3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
サイコキネシスに捕まる相棒を前に、オモダカは切り札のテラスタルオーブを取り出すのだった…。
テラスタルオーブから眩い輝きが放たれる。
それに瞬きすることなく、オモダカはキラフロルを見つめた。
「ふろっし。」
勝負はこれからだ。その意を受け取り、キラフロルが頷いたのを認めては、オモダカも笑みを返した。
「我らが道行きに輝きを。今こそ光あれ、キラフロル!」
輝くテラスタルオーブをオモダカが勢いよく放り投げる。
頭上に投げ入れられた輝きが、キラフロルを結晶の中に包み込んだ。
「くるぞ、くるぞ!くるぞッ!ウルガモス!エネルギーチャージだ!」
「くるぅぅぅ…!!」
キラフロルがその身を結晶の中に隠したのを見ては、バンジロウはサイコキネシスによる攻めを即座に捨て、新たに指示を飛ばす。
「テラスタルを見てサイキネを切った!」
テラスタルは、ポケモンの内包するテラスタイプに即した属性へとポケモンのタイプそのものを変更する。
どくといわの2タイプを併せ持つキラフロルがテラスタルによりいわタイプのみとなれば、消えたどくタイプによる抜群の優位性が切れ、サイコパワーによる拘束力が必然的に弱まる。
テラスタルを知らないバンジロウがサイコキネシスによる攻撃を切り上げたのは、完全に彼自身のトレーナーセンスからくる野生の勘であった。
「手強いやっちゃで…!」
対戦相手がサイコキネシスに拘ってくれたなら、オモダカももっと楽に切り返しが図れたであろうにとチリは舌を巻かされながらも歯軋りする。
もっとも、それが通るほど容易い相手ならここまでオモダカが苦戦するはずもないと言うのも理解はしていたが。
「おーっとウルガモスの全身が黄金に輝いている!こ、これはーッ!?」
ウルガモスが、全身に宿すたいようポケモンとしての膨大なエネルギーを、新緑の如きくさタイプのそれに変換していく。
「テラスタル発動直後をソーラービームで狙い撃つ算段だね!」
「でもオモダカ選手も分かった上でやってるよアレ!」
フェンス際から観戦するマサトとユリーカが、互いの立ち回りを看破してみせる。
サトシもそこは、口には出さないが感知は出来ている。
「ソーラービーム、発射ぁ!!」
「いざ!キラースピン!!」
「くるぅぅぅぅぅ!!」
「ふろぉッし!!」
ウルガモスが全身から発光させて撃ち放つ太陽光線を、キラフロルは自身を高速回転させ、迫りながら迎え撃つ。
ガガガガガガガガガガ…!!
「ウルガモスのソーラービームを前に、キラフロルはキラースピン!!真っ向勝負を挑んだーッ!!」
「回転するキラフロルの体から分泌される毒素が、くさタイプのエネルギーに対して威力を弱めるどくタイプのエネルギーとしてバリアの役割を果たしているようですね。」
ポケモンの回転動作を攻防どちらにも転用する。これは原理的にはサトシの開発したカウンターシールドに近い。
オモダカのそれは、キラフロルがまるでベーゴマのように激しく回転しながら移動もできるところにあった。
「ふろぉぉぉッ!!」
ガツゥッ!
「くぅる!?」
激しい錐揉み回転でソーラービームのダメージを減殺して見せたキラフロルが、ビームの奔流を切り抜け、その回転攻撃でウルガモスを弾き飛ばす。
体制を崩したウルガモスに、キラフロルは回転を止めながらも、追撃の手は緩めない。
「キラフロル、パワージェム!」
「ふろし!」
キラフロルに発生したさながら王冠。茶色の岩石を思わせるテラスタルジュエルが輝けば、まるで分身のように無数の光が生成される。
それらが、一斉にウルガモス目掛け放たれていく。
「シグナルビームッ!!」
「くぅう!るるるるるるる…!!」
素早く体勢を立て直すウルガモスの双眸から、色とりどりの不可思議な光線が発射される。
ドドドドドドド!!
迫るパワージェムに対して、相殺のシグナルビームを合わせる。
ビシィ!ビシィ!
しかし、無数に放たれたパワージェム全てを薙ぎ払うには至らず、光の数発ほどがウルガモスに命中し、翅の一部を撃ち抜いてゆく。
「くッ!!翅をやられた…!」
「流石は…!」
オモダカからすれば、いわのテラスタルの恩恵を受けたパワージェムの大半を相殺されたのは想定の外であった。
本体への直撃をきっちり防がれているのだ。
「(小手先の手は通らない…ならば!)キラフロル。」
「(毒に加えて羽根をやられた、それなら!)ウルガモス!」
「ん、暑くなってきたな。」
「ぴかぁ。」
この流れには、覚えがある。
と、いうか、サトシからすれば、つい先ほどその身で味わったことであった。
翅の一部を撃ち抜かれ、羽ばたく高度を下げたウルガモスを中心に、スタジアム全体が熱され始めている。
「サトシ!バンジロウくんは!」
「お前たちの方がそこは詳しいだろ?」
「うんッ!!」
サトシに、マサトとユリーカは頷いた。
バンジロウは、この一撃で決めるつもりなのだ。
バンジロウはアデクの孫ではあるが、弟子ではない。
故に、アデクの戦法やバトルに関するイズムは、直接教わるようなことはない。
これは、アデクもアデクで、何かの型にはめて若い才能の芽生える方向を定めることへのよろしくなさがあったからである。
それは、自分の孫であっても例外ではない。
バンジロウが自身のウルガモスと、アデクの戦い方を取り入れたのは、バンジロウがおのれの判断から見て盗んだ結果なのだ。
「いくぞ、いくぞッ!いくぞッ!!」
「くるぁ!」
バンジロウの号令にウルガモスが応える。毒により顔色は悪いが、決着のための一撃を放つに支障はない。
「はぁぁぁぁぁぁぁ…!!」
バンジロウが構え、溜め込む気合いが、ウルガモスに伝播してゆく。
「受けて立ちましょう、キラフロル。」
「ふろし。」
「こぉぉぉぉぉぉぉ…!!」
バンジロウ決死の一手を前に、オモダカも引き下がるつもりは毛頭ない。
負けじと呼吸を整え、トレーナーの気をキラフロルに伝える。
ゴゴゴゴゴゴゴ…!!
「あーッと、こ、これはーッ!?揺れています!スタジアム全体が、大きく揺れています!!」
「お互い死力を尽くした最後の一撃!」
「これを通した方が勝つわ!!」
戦う者たちの、ギラつく瞳が交錯する。
「「勝つのは…。」」
「おいらだッ!!」
「私だッ!!」
同時に、吼えた。
「受けてみろッ!こいつがおいらとウルガモスの全身全霊ッ!!」
「キラフロルッ!!」
「ふろろッ!!」
「キラフロルが花びらを閉じた!?」
「真正面から受け切るつもりなんだ!!」
「それだけじゃあないぜ。アレは。」
キラフロルが防御体勢に入る中、同時にチャージされていく宇宙エネルギーを、サトシは見逃さなかった。
「オォォォバァァァ!!ヒィィィィィト!!」
「くるぅッ!ぼぉあああああああ!!」
ゴアアアアアアアアアアア!!
それは、祖父譲りの大熱波攻撃。フィールド全体に叩き込み、逃げ場を与えぬ圧倒的な熱の暴力。
あまりの熱と風に、観客は滝のような発汗は免れない。それは、相対するオモダカも当然例外ではない。
「くぅぅ…!」
熱風に吹き飛ばされぬよう全身に力を入れ、耐え続ける。
左腕を顔の前にかざし、思わず右膝をつくも、その瞳は熱の奔流を、より近いところから叩きつけられ、踏み止まっている相棒を見つめていた。
「キラフロルとなら、きっと…!」
シュウウウウ…!
「ようやく凄まじい熱波が収まり、ウルガモスのオーバーヒート攻撃が終了したようです!コレを受けたキラフロルはどうでしょうか!?」
「はぁ、はぁ、どうだ!!」
「くる〜…。」
ウルガモスの全身から、ブスブスと湯気が立っている。
オーバーヒートによるパワーダウンだ。
「………やはり、この大会に参加してよかった。」
全身から流れる滝のような汗。額のそれを左の手の甲でオモダカは拭った。
その頭上に浮いているのは、大輪の花びらを広げた、岩の王冠。
「健在ですッ!!キラフロル健在!!ウルガモス全身全霊のオーバーヒートを、見事耐え切ったーッ!!」
決してダメージは小さくはない。効果は今ひとつながら、ギリギリまで追い込まれた。
キラフロルの花弁のあちこちが、熱により焼け爛れているのが何よりの証拠である。
「今こそ、我らが輝きを…!」
オモダカが、サッ、と右手で狙いを指し示す。当然目標は、パワーダウンしているウルガモス。
「くッ…!ウルガモスッ…!」
バンジロウは歯噛みし、拳を握り締めるしか出来なかった。
全身全霊の一撃を放ち、ウルガモスは、動くに動けないのだ。
「くるぅ…!」
キラフロルの花弁が大きく開かれる。
オーバーヒートの熱波に耐えながら、全身に溜め込んだ宇宙エネルギーがいわのテラスタルジュエルと共鳴し、ここ一番の輝きを放った。
「メテオビーム、最大出力…!!てえええええええッ!!」
「ふぉろぉああああああ!!」
テラオオオオオオオ!!
テラスタルジュエルから、強烈な宇宙エネルギーの光線が放たれる。
いわタイプの特殊技最大級の威力を誇るメテオビームがウルガモスのボディを捉え、そのままバンジロウ後方のフェンスまで押し込む。
「おおおおおおおッ!!」
オモダカも後のことは考えない。全身全霊には、全身全霊を返す他あり得ないのだ。
ドッゴオオオオオン…!!
「今度はキラフロルのメテオビームが炸裂ゥゥゥーーーッ!!コレは決まったかーッ!?」
「いわタイプの攻撃は、ほのおタイプにもむしタイプにも効果抜群。流石にウルガモスは厳しいでしょう。」
「まだよバンジロウ!まだ舞えるッ!!」
アイリスが、吠えた。ウルガモスが戦闘不能とはまだジャッジが入ってはいない。
ジャッジが入るまでは、決着は付かないのだ。
メテオビーム直撃からの大爆発、そのモヤが晴れてゆく。
バンジロウは俯き、握り拳を振るわせていた。どうにかして顔を上げる、
そこには、驚愕の表情のオモダカがいた。直後、背後に感じる、熱量。
「ぬッ!?」
慌てて振り返るバンジロウ。
そこには、満身創痍ながら、羽根をはためかせ、ニュートラルポジションへ舞い戻らんとするウルガモスの姿があった。
「くるぅ…くるぅ…。」
ウルガモスは、バンジロウを悲しませまいともちこたえたのだ。
『ドローンロトムとバリアフィールド』
シルフカンパニー、デボンコーポレーション、マクロコスモスが共同開発した新設計のドローンにロトムが入り込み、設定された範囲を囲い込むようにバリアフィールドを展開する。
バリアフィールドは非常に強固なエネルギーにより生成されており、カタログスペック的には3体の伝説の鳥ポケモンが全力で暴れても囲いを破壊するのは不可能な強度とされている。