3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 エキシビジョンマッチは終わってみればアイリスの貫禄勝ちで終わり、PWTジュニアカップは幕を閉じた。
 サトシは次なる目的として、テラスタルを使えるようになると決めたのだった…。


死闘!PWT サトシの決意!目指せテラスタルデビュー

 PWTにパルデア旋風を巻き起こした新たな力、テラスタルに目を付けたサトシの行動は早かった。

 ジュニアカップの終幕を見届けてから早々にサンヨウジムへ戻り、パルデア地方へのアクセス手段をポッドとコーンに尋ねれば、ちょうど2日後にマリナードタウン行きの船が出る事を知る。

 

「これでよし、と!」

 

 2人の力も借り、早速とその乗船券を予約まで漕ぎ着けた。

  PWTが終わってしまえば、イッシュリーグ委員会がサトシを縛り付けておける大義名分も存在はしない。

 

「マサトもユリーカも大会終わったらすぐ帰ったんだな。」

 

「ぴぃか。」

 

「ホウエンリーグにカロスリーグ、頑張って欲しいよな。」

 

「ぴか。」

 

 今回のジュニアカップは、サトシにとっても後の楽しみが芽生えるものであった。

 マサト…ユリーカ…バンジロウ…オモダカ…そう遠くないうちにより力をつけたスーパールーキーたちと晴れの舞台で鎬を削ることになるだろう。

 それは、とても胸が躍る期待であった。

 

 

 

「あれ?あ、そっか。」

 

「ぴかちう。」

 

 そこから2日間の骨休めの後、ホドモエシティの港に向かえば、そこには橙色のボトムスの団体があった。

 すぐにサトシは思い付く。パルデア地方からやってきた面々が、今度は帰るために港の船を利用する…。

 考えてみれば当然の話であった。

 

「あれッ?チャンピオンはんやんか、奇遇ですなぁ〜、てか、サインくれません?」

 

「あっ、僕も僕も!」

 

「私も〜!」

 

 下級生たちを統率していた2年生のチリが、目ざとくサトシを見つければ、屈託のない笑顔で駆け寄りサインをねだる。

 それに、他の生徒たちも続いた。

 

「ほらほら皆さん、一斉にかかってはチャンピオンさんが困ってしまいますよ。1人ずつです。1人ずつ。」

 

「あぁ、あかんあかん。そらそうや、みんな並び並びぃ〜!」

 

 不意に姿を見せたサトシを前に、チリをして興奮気味であった生徒たちを引率役のクラベルが制止すれば、我に帰った生徒たちは律儀に列を作って見せ、一般客への迷惑を最小限に抑えた。

 この辺りの統制が、他地方への遠征メンバーに選ばれた所以とでも言えようか。

 列には、サトシのサイン欲しさに並ぶ一般の人もちらほらいた。

 

「ありがとうございますクラベル博士。」

 

「ぴかぁちゅ。」

 

「いえいえ。これでもアカデミーより依頼された引率役ですので。それに、私はしがない研究員。博士と言うような立派なものではありませんよ私は。」

 

 生徒たちを御して見せ、サイン攻めの負担を軽減してくれた事に感謝するサトシに、クラベルは謙遜をする。

 そんなクラベルもサトシにしれっとサインをねだってはいたので快く応じる。

 

「ところで…もしかしてですが、チャンピオンもパルデア地方に?」

 

「はい。テラスタルをマスターしたくなって!」

 

「なるほど!チャンピオンサトシもテラスタルデビューですか。」

 

 クラベルの傍らにいつの間にやら滑り込むようにそこにいたオモダカが会話に割って入る。

 その目は、期待感に輝いていた。脇には、ちゃっかりとサトシのサインが書かれた色紙を抱えている。

 

「オモダカか。ジュニアカップ優勝おめでとう!」

 

「ぴかぴかちう!」

 

「ありがとうございます。チャンピオン直々のお褒めの言葉、痛み入ります。」

 

 ジュニアカップ優勝の功を祝われたオモダカは、深々とした一礼にて応えた。

 細かな礼儀作法をよく知らないサトシには、彼女の育ちがなんとなくいいのだろうということしか理解できなかったが、マナーとはこういうものなのだろうと納得した。

 

「テラスタルの修得ですか。それならばやはりアカデミーに入学して専門の講義を受け、試験をクリアして、となりますね。」

 

「もちろん分かってます!アイリスも、オモダカも、テラスタルを使えるようになるまでにすっごく苦労したこと、バトルを通して伝わってきましたから。それにあの人も…。」

 

 言いかけながらサトシは、サインの行列に加わることのない黒い一団の中の大柄な白髪男とほんの少し目が合い、すぐに男の方から目を離した。

 グズマだ。

 

 

 

「グズマさん!オイラたち、グズマさんの試合見るためならどこにだって駆け付けるッスカら!!」

 

「女房を質に入れてでも応援しに行きまスカら〜!!」

 

「入れるな入れるな。つーかまずその女房を探せ。」

 

 オープンカップでのグズマの勇姿を見届けたスカル団の下っ端たちが、涙ぐみながら彼を見送りに来ていた。

 それを宥めて見せながら、グズマは彼らをまとめ上げるプルメリと視線を合わせる。

 

「…フッ。」

 

 この2人のやりとりに無粋な言葉はいらない。ほんの少し見つめ合えば、互いの思いは伝え合えるのだ。

 

 

 

 そんなスカル団のやり取りを遠目で見るサトシは、そこに首を突っ込む野暮などしない。

 そもそもがサイン攻めの真っ最中であったし、彼らがそれを望まないであろうことも想像がついたからだ。

 

「ぴかぴ。」

 

「あぁ、分かってるよ。」

 

 アローラ時代のグズマの恥部を知るククイ博士の元にいた自分は、グズマたちからすれば都合の悪い存在でしかないのだ。

 

「ふむ。ならば私から校長に話を通しておきましょうか。流石にそれだけで入学前のを全てパス出来る、ということもないでしょうが。」

 

「ホントですか!?ありがとうございますクラベルさん!!」

 

「ぴかぴかちう!」

 

 その申し出にサトシが頭を下げれば、早速クラベルはスマホロトムを取り出し通話を始めた。

 漏れ聞こえる会話の内容からするに、早速アカデミー側への口添えをしてくれているのだろう。

 

 

 

「ぴかぴ。」

 

 そこからしばらくして、サインを求める列を消化し、徐々に乗客が船に乗ってゆく頃。

 トイレから出るサトシに、ピカチュウが呼び掛けた。

 

「ピカチュウ。あぁ、分かってるよ。」

 

 ピカチュウにサトシは返す。

 感じる波導で、来る者の気配は察知出来ていた。

 港の人々がどよめいている中、歩を進める少年は全身が薄汚れ、ズボンにはあちこち穴が空いていた。

 浮浪者の如き風貌に反してその双眸には、研ぎ澄まされた闘志が宿っている。

 

「来たな…。」

 

「え、アレって…サトシはん?」

 

 服はもちろん、肌も泥や砂利にまみれてそのままであろう少年の前に、サトシは姿を見せる。

 

「久しぶりだな…シューティー。」

 

 少年の名を呼ぶサトシの声に、侮蔑は一切ない。ただただ、昔馴染みの友との再会を喜ぶ声色であった。

 それに薄汚れた少年、シューティーはふっ、と笑みを浮かべてから、モンスターボールを向けた。

 

「久しぶりついでに、一戦どうだろうか。時間は取らせない。」

 

「ちょっと待ち待ち!」

 

 シューティーがバトルを申し込めば、2人の間にチリが割って入る。

 そしてビシッと彼を指差した。

 

「あんさんな!いくらなんでもチャンピオン相手に無遠慮とちゃうか?せめてもうちょい小綺麗にしてから…。」

 

 決してオープンカップで敗れた腹いせからではない。

 チャンピオンを前にして身なりも何もあったものではないシューティーを嗜めたのだ。

 

「いいよシューティー。バトルしようぜ!」

 

「サトシはん!?」

 

 当のサトシはその辺りを一切気にしないタチであった。

 ギョッとしながらサトシを見るチリ、次いでオモダカと目が合った。

 

「チリ。」

 

 彼女が小さく頷いたのを認めては2人の間から身を引いた。

 

「えー、あー、おっほん!両者合意なら問題あらしまへんな!それなら不肖このチリちゃんが、バトルの審判をさせていただきます!構いまへんか?」

 

「あぁ!よろしくな、チリ!」

 

「構わないよ。」

 

 審判役を申し出たチリにそれぞれ頷けば、サトシとシューティーはバッ!と飛び退き、ポケモンを繰り出すスペースを作る。

 唐突に始まることになったバトルを前にできた野次馬が、自然とフェンス代わりになっていた。

 

 

 

 時は遡る。

 ジュニアカップの開幕エキシビジョンマッチ、サトシにアデクが敗れた試合を見てからのシューティーは、幽鬼のように、アテもなく彷徨っていた。

 そこに鳴る、スマホロトムからの通知音。ポケラインの個人ルームに、メッセージが届いていた。

 

『2日後、サトシはパルデア地方に旅立ちます。』

 

 メッセージの送り主は、アイリスであった。

 彼女らしからぬ、極めて機械的な定型文。サトシと繋がっているアイリスならば彼の動向を知るのに不自然はないのだろう、そう思えた。

 それは彼女からシューティーに与えられた、最後の分水嶺に他ならなかった。

 そして、それを読み取れないほど、シューティーは愚かではない。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…まだまだだ、ジャローダ!!」

 

「じゃあ、ろぉ!!」

 

 それまでただただ町から町へ彷徨っていただけのシューティーは、全身に力を漲らせ、寝食を忘れて特訓に打ち込んだ。

は持てる全てを、最高の領域まで高めるために。

 

 

 

「ルールはどうする?」

 

「ヒガキ大会の予備選、1vs1のシングルマッチでどうかな。」

 

「オッケー、分かった。」

 

 お互い、表面的には穏やかにルールを決めている。

 そこで両者の中間に立つチリは初めて、このバトルに何らかの大きな意義が隠されていることを感じ取った。

 

「(このバトル…ただの野試合ちゃうで。)」

 

 フィールド全体を包む空気の重さにチリの脂汗が止まらない。

 

「こ、これより!チャンピオンサトシvsシューティーはんの試合を始めます!使用ポケモンは1体!それではお二方、ポケモンをどうぞー!」

 

 そんな重苦しい空気を振り払わんと、チリは腹の底から声を張り上げ、ジャッジとして振る舞う。

 シューティーがボールを握る腕を振りかぶる中、サトシにそのような動作はない。

 ただ、左肩の指定席にいる相棒と、頷き合った。

 

「ゆけッ!ジャローダ!!」

 

「ピカチュウ!キミに決めた!!」

 

「じゃろぉーッ!」

 

「ぴっかぁ!」

 

 シューティーの投げ入れたボールから飛び出したのは、ロイヤルポケモンのジャローダ。旅立ちの日からずっと彼を支える不動のエースだ。

 対してサトシも、最も信頼できるエースのピカチュウをバトルに投入する。

 

「(ありがとう…。)」

 

 シューティーは、心の中でサトシに礼を言った。

 こちらの一方的な覚悟で以って仕掛けたバトルに…最高の相棒をぶつけて来てくれたことに、である。

 

 

 




 『ポッド&コーン』
 共に18歳。デントと3人3つ子であり、旅をするデントに対して、ジムと店を切り盛りしている。
 ポッドはほのおタイプのバオップ、コーンはみずタイプのヒヤップを相棒としているよ。
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