3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 PWTで役目を終え、新たな旅立ちの前にサトシに待っていたのは熱きライバルとの別離であった。
 黄昏るサトシの頭上を横切る黒い翼…船はそれでも行く。彼を次なる物語の舞台へと運ぶために。


スカーレットアドベンチャー パルデア上陸 バトルはランチの後に

 雄大な自然が広がり、あちこちには非常に起伏の激しい地形…その合間に多数の川が流れ、湖や沼地…荒野に砂漠、雪山など様々な環境がひしめき合っている。

 

「がぅあああああ!!」

 

「ぴぃ〜!ぴぃ〜!」

 

 そのどこであっても野生のポケモンたちが今日を生きるために、ある者は遮二無二走り…ある者は息を潜めて好機を窺い…またある者はのんびりと他者を見下ろし欠伸している。

 ここはパルデア地方。

 近年、この地から発見された現住種や、既存種の進化系がポケモン図鑑に認定され、正式に『全国』の仲間入りをした地方である。

 

「着いた着いた!パルデア地方!」

 

「ぴっかぁ〜!」

 

 約2週間の航海の末に、サトシと、オレンジアカデミーのPWT参加選手団を乗せた客船はトラブルは…少々ありはしたが、無事にパルデア地方の港町、マリナードタウンに到着した。トラブルというのは無論、サトシからしたらロケット団絡みのいつものアレである。

 

「さぁみんな!降りる準備や!忘れ物して船乗りさんたちに余計な仕事増やしたらあかんで?」

 

 船が係留施設に入って乗客が船から降り出せば、チリが生徒たちに呼び掛けて回っている。

 場を取り仕切り、上手く統率していくのは、威勢のいい彼女にフィットする役回りであった。

 本来なら最上級生であるグズマが受け持つのが筋ではないか、と思う者もちらほらいたが、大会参加に際し、他を寄せ付けぬ迫力を振り撒いてストイックにポケモンの調整をしていたその姿は、見る者を黙らせた。

 グズマもグズマで、チリがメンバー全体のまとめ役を買って出てくれたことには素直に感謝していた。

 

「みんな降りたかぁ?よーし、点呼ぉ!!」

 

 橙色のボトムスの一団が船から降りては、チリの号令に合わせて点呼を行い、メンバーの抜けがないかを確認する。

 

「点呼確認、よし!」

 

 人員に抜けはなし。チリが満足げに頷く。

 その直後…。

 

ぐぅぅぅ〜。

 

「あ、ごめん。お腹空いちゃって。」

 

 サトシの腹の虫が鳴る。

 アカデミーの選手団は、揃って盛大にずっこけてしまった。

 

「あぁ。コレがチリがよく見せてくれる"新喜劇"のノリ、というものですか。生で見たのは初めてです。」

 

「いやはや私、こういう方面は疎くて。一緒にひっくり返った方がよかったのでしょうか?」

 

「ふん…。」

 

 お約束をいまいち把握できていない引率役のクラベル、1年生代表で、PWTジュニアカップを制したオモダカ、点呼には混ざらなかったが、チリの視界の範囲内で存在を示していた3年生代表で、PWTオープンカップの覇者、グズマの3人を除いて。

 

 

 

「美ン味〜い!!」

 

「ぴかちゅるちゅるちゅるちゅる。」

 

 腹を空かせたサトシに、クラベルは生徒たちに食事を済ませてもらう予定のレストランを紹介し、サトシもそこで腹拵えすることにした。

 

「オリーニョのオイルと、リククラゲの皮脂をふんだんにつかったキノコパスタ!パルデアに帰ってきたって気がするわ〜。」

 

「本当ですね。ほんのひと月ほどいなかっただけなのに、何故だか郷愁を感じてしまいます。」

 

 オモダカの語彙力に、こいつホントに10歳か?というような視線をチリが向けるも、当の本人が気に留めることはない。

 アカデミーの先輩と後輩、という間柄を越えて、ポケモンバトルを通してできた友人同士だからこその距離感だ。

 

「ごちそうさん。」

 

 食事を終えたグズマがひと足先に席を立つ。

 

「クラベルさんよ。学園にはフィールドワークがてら戻るぜ。登校日には間に合わせる。」

 

「そうですか。分かりました。先生方には伝えておきます。」

 

「助かる。"アレ"の様子も確かめとく。」

 

 店から出るため歩き出す。一瞬、サトシと目が合うも、お互い言葉を交わすことはなかった。

 店を出たグズマと入れ代わりに店の奥から、恰幅のいい男が、線の細い青年を引き連れて出てくる。

 2人を見ては、クラベルは立ち上がり、胸に手を当ててからお辞儀をした。

 

「これは店長さん。いきなり団体で押し掛けてご迷惑をおかけいたしました。」

 

「そいつは構わねえさ!客は来れば来るだけ売り上げになるんでい。」

 

 店長、とクラベルに呼ばれた男がガハハと笑い飛ばす中、傍らの青年はコック帽子を頭から脱ぎ、一礼を返した。

 純白の髪に、外側がカールしている白眉。毛色と同じ純白のエプロン姿は、料理人として清潔さを見るものに印象付ける。

 男性としては、眉こそ特徴的ではあるがいわゆる美形の範疇にあった。

 

「こいつはジムリーダー志望のハイダイって奴でよ。ポケモンも料理も腕が立つんだが、どうも引っ込み思案なもんで力を出し切れねえんでい!なぁ?ハイダイ!!」

 

ばちぃん!!

 

「あ痛ぁ!」

 

「おや、大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫です。ははは…。」

 

 紹介に預かった青年ハイダイは、直後店長に背中を叩かれる。

 飛び上がりそうなほどの痛みがあったのか、背筋をピンと伸ばしながら、クラベルに力無く笑う。

 このやり取りも日常茶飯事なのだろう。

 

「それでよクラちゃん。こいつそろそろ上がりだからさ。可愛い生徒ちゃんらに一丁揉んでもらって欲しいのよ。」

 

「そうでしたか。しかし、アカデミーに帰る為のそらとぶタクシーの予約時間がありまして…。」

 

「だったら俺、やりますよ!」

 

 立候補したのは、サトシだ。腹拵えを済ませたとなれば、次は体を動かしたいとなったのだ。

 

「よろしいのですかサトシさん?」

 

「はい!」

 

 クラベルが問いかける。ほぼ個人的な身内関係の話である。

 そこにワールドチャンピオンの手を煩わせると言うのは、クラベルとしては気が引けたのだ。

 

「サトシ?もしかして、マサラタウンの!?」

 

 ジムリーダー志望なのもあり、ハイダイは相応にバトルの世界の事情に精通していたようで、盛大に驚いていた。

 

「こりゃあいいや!おいハイダイ!チャンピオンさんの胸!思いっきり借りて来るんでい!!」

 

ばちぃん!!

 

「痛ぁ!?」

 

 仰け反り気味になっていたハイダイの背中を、店長がまた思い切り引っ叩く。

 この店長、いわゆる町で有名な名物店長であり、彼の人となりを知る常連客が多いタイミングであったのだろう。

 皆いつものこと、と受け流していた。

 

「そういうことでしたら、私に審判として見届け人をさせて下さい。」

 

「オモダカさん?しかし…。」

 

 サトシがバトルをする、となればオモダカが食いつき、挙手しながら席を立った。

 クラベルからしたらオープンカップに優勝したグズマのみならず、ジュニアカップに優勝したオモダカまで別行動をされては、引率役としては困った話ではある。

 しかし、彼女が、一度言い出したら基本聞かない性質であることも知っていた。

 

「私もグズマ先輩同様、全校集会がある次回の登校日には必ず出席します。それに、チャンピオンサトシには、初めてパルデアを訪れたばかりであまり土地勘がないはず。」

 

「確かに、迷っちゃうかもな。」

 

「ぴかぴかちゅ。」

 

 オモダカの指摘に、当のサトシも頷く。間違いない、とピカチュウも続いた。

 

「加えてチャンピオンサトシはアカデミー入学希望者でもあるのですから、ここは土地勘のある人物が道案内をするのが道理でしょう。おそらくは、パルデアの野生ポケモンと触れ合ってみたい気持ちもあるでしょうし。」

 

「うんうん。分かってるじゃんオモダカ!」

 

「ぴかぴか。」

 

 クラベルに捲し立てるオモダカに、サトシも同調する。

 ピカチュウからしたら、土地勘のある場所でもたまに迷うサトシだ。案内人の申し出は、まさしく渡りに船であった。

 

「はぁー…分かりました。オモダカさん。チャンピオンの道案内、お願いしますよ。」

 

「任せて下さい。」

 

 根負けしたクラベルが別行動を許可すれば、オモダカはむふー、と胸を張る。

 その仕草を見て、チリはこの場に全く関係ない危惧を抱いていた。

 

「(あれっ?会長のおっぱい、チリちゃんよりおっきなってない…?)」

 

 それは、チリには哀しく、残酷な事実であった。

 

 

 

「店長、お店はよろしいのですか?」

 

「マリナード民は飯と同じくらいバトルが好きなの忘れたかい?チャンピオンさんのバトルともなりゃあ格別なんでい!」

 

 店の庭に併設されているバトルコート、そのトレーナーサークルにサトシとハイダイ青年がそれぞれ立てば、瞬く間に野次馬が集まり、店内の客もこぞって観戦モードである。

 それは他の地方に負けず劣らず、ポケモンバトルが盛んなパルデア地方ならではの現象であった。

 

「これよりワールドチャンピオンサトシvsレストラン"カリエンテ"のバイト、ハイダイの試合を行います!」

 

「ハイダイさん、対戦よろしくお願いします!」

 

「こちらこそ、よろしくお願いするんだい!」

 

「対戦方式は、3C1D!各種バトルシステムはそれぞれどれか1つのみ、1度だけ使用可能とします!」

 

 オモダカの明瞭な審判ぶりに、チリたち生徒衆が特に驚くことはない。

 元より入学してあっという間に生徒会長に選ばれた抜群の統率力の中には、他者の心にスーッと言葉を投げ込む巧みな話術や、発声法も含まれていることを知っているからだ。

 

「会長はん、チャンピオンの試合間近で見たいよって強引やったのう。」

 

 自身もちゃっかりバトルがよく見える窓際席に陣取るチリがオモダカの魂胆を見抜いている。

 そんなチリの視線にオモダカは気付いていたが、特に茶化してくるでもないので捨て置くことにした。

 

「それでは試合開始。両者、ポケモンを!」

 

「よーし!キングラー!キミに決めたッ!!」

 

「ごき、ごぉき〜!!」

 

「ケケンカニ!頼んだんだい!!」

 

「かに、かにぃ〜!!」

 

 サトシが繰り出したのは、はさみポケモンキングラー。

 対するハイダイが繰り出したのは、けがにポケモンケケンカニ…。

 

「なんちゅうこっちゃ、カニ対決や〜!!」

 

「いけーッ!キングラー!!」

 

「突撃だい!ケケンカニ!!」

 

カサカサカサカサ…!

 

 チリが思わず叫ぶ中、トレーナーの指示に従い、キングラーもケケンカニも真っ直ぐに走り出した。

 キングラーは特徴的な巨大なハサミをケケンカニに向けてのいわゆるカニ走り、対するケケンカニは、そのまま真っ直ぐに走っていた。

 

 

 




 『ハイダイ』
 23歳。料理人見習い兼ポケモントレーナー。
 特徴的な眉をした美青年で、進路に悩んでいる才溢れる実力者。
 エースポケモンのケケンカニには、何やら奥の手があるようで…?
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