3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
そんな彼にとってサトシとのバトルは、悩みを晴らすに足りる痛快さであった。
アカデミー組と別れ、サトシとオモダカの2人旅が始まろうとしていた…。
パルデア地方を形作る地形の中央には、ぽっかりと大きな『穴』が開いており、そこはポケモンリーグにより侵入が固く禁止されている秘匿区域である。
通称『パルデアの大穴』または、シンプルに『大穴』と呼ばれる上空には、厚く雲がかかっており、内部を窺い知ることも叶わない。
そんな秘境を覆い隠すように、周囲には巨大な山脈が聳え立ち、その外側に、人やポケモンの営みが息づいていた…。
サトシたちが降り立った港町マリナードタウンがある西2番エリアからテーブルシティを目指すルートは2つ。
1つは、西3番エリアにあるチャンプルタウンを経由し、そこから東進。パルデア地方最大の氷山ナッペ山の麓を通過してから南下してゆくルート。
もう1つは、チャンプルタウンからすぐに南下をしてゆくルートである。
「遠回りをする分、やはり出会えるポケモンの種類は、チャンプルタウンから東進する方が多くなるかと。」
「なら決まり!たくさんポケモンと会える方が楽しいしな!」
「ぴかぴか〜!」
オモダカの提示を聞いてサトシは即決する。話は決まった。
少し遠回りの東進ルート。当面の目的地は、チャンプルタウンである。
「お預かりしたキングラーたちはみんな元気になりましたよ!」
「ありがとうございます!」
「またのご利用をお待ちしていますね!」
西2番エリアの野外ポケモンセンターにてハイダイとのバトルで頑張ってくれたキングラーの体力回復と、定期的な健康チェックを済ませたサトシは、改めてその風景を目の当たりにした。
「うわ〜ッ!いろんなポケモンがいっぱいだ!」
「ぴっか〜!」
そこには一面に広がる自然の中に、ポケモンたちの営み。
「きりひ〜ん!」
「のこ。」
「みにゃーん。」
見覚えのあるポケモンも、初めて見るポケモンも、新天地での姿はひたすら新鮮であった。
「キリンリキにノコッチ、ニャースもいる!あのポケモンはなんだろう?」
道の上下左右を目まぐるしく見て回るサトシは、初めて見るポケモンには、慣れぬ手付きでスマホロトムを操作し、ポケモン図鑑アプリで調べてみる。
クラベルのおかげで、アプリにはパルデア地方のポケモンのデータも入っていた。アップデート済みである。
『グルトン。ぶたポケモン。一日中エサを探す。優れた嗅覚を持つが、エサ探し以外に使わない。』
「そばにいる大きいのはグルトンの進化系のパフュートンですね。多分親子連れでしょうか。」
「そっか。可愛いなぁ〜。」
「ぶひひ。」
親子連れのぶたポケモンを見送る中、彼方に黒い影が無数に見える。
それは、サトシがよく知るポケモンに酷似していた。
「ぶも〜!!」
「あれは…ケンタロス?」
「そうか。パルデア以外の人からしたら、あのケンタロスは馴染みがないのか。」
オモダカが呟く中、サトシはポケモン図鑑アプリを操作すれば、爆走している黒いポケモンの群れを、機械音声が解説する。
『ケンタロス、パルデアの姿、コンバット種。あばれうしポケモン。筋骨隆々の体で、格闘戦が得意。短いツノで急所を狙う。』
「コンバット種って?」
「私も見たことはないのですが、パルデアのケンタロスには、ほのおタイプやみすタイプを持つ希少種が存在するらしいのですよ。」
「そうなんだ。」
そうこう話しながら歩くうち、道は二つに分かれていた。
向かって左側には、何やら巨大な岩の影が見え、右側は砂漠の入り口であるようだ。
「どっちに行くんだ?」
「左ですね。右はロースト砂漠の入り口になります。砂漠を通り抜けて、カラフシティを経由するのもアリなんですが、チャンピオンは、砂漠用の装備は整えて来てますか?」
「いや、全然。」
「私もです。」
ここまで話しては、サトシもオモダカの案に首肯し、左の分かれ道を進むことにした。
そこから歩いて行けば、分かれ道の段階からぼんやりと姿を見せていた岩陰、その全貌が顕になる。
柱のような岩が列を成して、洞窟を形成していた。
「すっげー!なんだコレ?」
「パルデア十景の1つ、『列柱洞』です。」
「れっちゅーどー?」
「ぴかちゅーぴー?」
「巨大な岩を、柱が突き刺さるように支えて洞窟を形成してるのを見て命名されたらしいです。ここを通り抜ければチャンプルタウンはすぐそこです。行きましょう。」
「うん。」
「ぴか。」
オモダカにサトシは頷き、列柱洞に足を踏み入れた。
ここまで来て、ものすごくスムーズに行軍出来ていることにサトシは感動していた。
これまでしてきてサトシの旅とは、迷ってからの野宿が当たり前であった。
おそらくオモダカが先導してくれなければ、下手をしたらマリナードタウンまで逆戻りしていたかもしれない…。
「ありがとうな、オモダカ。」
「なにがです?」
「なんか、今までにないくらい旅が順調でさ。」
「そうでしたか。」
オモダカとしても、クラベル博士に無理押しを通してサトシの旅に同行した手前、ハプニングが起きないか気が気ではなかった。
サトシから、こうして感謝されたのは、大きな安堵に繋がったのだ。
「なぬぅ〜ん…。」
「ちゃあ〜…。」
「おっ!アサナンだ!」
「ぴかぴか!」
列柱洞に入り、中を進めば、めいそうポケモンアサナンが群をなし、その進化系のチャーレムとともに柱と柱の間から見える景色に体を向けながら瞑想に耽っていた。
「邪魔しちゃ悪いから景色だけ…。」
「ぴぃか、ちゅ。」
瞑想中のアサナンたちの側を静かに通り抜け、崖際までやってきては、一面に広がる湖が顔を出した。
「ぽぽぽ〜。」
「ひやッ!」
上空を、風に乗っているわたくさポケモンのポポッコや、餌を求めて地上を見回るひのこポケモンヒノヤコマらが飛んでいる。
ヒノヤコマなどは、進化系のファイアローをゲットしているサトシからしたら否応なく意識させられていた。
「あそこはオージャの湖ですね。イキのいいみずポケモンや、ドラゴンポケモンがあちこちにいるんですよ。」
「へぇ〜、行ってみたいなぁ〜。」
ロースト砂漠にオージャの湖。テーブルシティに辿り着き、アカデミーに入学したらば、是非とも足を運びたいと言うエリアがどんどん増えてゆく。
おそらく、この先もまだまだ増えるのだろう。サトシの胸は、高揚し続けていた。
「チャンピオンは、本当にポケモンが大好きなのですね。」
「あぁ!なんたって、ポケモンマスター目指してるからな。」
サトシの口から飛び出した単語に、オモダカは首を傾げた。
「ポケモン…マスター…?」
オモダカからすればリーグチャンピオンとなり、PWCSの舞台でバトル世界一となったサトシは、もう既に夢を叶えた存在だと思っていたからだ。
「うん。世界中全てのポケモンと友達になること。それが、俺の目指す、ポケモンマスターさ。」
「世界中全てのポケモンと…友達になること…。」
それは、途轍もなく大きな話であった。この世界は、年々加速度的に広がりを見せている。
オモダカの故郷であるパルデア地方も、全国的に認知されたのはごく最近の話だ。
パルデア地方同様、この世界には全国の仲間入りをしていない地方がまだまだあり、その地方の数の分、まだ見ぬポケモンも無数に存在するだろう。
サトシの夢は、そんな、無限に拡大してゆくであろう世界そのものへの挑戦であると、オモダカは解釈した。
そしてそれは、サトシに対する更なるリスペクトを生んだ。
「オモダカは、やっぱりパルデア地方でチャンピオン目指すのか?」
今度はサトシが問いを投げかける。
サトシの目標に比べれば酷く矮小なものに見えはしたが、事実である以上隠す意味もない。
オモダカは、首肯してみせた。
「当面の目標は、そうなります。チャンピオンになり、このパルデア地方の魅力を、世界中に伝えていきたい。私は、パルデアが大好きだから。」
オモダカの夢、それは、初めて他人に明かしたものであった。
心無い人が聞けば、チャンピオンになるなど身の程知らずと笑うだろう。
聡いオモダカは、そう察して夢を語らず生きて来た。
PWTジュニアカップを優勝し、それなりに自信をつけ、語る相手がサトシであったことも大きかった。
「オモダカなら絶対できるよ、応援するぜ!」
「ぴっぴかちゅう!」
サトシが、屈託のない笑みを浮かべオモダカの夢を後押しする。
それは、オモダカにとって何よりの幸福であった。
「ありがとうございます、チャンピオンサトシ。」
「あー、えっとさ。サトシでいいぜ。」
ペコリと頭を下げるオモダカに、サトシは頭をかきながら返す。
頭を上げながら、オモダカはキョトンと目を丸くした。
「俺たちもう友達だろ?」
畏れ多い、より先に嬉しさが来た。
語った夢を笑うことなく、その背を押してくれるサトシに関係から歩み寄られたオモダカは、両手を胸に当て、目を細めながら頷いた。
頬も、ほんのり紅に染まっていた。
「はい。分かりました。この先を進んで、洞窟を出ればチャンプルタウンはすぐそこです。行きましょう…サトシ。」
「あぁ!」
「ぴっかぁ〜。」
サトシとオモダカが列柱洞の崖際より見下ろしていたオージャの湖は、パルデア地方北西部の殆どを占める広大な湖である。
水源はナッペ山から流れるオージャの滝で、オコゲ林道のある細い陸地を隔てて海に繋がっている、いわば汽水湖の側面もあった。
そんな湖のポケモンたちは、海からの往来もあり、強力な個体も多く、バトルで栄達を図る未来のチャンピオンたちがこぞってポケモン探しをするスポットでもあった。
「釣れたかー?」
「全然。こりゃボウズかなぁ。」
陸地から、釣り竿を垂らすトレーナーたちが駄弁っている。
そんな時、水面から、巨大な影が浮き上がった。
「なんだ?」
ごぽぽぽ…
「へいらっしゃあああああい!!」
ざぱぁぁぁぁぁ!!
「「う、うわああああああ!?」」
不意に飛び出したのは、おおなまずポケモンのヘイラッシャ。それも、かなり大きい。
通常個体でも12.0mもの巨体を誇るが、飛び出して来たもののサイズは、その3倍は有に越していた。
いきなり襲い掛かられるトレーナーたちは、絶叫する以外なく、ポケモンを繰り出すことにすら思考が向かない。
それだけ決定的に脳を恐怖に支配されてしまっていた。
「らっしゃああああああい!!」
トレーナーたちに飛び掛かるヘイラッシャの口が大きく開かれる。
万事窮す、そんな時…。
「サメハダー、スケイルショット!!」
「さぁめめめめめ!!」
彼方より撃ち放たれた無数の弾丸が、ヘイラッシャの横っ腹に命中し、その巨体を水中に押し戻してゆく。
ざっぱぁぁぁぁぁん!!
そのままヘイラッシャは水の中へ撃墜され、水底深くまで撤退していった。抗し難いと判断したのだろう。
野生のポケモンが生き延びる術とは、確実に勝てる相手を狙い、後に響く相手との戦いは避けるものなのだ。
「た、助かった〜…。」
「あ、あなたは!助けてくれてありがとうございます!マイティG!!」
命の危機を救われ、腰の抜けた1人が、救世主の名を呼ぶ。
ドレッドヘアに、アロハシャツが筋骨隆々な肉体を押さえ付けている。
「ご苦労であったな、サメハダーよ。」
「めはぃ。」
そんな圧倒的な迫力と威厳を携える屈強な男は、傍らのサメハダーを労いながら、先程のヘイラッシャの事が気に掛かった。
「あれなるはまさしくヌシポケモン…。決してみだりに人を襲う性質であるはずがないのだが…。」
「しゃめ。」
「何やら、よからぬことが起きている気がするな。」
マイティGは、険しい面持ちで水平線を見つめていた。
『マイティG』
45歳。世界の海を守るヒーロー。
筋骨隆々でどこからともなく現れては人々やポケモンの危機を救う。
相棒のサメハダーは下手に触れば怪我するぜ。