3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
カイリューの規格外なドラゴンパワーを存分に活かし、巧みな攻め手を前にバンジロウも決して引き下がりはしなかった。
カイリューの拳を、ドドゲザンは特徴的な中腰のまま頭部の刃で受け止める。その刃が、はがねエネルギーを纏いながら、白銀に輝いた。
「アイアンヘッド!」
「ほのおのパンチ!」
オモダカの透き通るような凛とした声にドドゲザンが、バンジロウのガラガラとしながらも雄々しい声にカイリューが、それぞれ反応する。
「どげぁ!」
「ばうぁ!」
ガッチィ!
ドボァ!
ドドゲザンの頭の刃が神速の拳を弾き、カイリューの右首筋に叩きつけられれば、それに負けじとカイリューは灼熱の炎を纏わせた左拳を向かって左側、ドドゲザンの右脇腹に突き刺してゆく…。
「ばわ…!」
「ぎぇ…!」
互いに苦悶の表情を浮かべる2体は、なおも引き下がることはない。
その眼は、目の前の相手を捉え続けている。
「(怯む様子はない…つまりは特性"せいしんりょく"。)」
「ダメージがでけぇ…!」
ぼうふうとふぶきの相打ちからドドゲザンの一撃を受けては、カイリューの体力に限界が近いことをバンジロウは悟る。
ボールを構え、カイリューを引っ込めにかかるバンジロウ…今度はオモダカがそこに飛びついた。
獲物の隙を見抜く双眸が、キラリと輝く。
「ドドゲザン、ドゲザン攻撃!」
「土下座?むむッ!?」
ドドゲザンが両手両膝を地面に突き出すのを見て、バンジロウは一瞬目を丸くする。
その仕草は、まさしく土下座。そこから放たれる一瞬の殺気を、見逃さなかった。
「戻れ戻れ戻れ、カイリュー!」
「どげざぁ!」
ドゴォォォン!
両手両膝をフィールドにつけたドドゲザンが、頭を勢いよく振り下ろす。
振り下ろされた刃から、強烈な衝撃波が放たれた。飛ぶ斬撃である。
「おーっとこれはーッ!?ドドゲザン、まさかの土下座から、なんとも凄まじい飛ぶ斬撃ーッ!?」
「土下座と共に放つ斬撃、これがドゲザンですか。」
ギャグであるつもりは微塵もない。ナンテからすれば、ドドゲザンの最大の武器である頭の刃を効果的に振り下ろすことを考えたら、土下座はなるほど効果的な仕草と言えた。
「相手を油断させ、頭を下げる自然な仕草から攻撃を仕掛けてくるとは。」
何より、土下座という行為に対する意味合いなどは、所詮人間側の都合に過ぎないのだ。アイリスも同意見である。
ズガァン!!
ドゲザン攻撃による飛ぶ斬撃は、バンジロウの右隣を掠め飛び、フェンスにぶつかれば縦一文字に切れ込みを作った。
あと少し交代が遅れていれば、カイリューは直撃を受け、倒されていたことだろう。
クレベースから受けたふぶきのダメージもあるのだ。
「(こいつしかないな、こりゃあ…!)」
握り込むモンスターボールに自然と力が入る。
ここからが、正念場だ。
「よし、よしッ!よーーーしッ!!」
バンジロウの癖である3度の連呼が気合いとして体を走り、スタジアムに木霊する。
先程とは、明らかに息の入りようが違った。
「この暑さは…。」
「ぴかぁ。」
スタジアムの空気が変わる。具体的には、分かりやすく温度が上がってゆく。
バンジロウを中心に、熱気が渦巻いているのがサトシには見えた。
「バンジロウくん、あの子を出す気だ!」
「出るよ!バンジロウくんのエースポケモン!!」
「来るわね。おじいちゃん譲りの熱いのが。」
バンジロウを知るフェンス際のマサトとユリーカ、放送席のアイリスには、すぐに分かった。
サトシにも、興奮の熱気とは違う暑さが、バンジロウの奥の手を推察させた。
「おい、おい!おいッ!!勝負はここからだ!!思う存分競おーぜ!!」
「圧力が、熱量が変わった…?」
オモダカは身構える。ついさっきまでとは、対峙していた少年が放つ気迫の質が全く違う。ガブリアスも、カイリューも、彼が手塩にかけて育て上げたポケモン。間違いなく強敵である。しかし、これから出てくるのは、それらを凌駕するほどのエースに相違あるまい…!
「(面白いッ!)」
脂汗を拭うのを忘れ、オモダカの表情は、さらに熾烈になるであろう戦いを前に口角を吊り上げていた。
「出てこいッ!!ウルガモス!!」
「くるるるぅ!!」
バンジロウが投げ込んだボールから飛び出したのは、エキシビジョンでも姿を現し、猛威を振るった『灼熱の太陽』。
祖父のものにも勝るとも劣らぬ立派な体躯に、真っ赤な6枚の羽を広げ、ウルガモスが姿を現した。
「バンジロウ選手もここで3体目を繰り出した!たいようポケモンウルガモス!エキシビジョンを盛り上げてくださった前チャンピオンアデク氏のエースとして印象的な強力なポケモンです!!」
「ガブリアス、カイリュー、そしてウルガモス。バンジロウ選手のポケモンは非常に強力なラインナップですね。育成能力の高さが窺えます。」
否定はしない。が、育成能力が高い…というよりは、あの3体しか今のところのバンジロウはポケモンを持っていない、という事実をアイリスは口にしない。
シンプルに情報アドバンテージに繋がるからだ。
「いっくぜぇぇぇぇぇ!!」
バンジロウが、首にかけていたモンスターボールを繋げた数珠を、祖父譲りの一品を取り外す。祖父同様、自らに交代を封じてウルガモスで戦い抜く覚悟を決めたのだ。
瞬間、フィールド中の温度上昇を感じ取ったオモダカの背は、反面ヒュッ、と冷えていた。
「(これは、まずい!)」
開会式の後のエキシビジョンマッチを思い出す。
あの試合でも、ウルガモスの強烈な炎熱攻撃は、チャンピオンサトシを追い込むほどに凄まじい威力を存分に見せつけていた。
何より、そのトレーナーのアデクは、目の前にいるバンジロウの祖父なのだ。
同じポケモンを扱う祖父と孫、戦い方もおそらくは似通ってくる…。祖父が使う手なら、孫もまた…。
「ドドゲザン、交代を!」
はがねタイプを持つドドゲザンがウルガモスのほのお技を…それもウルガモスほどのパワーによる強烈な威力をその身に受ければ、間違いなくひとたまりもない。急ぎオモダカはドドゲザンをボールに戻した。
無論、はがねタイプ同様ほのおタイプに弱いこおりタイプのクレベースも出せるわけがない。
となれば、残された選出先は…一つしかなかった。
「来るか!!」
「オモダカ選手はドドゲザンをチェンジ!これはー…交代先は、キラフロルでしょうか?」
「おそらくはそうでしょうね。クレベースもドドゲザンも、ウルガモスを相手にするには分が悪いですからね。」
ナンテの解説の横で、この試合は、そのままウルガモスとキラフロルの一騎打ち、いわゆる擬似的な『ラス1対面』にもつれ込むであろうことを、アイリスは予感していた。
「もう一度頼みます、キラフロル。」
「ふろぉーし!」
先発でガブリアスと小競り合いを演じた以来のキラフロルを再びオモダカは繰り出す。周囲の予想通りだ。
「オモダカ選手、先発のキラフロルを再度投入!!おっと、ここでポケモンの詳細なデータが届きました。キラフロルはいわ、どくタイプ。特性は直接攻撃に反応してどくびしをばら撒くどくげしょう…あーっと!こ、これはーッ!!」
「これを、狙っていたわけですか。」
オモダカの目が、一瞬動揺でブレる。
「へへッ!引っかかったな!」
オモダカが繰り出したキラフロルが、空中で静止している。正確には、動くに動けないのだ。
キラフロルを捉えたウルガモスの双眸が、怪しい紫色の光を放っている…。
「なるほど。ドドゲザンに効果抜群のほのお技を撃つと見せかけての、交代先を読んでの…。」
「アカンッ!サイコキネシスかーッ!!」
なんちゅうこっちゃ!とチリが両手で頭を掻きむしるように動かしながら嘆いた。
オモダカがまんまと交代読みを決められたのを見るのは初めてのことである。
「これは、まずいのではないですか?」
「キラフロルはどくタイプでもありますさかい、サイキネで捕まってしもたら、キツイなんてもんじゃないですわ!」
クラベルにも、頷かざるを得ない。
そう、このままどくタイプであるままでは…。
「いい旅を、してきたみたいね。バンジロウ。」
ナンテはもちろん、集中して試合を見つめるアイリスも、このバンジロウの交代読みの一手には舌を巻いていた。
少なくとも彼女の知る限りのバンジロウには、こんな芸当は出来はしない。
一緒に旅をしたマサトとユリーカが、ここまで彼にいい刺激となってくれたのか、と笑みを浮かべる。
それは、アイリスにとって狙い通りであり、想定以上でもあった。
「やっちまえ!ウルガモス!」
「くるぅぅぅぅ!!」
ガツン!ガツン!ガツゥン!
ウルガモスはサイコパワーにより、身動きを封じたキラフロルをフィールドにその身を叩きつけてゆく。
「ふ、ふろぉ…!」
どくタイプは、エスパータイプの技を弱点としている。
それは即ち、サイコキネシスに捉えられてからの脱出の難易度の高さを物語っていた。
「サイコキネシスでキラフロルを捉えたウルガモス、苛烈に攻めるーッ!!」
「いわタイプは総じてタフなポケモンが多いですが、このままでは厳しいですね。」
「ふろぉ…!」
何度も何度もフィールドに全身を叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべるキラフロル。
ペースを握ったバンジロウとウルガモスに油断はない。
と、なれば、オモダカはその想定を超える手を打たねばならない…。
「(素晴らしい…これが、パルデアの外にある世界。)」
痛めつけられてゆくキラフロルを前に、オモダカは即座に決断した。
同時に、世界の広さを、改めてその身で味わっていた。
この経験を糧に、自らを高みへ押し上げるために…それが、海を越えて来た意味。
「おーっとオモダカ選手、ポケモンを交代かーッ?」
「いや、違う。アレは…。」
オモダカがフィールドに突き出す腕、その手に握られているのが、モンスターボールではないことを目視するナンテ。
「お前にしては随分勿体ぶったじゃねェか。」
オレンジアカデミーとスカル団の即席混成応援団を尻目に、腕組みしながら試合を見続けていたグズマは、口角を吊り上げ、白い歯を見せながら呟いた。
「テラスタルオーブ!」
アイリスが、オモダカの一手を言い当てる。
それは、バトルはまだ終わらないことを予期させた。
PWTジュニアカップ優勝決定戦 バンジロウvsオモダカ
3C1D方式
バンジロウ オモダカ
ガブリアス キラフロル
カイリュー クレベース
ウルガモス ドドゲザン