3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
一方その頃、サトシのかつての仲間リーリエは、見知らぬポケモンを引き連れてひた走っていた…。
傷ついたポケモンの保護を目的として、全国規模で活動するエーテル財団。
その代表を務めるルザミーネを母に持つのがリーリエである。
3年前、消息を絶った父、モーンの捜索の為に生まれ育ったアローラ地方から旅立ち、彼の残したじんぞうポケモンマギアナの放つ光に導かれた果て…。
辿り着いたガラル地方カンムリ雪原にて、離れ離れの一家は再会を果たし、その旅に終止符は打たれた。
「オレンジアカデミー?」
再び1つとなった家族とともにアローラ地方に帰還したリーリエは、ひたすら勉学に打ち込んだ。
元々勤勉な彼女は、順当にアローラスクールのカリキュラムを消化。瞬く間に単位を取得していき、無事に卒業。
次の進路を迷っていたところに恩師のククイ博士から持ち出されたのが、近年全国入りを果たしたパルデア地方の伝統校、オレンジアカデミーへの進学であった。
それが確かに琴線に触れたからこそ、彼女はパルデアに移り住み、アカデミーの生徒になったのだ。
「これは…?」
サトシがPWCSの開幕戦を戦っていたのと同じ頃にリーリエはオレンジアカデミーの校門をくぐり、その学生の一員としてアローラスクール時代同様勉学に励み出した。
その一環としてカリキュラムに組み込まれている課外活動『宝探し』は、ククイ博士が度々行っていたユニークな授業の数々に負けず劣らずリーリエの心を踊らせた。
授業の合間にパルデアの各地を歩き回り、様々なポケモンたちの姿を見てゆく。
そんな中、フィールドワークで訪れた南1番エリアにて見つけたのが、不思議な紋様によって蓋をされている祠であった。
「ん…中に、何かがいる?」
祠の中から、微かに音がする。
リーリエは、紫色の紋様にそっと触れた。
カタカタ…カタカタ…
ガタガタガタ!ガタガタ!!
「キャッ!?」
触れた瞬間、祠が振動、紫色の紋様が崩れだす。
ガターン!!
「な、なに…!?」
あまりの振動に、思わず尻餅をつくリーリエ。
紋様が崩れ、封印が解かれる。中から出てきたのは…ポケモンであろうことは、なんとなくは分かった。
初対面でリーリエが把握できたことは、それだけであった。
「カキシルス。」
マグカルゴ…チョボマキ…ヌメイルに、ヌメルゴン。
似たフォルムの種を脳内で並べるも、そのどれとも違う、ポケモン。
ポケモン図鑑のアプリにも該当データが存在しない。
「まさか、新種のポケモン…?」
立ち上がり、枯れ葉を被ったような彼?彼女?に歩み寄る。
そこに、背後からドサドサと、ガサツ極まりない足音と気配がした。
「なんだ?先客さんか?」
「祠に触れちまったらしいな。ターゲットも出てきてやがる。」
「L様。目撃者アリ。見た感じアカデミーの学生ですわ。どうします?」
黒ずくめの衣装に身を包んだ男が3人、無遠慮にリーリエに近付く。
生理的な恐怖とともに、この男たちの狙いが、後ろにいる『枯葉被り』だと直感した。
「あなたたち、いったいなんなんです!?」
『枯葉被り』の前に、男たちから遮るように立ち塞がる。
凛と毅然に問いただしたいが、声が上擦ってしまってイマイチ格好がつかない。
「お兄さんたちは仕事でさ。ちょーっと珍しいポケモンが入り用な訳よ。」
『こちらL。すぐ急行しますので、目標の追尾を。邪魔が入るなら…好きにしてしまいなさい。』
それは男たちを統率する上役からの指示であろうか。
聞き届けた3人は、それぞれボールからダークポケモンヘルガー、どくづきポケモンドクロッグ、ヘドロポケモンのアローラベトベトンを繰り出して、下卑た笑みを浮かべる。
「へっへ、悪く思うなよお嬢ちゃん。」
男の舌なめずりに、生理的な嫌悪を感じながらリーリエは確信した。
この連中に『枯葉被り』を連れて行かれたら、きっと可哀想な目に遭う、と。
そして同様に、自分も捕まれば、タダでは済まないと。
「カ…シ…。」
『枯葉被り』の鳴き声が、リーリエには心細さの表れと聞こえた。
それが事実か、本心かは定かではない。
それでも、そう捉えることで、リーリエは内なる勇気を絞り出した。
「お願いします、ガーデン!」
「きゅわわ〜!」
頭から伸ばした粘着性のあるツルに色とりどりの花を飾る、小さな薄緑色のはなつみポケモンキュワワー。
名前はガーデン…を、リーリエは繰り出した。
「おっ?なんだやる気か?」
「3人に勝てるわけないだろ!」
ポケモンはトレーナーに似るとはよく言ったもの。ヘルガー、ドクロッグ、アローラベトベトンは、主人同様ガーデンをニタ付きながら見ている。
既に脳内ではギッタギタに彼女を叩きのめし、トレーナーであるリーリエも手籠めにされているのだろう…。
「マジカルシャイン!」
「なにッ!?」
3人がかりな状況に勝ち誇っているその隙を、リーリエはまんまと突いた。
「きゅ〜わ〜!」
ガーデンの全身が激しく発光。
凄まじい光のシャワーが、男たちの視界を奪ったのだ。
「ぐわっ!」
「なんの光ィ!?」
「前が見えねェ。」
男たちも、そのポケモンたちも、光を前に目を瞑ってやり過ごす。
それこそが、リーリエの狙いであった。
「あの!あなたからしたら、わたくしのことも、信用できないかもしれないけれど…一緒に行きましょう!」
わたくしは、あなたを守ってあげたい…そんな真摯な思いが『枯葉被り』に通じたのかは、依然として分からない。
「カキシルス。」
ただ、黒ずくめの男たちよりはマシだと判断してくれたようだ。
ガーデンを素早くボールに戻し、逃走を図るリーリエの後ろに『枯葉被り』が続けて滑るように移動する。
マジカルシャインは、最初から目眩しでしかなかったのだ。
これが、リーリエと謎のポケモン『枯葉被り』との、逃走劇の経緯である。
南1番エリアの最南端、水平線が見える手前にあった祠から、リーリエはひたすら西へ走る。
一度息を整えるために足を止め、周囲を警戒しながら、スマホロトムでSNSを使って助けを呼ぶ。
すぐに来れるかは分からないが、呼ばないよりはずっとマシだ。
「もう少しで安全なところまで辿り着けますからね。」
手の甲で額の汗を拭いながら、リーリエは『枯葉被り』を安心させようと微笑んで見せる。
祠のあった最南端から、小さな湖が点在する平野まで逃げて来ては、進行方向にはうっすらと町の姿が見える。プラトタウンだ。
「ぴー!」
「ぴー!!」
コマドリポケモンヤヤコマの群れが、血相を変えてリーリエの背後より彼方へ飛び去ってゆく。
次いでゾワリと走る、悪寒…。
「シロン!」
「きゅおーう!」
3年前、タマゴから孵ったきつねポケモンのアローラロコンが進化した、アローラキュウコンの、シロン。
最も長く苦楽を共にした相棒を、リーリエは振り向きながら繰り出した。
「デュフ、スリーパー、さいみんじゅつ。」
「むわぁ〜ん…むわぁ〜ん…。」
ぷわわわわ〜ん…。
「しまった、シロンッ!」
「く、こぉー…ん。」
これは、相手の方が速かった。
先程の3人とは違う新手の男は、既にさいみんポケモンスリーパーを出しており、飛びかかったシロンに紐で吊るした振り子を揺らしてさいみんじゅつを合わせて来たのだ。
シロンはたまらず撃墜された形になり、眠りこけてしまう。この状況で眠り状態にさせられるのは、戦闘不能と同義である。
幸いなのは、このさいみんじゅつがリーリエを狙ったものであり、それを咄嗟に繰り出したシロンが盾になって防いだ形になったというくらいか…。
「やっと追いついたぜ、ゴルァ!」
「舐めた真似してくれたお礼はきっちりさせてもらうぜ〜?」
「本隊が到着するまでの間の、お楽しみだね〜。」
先程撒いた3人組が追いついてくる。
相手は1人増えて、4人。まさに最悪の展開と言えた。
スリーパーに構えられていては、リーリエがポケモンを追加で出した矢先にさいみんじゅつの餌食になるしか道筋がないのだ。
ガーデンだけで相手を蹴散らせるくらいなら、そもそも目眩しを使って逃げ出す選択肢など最初から取ってもいない。
「くッ、この子だけでも逃がさないと…。」
ジリジリと詰め寄る黒ずくめの男たちに追い詰められてゆくリーリエと『枯葉被り』は、湖を背に逃げ場を失った。
リーリエ1人だけならば飛び込んで逃げるのもありだろうが、『枯葉被り』が一緒に泳げるかどうかは分からない。
八方塞がり、万事窮す、であった。
「デュフフ、とりあえずチミには抵抗できないよう催眠をかけて、服を全部脱いでもらいましょうかねぇ〜。」
新手の男が下卑た笑みを見せながら、振り子を揺らすスリーパーをリーリエに差し向ける。
催眠にかかるまいと目を閉じれば、そこに3人がポケモンを飛びかからせて来て、同じ結末を辿るのだ。
「私は…あなたたちみたいな酷い人たちには屈しません!絶対に!」
黒ずくめの男たちに対し、『枯葉被り』を守るよう、両手を広げてリーリエは立ち塞がる。
それは健気ではあるが、力の備わらない、無謀。
男が野獣に変わり、乙女の肌が無惨に手折られる…ような事はなかった。
ザパァァァァァ!
「な、なんだ!?」
今にもリーリエに襲い掛かろうとした男たちは、彼女の背から姿を現す巨体を、あんぐりと口を開けながら見上げさせられた。
青い鱗と、純白の腹。何より通常個体の倍はあろうギャラドスの威容は、振り向くリーリエをも驚愕させた。
「あなたはもしかして、このエリアのヌシポケモンさん…?」
湖から競り上がるように姿を見せたギャラドスは、リーリエに何かを答える事はない。
「むわ!?もわ〜!?」
瞬く間に上体を振り下ろせば、スリーパーの上体を咥え込み、そして…。
「がるおおお!」
「どわ、ぬぉわぁ〜!?」
キラリ。
ペッ!と勢いよく吐き出した。
吐き出されたスリーパーは、トレーナーである新手の男を巻き込みながら彼方へと吹っ飛び、消えていく。
「ああッ!?あの野郎、やりやがった!」
3人のうち1人がギャラドスに悪態をつく。
『野郎』、その一言に、ギャラドスの目の色が変わった。
「あっ、ギャラドスさんのお髭が白いのは確か…。」
「所詮はポケモンハンター。ポケモンに愛がないから性別の区別もつかない。」
ギョロリとギャラドスが3人とポケモンを睨め付ける中、不意に聞こえた声の主は、リーリエと『枯葉被り』の前に立っていた。
「(この人は確か…。)」
リーリエは、突然に現れた背広姿の青年に見覚えがあった。
それは、ポケモンバトルのテレビ中継。放送席によく見る顔の、解説役のポケモン評論家であった。
「き、貴様は!」
「『3鳥越え』のナンテ!!」
「ほう…うら若き乙女に劣情を丸出しにして迫り、レディーを"野郎"呼ばわりする野獣どもにも、ちっとは知識が脳に詰まっていると見える。」
青年が、ゆっくりと眼鏡を外す。義憤に燃えたその瞳に、一点の曇りもない。
瞳に反しての不敵な笑みは、普段見せるポケモン評論家の面とは似ても似つかない、歴戦の勇士のそれであった。
『ポケモンハンター』
ポケモンを違法に捕獲し、それを売り捌くのを生業としている者たちの総称で、真っ当なポケモントレーナーならば大概は敵愾心を抱く相手。
トレーナー登録による個体との契約を嫌い、ほとんどのポケモンハンターはボールによる捕獲は行わないらしい。