3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 テラスタル習得を次の目的に定めたサトシは港にてパルデアの学生一行と再会する。
 そこにやってきた覚悟のシューティーと、1vs1のバトルになるのだった…。


死闘!PWT サトシとシューティー 敵として出逢っても

 サトシとシューティーが港でバトルを始める頃、アイリスはベルが手配していた専門のSPが運転する車の後部座席で、窓から外を眺めながらボーッとしていた。ありふれた仕事と仕事の合間の移動期間である。

 隣の席では、マネージャーのベルがタブレットを軽快に叩き、諸々の事務処理に勤しんでいる。

 町から町への移動などは、カイリューに頼めばひとっ飛びで済むというのがアイリスの言い分であったが、こうした陸路での移動もあえてしてみせるのもまたチャンピオンとしての巡業の一つだとベルに諭され、引き下がっての現状であった。

 

「次はリーグ委員会から依頼されたフキヨセジムの抜き打ち視察だよ。アイリスちゃん大丈夫?」

 

「それってどんな意味ー?」

 

「普通にアイリスちゃんの体調的な意味ー。」

 

「なら大丈夫ー。」

 

 アイリスは窓の外から視線を移さず、ベルはタブレットを操作したまま、慣れたようにやり取りをする。互いの距離感も、この3年ですでに掴み合っているのだ。

 ホドモエの跳ね橋、通称リザードンブリッジを軽快に車は進んでゆく。橋には、鳥ポケモンの羽が時折落ちて来て、橋の下には、水辺に住むポケモンたちの営みが広がっている。

 人の事情に関わりなく解き放たれているポケモンたちの生の世界は、アンニュイな表情をしているアイリスの瞳には映っていない。

 3年前のいち時期、『エアバトル』なるジムリーダーフウロによる脳内シュミレートでの時短運営が問題となっていたフキヨセジム云々の話も、ここでは特に関係しない。

 

「サトシくんなら、大丈夫だよ。」

 

 主語のない切り口は、アイリスとベルの付き合いがそれなりに積み重ねられて来たが故のものである。

 ベルは、アイリスがシューティーをサトシのもとにけしかけたことも聞いていた。

 そのベルからすればシューティーも同期の1人。彼の現状に思うところはある。

 サトシに任せれば間違いはない、アイリスのしたことは正しい。端的に、そう彼女の行為を評価した。

 

「ありがと。ベル。」

 

 なおもアイリスは窓の外から視線を動かさない。

 ベルも、そんなアイリスにいちいち返事はしなかった。

 

 

 

 ピカチュウとジャローダが睨み合っている。

 バトル開始となり、しばらくは互いに出方を窺っていた。

 

「(なんやあのジャローダ、戦う前からボロボロやんけ。)」

 

 ジャッジ役を買って出たチリは、すぐにシューティーのジャローダの状態を見抜いていた。と、言うよりは、おおよそその姿を見れば誰もが一目で分かるほど、ジャローダは消耗していたのだ。

 それは、無論サトシから見ても同様である。

 

「どうしたシューティー?仕掛けてこないのか?」

 

「心配無用さ。もう仕掛けさせてもらっている。」

 

 ジャローダの姿に若干心配しながらも、サトシが挑発気味に声をかければ、シューティーもフフン、としながら返す。

 それにサトシが目を丸くしてからピカチュウを見ては、そこで異変に気付いた。

 

「ピカチュウ!?」

 

「ぴ、かかぁ…!?」

 

 ピカチュウの体が、硬直させられている。身動きが取れない。

 この時サトシは、シューティーの一手は、ジャローダがボールから飛び出して来た瞬間より打たれていたことを知る。

 完全に、先手を取られたのだ。このしたたかな手腕は、まさしくアデク直伝のものだろう。

 

 

 

「でんきタイプは確か、マヒ状態にはならないんでしたかね?」

 

「はいクラベルさん。アレはおそらく、ジャローダ自身の生態による『眼力』を活かしたものかと。ああやって睨みつけられてしまっては、大抵のポケモンはそれだけで戦意を喪失することでしょう。」

 

「なるほど。流石はオモダカさん。バトルのみならずポケモンのことをしっかり勉強していますね。」

 

「ありがとうございます。」

 

 クラベルの疑念に簡潔に答えて見せるオモダカからすれば、むしろバトルの世界に生きるからこそ幅広いポケモンの生態知識は求められてくるものという認識があった。

 

 

 

「じゃ〜ろ…!」

 

「ぴ…ぴ…!」

 

 ピカチュウを射竦め、動きを封じたジャローダの体が発光し始める。

 晴天の空の下、降り注ぐ太陽エネルギーを吸収しているのだ。

 

 

 

「睨み付けて動きを止めてからの、ソーラービーム、か。」

 

 野次馬に混ざらず、早々に乗り込んだ船の上から、グズマはフィールドの全体像を見下ろしている。

 基本に忠実なシューティーの計算された戦法、それはいい。

 グズマの興味と言えば、それに相対するサトシ側の対応に他ならなかった。

 

「まさか、このまま撃ち落とされたりはねェだろうが…な。」

 

 ひとりごちるグズマがサトシとピカチュウを見る瞳には、複雑な心境が入り混じっていた。

 

 

 

「なるほど、そういうことか…ピカチュウ!!」

 

「ぴっっっ、かぁぁぁ!!」

 

 ソーラービームの体勢に入るジャローダを前に、サトシが号令すれば、ピカチュウは全身に力を込め、動きを阻害する射るような視線からのプレッシャーをあっさり跳ね除けて見せた。

 サトシからしたら、アデクからもらった手紙で知った実情もあり、ガラにもなく待ちの姿勢を取ったがために取られた先手に過ぎないのだ。

 

「流石だね!しかし!」

 

 シューティーもシューティーで、射竦められたまま抵抗一つ出来ずにサトシとピカチュウが終わる、などとは全く考えてはいなかった。

 

「(アデクさん。あなたの教えを、今こそ。)」

 

 雲ひとつない快晴の中、強い日差しの下である程度の時間さえ稼げればそれでよかったのだ。

 

「おおおおおおお…!!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!

 

 太陽エネルギーをその身に吸収するジャローダの全身から、より高いレベルのくさエネルギーがオーラとして噴出する。

 

「じゃろおおおおお…!!」

 

 光り輝くジャローダを中心に、大地が揺れ動いていた。

 シューティーの全身からも、溢れんばかりの波導が放たれている。

 

 

 

「なるほど。このためにジャローダをあえてあの状態でバトルに投入したのか。」

 

「あれは…特性しんりょくですか。」

 

 クラベルにオモダカが無言で頷いて見せる。

 しんりょく…もうか…げきりゅう…。全国の研究所で支給される初心者向けポケモンが共通して持つ、体力の低下に応じてそれぞれが司るタイプの技の威力を高める特性だ。

 ジャローダの特性しんりょく…意図的にそれを用いるために、シューティーは消耗したままのジャローダをあえてバトルに持ち出したのだ。

 

「はぁぁぁぁぁ…!!」

 

 太陽エネルギーと、特性しんりょくにより湧き出るくさエネルギー、そこにシューティーが放つ波導も加わり、三位一体となってゆくのがサトシには見えた。

 それは、まさしく全身全霊の一撃。その光景に、サトシは見覚えがあった。

 

「(アデクさんのウルガモスのオーバーヒート…!!)」

 

 三位一体の力をその身に内包するジャローダの姿が、エキシビジョンマッチで戦ったアデクのウルガモスとタブッて見える。

 それどころか、今目の前で対峙するシューティーとジャローダが放つ若くフレッシュな波導は、これから放たれるであろう一撃からは、アデクのウルガモスの放ったそれよりも遥かに力強い圧力を感じていた。

 

「面白いッ!!」

 

「ぴぃか!!」

 

 サトシとピカチュウは、のぞむところだとばかりに不敵に笑う。

 

「受けてみろ!アデクさん直伝!!」

 

 シューティーの瞳がギラリと輝く。それは、ポケモントレーナーとしての魂の輝き…。

 

「僕とジャローダの、全身全霊のソーラービームをぉぉぉぉぉ!!!」

 

「おおおおお!!ろおおおおお!!」

 

カッ!バババババババ!!

 

 ジャローダが三位一体のソーラービームを、口から勢い良く撃ち放つ。フィールド代わりのコンクリート面を容易く削り飛ばしながら、太陽光線がピカチュウに迫る。

 

「ピカチュウ!!」

 

「ぴっかぁぁぁ…!!」

 

 サトシに応え、ピカチュウが飛び上がる。

 

「10まんボルト!!!」

 

「ちゅううううう!!」

 

 ピカチュウの渾身の10まんボルトと、ジャローダの全身全霊のソーラービームがぶつかり合う。

 その伯仲は…一瞬で決着が付いた。

 

 

 

「なんと、こ、これは…。」

 

「これが…ワールドチャンピオンのエースポケモン…。」

 

 クラベルは驚嘆し、オモダカは全身を身震いさせる。

 

 

 

「ハッ。そうでなくちゃ困る。」

 

 決着を確信し、グズマは船内に引っ込んでゆく。

 

 

 

「ろぁぁぁぁぁッ!?がッ…!!」

 

 ぶつかり合った10まんボルトの電撃が、ソーラービームをあっという間に突き破る。

 そのまま電撃がジャローダに襲い掛かれば、最高の一撃のために極限まですり減らした体力を即座に奪い去った。

 

ズゥゥゥン…!

 

 黄色い唐草模様の入った胴体が、電撃に焼き尽くされ、その頭が地に伏せてゆく。一連の流れがシューティーには、酷くスローモーションに見えた。

 脳裏に浮かぶ、今日までの戦いの日々。意識をハッキリ取り戻した時には、長らく苦楽を共にしてきた相棒は、力無く倒れ伏していた。

 

「チリ。」

 

「は…はうあ!」

 

 ピカチュウの電撃に圧倒されていたチリに、オモダカが声をかけ意識を引き戻す。

 ハッ、とさせられた彼女がジャローダの表情を確認すれば、完全に目を回していた。戦闘不能である。

 

「ジャ、ジャローダ戦闘不能!ピカチュウの勝ち!よって勝者、チャンピオンサトシ!」

 

ワァァァァァ…!!

 

「す、すげぇ…!」

 

「アレが無敵のダンデにも競り勝った、ピカチュウの10まんボルトか…!」

 

「役者が違うよ、役者が。」

 

 チリのジャッジに野次馬が湧き立っている。バトルの結果云々よりは、ピカチュウの理外の電撃の破壊力に、である。

 

「ふぅ…。」

 

 シューティーは瞑目し、少し俯く。

 それは、何かをゆっくり飲み込んだように、サトシには見えた。

 

「ぴかぴ!」

 

「ん。お疲れ様ピカチュウ。ナイスだったぜ。」

 

 ひと仕事終わらせて飛びつくピカチュウを抱き留め、左肩の指定席に導く。そうしてサトシは、シューティーに歩み寄っていった。

 

「ご苦労様、ジャローダ…本当に…ありがとう。」

 

 瞑目し、少し俯いたままでシューティーはジャローダをボールに戻す。サトシの足音に気付けば、俯いていた顔を上げ、目を開く。

 

「流石だね、サトシ。」

 

 その表情は、憑き物がとれたように晴れやかであった。それがサトシには、酷く寂しさを感じさせた。

 この寂しさには、覚えがあった。

 

 

 




 『フウロ』
 18歳。フキヨセシティの公認ジムリーダー。異名は「大空のぶっとびガール」。
 3年前は自身の脳内シュミレートによる時短式のジム営業、通称「エアバトル」を行っており、物議を醸していた。
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