3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 サトシのピカチュウとマメバッタのバトルに乱入し、2体を連れ去るロケット団。
 それを追いかけるサトシたちであったが、両陣営も預かり知らない怪しい影が、パルデアには潜んでいた…。


スカーレットアドベンチャー 共に歩こう、彼と

 囚われのピカチュウからすれば、ロケット団の奴らが彼方へ吹っ飛び、消えていったのは僥倖と言えた。

 どこの誰かは知らないが、気球を撃ち抜いてくれた相手に感謝するも、このままでは檻が地上に落下してしまう。

 

「ぴかぴっか…。」

 

「めばぁ…!」

 

 この状況がピカチュウだけのものだったらば何の問題もなかった。

 長年の冒険やトレーニングで培ってきた経験、それを元手に手にした高いレベルを内包する自慢の肉体の前には、このくらいの落下など屁でもない。

 ただ、居合わせたマメバッタも同じとは限らなかった。

 バトルの最中、特性せいでんきにより押し付けたまひ状態により体の自由に確実性がない中では、檻が地面に叩き付けられる際にうまく受け身が取れる保証もない…。

 

「ほぉーう!!」

 

「ぴかぴちゅちゅ!」

 

 そんな中、救世主がやって来た。

 ヨルノズクが檻に取り付けば、双眸が紫色に輝き、檻の落下が緩やかになっていく。

 じんつうりきを発動する際に用いるサイコパワーの応用と言えよう。

 

ガッ、コン…!

 

「ぴかぴか!」

 

 ピカチュウとマメバッタを閉じ込めている檻は、ヨルノズクのサイコパワーにキャッチされたまま、自由落下よりはるかに緩やかに、地上に置かれた。

 ピカチュウは、続けてヨルノズクに鉄格子の一部分を指し示し、ヨルノズクはそれに頷いた。

 

「ほぉー…ほぉ!」

 

 ヨルノズクが勢いよく全身を使い、指し示された鉄格子にとっしん。

 すると、鉄格子がぐにゃりと曲がり、2体が抜け出るのにちょうどいいスペースが出来た。

 

「ぴっぴかちゅう!」

 

 ピカチュウは快哉を叫ぶ。

 実はアイアンテールで鉄格子を打っている時、ずっと同じ場所を狙って叩き続けていたのだ。

 内側からと、外側。両側による打撃に、鉄格子は耐えられなかったのだ。

 

「ぴかぴちゅちゅ。」

 

 ヒョイ、とスペースから檻の外に飛び出したピカチュウは、マメバッタを呼ぶ。

 『一緒に来いよ』、そう誘うピカチュウにマメバッタは、少し躊躇しながらも、続けて檻の外に飛び出た。

 

 

 

 ボウルタウンに到着したサトシは、逸る気持ちを抑えながらケンタロスをポケモンセンターに預け、体調チェックを頼んでいた。

 すぐにでもピカチュウを助けに行きたいが、それでケンタロスに無茶をさせては元も子もない。

 そのようなことをすれば、間違いなくカスミ辺りから平手打ちが飛ぶだろう…。

 

「サトシ、ジュンサーさんに捜索願い、出して来ました。」

 

 オモダカが、その場で行ったり来たりをして落ち着かないサトシの元に戻って来る。

 到着してすぐ、交番に事態を説明しに行っていたのだ。

 

「サンキュー、オモダカ。んッ…?」

 

 サトシは立ち止まり、オモダカに礼をする。

 立ち止まって、意識がほんの少し落ち着いた中、ある方角から、波導を感じ取った。

 それは、既知の間柄の感覚であった。

 

「なんで"あいつら"がパルデアにいるんだ…?」

 

「サトシさん、ケンタロスのチェック、完了しました!特に希望されていた足回りも問題ありません!」

 

 感じ取った波導への思案は打ち切られる。ポケモンセンターのジョーイさんが、サトシの待ち望むチェック完了を告げたのだ。

 ドクターストップされるような懸念もない。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 礼を言いながら、サトシはケンタロスの背に跨る。

 オモダカも軽やかにそれに続いた。

 旧知の人物の波導、気配は気になるが、今はピカチュウの奪回が最優先であった。

 

「ケンタロス、頼む!」

 

「うもぉ〜〜〜!」

 

 サトシの指示に頷き、ケンタロスは走り出す。

 一行はボウルタウンを後にし、南3番エリアへと向かった。

 

 

 

「ほぅ。」

 

「ぴかぴかちゅ。」

 

 ヨルノズクが飛翔し、去ってゆく。

 こちらに向かっているであろうサトシたちに合流し、道案内をする為だ。

 

「ぴかぁ〜…。」

 

 ピカチュウはその場に倒れ込み、リラックスした。緊張の糸が切れ、ひと安心といったところだ。

 後はヨルノズクが、サトシたちを連れて来るのを待つばかりである。

 となれば、無駄にうろちょろする理由もない。

 

「めばぁ…。」

 

 マメバッタが、仰向け大の字で横になっているピカチュウに近寄り、声をかけた。

 まひ状態が続いており、体に違和感は拭えないが、日常的な動作にそこまで支障は来すまい。

 ピカチュウからすれば、まだ立ち去らないのかと疑問であった。

 

「ぴかぁ。」

 

「ばった。」

 

 『真剣勝負はまた今度だ』そう伝えるピカチュウに、マメバッタは首を横に振る。

 『じゃあなんだよ』とピカチュウは怪訝な顔でマメバッタを見る。

 

「めばぁ。ったった。」

 

 ここまでの流れで、マメバッタもピカチュウが自分より遥か格上の存在であることはハッキリと理解した。

 そんな彼が、無頼な野生ポケモンとしてではなく、トレーナーのもとで生きる理由というのを、純粋に問うた。

 

「ぴぃか…。」

 

 マメバッタの問いに揶揄はない。

 純粋な疑念に、ピカチュウは空を見ながら紡ぐ言葉を考える。

 何故僕が、サトシと共にいるのか…。

 

 

 

 時を遡って3年前。場所はカントー地方マサラタウン。

 オーキド研究所で『問題児』として扱われていたピカチュウは、ポケモントレーナーとしてデビューするという晴れの日に、盛大に遅刻をかました『問題児』と出会った。

 

「可愛いじゃあないですか!」

 

 『なんだこの気安いヤツは。』

 そんな苛立ちと共に電撃を浴びせかけたのが、サトシとの始まりであった。

 

「お前ら!俺をなんだと思ってんだ!マサラタウンのサトシ!俺は世界一のポケモンマスターになるんだ!お前らなんかに負けない!みんなまとめてゲットしてやるぜ!」

 

 ロクに言う事を聞かない自分を必死に庇い、オニスズメの群れの前に立ち塞がるサトシの後ろ姿を横たわりながら見る。

 ピカチュウはこの時、ほんの少しだけこの無鉄砲な少年を主人と認めた。

 

 

 

「無茶かもしれないけど無理じゃあない!これは俺とピカチュウの問題なんだ!」

 

 いけすかないライチュウに散々に叩きのめされ、リベンジを誓った自分に、サトシはとことんまで付き合ってくれた。

 あの時からだろう。彼を主人として生きていくことを受け入れたのは。

 

 

 

「ピカチュウ。いつか俺がポケモンマスターになった時、そこにいてくれよな。」

 

 そこから先…幾多の冒険、幾多の戦いを潜り抜け、世界一の称号を手にしたサトシの肩の上…。

 かけがえの無い主人が語りかけてくる。

 ピカチュウからすれば、サトシの側から離れることなど、もはや考えられなかった。

 

 

 

 時を戻そう。

 ピカチュウは体を起こし、マメバッタを見る。

 その表情は、何より穏やかであった。

 

「ぴかちゅ、ぴっぴか、ぴかちうか。」

 

『いつも、一緒にいたいから。』

 

 それは、共にいるのか、という問いの答えにはなっていない。

 だが、ピカチュウの想いは、マメバッタにしっかりと伝わった。

 

ドドドドド…!!

 

 ピカチュウに聞き慣れた足音と、地響きが耳を打つ。

 紛れもなく、ケンタロスの疾走だ。

 

「ピカチュウ〜!!わたた!」

 

 まだ減速し切っていないケンタロスの背から飛び降り、危うくひっくり返りそうになりながらどうにか着地したサトシが、勢いのまま走って来る。

 

「ぴかぴ!!」

 

 ピカチュウもまた駆け寄り、その胸に飛び込んだ。

 

「大丈夫だったかピカチュウ?」

 

「ぴかぁ!」

 

 互いに無事を確かめ合う、サトシとピカチュウ。

 マメバッタは、ピカチュウほどの強いポケモンが全幅の信頼を寄せるサトシという男に、すっかり興味を惹かれていた。

 

「ほぅ。」

 

 マメバッタの側に、ヨルノズクが咥えていた何かを落として渡す。

 それはクラボの実…まひ状態を治癒する効果がある木の実だ。サトシたちをここまで案内する道中で拾ったのだろう。

 

「めぇば?」

 

 ヨルノズクはマメバッタを顧みることなく、踵を返してサトシの元に飛び去る。

 仲間でもないならば、情けをかけるのは一度きりということらしい。

 理知的でクールな彼もまた、ピカチュウ同様サトシという男を信頼しているのが見て取れた。

 

「ヨルノズクもケンタロスもありがとうな。」

 

「もぉ〜。」

 

「ほう。」

 

 ヨルノズクはケンタロスの頭の上に着地し、共に笑みを向ける。

 このくらいお安い御用だ、そうアピールするように翼を広げて見せた。

 

「めぇば、ばったッ!」

 

「おっ、マメバッタ。お前も無事でよかった。」

 

 マメバッタが、改めてサトシの前に躍り出る。

 クラボの実を食べて、身体の痺れから解放されたようだ。

 

「邪魔が入っちゃったけど、バトルの続きするか?」

 

「めぇ〜ば。」

 

 サトシに、マメバッタは首を横に振る。

 

「そっか。ならまた今度だな。俺もアカデミーに入学して、しばらくはここにいるし…。」

 

「めぇば!めぇば!ばったった!」

 

 言葉を遮るようにマメバッタが、何度もその場でジャンプする。

 それは、マメバッタ流のアピールと言えた。

 

「もしかしてマメバッタは、サトシにゲットして欲しいのでは?」

 

 オモダカを見て、再度サトシはマメバッタを見る。

 その瞳には、喜びと、本当に俺でいいのかという問いかけがない混ぜになっていた。

 

「そうなのか?」

 

 問いを、サトシは口にする。あえて波導は使わない。

 

「めばッ!」

 

 マメバッタは、力強く頷いた。

 それを見たサトシの表情は、喜びに満ち溢れるものになった。

 こちらから波導を読むまでもなく感じ取れた首肯の意、それがたまらなく嬉しかった。

 

「よーし分かった!俺たちと行こうぜ、マメバッタ!それッ!」

 

「ばったぁ〜ッ!!」

 

 取り出したモンスターボールをサトシが投げれば、マメバッタは自ら飛び込み、ボールの中に入ってゆく。

 

モニョモニョモニョモニョ…。

 

 マメバッタの入ったボールが地面に落ち、暫し振動の後に…。

 

ポーーーン…。

 

 赤く発光していた開閉ボタンが元の色に戻り、振動も止まった。

 サトシは、ゆっくりとボールを拾い上げ、天高く翳した。

 

「マメバッタ、ゲットだぜ!!」

 

「ぴっ、ぴかちゅう!」

 

 それは、パルデア地方に来て初めてであり、もっと言うなら、3年前にゲットしたかせきポケモン、ウオノラゴン以来のメンバー加入であった。

 決して選り好みしていた訳ではないのだが、巡り合わせがイマイチ合わなかった出会いの続いた3年間の空白ののちの、久々のポケモンゲットにサトシは感動で打ち震えた。

 この喜びは、いつになっても色褪せることはない。

 

「おめでとうございます、サトシ。」

 

「ありがとうオモダカ。それとごめんな?せっかくあちこち案内してくれる予定だったのに。」

 

 ロケット団の邪魔立てが原因とは言え、狙いがサトシのピカチュウである以上オモダカの予定が狂ったことに無関係と流すことは出来ず、謝罪するサトシに、オモダカは首を横に振って見せる。

 

「こういう慌ただしいのも、スリルがあってたまにはいいと思いますよ。大切なポケモンが狙われるのはたまったものではありませんが。」

 

 そう返すオモダカに、サトシは大いに救われた。

 

「このままこの南3番エリアを西進すればテーブルシティに到着しますが…全体登校日には、まだ余裕がありますね。」

 

 オモダカに波導の心得はない。

 ただ、ピカチュウを助ける為に動いている際も、サトシの意識が時折南の方角に向いているのを察していた。

 

「オモダカ…。」

 

 そっと、南を指差すオモダカ。言葉にはしない。

 行ってみます?そう、ジェスチャーのみで問えば、サトシは思い切り頷いた。

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ…。」

 

 南1番エリア。パルデア地方の南端部から、西の方角にあるテーブルシティのお膝元、プラトタウンへ向けて走るオレンジアカデミーの制服に身を包んだ金髪の少女がいた。

 その後を、古の木簡を背中に巻き付けた、枯葉を纏うカタツムリのような姿をしたポケモンが付いて行っている。

 彼女はそのポケモンの先導をしているのだ。

 

「大丈夫です、あなたは私が、必ず安全なところまで連れて行きますから。」

 

「カキシル…。」

 

 周囲を警戒しながら歩みを続ける。

 その間、絶えず少女は、カタツムリ型のポケモンに優しく語りかけていた。

 彼女の名は…リーリエ。

 

 

 




 『リーリエ』
 13歳。アローラ地方のポケモンスクールでサトシとクラスメイトであった少女。
 ポケモンを保護する慈善団体『エーテル財団』の代表の娘でもある。
 パートナーはアローラキュウコンで名前は『シロン』。
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