3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
サンドウィッチタワー作りに失敗したサトシにバトルを挑んできたのは、野生のマメバッタであった…。
「めぁぁぁばったぁぁぁ!!」
「ぴっかぁ!」
ドッゴォォォ!
マメバッタの全身を使った突撃をピカチュウは、いわゆるダブルバイセップス・フロントの体勢で受け止めた。
ズザザザザ…!
ピカチュウが、マメバッタの勢いに押されて後退させられる。
「ぴっかぁ!」
サトシの足元ギリギリで踏みとどまったピカチュウは、気合いを発してマメバッタを弾き飛ばす。
ダメージは決してゼロではない。だが、そのレベルの差から、十分に耐えられる範囲内であった。
「めぇば…ばったッ!?」
バチチチチチッ!
弾き飛ばされ、距離を空けられたマメバッタの体中に電気が走る。
サトシの狙い通り、ピカチュウの特性せいでんきによりまひ状態になったのだ。
「ばぁぁぁぁッ、たぁぁぁぁぁ!」
「なにッ!?」
「跳んだ!!」
まんまと術中にハマり、まひの状態異常をもらったマメバッタ。だが、その闘志は決してぼやけることはない。
折り畳んでいた『第3の脚』を展開し、その脚力でもって跳躍した。
「あいつ…すげぇな!」
太陽を背にしながらの、10m近くの高さから仕掛けてくる急降下突撃のことではない。
であいがしらを受け止めた際にピカチュウがその身で伝えた、レベルの差。
それを受けてなお、マメバッタの折れぬ闘志がサトシの琴線を刺激した。
その溢れんばかりのガッツは、身の程知らずの無謀者、と切り捨てるには、たまらなく惜しく感じた。
「ピカチュウ!でんこうせっかで迎え撃て!」
「ぴっかぁ!」
急降下してくるマメバッタに合わせて、ピカチュウも跳躍する。
正面衝突、退くなどはあり得ない。
「ぴぃかぁぁぁ!」
「ばったぁぁぁ!」
両者が空中でまさに交錯しようという、その時…。
ガシャァァァン!
「ぴかッ!?」
「ばった!?」
ピカチュウとマメバッタは、突如彼方から放たれた檻の中に共に捕えられてしまった。
2体を捉えた檻に括り付けられたロープが自動で巻き戻され、上昇していく先には、ニャースの顔のデザインの気球…。
「あれは!?」
「なんだお前たちは!あっ…。」
オモダカがニャース気球を指差しては、サトシは言い切ってから口元を抑える。
この後の展開が分かり切っていたからである。
「なんだかんだと声がする!」
「地平線の彼方から…。」
「ビッグバンの彼方から!」
「我らを呼んでる声がする」
「お待たせニャー!」
「健気に咲いた悪の華!」
「ハードでスイートな敵役!」
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「ニャースでニャース!」
「ロケット団のあるところ…。」
「世界は!」
「宇宙は!」
「「「君を待っている!」」」
ニャース気球のバスケットから姿を現したのは、サトシの予想通り、ムサシ、コジロウ、ニャースのロケット団である。
芝居がかった口上を、オモダカは困惑気味に聞いているしかできなかった。
「何者なんです?彼らは…。」
「ロケット団。ずっと前から俺のピカチュウを狙ってる悪い奴らさ。」
ロケット団のことをサトシが簡潔にオモダカに説明をする。視線はニャース気球を見上げたままだ。
彼らもまたピカチュウゲットを狙い、チャンプルタウンから飛び出しチャンスを窺っていたのだ。
「ロケット団!ピカチュウを返せ!」
「ジャリボーイ。アンタとあたしたちの付き合いよ?なんて返事するかは分かり切ってるでしょ?」
「やなこったーい!」
相も変わらずのやり取りの中、ニャース気球がこの場を離れてゆく。
「ぴぃぃぃかッ!ちゅううううう!!」
バチバチバチバチバチ!!
檻の中のピカチュウが電撃を放つも、鉄格子はビクともしない。
「おミャーとも長い付き合いだからニャ〜ピカチュウ?電気対策はバッチリさせてもらってるニャ!その檻の対電性能はドサイドン10体分に相当するのニャー!!」
「ぴぃッ!」
ニャースにピカチュウは舌打ちを隠さず、今度は鉄格子を直接捻じ曲げようと両手で2本掴み、力んでゆく。
「あらあら無茶しちゃって〜。」
「電気対策はもちろん、力尽くで壊されないように物理耐久面もバッチリさ!カビゴンの群れにのしかかられたってビクともしないぜ!」
「ぴッ!ぴかッ!ぴかッ!」
電撃も駄目、筋力も駄目、となったピカチュウは、今度は尻尾を硬化させ、鉄格子を打ち据え始めた。アイアンテールである。
「そこら辺もカイリキーのパンチで実証実験してあるから焼け石に水ニャ〜。」
「なんか余計なのもいるけど、一緒に送り届ければいいわよね。」
「そうだな。」
「それじゃあ戻って、本部へ送り届けるために色々準備するわよ。てな訳で。」
「「「帰る!!」」」
ピカチュウとマメバッタを閉じ込めた檻をぶら下げたまま、ニャース気球は高度を取り、視界から離れていく。
それをみすみす見逃がすサトシであるはずはない。
「逃がすもんか!ヨルノズク!キミに決めたッ!」
ボールからヨルノズクを繰り出せば、ヨルノズクもヨルノズクで見上げるニャース気球を前に高い知性から、すぐに事態を呑み込んだ。
「ほほぉー!」
「頼んだぞヨルノズク!!」
ヨルノズクは黄金色の翼をはためかせ、飛翔する。ロケット団を追尾するため空路を発った。
3年前、ジョウト地方にてサトシにゲットされてから幾度となくこなしてきた斥候である。
「ケンタロス!」
「もぉ〜!!」
続けてサトシはケンタロスを出し、その背に乗る。陸路でも追跡する算段だ。
オモダカもすぐに倣っては、背中から手を回し、密着した。
「しっかり捕まってろよオモダカ。」
「もちろんです。」
言われるまでもなかった。事態は一刻を争う…。
先日以上に荒いドライブになるだろうことは明らかだった。
「行ってくれ、ケンタロス!!」
「んもぉぉぉ〜!!」
サトシの指示に、ケンタロスも切迫している状況を察知したのか、すぐに爆走を開始した。
オモダカの予測通り、初めて乗せてもらった時とは別次元の速さである。
「サトシは、いつもあの連中に狙われてるのですか?」
「俺というか、ピカチュウだな。」
激しく揺れるケンタロスの背で、サトシはロケット団との付き合いもかれこれ今年で4年目になるなと懐古する。
『なんだか、頭に来たぞ!』
『何が来ようと!』
『怖くない。』
『ニャーも、ネコにこばん!』
時を遡れば3年前…マサラタウンから旅立ち、隣町のトキワシティへ辿り着けば、立ち寄ったポケモンセンターに現れたロケット団とのいざこざが、この腐れ縁の始まりであった。
これは、あいつらにとってもそうであるはずだ。
「チャンピオンともなると、ああいった障害もあるのですね。」
「俺の場合はあいつらが変な奴らってだけだよ。あと、すげぇしつこい。」
程なく視界に人里が映る。ボウルタウンだ。
「待ってろよピカチュウ、必ず助けに行くからな。」
風を全身で受けながらサトシは、ポツリ呟いた。
「ぴか!ぴか!ぴかぁ!」
ガン!ガン!ガン!
「もぉ〜相変わらず諦め悪いわね〜。」
「だからこそワールドチャンピオン様のエースポケモン、だろ?」
空中で揺られる檻の中、ピカチュウは依然としてアイアンテールで何度も鉄格子を打ち付けている。
が、結果としては依然ビクともしていない。
ムサシとコジロウがのんびり話し込む中、ニャースは妄想に耽っていた。
「ニャーたちが送り届けたピカチュウの力で、ロケット団の世界征服の野望が大きく前進するんだニャ。」
表情筋の緩みきったにへら面でニャースは続ける。
「ロケット団最強の手駒として活躍するピカチュウを見てボスはこう言うんだニャ。」
ニャースの脳内では、ロケット団の装束に身を包んだピカチュウが暴れ回る姿をモニター越しに見ているサカキが、何度もうんうんと満足げに頷いてから、こう締めた。
「『こんな世界一の戦力を送ってくれたムサシ、コジロウ、ニャースには世界一の褒美をやらねばな。』」
「その暁にはもちろん…?」
「「「幹部昇進、支部長就任、いい感じ〜!!」」」
「そ〜〜〜〜〜なんすッ!!」
「「「なーっはっはっはっはーい!!」」」
一時的にとはいえ、ピカチュウを強奪に成功したロケット団。
全員が全員、完全に勝利ムードの中で盛大に調子に乗っていた。
ニャース気球がボウルタウンを超えた荒野地帯、南3番エリアに差し掛かる。
有頂天なロケット団が乗る気球を、彼方の物陰からロックオンしている存在があった。
黒ずくめの衣装に、目元を隠すサングラス。
傍には、青くてスリムな体型のエージェントポケモン、インテレオンがいる。
「LからKさんへ。そちらを哨戒している私の配下から、不審な飛翔体を確認したとのこと。」
「こちらでも現認している。対処しておくか?」
「お願いします。こちらも"目標"の捕捉にちと手間取ってましてね。余計な手出しが増えたら面倒だ。」
「了解した。処理しておく。」
サングラスに備え付けられた通信機能での通話を切り上げては、男はインテレオンに対し頷いて見せた。
「うぉれぉッ…!」
バシュッ!
インテレオンの指先から放たれたのは、水の弾丸。
寸分狂いなく放たれた狙撃は、ニャース気球を精密に射抜き、大きな穴を開けた。
ブシュウウウーーーッ!
「ちょちょちょ、なによ一体〜!?」
「うわぁぁぁ!気球に穴が空いてる〜!?」
「どこのどいつニャー!?こんなことしてくるのは〜!?」
ブチィッ!
「ああッ!ロープが切れたニャ!」
「ピカチュウが〜!」
気球から勢いよく漏れる空気により制御を失い、空中であちこち揺れ飛ぶバスケットと、ピカチュウ、マメバッタを閉じ込めていた檻を結ぶロープが切れ、檻が落下してゆく。
檻を特注にする反面、バスケットに連結する為のロープにはさほど手を加えていなかったのだ。
重りの役割を果たしていた檻が切り離されてしまっては、気球は彼方まで吹き飛ぶ以外になかった。
「誰よ!?あたしたちの邪魔したのは!?」
「絶対仕返ししてやるからな〜!」
「ロケット団に喧嘩を売るとどうなるか、知らしめてやるニャ!と言うわけでここは皆さんご一緒に〜?」
「「「やな感じ〜〜〜!!」」」
「そ〜〜〜なんすッ!!」
キラリ。
「ほーぉ…ほぅ!?」
サトシから追跡を頼まれたヨルノズクは、付かず離れずの距離でニャース気球を追っていた。
ロケット団が地上に降りれば、その時点で引き返し、サトシたちを着陸現場まで案内する。
この手の騒ぎとしては、いつも通りの流れであった。それがどうだ?
彼方からの狙撃により、ニャース気球は呆気なく撃ち抜かれ、ロケット団は吹っ飛んでいってしまったのだ。
「ぴぃか〜〜〜!!」
何者がロケット団を狙ったのか、それを突き止める時間は、ヨルノズクにはなかった。
落下してゆく檻へ一気に接近する。
ピカチュウたちを助ける為だ。
インテレオンに狙撃をさせた男は、ロケット団が運んでいた檻をサングラス越しに見た。
耳元のデバイスを操作し、中身を確認する。
「積荷はピカチュウとマメバッタ…個体確認。」
ピピピピピ…。
電子音とともに、男の視界に、無数のデータが文字化して現れた。
サングラスには、インターネット接続機能があり、ハッキングによるポケモンの登録システムにすらアクセス出来るのだ。
「マメバッタは、野生。それなりにレベルは高いが、そこら辺にいる個体と変わらない。ピカチュウは…。」
ピカチュウのデータを見る男の目が見開かれる。
「トレーナー登録済み。トレーナー名…サトシ…。」
口元がへの字に歪み、拳がプルプルと震えだす。
「マサラタウンの、サトシだと…!?」
インテレオンは、主人が急激に感情を昂らせるのを、怯えながらに見ているしか出来なかった。
『サトシのヨルノズク』
ジョウト時代にサトシがゲットした色違いの個体。
通常の個体に比べ小柄ながら、その賢い頭脳と飛行能力を武器に立ち回る頼れるサトシの1体だ。