3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
それに対するアイリスもまた、テラスタルオーブを取り出したのだった…。
時を戻そう。
オモダカ同様、アイリスにもポケモン交代の意思はない。あくまでこの場はリザードで戦い抜く算段を、右手に握るテラスタルオーブを翳して示した。
はオモダカにセンスがあるのは認めよう。
しかし、ジュニアカップを勝ち抜いて来たといえどルーキーはルーキー。トレーナーとして、チャンピオンとして、思考は全力のフル回転を叩きつけるのは当然の礼儀として、繰り出すポケモンまでガチガチの主力を放り込む道理まではない。
仲間になって日が浅いリザードに経験を積ませるには極上の相手と言えた。
「いくわよリザード!竜の輝き、見せてやりましょう!!」
「ざぅあ!!」
アイリスが勢いよくテラスタルオーブを投げ込み、頭上にて放たれた輝きがリザードを包む。
このリザード、出会いの頃は進化前のヒトカゲであったが…彼女との出会いのこともアイリスは思い返していた。
時は遡る。
テラスタル試験をクリアしたアイリスは、自身の興行と事前にしていた約束の為、その足でジョウト地方に向かった。
キキョウシティ郊外にあるリザードン保護特区『リザフィックバレー』。
ここの管理人であるジークはアイリスが修行時代に身を寄せていたジョウトの竜の里があるフスベシティの公認ジムリーダー、イブキと知己であり、その繋がりからアイリスとも顔見知りであった。
「ジークさん!」
「おっ、来たわねアイリスちゃん。」
「ぐるぅ。」
カイリューが着陸し、その背からひらりとアイリスが降り立てば、緑髪を後ろで縛るスラリとした美女のジークと、頭につけた大きなピンクのリボンがチャームポイントな彼女のパートナー、リザードンのリサが出迎える。
「「「がるぅぅぼぉぉ!」」」
「アハ!みんなも久しぶり!」
園内のリザードンたちも、アイリスがやって来ては歓迎の意を込めた火炎を空に向け放射した。
「ヒトカゲが欲しいんですって?」
「はい!サトシやダンデさんにアラン、いろんなリザードン使いを見て、触発されちゃって!」
隠す理由もない経緯を話すアイリスの瞳を見るジークは笑みを浮かべながら頷いた。
リザードンに進化していくヒトカゲの系列は、初心者向けポケモンとして扱われるほどに育てやすさがウリである。
オノノクスやカイリューのような、それこそ初心者向けポケモンよりよほど苦労するポケモンたちを育て上げ、一線級に仕上げるアイリスならば、ジークとしても管理する中の個体を託すのに文句のつけようはなかった。
「ならせっかくだし実際に見て回って決めたらどうかしら。」
と、なればあとは当人とポケモンのフィーリングの問題であった。
リザフィックバレーは、リザードンたちの特訓はもちろんのこと、繁殖により発見されたタマゴを研究機関に卸して金銭を受け取りビジネスとしている側面もあった。
アイリスのように、育成ポケモンとして欲する有志に引き合わせることも珍しくはない。
「えっ?ジークさん、あの子…。」
「あぁ、やっぱり気になっちゃう?」
アイリスが見つけたのは、1体のみで群れることなく佇む近寄りがたい雰囲気を放つヒトカゲ。
その頭には、竜を思わせるテラスタルジュエルが輝いていた。
「パルデア地方で保護されて運ばれてきたんだけどね?生まれつき膨大なテラスタルエネルギーを内包してるらしくて。ここのみんなとも打ち解けられなくて…いいえ、正確には打ち解ける気がない、かな。」
ジークの説明もそこそこに、アイリスはテラスタルヒトカゲに歩み寄っていた。
「アイリスちゃん?」
彼女の程近くまで近づけば、しゃがみ込み、視線を合わせる。
「かげぁ?(あなた誰?私が怖くないの?)」
「どうして怖がらなきゃいけないの?とっても綺麗なのに。」
テラスタイプにより、ドラゴンタイプになっていたが故に繋がったテレパシー。ヒトカゲの思念が、アイリスにはハッキリとした言語として認識できていた。
そこから、素直な第一印象を伝える。
「あたし、アイリス!よかったら一緒に来ない?」
それは、何よりストレートで正直な言葉。
群れで暮らすなら生き辛かろうがアイリスからすれば、気位が高いくらいの芯の強さはむしろプラスでしかなかった。
生まれて初めての誉め殺しに、幼いヒトカゲの心が瞬く間に氷解する手前までグラつく様を、ジークは見せ付けられていた。
「この子…。」
ジークとてこのテラスタルしているままのヒトカゲが、ただただ寂しさに打ち震えている悲劇のヒロインという立場に耽っていたのではないことは承知していた。
ヒトカゲはヒトカゲで、他とは違う自分に自信と折り合いを付け、周りを値踏みして生きてきたのだ。
それを一目で見抜き、肯定して見せたアイリスに、舌を巻いたのだ。
「がぁう。」
「そうね、リサ。」
『"私は他とは違う。"』
そんなささくれ立っていたヒトカゲの心をあっという間に開き、迎え入れるアイリスは、今より必ず大きく、立派なチャンピオンに、そしてドラゴンマスターに至るであろう。
そんな確信をジークは抱きながら、傍らのリサの首筋を優しく撫でていた。
時を戻そう。テラスタルにより、竜のティアラを被った女傑が姿を現す。
リザードン手前のリザードの時点で、トレーナーに負けず劣らずの風格を身に纏っていた。
そこに降り注ぐ無数のいわのエネルギー光弾が迫る…。
ガガガガガガガガガガ!!
「あーっとチャンピオンアイリス、テラスタルを発動!しかし、これは!?」
「そ、そういえば聞いたことがある…。」
息を呑みながらナンテがひと呼吸置いた。
「テラスタルが発動する際、そのタイプは、ポケモンが保有するテラスタイプが参照され、大半は元から備えている種としてのタイプがそのままテラスタイプになるのですが、稀に種としてのタイプとは別のテラスタイプを持つポケモンもいる、とかなんとか。」
「きっとあのリザードは、ドラゴンのテラスタイプを生まれつき持っていたんだよ!」
「ということは、テラスタイプがひこうのでんきタイプは、テラスタルしたらじめん技が効かなくなる、ってこと!?」
「多分そうなるはず!」
マサトとユリーカのやり取りは、サトシの耳には入っていない。
中継で見たオープンカップ決勝でのグズマや、オモダカ、そしてアイリス…。
イッシュに来て何度も見せられるテラスタルに、サトシの興味、欲求はぐんぐんと増していた。
「ぴかぴ?」
「ピカチュウ。」
肩に乗るピカチュウにサトシは笑みを見せる。その瞳は、ある決意をすでに固めていた。
「な、なんと!?」
上空を覆い尽くしたパワージェムによる一斉射、それを前にアイリスがリザードにテラスタルを切った。それはいい。
テラスタルにより、ドラゴンタイプとなろうとも、大量に放ったパワージェムを切り返すのは困難であろうと思った、思いたかった。
「リザード、いけーッ!!」
しかしどうだ?リザードは、テラスタルにより発生したドラゴンエネルギーを両手に纏ったドラゴンクローで、あっさりとパワージェムを薙ぎ払って見せたのだ。
ハッキリ言ってそれは、桁が違っていた。
「ざぁう!」
リザードがキラフロルに背を向ければ、足元に口から火炎を吐き出した。
「ざぼぼぼぼ!!」
思えばかえんポケモンであるにも関わらずこのリザード、ここまでドラゴン技しか使っていなかった。
それがここにきてようやくその分類らしい技を見せる。火炎を吐き出す推力により、キラフロルに背を向けたまま突撃を敢行したのだ。
オモダカからすれば、この攻撃には見覚えがあった。
「(セグレイブのきょけんとつげき、その模倣と見た!!)」
きょけんとつげきという技には、絶大な破壊力と引き換えに重大な欠点がある。
相手に背を向けた突撃である為、攻めに全てを集中せざるを得ず、返しの一撃をどうしてもまともに受けてしまうのだ。
「ならば!キラフロル、エネルギーチャージを!!」
「ふろろろろろ…!!」
オモダカの指示にキラフロルが呼応すれば、いわのテラスタルジュエルを輝かせ宇宙からのエネルギーが降り注がれてゆく。
「あーっとキラフロル、これはメテオビームの体勢に入ったかーッ!?」
「突撃を受け止め、返す刀で最大威力の一撃を叩き込む算段ですねコレは。」
「ドラゴンテラスのドラゴンクローを両手二刀流!100万パワー+100万パワーで200万パワー!!」
「ざう!」
「かえんほうしゃによる推力で普通に飛ぶより2倍のジャンプが加わって、200万×2の400万パワー!!」
火炎を吐き終えたリザードがキラフロルに迫りながら空中で体をまっすぐ伸ばす。
「な、なにを!?」
オモダカの思考が完全に掻き乱される。
ドラゴンクローのエネルギー爪は、きっちりとキラフロルへ向けており、さながら背泳ぎでターンをしたような姿勢になっていた。
「そしてテラスタルパワーによりいつもの3倍の回転を加えれば!!」
「あれは、"スクリュー・ドライバー"!?」
「ぴっかぁ!?」
空中でキラフロルに迫りながら錐揉み回転を始めるリザードに、サトシはPWCSの開幕戦を思い出していた。
アランのメタグロスがピジョットに対して使った回転戦法。
アイリスはテラスタルを駆使して、それをより高い次元に昇華させていたのだ。
「あーっとリザードの体が、1200万パワーの光の矢となったーッ!!」
「いっけぇぇぇぇぇッ!!」
「ざうおおおおおッ!!」
ガギャアアアアアア!!
「ふろぁぁぁ…!!」
「くぅッ…!」
自らを竜の矢と化した一撃は、的確にその円錐のボディを切り付け、キラフロルの上を取っていた。
回転を止め、獲物をなおも捉えるリザードの竜のテラスタルの輝きが衰えることはない。
それは、キラフロルも同様であった。
「んッ…!」
「耐えましたよッ…!」
確かに凄まじい必殺技であった。
しかし、キラフロルはそれでもリザードの光の矢を受けて持ち堪えて見せた。
オモダカは、握り拳を作っていた。
「メテオビーム、発射!!」
「ふろぉぉぉ…!!」
エネルギー臨界、渾身の一発…その狙いを定める。
アイリスからすれば、確かに必殺の意思を込めた光の矢を耐え抜いたキラフロルのタフネスは驚嘆に値した。
ただ、メンタルのリソースを耐える事に集中したことが、命取りであったのだ。
「ドラゴンテール!」
「なッ!?」
1200万パワーの光の矢という大技を使って、すぐに次の行動に移れるというのは、オモダカにとって完全に想定外だった。
リザードが自由落下を活かして空中縦回転。
ビビダァ!!
そのまま急速に降下し、メテオビーム発射直前のキラフロルの脳天に、鋭い尻尾の鞭打を叩き付けた。
「ふ、ろぁ…!」
射角が完全に狂わされ、放たれたメテオビームは標的のいない空高く飛んでいき、バリアフィールドの前に霧散してゆく。
「ざぉぉぉぉぉ!!」
「ふ、ふろぉぉぉ…!!」
叩き付けた尻尾をそのまま押し付け、リザードはフィールドへキラフロルもろとも落着していった。
ズドォォォォォン…!!
「ざう!」
振り下ろした尻尾とフィールドのサンドイッチで打撃を叩き付けたリザードが飛び退き、アイリスのすぐ前のニュートラルポジションに戻る。
ジャッジが落着場所に駆け寄れば、そこには目を回すキラフロルが倒れていた。
「キラフロル、戦闘不能!リザードの勝ち!よって勝者、チャンピオンアイリス!!」
ウオオオオオ!!アイリス!アイリス!アイリス!
試合が終わった。
観客の声援に、アイリスとリザードは両手を上げて振りながら応えた。それは勝者の権利であり、礼儀である。
「ふろぉ…。」
「…キラフロル、お疲れ様でした。」
優勝決定戦から激闘を戦い抜いてくれた相棒を労い、ボールに戻す。敗者には敗者としての儀礼がある。
悔しさを抑え、オモダカはフィールド中央へ向かう。それを認めたアイリスは、少し遅れて合流をした。
「チャンピオンアイリス。対戦ありがとうございました。」
オモダカは作法に則した一礼をする。
「この大会での経験を活かして、私は今よりもっと強くなって見せます。ポケモンたちとともに。」
ルーキーの力強い宣言に、アイリスは微笑みながら右手を差し出した。
「あたしは"ここ"で…頂で待ってるわ。またバトルしましょう!」
彼女や、彼女に追い縋るライバルたちならば、必ずや自分やサトシに迫るような強い世代を築くだろう。
そんな確信がアイリスにはあった。
ウオオオオオ!ウオオオオオ!。ウオオオオオ!!!
オモダカがアイリスからの握手に応じれば、エキシビジョンマッチの爽やかな幕切れは、そのままPWTジュニアカップの幕切れにも繋がった。
それぞれに力を存分に振るい、栄光を手にしたものがいれば、課題が浮き彫りになったものもいる。
そんな若き才能たちを目の当たりにして、1つの決意をサトシは固めていた。
「よーし決めた!俺もテラスタルをマスターするぞ!」
「ぴっぴかちゅう!」
PWTの終幕、それは、サトシの次なる行き先を定めるきっかけにもなったのであった。
PWTジュニアカップエキシビジョンマッチ アイリスvsオモダカ
3C1D方式
アイリス オモダカ
リザード(テラスタル使用)○ キラフロル(テラスタル使用)●
勝者 アイリス