3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ジュニアカップの優勝者はパルデア地方からやってきたオモダカに決まった。そのまま始まるイッシュチャンピオンと優勝者のエキシビジョンマッチ。
 オモダカは、チャンピオンアイリスの胸を全力で借りてぶつかるのみであった…。


死闘!PWT エキシビジョンマッチ アイリスvsオモダカ①

「キラフロル、パワージェム!」

 

「ふろぉッ!!」

 

 真っ直ぐ走ってくるリザードが直接攻撃にせよ搦手にせよ、接近しての一手を打つならば、オモダカからすればそこに迎撃の火線を向けるだけの話。

 キラフロルは眩い輝きを周囲に生成し、それらをリザードに放った。

 

「ッ…!?」

 

 アイリスの口角が吊り上がるのが、一瞬オモダカには見えた。

 

「リザード、りゅうのまい!」

 

「ざぁう!」

 

ビカカカカカカカ…!!

 

 岩の光弾が次々と襲い掛かる中、リザードはそれを紙一重でかわしてゆく。

 ただかわすのではない。流麗な舞を重ねるたびに、その所作が段々とスピードアップしていったのだ。

 

 

 

「あれは開幕戦でもエースのオノノクスがやってた戦法だ!リザードもできるなんて!」

 

「そのオノノクスを通してアイリスが教えたんだろうな。」

 

「ぴぃか。」

 

 動画チェックをマメにするマサトがいの一番に指摘すれば、サトシがそこに続ける。

 体の大きなオノノクスが、小さいヒトカゲの頃から舞踊をレクチャーし、一緒に舞っている絵面を想像したユリーカは、にへらとした笑みを浮かべながら和んでしまった。

 その想像は、実際ほとんど当たっていたりする…。

 

 

 

「リザード、ドラゴンクロー!!」

 

「ざぅあ!!」

 

 パワージェムの弾幕をりゅうのまいの舞踊で掻い潜れば、リザードはすかさず飛び上がる。

 同時に両腕に文字通り竜の爪の形に凝縮させた黄緑色のドラゴンエネルギーを纏わせ、キラフロルに切り掛かった。

 

ザシュ!

 

「ふろッ!!」

 

 ドラゴンクローは命中。

 仰け反るキラフロルの羽から、辺り一面に毒々しい紫色をした棘が散乱した。

 直接攻撃を受けたらどくびしをバラ撒く、特性『どくげしょう』が発動したのだ。

 

 

 

「パワージェムの弾幕をものともせずにリザードがファーストアタックを決めました!しかしキラフロルもそれにより特性のどくげしょうでフィールドをどくびし状態に変えてます!」

 

「ダメージアドバンテージはチャンピオン側に、ボードアドバンテージは挑戦者側に、それぞれ傾きましたね。試合は序盤、まだまだいくらでも趨勢は変わるでしょう。」

 

 解説しながらもナンテは、フィールドから目を離さない。

 アイリスは言うに及ばず、オモダカもまた油断も隙もない手合いであることを今大会で示しているからだ。

 

「(ただ、チャンピオンがどくげしょうによる盤面構築をさせながらも直接攻撃によるダメージを優先したということは、構わず仕留めにいけるという自信のあらわれ。)」

 

 決して予断は許さない…という状況の重さは、圧倒的にオモダカの側に重くのしかかっていることをナンテは直感していた。

 

 

 

 ナンテの直感通りオモダカは、自らの背にドス…と重苦しく纏わりつくプレッシャーを感じていた。

 重苦しい…このような経験は、無論初めてのことである。

 

「(代えるか…?)」

 

 ドドゲザン…クレベース…ゴーゴート…果ては登録こそしてはいたが、育成が追いついていないということで正直投入する予定のないヒラヒナ、ドロンチが頭に過ぎる。

 そうしてすぐに、ポケモン交代の選択肢を振り払った。

 タイプの相性上や盤面はこちらが有利なのだ。それをわざわざ捨ててまで状況を動かす理由は見当たらない。

 それにタイプ相性などは、相手にポケモンを交代されればすぐに逆転される程度のものなのだ。

 

「(このまま押し切る!)」

 

 オモダカの右手に握られるテラスタルオーブをアイリスは認め、不敵な笑みを浮かべた。

 

「(来たわね。)」

 

 アイリスからすれば、放ったプレッシャーに負けて不用意なポケモン交代に走らないだけでオモダカは合格点と言えた。将来有望である。

 しかし、それはそれ。勝負となれば勝ちを目指すのが、ポケモントレーナーなのだ。

 手心を加えるつもりは微塵もない。

 それが、挑戦者や観客に対するチャンピオンとしての礼儀であることをアイリスは知っていた。

 

「偉大なる頂へ共に挑みましょう…光あれ、キラフロル。」

 

「ふろろぉぉぉ!!」

 

 テラスタルオーブから眩い光が放たれ、それをオモダカはキラフロルの頭上へ思い切り投げ込む。

 ジュニアカップを制した王冠を、再び被るキラフロル。

 

 

 

ウオオオッ!マブシイ!

 

「会長、テラスタル切るの早すぎひん?」

 

「むしろ遅いくらいだ。初手に使って押しまくるくらいしねェと風上には立てん相手だぞ。」

 

 テラスタル発動に、観客席も大きく湧き上がった。

 そんな中、フェンス際からフィールド全体を見渡す形で観戦するチリとグズマは、それぞれにオモダカがここまで平静でいれていないことを感じ取っていた。

 

「チャンピオンに気圧されたな。」

 

「うーむ…。」

 

 どちらも、チャンピオン相手ではむべなるかな、という結論は一緒であるが。

 

 

 

「オモダカ選手、ここでテラスタルを発動!バンジロウ選手に競り勝ったキラフロルのいわテラスでパワー増量、一気に決め切る算段かーッ!?」

 

 

 

「りゅうのまいのスピードアップには、弾幕で対応します。」

 

「ふるぉぉぉ…!」

 

 キラフロルの花弁が展開し、テラスタルジュエルが一際輝きを増す。

 それは、キラフロルの中のいわタイプエネルギーを増幅させ、周囲に先ほど以上の光弾を出現させた。

 

「ざ、ざぅあ!?」

 

 リザードが空を見上げ、仰天する。

 それは、バンジロウ戦で見たものとはまるで技の規模が桁違いであった。そのバンジロウ戦をきっかけに、キラフロルのレベルが大幅に上昇したのだろう。

 無論、そのキラフロルをトレーナーとして従えるオモダカの実力、貫禄も、このジュニアカップを通して大きく成長しているのが見て取れた。

 

「コレは…。」

 

 一方のアイリスは、避けるのは無理…そんな直感を口にはしない。

 わざわざこちらの手の内や限界を開示する理由もないのだ。まして自分はチャンピオンである。

 チャンピオンとは泰然自若としているべき…と、アデクから聞かされた教訓にはあったからだ。

 

「いきます!光弾増量パワージェム!さしずめ名付けるならば…そう。」

 

「ふろぁぁぁぁぁッ!」

 

 フィールド上空を光弾が覆い尽くす。

 それはさながら、黄金の都の英雄王の蔵より取り出され、放たれる無数の財宝…。

 

「"王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)"。」

 

バババババババババババ!!

 

 数多の光弾が、獲物を射抜かんと一斉に飛び掛かる。

 オモダカとて、これでアイリスが打つ手なしと負けを認めるようなことはするはずがないとは分かっていた。

 

「(カイリューか、オノノクスか。)」

 

 リザードから本領を発揮すべく強力なドラゴンポケモンに交代はするだろうというという予測。

 それは、アイリスの右手に握られているテラスタルオーブにより覆された。

 

 

 

「あーッと!チャンピオンアイリス、何かを取り出しました!!」

 

「アレは、テラスタルオーブ?」

 

 

 

「チャンピオンアイリスが、テラスタル!?」

 

 観客席のどよめきの理由を、マサトが代弁する。

 イッシュのチャンピオンであるアイリスが、パルデア発のバトルシステムであるテラスタルにいつ触れたと言うのか…?

 

 

 

 その答えとして時は遡る。

 PWCS開幕戦のすぐ後、アイリスはパルデア地方にいた。チャンピオンとしての巡業の傍ら、全国各地のドラゴン使いの集まり…いわゆる竜の里あるいは、それに近しい集落や施設に足繁く通い、研鑽を積んでいた。

 オレンジアカデミーに通っているのも、その一環である。その姿も普段着の袖口が広い白とピンク色の服に白いレギンスではなく、オレンジアカデミーの制服に身を包んでいた。

 

「くるわよオノノクス!」

 

「(よーし、こいッ!!)」

 

「セグレイブ、きょけんとつげき!!」

 

「せごどぉぉぉん!!」

 

 紫色のオーラを纏い、その後オノノクスに背を向け、口から吐く冷気を推進力としながら、

 まるで薙刀のような背鰭を向けて突撃するひょうりゅうポケモンセグレイブ。ポケモンバトルでぶつかり合う2体の頭には、竜を象ったテラスタルジュエルが輝いていた。

 

「テラスタルパワー全開!げきりん発動!!」

 

「(はぁぁぁぁぁッ!!)」

 

 テラスタルジュエルからの増量パワーを受け取ったオノノクスは、紺碧のドラゴンエネルギーを身に纏い、セグレイブを真正面から受け止めた。

 

ググ…!

 

 セグレイブの推進力を前に、ジリジリと後退させられる。

 それでもオノノクスに、アイリスに、迷いも恐れもない。

 

「今よオノノクス!」

 

「(そりゃあーーーッ!!)」

 

「なんとッ!?」

 

 ガッチリ抑え込まれ、次第に推進力を失ってゆくセグレイブの巨体を、オノノクスは真上に放り投げた。

 テラスタルによるパワーアップを、げきりん攻撃の身体能力向上に振り切ったのだ。

 

「せごぁ!?」

 

 フィールドに背を向けた形で空中に放り投げられたセグレイブ。

 そこに瞬時の跳躍でオノノクスが追い付けば、渾身の力で尻尾をセグレイブの腹に叩き付け、激しく地面に落着させた。

 大きく舞う土煙が晴れればそこには、目を回すセグレイブの姿があった。

 

 

 

「セグレイブ、戦闘不能!!オノノクスの勝ち!よって勝者…「ドラゴーン!!!」

 

 

 

 マントが特徴的な、ドラゴン使いの正装に身を包む金髪の青年が全身を打ち震えさせ、号泣してはジャッジの勝ち名乗りが遮られる。

 悔しさからではない。若者が試練を乗り越えたのを見届けたことからくる猛烈な感動の涙である。

 もっとも、このドラゴン使いの青年…ハッサクもまだ18歳の若者ではあるのだが。

 

「い、1年C組のアイリス…。」

 

「やったぁ!オノノクス!」

 

「(やったよ!アイリス!)」

 

 審判が改めての勝ち名乗り。バトルを終え、テラスタルジュエルと、その輝きが消失する。テラスタルが解除されたのだ。

 そんなオノノクスが人懐こく駆けてくれば、アイリスはそれを受け入れ抱きついた。

 

「おめでとうございますアイリスさん。これならばテラスタル試験は文句なしに合格でしょう。」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 拍手しながらクラベルがアイリスに歩み寄る。

 テラスタルを扱えるようになるための指導カリキュラムの締めとして、ドラゴン使いのハッサクとのバトルを制したアイリスは、クラベルの言う通り程なくしてアカデミーからテラスタル試験合格の通知を受けた。

 

「えへへ、テラスタルオーブゲットで、どどんがどーん!」

 

 講習や試験での貸与品ではない、私物として支給されたテラスタルオーブを手に取り、喜ぶアイリス。

 野生児の本領を発揮した跳躍力でアカデミーに植えられた木々の枝の上を飛び跳ねてゆく。

 イッシュに帰った後のランクマッチで、カロス四天王のズミに快勝したのも、テラスタルあってのことでもあった。

 

 

 




 『ハッサク』
 18歳。パルデアリーグ四天王でドラゴン使い。
 パルデア地方にある竜の里出身の青年で、現在は四天王最年少。非常に感情豊かで、感動するとすぐに号泣してしまう。
 エースポケモンはパルデア地方を代表する強力なドラゴンタイプのセグレイブ。
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