3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
一方その頃、遠く離れた地では"災厄"の一角が目を覚ましていた…。
パルデア地方を訪れて2度目の朝。
サトシは、先輩トレーナーとしてしっかり起きてくることは…出来なかった。
「おはようございます、サトシ。」
「あー、あー…。うん。ごめん、待たせて。」
ハッコウシティのビジネスホテルで一泊しては、チャンプルタウンの時同様チェックアウトギリギリにロビーまで降りてくる有様で、完全にオモダカを待たせてしまった。
「ぴかぴ…。」
「構いませんよ。」
バツが悪いと頭をかくしかないサトシに、オモダカは笑みを崩さない。
オモダカはオモダカで、1人の時間を生徒会長として学校から送られて来る報告のチェックや、提出する課題を進める時間に充て込んでいた。
「今日の食事は、ピクニックをしながらでどうです?」
「いいね!楽しそう!」
「ぴかぴっか!」
チェックアウトを済ませた2人が食材店を回り、ハッコウシティを後にしたのは正午を回る頃。
東2番エリアの天気は…快晴。
絶好のピクニック日和であった。
「おっ?あれは。」
その頭部は丸みを帯びており、嘴の下から両目方向にかけてあるブーメラン型の黄色い模様以外は黒色の羽毛で覆われている小さな鳥ポケモンを見かけては、サトシはポケモン図鑑アプリを開く。
『カイデン。うみつばめポケモン。翼の骨は、風を受けると電気を作る。海に飛び込み、獲物を感電させて捕らえる。』
「カイデンっていうのか。あっちにいるのはコイルだな。」
「ハッコウシティの近くには、元気なでんきポケモンが多く生息しているんですよ。」
「いっぱい電気を使ってる街だもんな。」
「ぴかぴか。」
もうすでに遠くまで歩いたにも関わらず、まだまだその姿を主張し続けるビル街を振り向いて見てから、歩みを進める。
東2番エリアの境目、川に建てられた橋を渡り、東1番エリアに辿り着き、東パルデア海を一望できる角度の丘の側…そこが、腹の虫の限界であった。
グウウ〜。
「あ〜、鳴っちゃった。」
「ぴかぴ〜。」
「遅めの昼食にはちょうどいい時間、ちょうどいいスポットかと。」
時間は15時の10分前ほど。どちらかといえば、間食の時間と言える頃合いであった。
「よーし、みんな出てこい!」
道路から外れ、ちょうど巨大樹木のお膝元をピクニック地としては、サトシは手持ちのポケモンたちをボールから全て出す。
「ぴかぁ!」
ピカチュウの号令に頷き、集うのはキングラー、ケンタロス、ヨルノズク…それにミジュマルの5体が集結し、あまり離れないようにと訓示を受けていた。
「みじゅま!?みじゅま〜!」
サトシに合わせ、オモダカもボールから出したキラフロル、ドドゲザン、ゴーゴート、クレベース、ヒラヒナ、ドロンチの6体のうち、ミジュマルがドレスのヒラヒラを思わせる黄色い布を被った妖精のような、フリルポケモンヒラヒナを見かけては、目をハートにしながら猛烈なアプローチを開始する。
「ひなぷん。」
「みじゅま〜…。」
結果は、惨敗。
ミジュマルのアプローチは、ヒラヒナにスルーされてしまった。
「元気出せよミジュマル。で、あのポケモンは、と。」
ナンパに失敗し、真っ白に燃え尽きたミジュマルの頭を撫でてやりながら、サトシはヒラヒナをポケモン図鑑で調べていた。
『ヒラヒナ。フリルポケモン。お腹のヒラヒラから放射するサイコパワーでわずか 1センチだけつま先が地面から浮いている。』
「この子は、大会では見なかったな。」
「まだ育成途中でしたから。PWTにも出すつもりでしたが、何しろ想定よりはるかにレベルが高いものでしたので。」
「なるほどね。」
話しながらオモダカは、折り畳みのテーブルをドカッと置いてクロスを敷けばその上に皿を並べ、カロスパン(こちらの世界で言うフランスパンに相当する)や、食材店で手当たり次第に調達した食材を置いていく。
「それではこれより、ピクニックの肝、サンドウィッチ作りを始めましょう。」
「おっ、待ってました!」
「ぴっかぴっか〜!」
サンドウィッチ作りの時間、となればポケモンたちのテンションもアップ。
各々鳴き声を上げながら囃し立てる。早い話が、みんなお腹はペコペコなのだ。
「早速、サンドウィッチ作りに入るのですが、そのコツは…。」
「そのコツは…?」
「ぴかか…?」
今までにない神妙な面持ちのオモダカに、サトシもピカチュウもゴクリと息を呑む。
「とにかく好きなものをトッピングすること!!」
「おっしゃ〜!!」
つまりは、好きに作れ、と言うことであった。
サトシとオモダカは、それぞれに食材をチョイスし、トッピングを開始した。
「よし。我ながら誤差も狂いもないピックの角度。キラフロル、みんなを呼んできてください。」
「ふろし。」
オモダカは、流石にアカデミーの学生としてサンドウィッチ作りも手慣れたものであった。
マヨネーズとケチャップの黄金配合をソースとしてカロスパンに振りかけ、レタスを下地に敷き、焼きベーコン、トマトスライスをバランス良く積み重ね、上からさらにレタスを被せるように置き、調和を取る形で上半分のカロスパンを重ね、シルバーピックでパンと具材を繋ぎ止めた。
パルデア出身者ならではのサンドウィッチテクニックと言えよう。
「よーし、あと少し、あと少し…。」
一方サトシのサンドウィッチ作りはというと、オモダカの側とはまるで違う物々しい雰囲気を漂わせていた。
ピカチュウが激推しするケチャップを調味料としてふんだんに使い、ハンバーグ、きりみフライにスライスエッグ、トルティーヤをひたすらタワー状に重ねていた。
「ぴ、ぴかぴ…。」
「大丈夫だってピカチュウ。まぁー見てろって。」
「ごき!ごき!」
「もぉ〜!!」
「ほぉー…!」
積み上げられた具材のバランスが明らかに悪過ぎる。
サトシの無茶な調理に、サトシのポケモンたちがそれぞれ警鐘を鳴らしていた。
「みじゅ!みじゅま!!」
「ぴぃか…。」
ミジュマルから『なんとかしてくれよリーダー!』と言うような訴えがピカチュウにされるが、ピカチュウにしても『なんとかできるならとうの昔にやっている』と言うのが実情であった。
首を横に振る彼を見て、ミジュマルは天を仰ぐ。
「今だ〜!!」
どう一瞬のポイントを見抜いたのか、サトシが詰めのパンを被せにかかる。
それはまさに、乾坤一擲…。
どっぱぁぁぁぁぁ!
「うわぁ〜〜〜!!」
大勝負は、サトシの惨敗に終わった。それは、ピカチュウたちからすれば分かりきっていたことであった。
「ぴっ!」
「ごきッ。」
「もぉ。」
「ほぉ!?」
「みじゅまぁ〜!!」
勢いよく被せられたパンにより、バランスを崩した具材たちが飛び散り、ハンバーグ、またはトルティーヤがサトシと、事態を注視し、警鐘を鳴らしていたサトシのポケモンたちの額にそれぞれ着弾する。
「熱ぅ〜ッ!?」
トッピング前にポータブルの電子レンジによって加熱されていた具材により広がる大惨事を前に、サンドウィッチ?に突き刺されたピカチュウがデザイン元のピカピカピックは、変わることのない笑顔で愛想を振りまいていた…。
「まぁ、初めての頃は私も似たようなことしましたし、そう気を落とさないでください、サトシ。」
「うーん…。」
具材が飛散し、悲惨な結果に終わったサトシのサンドウィッチ作り。
それでも買い込んだ具材やパンが一流の素材であるのは間違いなく、腹を満たすことは出来た。
それだけが、救いと言えた。
「次は上手く作ってやるぜ。」
「ぴーか…。」
サンドウィッチにリベンジを誓うサトシを、ピカチュウはジト目で見る。
最も付き合いの長い彼は、サトシの思い描くリベンジに見込みがないことを感じ取っていた。
「ぴかぴ。」
ピカチュウが、サトシに呼び掛ける。
「ん、ホントだ。」
「サトシ…?」
ピカチュウに、サトシが頷いた。
主語も述語もあったものではないやり取りに、オモダカは首を傾げている。
「出てきなよ。俺たちに用があるんだろ。」
「ぴぃ〜かちゅう。」
足を止め、草むらの中にサトシは声を掛ける。
ガサリ、一瞬草むらが揺れてから…。
ババッ!
黒い影が飛び出した。
意思を向けてきていた波導の主は、顔、背中、脚は灰色。触角、鼻、腹、脚の上部と爪は白色のツートンカラーで、頭部にある角が丸い十字のような形をした黄色い複眼が、サトシとピカチュウを捉えていた。
「キミは?」
「マメバッタですね。」
「マメバッタ?」
オモダカから聞いた名前を、サトシはポケモン図鑑アプリで調べる。
『マメバッタ。バッタポケモン。第3の脚が畳まれている。ピンチになると10メートル以上ジャンプする脚力を持つ。』
「めば!ぱったったぁ!」
マメバッタは、しきりにその場で小さなジャンプを繰り返してサトシを煽る。
それは、紛れもなく『挑戦』であった。
「バトルしたいんだな。」
「相当に好戦的な性格のようですね。」
「マメバッタって、みんなこうじゃないの?」
オモダカを見るサトシ。
オモダカは、頷いて返す。
「本来マメバッタは、この先のボウルタウンをさらに過ぎた先、南3番エリアに生息してるポケモンなんです。それが、こんな遠出をするとは。」
「外敵に住処を追われたとかはないのか?」
「なきにしもあらず、ですが…。」
「めぁーば!めぁーば!」
話し込む2人に、マメバッタがジャンプしながら何かを捲し立てていた。
さながら、『いつまで喋っているんだ!勝負するのかしないのか!』と催促しているようだった。
「あれだけ元気ならそれもなさそうですね。」
「だな。よーし!」
好きで住処を飛び出し、バトル相手を求めてやってきたマメバッタ。ポケモンと人間の差異はあれどやってることはお互い変わらない。
ホルダーからボールを手に取るサトシは、マメバッタの視線に気付いた。
マメバッタは、サトシではなく、ピカチュウをジッと見ている…。
「ピカチュウと戦いたいのか?」
「めぁーば!」
サトシの問いに、マメバッタは飛び跳ねる。
それは、肯定の反応に見えた。
「そうか。」
ピカチュウは、サトシのポケモンたちの中で最大のエースだ。
そこに真っ直ぐ勝負を仕掛けに来るマメバッタのチャレンジャー精神は、無茶と制止するより先にサトシの好奇心をくすぐった。
一体こいつは、どんなバトルをするのだろう…?
「よし…ピカチュウ!キミに決めた!」
「ぴっかぁ!」
サトシがマメバッタを指差せば、ピカチュウが肩の上から飛び降り、地面に着地する。
「めぁーばぁぁぁ!!」
「速い!」
「であいがしらか!」
マメバッタは、ピカチュウの着地の瞬間を狙って跳躍。一気呵成に襲いかかった。
オモダカは、マメバッタの思いがけないレベルの高さに驚いていた。
「ピカチュウ、肉を切らせて骨を断つ作戦だ!」
「ぴぃか!」
上を取られたピカチュウは、動かない。
着地からすぐに放電し、マメバッタを蹴散らしにかかるのは容易だが、サトシは一旦受けに回る姿勢を示した。
肉を切らせて骨を断つ…ピカチュウの特性せいでんきにより、殴りかかってきた相手の素早さを殺し、確実に速さで圧倒するための算段だ。
「なんという…!」
ピカチュウは元来、耐久力の高い種族ではない。
同じ状況だとして、自分なら間違いなくでんき技で近づく前に相手を撃ち落とすことを考えるだろう。
あえて足を止めて戦う選択肢を取るサトシとピカチュウに、オモダカは、長年の鍛錬による高いレベルに裏打ちされたタフさとピカチュウ自身の根性、何より厚い信頼関係を垣間見ていた。
『サトシの寝坊癖』
ワールドチャンピオンサトシの弱点として知り合いから挙げられるのは朝に弱いことだ。
1日10時間は睡眠を取らないと集中力が保てなくなるらしく、デビューの日の朝も大遅刻をかまして初心者ポケモンを選べなかったと言う逸話がある(諸説あり)。