3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
これより行われるのは優勝決定戦…勝つのはバンジロウか、オモダカか。
「PWTジュニアカップ準決勝第2試合!バンジロウ選手vsオモダカ選手!なお、先に行われた準決勝第1試合に参加たマサト選手、ユリーカ選手がそれぞれ棄権したため、大会規定により、この試合の勝った側を優勝者とし、負けた側を3位入選として扱うことになります!それでは両出入り口より、選手入場です!!」
「思いがけないところから勝ったら優勝、という話になったのです。両選手ともに、いやというくらい気合が入ってることでしょう。」
「豪傑の遺伝子は死なず!未来のイッシュの旗頭となるか!!イッシュリーグ前チャンピオンであるアデク氏のお孫さん、バンジロウ選手!!」
ウオオオオオ!イエエエエエ!!
これからまた試合が始まる。
自分が戦うでなくとも、誰かのバトルを見るのでも大きな糧になることを、マサトもユリーカも知っていた。
で、あるために最前列、フェンスに手をかけ、目を皿のようにして試合を見届けるつもりであった。
「あっ。」
「んっ。」
そんな中、つい先ほどまで眼下のフィールドで熾烈な戦いを繰り広げていた当人同士が顔を合わせた。
お互いに一瞬、キョトンとする。少しだけ気まずい雰囲気になるも…。
「「あっははは!」」
そこからすぐに、どちらともなく笑ってしまった。
お互いやることは同じなのだと安心もした。ならば、この後のことも決まりきっていた。
共に、同じ方向を見る。2人はライバルであり、親友。その視線は、もう1人の同胞を捉えていた。
「バンジロウくん頑張れ〜!」
「ユリーカたちがついてるよ〜!」
「あいつら…へへッ!」
ずかずかと歩を進めるバンジロウが、フェンスから身を乗り出しながら、こちらに手を振るマサトとユリーカを見つける。
先程まで、棄権するハメになるほどに凄まじい死闘を演じていた2人が、何事もなかったかのように隣り合って試合を観戦しようというのだ。
その切り替えの鮮やかさに、バンジロウは苦笑させられた。
「応よッ!」
苦笑から、満面の笑みに変わる。グッ!と左手側の客席最前列からエールを送る2人に、バンジロウは拳を突き出して見せた。
彼らしい、必勝を誓う剛健たるパフォーマンスだ。
ウオオオオオ!ヤッタレタイショー!!
結果として、バンジロウは優勝決定戦まで勝ち残った地元イッシュのトレーナーとなっていた。
しかも、前チャンピオンアデクの孫と言う次代への期待感もあり、浴びせかけられる歓声も一際大きいものであった。
「反対側からも選手入場!遠くパルデア地方からはるばると参戦!重ねてきた勉学を存分に発揮して、ここまで勝ち上がってきました!オレンジアカデミーの才女、オモダカ選手です!!」
「ええかみんなー。腹の底から声出しや!今となっちゃあ、あの子はウチらの代表やからな!」
「「「はい!チリ先輩!!」」」
「応援団長は、このエレブーズファン歴14年のチリちゃんがさせてもらうで〜!!」
2年生のチリがジュニアカップを終えた後輩たちに呼び掛ければ、彼らもそれに元気良く応じる。
パルデア地方から招待されたオレンジアカデミーの生徒たちは、さながら即席の応援団となっていた。
「皆さん。応援するのは素晴らしいですが、節度は弁え、オモダカさんの対戦相手に失礼のないように気をつけてくださいね。」
「任しといてください!ウチこれでもジョウトにいた頃は物心つく前からコガネ園に入り浸ってましたさかい!てゆーかクラベルはんも腹から声出したってくださいや!!」
「は、はい!オモダカさんファイトですよー!」
引率役のクラベルが嗜めに入れば、完全に熱狂に呑まれ、応援団長モードのチリに背中を思い切り平手で引っ叩かれ、上擦った声をあげていた。
「………。」
フェンス前最前列にて腕を組み、フィールドを見下ろす3年のグズマとしては、別に彼女たちを呼んだ覚えはない。
チリたち後輩連中の方から、グズマの白髪を見つけては勝手に集まり、ついには一緒にいたスカル団の面々と自然に打ち解けていたのだ。
思いがけないことではあったが、高い旅費を払ってわざわざアローラ地方からやってきた子分たちにとっても、外の世界に触れることが人生においてのいい刺激となるなら、グズマとしては嬉しいことであった。
YO!YO!オモダカ!GO!GO!優勝!
「ふふ。」
パルデア地方における伝統あるアカデミーの生徒たちと、アローラ地方の元ゴロツキ集団という、側から見ればとんだミスマッチな取り合わせの応援団。
その不揃いさが、入場口から姿を現すオモダカの中のプレッシャーを和らげた。
目を細めながら、彼らに向けて軽く手を振って見せている。
"全力で戦ってきます"。
「お前はそれしか出来ねェだろうがよ。」
そんなようなことを視線で語るオモダカに、グズマがひとりごちるのを隣で聞くプルメリは、彼がすっかりパルデアで健全なコミュニティの中、問題なく暮らしていけていることを改めて感じ、しみじみと頷いていた。
「なンだよ?」
「別に。」
アローラにいた頃より血色も良く、顔の険もずいぶん取れている。
それを言えば、気恥ずかしさからグズマはこの場より立ち去ろうとするのが長年の付き合いから目に見えていた。
だからプルメリは、何も言わなかった。
フィールド中央、ガッチリと握手を交わすバンジロウとオモダカ。早くも視線をぶつけ合わせている。
「(直に見るとすげぇ覇気だな。だけどこの勝負、なにがなんでも勝つのはおいらだ!)」
「(ポケモンたちの熱量が、トレーナーを通してこうも伝わるとは。しかしこの勝負、なんとしても私が勝つ!)」
「さぁ握手の後、両者トレーナーサークルへ!チャンピオンアイリスにナンテさん、この試合、どう見てますでしょうか?」
「そうですね。バンジロウ選手はカイリュー、ガブリアスの2体。オモダカ選手はゴーゴート、クレベースに、キリキザンが進化したドドゲザンを加えた3体が、これまでの公開情報として見えています。」
ナンテがタブレットにまとめた資料を確認しながら、アイリスを横目でチラ見し、言葉を続ける。
「それだけを参照するならば、バンジロウ選手のデータからするに、オモダカ選手は、こおりタイプのクレベースを起用する確率は高いんじゃあないでしょうか。」
ナンテからの視線にアイリスが反応することはない。アイリスは、完全にフィールドに見入っていた。
コメンテーターとしてではなく、リーグチャンピオンとしてこれから戦うことになる相手を見定めていた。
その圧倒的な覇気を感じ取ったナンテは、ジッキョーに首を横に振って見せる。
ジッキョーも小さく頷いて返した。人の身分でわざわざ竜の逆鱗に触れる愚を犯す必要はないのだ。
「それでは両者、ポケモンを出してください!」
フィールド中央の審判の呼びかけに応じ、バンジロウもオモダカも先発のボールを手に持つ。
そして、そのまま思い切り投げ入れた。
「いくぞ、いくぞッ!いくぞッ!!ガブリアス!!」
「がぁぶぁッ!!」
「バンジロウくんの初手はガブリアスか!!」
「気合いじゅうぶんな感じ!!」
「大将は何出すんや!?」
「参りましょう。輝く舞台へ…キラフロル。」
「きらしち!」
透明な円錐形の体と、結晶でできた大きな花びらが特徴的なそのポケモンが、円錐の内側に黄色の目からガブリアスを見下ろす。
花びらは重なって層を形成し、大きく三層に分かれている。一番表側の花びらは濃い青色で大きく6枚、真ん中の層の花びらは暗い紫色で4枚、一番内側の花びらは水色で3枚あるこうせきポケモンキラフロル。
この場のほとんどの者にとって初めて見る存在であった。おそらくはパルデア地方原産の種であろう…。
オオオオオオ?イッツァ、カルチャーショック!
観客席からも、困惑気味の声が上がっている。
「(あいつは何タイプ…何してくるポケモンだ?)」
バンジロウの表情から僅かに見える"未知"への困惑。ポケモンバトルにおいて、『相手の知らないこと』とは大きな武器になる。
オモダカは、それを正確に見抜いた。
「(突かせていただきます。その逡巡を。)」
「試合、開始ィィィィィ!!」
審判が高らかにコールし、試合開始を告げる。
キラフロルが浮遊したまま高度を上げれば、バンジロウは視線を向けてくるガブリアスに顎をクイ、としゃくりあげてみせた。
「がぶぁ!!」
「おや。」
相手はキラフロルを知っている…即ち、情報アドバンテージはないのか?
オモダカは一瞬考えるもすぐに振り払う。
「出たとこ勝負だ!」
バンジロウが導き出した解には、ロジカルさのかけらもない。しかし、下手に迷いを残すよりはずっとマシと言えた。
ガブリアスが跳躍し、キラフロルと高度を合わせる。そして、最初の指示は、同時に飛んだ。
「ガブリアス!」
「キラフロル。」
「「ステルスロック!!」」
シュバババババ!シュバババババ!
フィールドの地面に埋まっていた小石が、ガブリアスとキラフロル、両者からの制御を受け、入り乱れるように飛び交い、ぶつかり合ってゆく。
一部一部は砕け散り、また別の一部は砂粒同様となり制御を離れ、土に還ってゆく。
やがて小さな石粒たちは、それぞれボトボトとフィールド中に散乱していった。
「ステルスロックでお互いに牽制し合ったね。」
「コレで、入れ替え先の負担が大きくなったんだ。」
マサトとユリーカが、ステルスロックによる石粒の応酬の後、自由落下に身を任せるガブリアスを見れば、その目はキラフロルをジッと睨み、足に力を溜めているのが分かった。
「あのガブリアス、ガンガンいく気だな。」
不意に背後からした声、ガブリアスの動きを看破した声の主に、マサトとユリーカは驚かされた。
「「サトシ!?」」
VIPルームを用意されていたのでは?そんな疑念を孕んだ驚きとともに振り向いた2人の肩に手を置きながら、サトシは無邪気な笑みを浮かべた。
「優勝を決める、って試合なら、やっぱりこういうフェンスギリギリの、臨場感たっぷりなところで観るのが一番だぜ!」
「ぴぃかちゅう!」
その頭には、相棒のピカチュウが指定席として座していた。
『チリ』
14歳。ジョウト地方出身のオレンジアカデミー2年生。
非常に容姿端麗なのは間違い無いのだが、異性より同性に圧倒的に支持されている女の子。
エースポケモンは彼女の得意な地面を活かした戦法を最も心得ているドオーで、とてものんびり屋さんなんだ。