3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
そこに居合わせたオモダカのクラスメイトのアオキと、冒険家のダイアナを交え4人でダブルバトルをすることとなったのだった…。
「私は、アオキを相手取れるならルールはなんでも構いません。」
「なら決まりだ。チャンピオンとお嬢ちゃん、私と坊やでチームと行こうかねぇ。」
快活に話を進めてゆく美女の足元の少女が、母として彼女を見上げる。
「お母さんとわんわん、バトルするの!?」
「そうだよルッカ。女将さんの近くに行ってようねぇ。」
「はーい!」
唐突に現れた冒険家のダイアナが瞬く間に場を取り仕切り、バトルのルールを詰めてゆく。
ダイアナの娘、ルッカは母に頭を撫でられ、ご機嫌にカウンター席へ行き、ちょこんと座った。
「…はぁ。」
たまったものではないのは、アオキだ。
ただでさえオモダカ相手でも気が重いと言うのに、サトシと組まれ、あまつさえ初対面でよく分からないダイアナと組んで立ち向かわねばならなくなった。
出来るものなら逃げ出したいのだが、親類縁者の冠婚葬祭を嘘の理由に出来るほどの悪辣さは、アオキにはなかった。
「よーし!燃えてきたぜ!」
「サトシ、よろしくお願いします。」
「あぁ!頑張ろうぜオモダカ!」
「はい!」
アオキに取り付けた約束から、思いがけずサトシとタッグを組むことになりオモダカは舞い上がっていた。
口角があからさまに吊り上がっているのがアオキには見えた。
それで余計、ため息が出た。
「坊やは好きにやったらいいさ。あたしはフォローに回るからね。」
「…はい。」
その『好き』が出来るなら今すぐこの場を立ち去りたい。それがアオキの本音である。
「えー、これより宝食堂変形バトルコートのこけら落としバトルを取り行いまーす!」
サトシとオモダカ、ダイアナとアオキがそれぞれトレーナーサークルに入れば、バイトの赤髪の美女が審判役として中央ラインのサイド寄りに立つ。
威勢よく口上しながらも、その瞳は青髪と小男?のバイト仲間とアイコンタクトで意思疎通をしていた。
「(ちょっとコジロウ、どーすんのよコレ。)」
「(どうしようもないだろ。まさかこんな早くジャリボーイが来るなんて。)」
このバイトたちの正体は、サトシのピカチュウゲットを狙うロケット団である。
パルデア地方に向かう船旅の道中、彼らはそれぞれ別口から宝食堂にWebサイトを利用しバイト応募をしており、到着してすぐに採用されて潜入していたのだ。
これまで数々のメカを作り、旅の道中のサトシたちに襲い掛かり続けていた彼らにとって、店内に可変式のバトルコートを用意したがっていた宝食堂は、まさに都合の良い拠点と言えた。
「(女将さんの信用を得るべく、対ピカチュウ用秘密兵器を作る為の資材を丸ごとお座敷の改装に使ったのが不味かったニャ〜。)」
小男の扮装をしていたニャースもため息を吐く。
本来ならば、バイトをこなしつつ宝食堂の施設をどんどん改造していき、サトシがノコノコやって来たらば、事前に店内に備えつけた仕掛けによりまんまとピカチュウを頂く算段であった…のだが、そのサトシが訪れるのがあまりにも速すぎたのだ。
「(現状はどうしようもないぜムサシ。とりあえず静観、って感じで。)」
コジロウが首を横に振る。今、無理に襲い掛かれば、たちどころにやな感じ〜!となるのは目に見えているのだ。
「あ、それでは双方、ポケモンをどうぞ〜!」
ムサシもコジロウに頷くより他にない。そんな企みはおくびにも出さず、バトルの審判として進行をしていた。
「俺はこいつだ!ヨルノズク!キミに決めたッ!!」
「ほぉーッ…!」
キラリン!
「「色違い!?」」
「流石チャンピオン、違いを出してくるねぇ。」
サトシが繰り出したふくろうポケモンヨルノズク、その色違いにオモダカとアオキは同様に驚いた。
ヨルノズクの系列自体がパルデア地方に生息していない為珍しいのもあるが。
ダイアナは色違い、という面にのみ反応しているようで、ヨルノズクそのものにはさほどインパクトは感じていないようだった。
「出陣なさい、ドドゲザン。」
「どげし。」
「さぁいくよ!ウインディ!!」
「がるおおおん!!」
「…お願いします。ムクホーク。」
「くぉぉぉぉぉ!」
オモダカはドドゲザン、ダイアナはでんせつポケモンウインディ、アオキはもうきんポケモンムクホークをそれぞれ繰り出す。
ボールから飛び出したウインディとムクホークは、それと同時に咆哮し、ヨルノズクとドドゲザンは僅かに肩を振るわせる。
相手の攻撃力を低下させる特性いかくが発動したのだ。
「そのムクホークいいね!よく育てられてる!」
「ありがとうございます。」
同じくムクホークを持っているサトシが、アオキのムクホークを褒める。
ほんの少しだけアオキの口角が上がっていたのをオモダカは見逃さなかったが、特に口にするでもなかった。
「試合開始ィ〜!」
両陣営ポケモンを繰り出したのを認めては、審判のムサシが号令を飛ばした。
それと同時に、走り出したのはダイアナのウインディだ。
「ウインディ、しんそく!」
「ムクホーク、ウインディの後に。」
「がるッ!」
「ほぉーッ!」
ウインディの姿が一瞬で消え、ドドゲザンの右側面を突く。
「流石はしんそく…!」
「わんわんはやーい!」
オモダカがダイアナがこの場に立候補するだけの実力者だと認識し、カウンター席でルッカは無邪気にウインディの立ち回りに喜んでいる。
「(それにしてもアオキ…!)」
アオキが気怠げな表情のままでこなすムクホークでの狙いが読めないオモダカではない。
「(ウインディの巨体の影にムクホークを隠して共に接近させ、追撃、或いは二の太刀を浴びせにかかる戦法!)」
それは、オモダカが以前見たアオキの強者としての一面を確信させるに余りあるものであった。
「(やはりあなたは"非凡"だ…!)」
ともあれ、これはダブルバトルである。ダイアナとて、しんそくの1発でドドゲザンを倒せるとは思っていまい。
ノーマルタイプの技は、あく、はがねタイプであるドドゲザンに効果今一つなのだから。むしろ後に続くムクホークからの一撃が相手陣営の本命と言えよう。
数的有利を取りにかかるのは、ダブルバトルにおける定石であるからだ。
「ドドゲザン、ドゲザン攻撃。」
ゴツウ!
「どげざし!」
ドドゲザンがその場に正座し、両手をつくところにウインディの巨体がぶつかり、打撃を与えるも効果は今一つ。
ドゲザンまでのルーティンに狂いはない。狙いは、ウインディの影に隠れたムクホーク。
オモダカには、これまた確信があった。自らが強者と認めた相手への信頼とも言えた。
「ヨルノズク、とっしんでウインディを吹っ飛ばすんだ!」
「ほぉー!」
しんそくでドドゲザンに肉薄したウインディの横っ腹に、ヨルノズクが全身からぶつかりに行けば、その巨体が退かされ、ムクホークが見えた。
ムクホークはムクホークで、攻撃の体勢に入っている。
「ムクホーク、インファイトを。」
「くふぉぉぉぉぉ!!」
手足を存分に使ったラッシュとは違い、闘気を全身に纏っての、ヨルノズクのとっしんのような、全身からぶつかってゆくタイプのインファイト。
「どげざ!!」
そこにドドゲザンは、渾身の土下座で頭の刃を振り下ろした。
ズゴオオオオオオオック!!
「く、ふぅ!!」
「ムクホーク、あなたならやれる。」
飛ぶ斬撃が、ムクホークに正面衝突する。
闘気が飛散しながらもムクホークは体を逸らしてやり過ごた。
「げ!?ざぁ!?」
ドボォ!!
顔を上げたドドゲザンの腹を突き上げるような低空飛行で、ムクホークの突撃が突き刺さる。
「ドドゲザン!」
宙を舞うドドゲザンは、空中で体勢を立て直し、片膝立ちで着地する。
ドゲザンによる飛ぶ斬撃が、インファイトの破壊力を減殺したのだ。
「面倒だな…。」
ニュートラルポジションに飛んで戻るムクホークを横目に見てダメージを確認しながら、アオキは呟く。
あく、はがねタイプであるドドゲザンにとって一番喰らいたくないであろうかくとうタイプの技であるインファイトを、多少の威力減殺があったとはいえ耐えられたのは辛い。
インファイトは、防御面を犠牲にしての特攻まがいの捨て身の技だ。乱用は出来ない…。
「勝負はこれからですよ、アオキ。」
オモダカからしても、ムクホークのインファイトは間違いなく脅威である。
強敵を相手取ったヒリヒリとした感覚が、彼女に好戦的な笑みを浮かべさせていた。
「わんわんいっけ〜!」
「ウインディ、かえんほうしゃ!」
「がぉぉぉぼおおお!!」
ドドゲザンから引き離されたウインディの上を取り、ヨルノズクが飛び回る。
放たれた火炎に対し、涼しい顔をしながら飛行ルートを小刻みに変えて回避している。
「とりさんはやーい!全部避けてる!」
「ほぉー…。」
「(オモダカは完全にアオキを捕まえたな。)」
一瞬、サトシは隣のオモダカに意識を向ける。
ドドゲザンがムクホークからの先攻を待ち構え、ムクホークはカウンターを警戒しての膠着状態は、完全にオモダカとアオキのマッチアップを成立させていた。
それは、ダブルバトルという名目の、同一コートで2つのシングルバトルが行われている状態と言える。
それを狙って、サトシはヨルノズクを回避に専念させていたのだ。
「そろそろこっちもいくぜ、ヨルノズク!」
サトシもまた、ダイアナが想像より場数を踏んでいる実力者であることを把握していた。
ウインディがドドゲザンに狙いを定めてしんそくを仕掛けたのも、ムクホークを影に潜ませるためのブラフであると見抜いていたし、今もこうして地に足をつけての遠距離戦に終始している。
ヨルノズク相手に、下手に飛びかかっての空中戦を挑む愚を悟ってのことであろう。
「流石チャンピオン、一筋縄ではいかないね!」
「ダイアナさんこそ!」
ヨルノズクの動きが止まる。
そこにすかさずウインディのかえんほうしゃが放たれた。
「ヨルノズク、じんつうりきだ!」
「ほぉーッ!」
バチィッ!!
「なんだって!?」
ヨルノズクの双眸が紫色に輝けば、その瞬間、迫る火炎がたちどころに霧散してしまう。
ダイアナとウインディに生まれた一瞬の動揺、それをサトシは見逃さない。
「続けてエアスラッシュ!!」
「ほ、ほ、ほ、ほ、ほぉ!」
シュババババ!
ヨルノズクの羽ばたきが無数の空気の刃を生み、それがウインディに放たれる。
ドドドドドン!
「がるぅぅぅ!」
「ぬぅッ!やっぱりプロは違うもんだ!!」
空気の刃がウインディに着弾し、爆発を起こす。
大きく後退するウインディの体から、エネルギーの球が打ち上げられる。
「攻撃じゃない…?」
「ほぉ…。」
「はじけて、まざれッ!!」
ダイアナが右手を振り上げ、握り拳を作る。
打ち上げられたエネルギー球は、ヨルノズクの程近くで激しい輝きと、熱を放った。
『ダイアナ』
35歳。冒険家。一児の母で、娘の名前はルッカ。
娘が生まれる前までは、何やら古い冒険家の痕跡をたどりあちこち旅をしていたらしい。
相棒のウインディは力強くどこでも走り回るので調査にもバトルにもうってつけさ。