。お義姉ちゃんの教えが良かったからかしら?なんちゃって〜。」

 

 シトロンと一緒に見送りに来たドラセナが、年甲斐もなく体をくねらせるのをシトロンはげんなりしながら、ユリーカは破顔しながら見ていた。

 

 

 

「デデンネ、今がその時だよ。」

 

「でぇね…」

 

「いくよ。よーい…。」

 

 巨大ムーンフォースが迫る。

 ユリーカとデデンネが見るのはあくまでメガサーナイト。

 追い込まれながらもその双眸4つから、勝利を目指す意思は消えてはいない。

 兄から教えられた『いよいよって時』は、今ここをおいて他にない…!

 そう、今が、その時だ…!!

 

「どんッ!!」

 

「でねぁッ!!」

 

ギュオオッ!!

 

「なッ!?」

 

「さなッ!?」

 

 

 

「おい、おいッ!おいッ!!あいつ今何した!?」

 

 

 

「なんと、これはこれは。」

 

 

 

 ムーンフォースに押し潰されるのを待つばかりに見えたデデンネが、メガサーナイトの鼻先まで距離を詰める。

 一瞬の出来事に、それぞれの控え室のモニターから試合を見ていたバンジロウもオモダカも、驚愕を隠せない。現場で見ていた観客たちからはどよめきが上がっている。

 

 

 

「ほっぺすりすり!」

 

「でねぁ〜!」

 

「(くッ!)」

 

 トドメのつもりであったムーンフォースに相応のリソースを割いたメガサーナイトは、辛うじてデデンネが飛び上がり、全身を擦り付けてくるのを左手でガードする。

 それでよかった。元々威力を求めた技ではないのだから。

 

「ムーンフォースを叩き込むんだ!」

 

「("ムーン・フィンガー"!!)」

 

 メガサーナイトのダメージは軽微。至近距離まで来られたならば、膨大なフェアリーエネルギーを直接押し付ければいい。

 右手に凝縮させたムーンフォースを、着地前のデデンネにぶつければそれで決着なのた。が…。

 

バチチチチチィ!

 

「さなぁぁぁッ…!?」

 

「マヒで身体がしびれてッ…!!」

 

 メガサーナイトの全身から電気が走り、その挙動が硬直、凝縮させた右手のフェアリーエネルギーはあっけなく霧散してしまう。

 それを見逃すユリーカであるはずはなかった。

 

「パラボラチャージッ!!」

 

「でーねねぇ〜!!」

 

 デデンネが全身を発電させ、電球をメガサーナイト目掛け発射する。

 身体がしびれて動けないその腹部に叩き込まれた電球が、すかさず放電。ほっぺすりすりに続き、またも至近距離からの直撃。

 みらいよちで叩き込まれたダメージを、パラボラチャージの電球からのエネルギー供給により回復するデデンネ、それはいい。

 マサトとメガサーナイトにとっては、先程のデデンネが見せた爆発的加速の方が余程問題であった。

 

 

 




 『シトロン』
 18歳。カロス地方ミアレシティのジムを預かるジムリーダー。
 ユリーカの実兄であり、かつてサトシと共に冒険した仲間。優れた発明家でもある。3年前から四天王のドラセナとお付き合いしている。
 エースポケモンは彼に忠実に苛烈な電撃を放つレントラーだ。
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