3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 お食事処でのダブルバトルは、どこか尻切れとんぼのような決着に終わった。
 アオキと思いっきり戦い切れなかったオモダカだったが、サトシが見せてくれたケンタロスのパワフルな走りで風を感じているうちに抱くイライラは消えてなくなっていた。


スカーレットアドベンチャー ハッコウシティ到着、彼方に不穏な空気

「あのすげー眩しいところだな?」

 

「はい!あの光を目指せば到着です!」

 

「ぴかぴか〜!」

 

 ピケタウンに到着したサトシとオモダカは、そこを休憩地とし、ケンタロスの体調をチェック。異常なしとジョーイからお墨付きを貰えば、そのまま再度出発した。

 東3番エリアを駆け抜け、ネオンの眩しいビル街を目前にしていた。

 

「よーし、到着!ありがとうなケンタロス!」

 

「ぴかぴか。」

 

「もぉー!」

 

 街の入り口まで辿り着けば、サトシはケンタロスの背から降り、彼の頭を撫でて労う。

 足元のピカチュウも、サトシに倣えばケンタロスは、得意げな笑顔を見せた。

 

「まさかこんなに早くハッコウシティまで来れてしまうとは。」

 

 オモダカが時間を確認すれば、ちょうど18時を回る頃。

 寄り道することなく駆け抜けたにしても、サトシのケンタロスの健脚あってのことであるのは明白だった。

 

「ありがとうございます、ケンタロス。流石はサトシのポケモン、ですね。」

 

「んむぉ〜!」

 

「うわわ!」

 

 オモダカもケンタロスを労えばすっかり有頂天になり、両前脚を振り上げて喜んでいる。

 

「分かった分かった!ゆっくり休んでくれケンタロス。」

 

 今にもまた爆走し始めそうなほどにテンションの舞い上がったケンタロスを、サトシは慌ててボールに戻した。

 

「流石にこんな大きな街でこいつが走り回ったら、不味いもんな。」

 

「それはまぁ、そうですね。」

 

 サトシが聳え立つビル街を見上げる。

 ハッコウシティ。元々は北の鉱山から採れた資源を船で運ぶための港町であり、それが時代と共に開発が進み、今や流行の最先端たる若者向けの街へと発展を遂げたパルデア有数の大都市である。

 

「今日はこの街で宿泊して、明日また出発しましょう。」

 

「オッケー。」

 

「ぴかぴ。」

 

「分かってるよ、ピカチュウ。」

 

 オモダカに頷くサトシは、ピカチュウに渋い顔をして見せる。

 また寝過ごしてしまっては、オモダカに対して先輩トレーナーとして形無しもいいところである。当のオモダカは、全く気にしていないのだが。

 

「やだぁ!やだぁー!」

 

「わがまま言わないの!」

 

「ん?なんだ?」

 

 ふと子供の泣き声がして、それを母親が嗜めている。何事かとサトシが振り向いた先の光景。

 女の子が、黄色い球形に、長い尾を持つポケモンを抱き締めながら座り込んでいた。

 

「あのポケモン。初めて見るな。」

 

 サトシは思わずポケモン図鑑のアプリを開き、情報を確認する。

 

『ズピカ。でんきおたまポケモン。尻尾を振って発電する。危険を感じると頭を点滅させて仲間に伝える。』

 

「どう見ても5、6歳くらいですね。」

 

 オモダカも状況を把握する。

 トレーナー適齢期未満の子供が野生のポケモンと意気投合し、離れ離れになるのを嫌がって親を困らせる…よくある話であった。

 

「サトシ?」

 

 サトシが女の子に歩み寄ってゆくのを、オモダカはキョトンと見つめる。

 何をするつもりだろうか?見守るしかできない。

 

「ねぇきみ。可愛いポケモンだね。きみのお友達?」

 

「おにーちゃん、だあれ?」

 

「俺、サトシ。こいつは相棒のピカチュウ。」

 

「ぴかぴかちゅう〜。」

 

 駄々をこねていた女の子は、突然話しかけて来たサトシに泣きじゃくるのがつい止まる。

 ピカチュウ渾身の可愛さを突き詰めた声色は、女の子の警戒心を一瞬で解いてしまった。

 

「え?サトシって…。」

 

「"マサラタウンのサトシ"…ですよ。」

 

 母親もパルデアの外に多少はアンテナを張っていたようで、サトシの名前一つですぐに情報を結びつけたのをオモダカが歩み寄り、肯定する。

 オモダカは、サトシならなんとか場を納めてくれるのだろうと信用し、母親とともに一旦距離を置くことにした。

 

「うん!ボクのお友達!ズピカってゆーの!」

 

「ぴぃ〜。」

 

 女の子が、抱き締めていたズピカをサトシに自慢げに見せる。

 ズピカも女の子の腕の中で決して悪い顔はしていない。

 

「そっか。俺とピカチュウと、おんなじだね。」

 

「おにーちゃんも、ピカチュウとずっと一緒?」

 

「あぁ、そうさ!」

 

 トレーナーになってから、と言う意味では間違いはない。

 サトシにも、女の子と同じような年齢の時に、仲良くなった野生のポケモンを家に連れ込んで母親のハナコを困らせた過去があった。それも、一度や二度ではない。

 自然により近いマサラタウンにおいて、野生のポケモンが町中を彷徨くのは当たり前のことであった。

 よくある話…それは、サトシにとっても当事者の経験であったのだ。

 

「あの…ウチの娘がなにか?」

 

「パパ!」

 

 地面に座り込んで女の子と視線を合わせながら会話しているサトシに、サラリーマンの男が話しかけては、女の子がズピカを抱えながら駆け寄った。

 

「パパ!ボク、この子ゲットする!」

 

「ずぴ〜ん。」

 

「ズピカかぁ。ママはなんて…あぁ。」

 

 女の子にせがまれた父親は、母親と顔を合わせる。

 その表情が難色を示しているのが分かるのは、夫婦故の阿吽の呼吸がしっかりとあるからだろう。

 

「お父さん、なんとかしてあげられませんか?娘さんもズピカも、お互い凄く仲良くなってるし…。」

 

「ぴかぴか…。」

 

 立ち上がりながら話を切り出すサトシの言に、会社帰りの自分を待っていた娘が仲良くなったこのズピカを飼いたいと母親にねだり、駄目と言われてゴネているところを見かねて間に入ったのだろう…と父親もこの場の事情を概ね察した。

 

「ズピカかぁ…。」

 

 父親は再度呟き、顎に指をやりながら、じっとズピカを見る。

 娘もあと5年もすれば、ポケモンを手にしてトレーナーデビューし、自分たち親の元から離れていくのだろう。

 それは、女の子が産まれたその日から、受け止める覚悟はして来た。女の子の成長に良い影響を与えるならば、ポケモンを家庭に迎えるのも悪くないとは思っている。

 

「お父さん、お母さん。その子の食事…消費電力的に考えるなら、このモバイルバッテリーを用意しておけば1回で3食分賄えるかと。」

 

 オモダカが、スマホロトムで検索をかけた結果を夫妻に見せる。

 通販サイトの画面に映るモバイルバッテリーは、最新式ながらリーズナブルで、そこまで家計を圧迫するでもない代物であった。

 

「これくらいなら、いいんじゃあないか?」

 

「えぇ…そうね。」

 

 でんきポケモンを家に迎えることにおいて、際限なく家の電気を補充してしまうことによる家計の圧迫、それがまず1番に上がる不安要素であった。

 そんな母親が難色を示していた問題を鮮やかにクリアするオモダカに、サトシはサムズアップを送れば、オモダカも同じく返して見せた。

 そうしてからサトシは、片膝立ちで改めて女の子と視線を合わせる。

 

「ちゃんとズピカのこと、お世話できるかい?」

 

「うん!ボク、ちゃんとズピカのこと、お世話する!」

 

「ずぴ!」

 

「ぴっかちゅう!」

 

 これで、話はまとまった。

 父親が、空きのモンスターボールを取り出し、ズピカに向ける。女の子の視線に気付けば微笑みながら片膝を地面に突き、一緒にボールに触れられるように姿勢を下げた。

 

「これからよろしくね。娘と仲良くしてやっておくれ。」

 

「ずぴ〜!」

 

 父親にズピカが頷けば、自らボールの開閉スイッチに触れ、中に収まってゆく。すぐにゲット完了となり、振動も止まる。

 女の子が10歳となった段階でゲットしたボールを父親が譲り渡し、名義を切り替えれば、晴れてズピカは女の子のポケモンとなる。

 『キープポケモン制度』…略してキープ制度の恩恵を受けることが出来るのだ。

 

「ありがとうございました。あなた方がいてくれなかったら、我々は娘の希望を、成長のチャンスを無碍にしてしまっていたかもしれません。」

 

「流石ワールドチャンピオンですわ。」

 

「面倒を見るのに必要なことを調べてくれたのはオモダカですよ。」

 

 家族3人に深く頭を下げられては、サトシはそれを制する。大したことをしたつもりはないのだ。

 女の子が、サトシの前に出る。

 

「おにーちゃん!ボクね、大きくなったら、ズピカとポケチューバーになるんだ!」

 

「ポケチューバー?」

 

「動画投稿者、ってことです。」

 

「あぁ。」

 

 地図やポケモン図鑑のアプリを開くくらいにしかスマホロトムを使わないサトシには馴染みのない言葉に、オモダカが耳打ちして補足する。

 

「ヒカリンTVみたいにたくさんの人たちを笑顔にするの!」

 

「ずぴ〜!」

 

「そっか。凄いな〜…あ、えっと…。」

 

 ここに来てサトシは、このズピカを抱える薄紫と水色のツートンカラーな髪色をした女の子の名前すら聞いてなかったことに気付いた。

 バツが悪そうに頭をかくサトシを前に、女の子は母親と顔を見合わせ、頷いた。

 

「ボク、ナンジャモ!覚えといてねチャンピオンさん!チャンネル作ったら、コラボオファーするんだから!!」

 

 ギザギザな真っ白い歯を見せながら、エヘヘと笑みを浮かべる女の子の名前は…ナンジャモ。

 これより25年近くののち、『エレキトリカル☆ストリーマー』という異名で知られる、この街のジムリーダーの幼き日の姿である。

 

 

 

 サトシとオモダカがハッコウシティに到着したのと同じ頃、場所は西1番エリア。

 西パルデア海沿いの風力発電機が立ち並ぶ中、黒ずくめの怪しい連中が何人もポケモンと共に倒れている。

 黄色い紋様が描かれた祠を中心に、対峙する片方はオレンジアカデミーのグズマだ。

 

「ぶっ壊せグソクムシャ!アクアブレイク!!」

 

「むしあああ!!」 

 

ズガァァァン!!

 

 みずのテラスタルジュエルを頭に生やしたテラスタル状態のグソクムシャが全身を叩き付け、とらねこポケモンブニャットに競り勝った。

 沈黙のブニャットは、完全に目を回している。

 

「あーあ、負けちゃったかー。」

 

 大柄なグズマに対して全身黒ずくめかつ、目元を通信機付きのサングラスで覆った小柄な緑髪の少年は、両手を頭の後ろに回しながら飄々としていた。

 

「N様…たった今、最後の"杭"を…抜きました…。」

 

「そうかい。ご苦労様。」

 

 通信機からの報告にも軽い調子で答えてから、少年はスタスタと黄色い紋様へ近づいてゆく。

 

「おい!何をする気だ!?」

 

 グズマの怒鳴り声に、少年は見下した笑みを向けた。

 

「2軍とはいえ、一応この僕のポケモン相手に勝ち抜いたんだし、教えてあげてもいいかな?」

 

「おい!祠に触れるな!!」

 

 グズマに見下した笑みを向けながら、少年は黄色い紋様に触れる。

 今しがた倒した少年のポケモンが2軍云々以上に問題なのは、彼が祠に手を伸ばしたことにあった。

 

ゴゴゴゴゴ…!

 

 少年が触れた紋様が、あっさりと崩れてゆく。

 

「な…ま、まさかてめェら!"杭"を全部!!」

 

「アハハハハ!そうさ!きみがお遊び感覚、時間稼ぎに徹していたこの僕を相手に、必死こいて戦ってた間にねぇ!!」

 

 黄色い紋様が崩れ落ちる。

 そこは、祠。封じ込められていたのは、『災厄たる氷剣』…。

 

「何が目的だ!"さいやくポケモン"の封印を解きやがって!!」

 

「目的?そんなの決まってるじゃあないか!僕らは"ポケモンハンターズギルド"!!ポケモンハンターの生業は、ポケモンを捕らえて高く売り捌くこと!!」

 

 封印の解かれた祠の中からドス黒い殺気が、周囲に撒き散らされてゆく。

 

「キルゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 殺気の主が、咆哮した。

 その圧力を前に、グズマたちのいた場所が土砂崩れを起こす。

 

「ぐぉぉぉッ!!」

 

 崩れる足場にバランスを失い、とっさにグソクムシャをボールに戻す。

 グズマは自分を守らせるより、ボールの中でポケモンの安全を確保することを選んだ。

 

「なにをやってるんだ、グズマァァァ…!!」

 

 崩落に巻き込まれながらグズマは見た。祠の中から姿を現す、純白たる影を。

 グズマは絶叫するしなかった。むざむざとわざわいポケモンの封印を解かせてしまった自分の不甲斐なさに。

 

「うっわ、流石は封印されていたポケモン…!」

 

 少年は、土砂崩れに際して背中に背負ったバックパックのバーニア噴射ギミックにより空中を浮遊し、難を逃れていた。

 

「とんだ邪魔を入れられたお礼はいずれするとして…。」

 

 崩落してゆく中に消えたであろうグズマの姿は、眼下には捉えられない。

 少年は、見下した笑みを崩さずに踵を返す。

 

「今は封印を解いたところで引くしかないか。でも次で必ず捕まえてみせるさ、さいやくポケモン…パオジアン!」

 

 バックパックのバーニアを手元のリモコンで操作し、その場を後にする。

 グズマに手持ちのポケモンを壊滅させられた以上、ターゲットを捕獲するには撤退するより他になかった。

 

「このポケモンハンターN様がね!」

 

 不遜な笑みを崩さぬ銀髪の少年…ポケモンハンターNが飛び去る先には、巨大な飛行艇が待機していた。

 

 

 




 『ポケモンキープ制度』
 トレーナー免許取得前の児童が親交を深めたポケモンを将来的にゲットし、より円滑な現役生活を始められるようにと施行された。
 3年前、当時7歳であったユリーカは兄シトロンの名義で仲良くなったデデンネをゲットしてもらい、デビューと同時に譲渡されパートナーとして迎えている。
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