3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 宝食堂のお座敷を改造した可変式バトルコートのこけら落とし。
 名目としてはダブルバトルだが、早々にシングルの形となり、それぞれに標的をロックオン。
 オモダカがアオキと戦えるよう、サトシはダイアナのウインディを引きつけることに成功した。


スカーレットアドベンチャー こけら落としのダブルバトル‼︎②

「ほぉー…!」

 

カァァァァァァッ!

 

 ウインディから放たれたエネルギー球が至近距離でいきなり発光しては、ヨルノズクはたまらず目を瞑ってしまう。

 それは生物学上どうしようもない生理反応といえた。

 しかも、ヨルノズクは夜行性のポケモンであり、強烈な光はなおのこと厳しい。

 

「にほんばれかッ!」

 

「ぴかぴ!」

 

 極めて簡易的かつ極小の擬似太陽を打ち上げたウインディが、ここにきてその強靭な四肢で跳躍を見せる。

 ヨルノズクの動きが硬直するこの瞬間を狙い澄ましてのことだ。

 

「これならどうだい!ウインディ、かえんほうしゃ!!」

 

「わんわん、いっけ〜!!」

 

 にほんばれにより、所謂ひでり状態となったフィールドには、ほのおタイプの技の威力を高める効果がある。

 日差しの力で強化されたかえんほうしゃを、接射する形で浴びせかけようというのがダイアナの作戦であった。

 

「くっ、ヨルノズク、ゴッドバード!!」

 

「ほぉ…!」

 

 技の選択を誤ったな、とダイアナはこの場で一本取り切ったと確信をする。

 流石にこれで倒せるとは思ってはいないが、それなりのダメージは見込めるだろう。そう、考えた。

 

「がううう!ぼあああああ!!」

 

 ひでりのパワーボールを背に、ウインディが強化された火炎を放つ。

 ヨルノズクは視界を取り戻し、素早くエネルギーの充填を始めた。

 

バチチチチチチィィィ!!

 

「な、なんだって!?これは一体!?」

 

 ウインディのかえんほうしゃが、ヨルノズクのチャージするエネルギーの前に阻まれてゆく。

 当然、ヨルノズクにダメージはない。

 

「元祖ゴッドバード・バリア!間に合ってよかったぜ!」

 

「ぴかぴか〜!」

 

 PWCSの開幕戦でサトシのピジョットが見せたゴッドバードのエネルギーを防御に使った応用技である『ゴッドバード・バリア』。これを一番最初に考案、会得したのはこのヨルノズクであった。

 この戦術を編み出し、同じ鳥ポケモンでゴッドバードを扱えるピジョットにも伝えていたのだ。

 それはひとえに、主人であるサトシの為にヨルノズクがその高い知性を発揮した証左でもある。

 

「まっ、不味いね、こりゃあ…!」

 

 ウインディは、まだ空中にいる。自由落下するまでを見逃してくれるサトシだとはとても思えない。

 事実、黄金に輝くエネルギーを纏ったヨルノズクが迫っていた。

 

「いっけぇぇぇぇぇッ!!」

 

「ほぉぉぉーーーッ!!」

 

ドッゴォォォン!!

 

 ゴッドバードの突撃がウインディにヒットし、空中で大きな爆発が起きた。

 

「がるぁ…!」

 

 爆煙の中からフィールドへ、着地を取れず右側面から墜落するウインディの目は、ぐるぐるに回っていた。

 

「あっ、ウインディ戦闘不能!ヨルノズクの勝ちでございま〜す!」

 

「ううむ、これは一本取られたね。」

 

「わんわん負けちゃった〜。でも鳥さん綺麗でカッコイイ〜!」

 

 あちゃあ、と天を仰いで見せるダイアナ。その表情は晴れやかだった。

 出来ることはやり切って通用しなかったなら仕方ない。そう、スッキリ出来ていた。

 ルッカは、母のウインディの敗戦にガッカリしながらも、ヨルノズクのナイスファイトをそれはそれとして喜んでいた。

 

「やったぜヨルノズク!」

 

「ぴっかぁ〜!」

 

「ほぅ。」

 

 ひと仕事終えたヨルノズクは空中を飛び回りながら、もう片方の戦況を覗き見る。

 サトシもピカチュウも、それに倣った。

 

 

 

「くほぉぉぉッ!!」

 

 ドドゲザンのドゲザン攻撃による飛ぶ斬撃が、無数のムクホークの中から正確に本体を射抜く。

 

「どげし!?」

 

 ムクホークも負けじとその正確な狙いから身体を捩らせ、直撃を避けては接近し、ドドゲザンの頭を蹴り上げる。

 一進一退の攻防の中、アオキはモンスターボールを構えた。

 

「もういいでしょう。お疲れ様ですムクホーク。」

 

 無表情なまま、ムクホークをボールに回収する。そこに飢えた獣のような刺す視線と、殺気が飛ぶのも分かっていたことだ。

 

「何故ですアオキ!勝負はまだこれからでしょう!!」

 

 ギラついた瞳は、さらなる死闘を求める。オモダカからすれば大好物を目の前でお預けにされたようなものだ。

 

「これはダブルバトルです。私は相方のダイアナさんが敗れてしまった。会長に加え、ワールドチャンピオンまで同時に相手するのは不可能。ただ徒にポケモンを傷つけるだけと判断しました。」

 

 アオキは、淡々と降参の理由を話してゆく。

 

「むぅ…。」

 

 ダブルバトルという性質に加え、ポケモン愛護という観点から話をされては、オモダカとしても無理押しはできない。アオキの言を正論と受け取り、引き下がるより他なかった。

 

「審判、そういうわけで、コールを。」

 

「はいッ!ムクホークは降参したので、こけら落としバトルはサトシ&オモダカコンビの勝利としまーす!」

 

パチパチパチパチ…ヒューヒュー!

 

 いつの間にやら店内には客や、バトルの噂を聞きつけてやってきていた野次馬が溢れかえっており、決着となれば拍手喝采を送る。

 それを見る女将は、バトルコートのこけら落としは上々と大きく頷いていた。

 

 

 

「オモダカ、機嫌直せよ?」

 

「別に不機嫌ではありません。」

 

 ダブルバトルが終わり、女将がこけら落としにいいバトルを見せてくれたので気前よく料金をタダにしてくれたのは、オモダカの消化不良を帳消しにはしきれなかった。

 

『大会前の約束は、これで完了ということで。』

 

 アオキはと言うと、この一言をオモダカに告げ、皆に一礼してそそくさと立ち去ってしまった。

 話を聞けば西2番エリア方面に用があるらしく、サトシたちの進行ルートを逆走する形になる為、引き止めようもなかった。

 

『いい経験させてくれてありがとうねぇ。末代まで自慢にさせてもらうよ!』

 

『じゃあね!』

 

 ダイアナとルッカの母娘も、店を出てからは空飛ぶタクシーで帰路についた。

 残されたサトシとオモダカは、出発前にポケモンセンターに立ち寄り、ポケモンたちの健康チェックを依頼して今に至る。

 

「サトシさん、オモダカさん。お預かりしたポケモンたちの健康チェック、終わりましたよ。」

 

 憮然としたままのオモダカにどうしたらいいかサトシが思案する中、ジョーイが声を掛けてくる。

 

「ぴかぴ!」

 

「おかえりピカチュウ。あ、そうだ!」

 

 帰ってきたピカチュウを受け止めて肩に迎えるサトシは、ポケモンセンターに備え付けのパソコンから国際通話を試みた。

 

「もしもし、こちらオーキド研究所です。あ、サトシか!」

 

「ようケンジ。博士は?」

 

 通話先はマサラタウンのオーキド研究所。通話に出たのは助手のケンジであった。

 

「裏山のところまで行ってるからちょっと時間かかるかな。どうしても博士じゃあないと駄目な用事なら伝えるけど?」

 

「いや、大丈夫。連れて行きたいやつがいるってだけだからさ。」

 

「OK。すぐ用意するよ。」

 

「サンキュー。」

 

 互いに気心の知れた仲で、似たようなやり取りもこの3年間で幾度となくしてきたのもあり、ケンジの手際も慣れたものだ。

 ほんの数分ほどでサトシの手元に1個のモンスターボールが転送された。

 

「博士によろしく言っといてよ、ケンジ。」

 

「了解。新しいポケモンゲットしたら、観察させてくれよな。」

 

 ボールを受け取れば、通話を切る。

 野暮用の終わりを待っていてくれたオモダカの表情には、未だ不完全燃焼なものがチラついているのを見て取れた。

 

「お待たせオモダカ。ほらっ!」

 

 サトシは手に持ったボールを軽く放る。中から出てきたのは…。

 

「もぉ〜!」

 

「これは…!」

 

 ケンタロスだ。太ももを少し覆うように焦茶色の体毛が生え、それ以外の体毛は明るい茶色。

 オモダカの見慣れたパルデアの姿とは違う、全国的には、むしろこちらの方がポピュラーな個体と言えよう。

 

「西2番道路でパルデアのケンタロスを見た時さ。研究所に預けてたこいつらのこと思い出しちゃってさ。」

 

「こいつら?」

 

「あぁ。30体いる。」

 

 気性の荒いあばれうしポケモンを30体もゲットしている、と言うのは、オモダカからすればむしろ流石サトシ…と唸る話であった。

 実際のところは3年前、カントー地方のサファリゾーンにて、最初の1体以外はサトシがボールを投げ込んだところに悉く群れが横切っていき、30体の群れ全てをゲットしてしまった…という顛末であるが。

 

「せっかくだから研究所にいる仲間に頼んで、1番足が速いやつを送って来てもらったんだ。」

 

 そう言いながら、サトシはケンタロスの背に乗り、オモダカに顔を動かしながら促した。乗れよ、と。

 

「ん…。」

 

 オモダカは頷き、続けてケンタロスの背に乗った。原種、リージョンに関わらず、初めての体験である。

 

「しっかり捕まってろよオモダカ。こいつ、すげー速いからな。」

 

「は、はい。」

 

 間近で見るサトシの背中が、とてつもなく大きく感じる。

 半袖から出している腕周りも、その無邪気さとは裏腹にそこらのかくとうポケモン顔負けな鍛えられ方をしているのがオモダカには分かった。

 後ろから手を回せば、大きな背中からの無限の安心感が、彼女の憮然としていた心を解していた。

 

「よーし、頼むぜケンタロス!」

 

「もぉーーーッ!」

 

 チャンプルタウンの町外れ。プルピケ山道へ続く道を、ケンタロスは爆走し始めた。

 

ドドドドドド…!!

 

「ヒャッホー!」

 

「ぴーっかちゅう!」

 

 彼方に見える氷山、ナッペ山の景色も、瞬く間に突入した山道の暗い道が塗り替えてゆく。

 

「お、おおッ…!」

 

 申告通り、いや、それ以上の大爆走は、最初こそオモダカのド肝を抜いたが、すぐに慣れていった。

 元より臆病でもない彼女の性質以上に、サトシのポケモン…なによりサトシへの信頼が、オモダカの中から安全面への不安を消し去ったのだ。

 

「もぉ〜!!」

 

ババッ!!

 

「やみぁ!」

 

「ごめんよ!」

 

 山道でたむろするくらやみポケモンヤミラミの群れ、その頭上をケンタロスが勢いよく飛び越えてゆく。

 ほどなく視界が一気に開かれ、ケンタロスはプルピケ山道を突破した。

 

「オモダカ、このまま道なりに進んでいけばいいんだよな?」

 

「はい!もう少ししたらピケタウンに到着します。」

 

 チャンプルタウンを出発したのが午後13時頃で、プルピケ山道をケンタロスが駆け抜けた現在は、14時を回る辺りである。

 

「そっか。ケンタロス、もうちょっとで休憩にするからな!」

 

「もぉ〜!!」

 

ドドドドドド…!!

 

 サトシに頷き、ケンタロスはさらに加速してみせる。

 

「アハハ!まだ最高速じゃなかったなんて!」

 

「振り落とされるなよオモダカ!」

 

「ぴ〜!」

 

 ギュ、と遠慮なくサトシの背にしがみ付くオモダカ。不完全燃焼に終わったダブルバトルへの不満はもう消え去っている。

 一陣の風となったケンタロスは、2人を乗せたままほどなくピケタウンに到着したのだった…。

 

 

 




 宝食堂こけら落とし サトシ&オモダカvsダイアナ&アオキ

 ダブルバトル

 サトシ&オモダカ     ダイアナ&アオキ
 ヨルノズク○       ウインディ●
 ドドゲザン        ムクホーク(降参)

 勝者 サトシ&オモダカ
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