3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 本筋にはあまり絡まないお話。外伝となっております。
 後編に続きます。


外伝 ケニヤン奮闘記!ジムリーダーへの道 前編

 時は3年前、サトシがマスターズトーナメントにてダンデを破ってすぐの頃…。舞台はカントー地方ヤマブキシティ。

 隣り合うタマムシシティと並ぶ、カントーの大都市である。

 この町の公認ジムリーダーは、エスパータイプを扱う強力な超能力者であるナツメだった。

 何故『だった』、と表現せねばならないかと言うと、それは、彼女の生まれ持つ超能力にあった。

 

『あなたも"お友達"になりなさい?』

 

 ナツメはその超能力によりジムを訪れた挑戦者を始め、母親すらも人形に変え、おもちゃで作ったジオラマの街に閉じ込めてしまったのだ。

 結果的にとある挑戦者の来訪をきっかけとして、彼女は封印していた感情を取り戻し、人形になっていた人たちも元通りになったのだが、そこで全てが丸く収まるはずもなかった。

 

「「「絶対に訴えてやる!」」」

 

 人形にされていた被害者の何人かが協力し、ナツメに対して訴訟を起こしたのだ。超能力の暴走が原因とは言え、まごうことなき拉致監禁案件である。

 被害を訴えた人々への賠償命令に速やかに応じたことにより、逮捕、収監されるような話にはならなかったが、ナツメは公認ジムリーダーの座を返上。賠償金を払う際に生まれた負債を稼ぐべく、女優の道を歩み出した。

 それが、ポケウッドの誇る傑作映画『魔法の国と不思議な扉』にてクイーン・ジュジュべの怪演に繋がり、3年後の時点で映画スターの座をほしいままにしているのだから、ナツメとしても人生分からないものである。

 

 

 

 そんなヤマブキシティに、1人の少年が足を踏み入れた。

 赤毛で大柄な体格、傍らに、青い肌をした屈強な肉体に、道着を纏ったからてポケモンのダゲキを従えている。

 少年の名はケニヤン。

 イッシュリーグにてサトシと激闘を繰り広げたポケモントレーナーである。

 彼はトレーナー修行としてカントー地方へ赴き、その足を格闘道場に運んだ。

 

「押忍!俺、イッシュ地方からポケモン修行に来ました、ケニヤンと言います!この道場で特訓させて下さい!!」

 

「おぉ!おぉ!歓迎しよう!」

 

 ケニヤンの入門を、格闘道場の主である空手大王は快く受け入れた。ケニヤンには、カントーで高名な格闘道場に前々から憧れがあった。

 空手大王としても、門下生が増えるのは教えを説く相手ができたことと同じくらい、いやらしい話だが、収入源としてもありがたかった。

 

「せい!やあ!たあ!」

 

「げき!げき!」

 

「いい正拳突きだ!」

 

 着古した赤と黒のツートンのシャツの上に、支給された道着を着込んだケニヤンの修行の日々が始まった。

 ダゲキを始め、自身のポケモンたちと共に、ある時は瓦を何枚も拳や脚で砕き、またある時はヤマブキシティ中を走り回る。

 

「まだまだぁ!!」

 

「だげ!ッき!!」

 

 イッシュ地方ではお目にかかれない厳しい修行の数々に、ケニヤンは必死に食らいついた。

 そんな中、3年の月日が経った頃であった。

 ナツメが辞職し、後任のジムリーダーを正式に配置するためポケモンリーグ本部が動いていると格闘道場まで風聞が届くようになったのは。

 

 

 

「本当ですか大王!?」

 

「うむ。ケニヤンを呼んでくれ。」

 

 

 

 日課の修行行程をクリアしたところに道場スタッフから呼び止められたケニヤンは、道場の空手大王の私室へ案内されていた。

 この部屋に来たのは、道場を初めて訪れ、正式な入門届を書いて提出した初日以来2度目である。

 

「押忍!失礼します!」

 

「うむ。済まんなケニヤン。急に呼び出して。」

 

「不測の事態に合わせて、強度を調整するのも修行の一部、ですよね。」

 

 自分の教えを反芻し、実践していることを聞けば、空手大王は満足げに頷いた。

 そうして、呼び出した本題へ移ってゆく…。

 

「エスパージムのナツメがジムを畳んだ話は聞いているな?」

 

「はい。先輩方が話していたのを。」

 

「そうか、なら話は早い。あの女は強かった。かくいうワシもコテンパンに…いや、それはいいのだ!」

 

 早速脱線しそうになった話に、空手大王は自分でブレーキをかけた。

 

「このヤマブキは、カントーでも1番の大都市だ。故に、この地に公認ジムがないというのは、リーグとしても画竜点睛に欠くらしい。」

 

「なんとなく分かります。」

 

 ケニヤンの故郷であるイッシュ地方1の大都市であるヒウンシティにも公認ジムはあり、当然ジムリーダーはいる。

 むしタイプの専門家であるアーティだ。彼は街のシンボル的な立ち位置にもいる。

 

「この3年間はリーグから派遣されていた代理がバッジの受け渡しの是非を測っていたのだが、いい加減リーグ本部もヤマブキジムに正式な後釜を置くという話をまとめたらしい。我が格闘道場にも、リーグより公認ジムの打診があった。無論、公式の試験はクリアせねばならぬが…。」

 

 ここまで話を聞くケニヤンの中に疑問が浮かぶ。

 ケニヤンとしては、空手大王自身が公認ジムリーダーに名乗りを挙げて然るべきと考えているからだ。

 

「ケニヤンよ。」

 

 ズイ、と空手大王が間合いを詰め、ケニヤンの顔を見つめる。

 

「お前、ジムリーダーになってみる気はないか。」

 

「え?ええ!?」

 

 それは、疑念と同時に、ほんの一瞬だけ頭によぎった、自分が呼び出された理由。

 すぐに頭の中からかき消したものが、そのものズバリ正解となり、ケニヤンには喜びより先に困惑が来ていた。

 

「師匠!俺はまだまだ未熟者です!ジムリーダーなんてとても…!!」

 

 ケニヤンからの固辞。これは、空手大王としては予測できていた。

 大きな両手をケニヤンの肩に置き、俯き出していた彼と視線を合わせ、口を開く。

 

「ケニヤンよ。お前は故郷のイッシュを飛び出し、慣れぬ土地にあえて足を踏み入れ、今日まで修練を積んできた。それはこの空手大王はもちろんのこと、空手道場の皆が知っておる。」

 

 よくもまぁこうも歯の浮くような物言いが浮かぶものだ、と空手大王は内心自嘲する。

 彼からしたら、イッシュ地方の予選大会である程度勝ち進んだ経歴を持つケニヤンは、普通に素質枠として迎え入れていた。

 自分の課したメニューに疑問を持つことなく、鍛錬し続けるそのひたむきさに、いつしか空手大王は自身の夢を賭けていた。

 

「今日まで積んできた修練を以て未熟と詰られたとしてもだ。未熟であることの何が悪い?ジムリーダーとは、己自身も研鑽し続け、挑戦者と共に成長するものである。違うか?」

 

 これが実践しきれなかったから、ナツメは自らの超能力に精神を呑まれ、他者を傷付ける凶行が起きたのだと、空手大王は断じて憚らない。

 そして、それがケニヤンには出来る、と今、こうして断じて見せたのだ。

 

「お、俺…。」

 

 大きな体をケニヤンは震わせる。その肉体は、イッシュ時代よりさらに筋肉質に磨き上げられている。

 低レベルポケモンならば、その隆々たる二の腕の筋肉を見ただけで恐れをなすことだろう。

 

「だげぃ…。」

 

 ダゲキが心配そうに主人を見る。相棒と顔を見合わせては、段々と勇気が湧いてきた。

 ケニヤンの表情に、明るさが戻る。体の震えは止まり、改めて空手大王に向き直った。

 

「全力で臨ませていただきます!」

 

「うむ!リーグに試験を受ける旨、しかと伝えておくぞ!」

 

「はいッ!!」

 

 ジムリーダー試験を受けるとなり、ケニヤンのプライベートに組まれていた自主トレの時間の半分は、筆記試験対策に充てられた。

 参考書を買い込み、特記事項をノートに書き写し、頭に叩き込む。

 ケニヤンにとってあまり得意ではなかった筆記の勉強は、幸か不幸か無意味に終わった。

 取り急ぎジムリーダーを決めたいというリーグ本部からの方針により、筆記試験はなしで実技試験1本に集約されたのだ。

 

 

 

「う、嘘だろう?あいつがいるなんて、聞いてないよ…。」

 

「出来レースなんじゃあないのか…?」

 

「お、俺…ちょっとトイレ…。」

 

 試験当日、旧ヤマブキジムのあった施設に受験希望者たちが集まり、ケニヤンもその中の一部として待機していた。

 そんな中、とある1人の受験希望者を前に、次々と退室者が出てゆく。

 やがて、待機部屋に残されたのは、ケニヤンと、浅黒い肌をした青年の2人だけであった。

 

「はん!仮にもジムリーダーになろうって奴らが、とんだ腰抜け揃いだったもんだ。大方、都市部のジムで適当に金稼ぎでもしたかった…ってところか?」

 

 青年は、立ち去った者たちに対し、辛辣に吐き捨てる。

 そのギラリとした瞳が、ケニヤンを捉えた。

 

「お前は、少しは骨がありそうだな。」

 

「お、押忍。」

 

 その視線は、品定めであろう。同時に、青年の歩んできた修羅場の数々を物語っていた。

 

「俺はクチバシティ出身。人呼んで"猛獣使いのアキラ"だ。」

 

 青年が名乗り、ケニヤンに右手を差し出す。

 その様に、彼は単に自他共に厳しさを見せるストイックさがウリで、決して排他的な人物ではない、とケニヤンは察することが出来た。

 すぐに握手に応じる。

 

「俺はケニヤン。格闘道場の門下生だ。」

 

「なるほど、良い体付きしてるのはそういうことか。こいつはタフなバトルになりそうだ。」

 

 アキラは満足げに頷きながら、笑みを浮かべる。

 

「こうなっては俺かお前か、選ばれるのはどちらか2人に1人だろう。お互い、全力でやり合おうぜ!」

 

「応ッ!」

 

 握手から、互いの左の二の腕をぶつけ合わせ、健闘を誓う。程なくして、2人は室内のスタジアムに案内され、トレーナーサークルに入るよう促されたので、それに従った。

 中央にはジャッジ役なのか、黒一色の衣装に、サングラスをかけた美女が立つ。

 

「これより、ヤマブキジム公認ジムリーダー試験を始めます。試験内容は、ポケモンバトルを通して、受験者の資質を判断し、後日内定者に改めてジムリーダー就任を打診するものとします。」

 

 美女の透き通った声が、スタジアム中に響く。

 

「試合ルールは使用ポケモン1体のシングルバトル、なお、勝敗は必ずしも合否に直結するものとは限らないことをあらかじめ伝えておきます。審判はポケモン監査局より派遣されました私、ジョーイが務めます。」

 

 朗々と語る美女がサングラスを外す。

 

「ジョーイさんだったんだ。」

 

「ジョーイさんにも職業選択の自由はあるさ。」

 

 驚くケニヤン、アキラは特に気にするでもない。

 

「それでは両者、ポケモンを出してください!」

 

 監査局のエージェントであるジョーイが両手を振り上げる。

 バトル開始となり、先発ポケモンの投入を促す審判のアクションだ。

 

「よし、いくぞ!ダゲキ!出てこいや!!」

 

 ケニヤンが勢いよくボールを投げ込めば、中から出てきたダゲキは正座の姿勢から、ゆっくりと立ち上がる。

 そして、対戦相手を見やり、構えを取った。

 

「だぁ!げきぃ!」

 

「ほう、トレーナー同様よく鍛え込まれてるな。俺はこいつだ!出てこい!!」

 

 ケニヤンがダゲキを繰り出すのに僅かに遅れたタイミングで、アキラもボールを投げ込む。

 中から飛び出したのは、鋭いトゲを外皮に持つ、長い2本の爪が特徴的なポケモン…。

 

「サンドパンか!」

 

「試合開始!」

 

「いくぞぉぉぉ!!」

 

 ねずみポケモンサンドパン。じめんタイプで、いわゆる通常個体。

 ジョーイのバトル開始のコールと共に、サンドパンが錐揉み回転しながらダゲキに迫る。

 それを見るダゲキにも、ケニヤンにも、焦りはなかった。

 

 

 




 『ケニヤン』
 13歳。イッシュ地方出身のポケモントレーナー。
 トレーナー修行として故郷を飛び出し、カントー地方までやってきた実力派。
 エースポケモンはトレーナーの熱血ファイトを体現できるよく鍛えられたダゲキだ。
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