3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 オレンジアカデミーに入学していたリーリエは、祠の中から出てきた謎のポケモンと一緒にポケモンハンターたちから逃げていた。
 追い詰められ、せめて我が身を盾にせんと下卑た連中の前に立ち塞がる可憐な少女を、唐突に現れた勇士が救うのだった…。


スカーレットアドベンチャー その男、マサラタウンのナンテ

 マサラタウンのナンテがこの世に生を受けたのは、今より23年前のこと。

 父親はポケモントレーナーとして旅の中で、蒸発。この世界ではよくある話だ。

 母親の名は、ユキ。ハッキリ言って、トレーナーとしての実績は、家庭に入った母親の方が上であった。

 なにしろ現役最終年のオーキド・ユキナリとポケモンリーグ、しかもベスト入りの舞台で戦った経歴があるのだ。

 それが、父親の蒸発の理由であるかは、息子の立場からは定かではないし、別段興味もなかった。

 

「うーむ、いくら朝が弱いとはいえ…いの一番にポケモンを選びたいからと、わざわざ研究所の前で野宿して一晩過ごすとはのう!」

 

「それだけこの子以外あり得ないって情熱の表れと受け取ってくださいよ。な、ガメラ。」

 

「ぜにぃ!」

 

 両親共にポケモントレーナーとして鳴らしていた家庭に産まれたナンテが、トレーナーの道を志すのは自然の流れであった。

 母のユキによる、カントー地方の片隅にある田舎町の空気を吸いながら研究者としても大成しつつあるオーキド博士のお膝元で養育するのが、これから先のポケモン社会で生きやすい人間になるだろうという方針が、ピタリとハマった。

 物心つく頃からポケモンが常に身近にいる幼少期を過ごしたナンテは、10歳を迎えた旅立ちの日、ゼニガメに『ガメラ』と名前を付け、ポケモントレーナーとなった。

 

「お母さん、行って来ます!」

 

「ポケモンちゃんに無茶させちゃあ駄目よ。」

 

「分かってる!」

 

 ナンテ少年が、庭の手入れをしている母のユキに出発を告げ、走り去ってゆく。

 ユキは、最低限の言葉で息子を見送った。

 この光景は、息子を初めて抱いたその日から、幾度となく頭に浮かんだことであった。

 

「行っちゃったんですねぇ、ナンテくん。」

 

「ずっとこの日を待ってたからね。」

 

「ウチの子もああなるのかしら。」

 

「多分。」

 

 お向かいの家から、赤ん坊を抱いた若い女が出てくる。年は19歳。

 ユキより一回り若い年代で、彼女同様に夫が旅に出ていない中、子供を授かり、育てていく覚悟を決めたであろうハナコが抱く赤ん坊の名は…サトシ。

 

「だぁ!だぁ!だぁ!」

 

 当然、走り去る向かいの家の1人息子の事など、数多の成長控える赤ん坊の中では記憶の片隅にすら残りはしない…。

 

 

 

「イワーク、戦闘不能!カメールの勝ち!よって勝者、マサラタウンのナンテ!」

 

「よーし!ナイスだぜガメラ!」

 

「かめぁ!」

 

 ニビジムのジムリーダー、ムノーを打ち倒し、快哉をする。

 マサラタウンを飛び出してからのナンテは、まさに快速列車の如しであった。

 目指すはもちろん、リーグチャンピオン。デビュー前に詰め込んだ知識と、実際に味わった経験をその都度擦り合わせ、技術を確かなものへと練り上げてゆく。

 そうやって構築しては崩して練り直しの日々が、旅の道中捕まえたポケモンたちにも反映され、動きに現れるのが爽快であった。

 

 

 

「次はもっと上へ。より高く。」

 

 ナンテは、ルーキーイヤーからリーグ予選にまで駒を進めた。

 結果は、セキエイ大会ベスト16。

 悔しさと手応え、両方がない混ぜになった感覚は、決して忘れえぬ記憶として頭にこびりついた。

 

 

 

「なんだ貴様ら、人が寝てる時に。」

 

 2年目の記憶、ジョウト地方コガネシティとヒワダタウンの間、コガネの数キロ南にあるグリーンフィールドにある巨大な邸宅を、Rの文字があしらわれた黒い集団が取り囲む。

 邸宅の主であるシュリー・スノードン博士が持つ研究データが狙われたのだ。

 そこにたまたま下宿していたナンテは、盛大な大立ち回りとともに、黒い集団を蹴散らしてみせた。

 それが原因で直前のエントリーに間に合わず、ジョウトリーグシロガネ大会は、ベスト8不戦敗となった。

 シュリー博士には大いに感謝され、生涯通してのスポンサーになってくれたのが、怪我の功名と言えた。

 

 

 

「真剣勝負にそんなものは関係ないわーッ!」

 

 12歳。3年目の舞台は、ホウエン地方。

 予選リーグを勝ち抜き、サイユウ大会ベスト4をかけた試合。推しも押されぬエースであったカメックスのガメラは、その最大の武器である肩の後ろ側の甲羅より展開するハイドロキャノンが執拗に狙われ続けた。

 それでも訪れた千載一遇の好機を前にして、ナンテとガメラに迷いなどあろうはずがなかった。

 

 

 

「バトルフロンティア?」

 

 ホウエンリーグは前年と同じく、ベスト4の試合を直前に控えた段階で、棄権してのベスト8に終わった。

 ガメラのハイドロキャノンが、勝利を手繰り寄せるための砲撃の代償として粉砕してしまったのだ。

 それは、止むを得ずの判断であった。共に悔いはない。

 そんな大会を終えたばかりのナンテに声をかけたのは、サングラスをかけた小太りの男。

 男はエニシダと名乗り、バトルフロンティアのオーナーであると告げた。

 それは、リーグとはまた違う激闘の世界への入り口であった。

 

 

 

「今日がニュー・ナンテ様のお披露目だ!」

 

 カメックスのガメラの負傷は、そのままバトル用ポケモンとしての再起不能に繋がった。

 当時のポケモン医療では、ハイドロキャノンの完全修復は不可能であったからだ。

 ナンテの戦術は、覚えさせている4つの技の応用のみならず、ポケモンごとに備わる生態に関わる多岐に渡って余すことなくバトルに用いる。

 ハイドロキャノンが修復できないでは、カメックスというポケモンのポテンシャルを120%引き出しきれない。

 それは即ち、トップを争い、激しいバトルが日常茶飯事である舞台に立たせるには危険でもあった。

 お互いに、断腸の思いであった、故に、その思いをおくびにも出すことなく、前を向き続けた。

 ガメラはオーキド研究所で待機する仲間たちに試合の経験を伝え、ナンテは新たな舞台バトルフロンティアへと戦場を移し、吠えた。

 

 

 

「もらったぞ!タワータイクーン!!」

 

「らぁぁぁい、ちゅううううう!!」

 

 カントー地方に点在する7つの施設を、ナンテは3年かけて攻略した。その中でも伝説の鳥ポケモンであるファイヤー、サンダー、フリーザーをエースとする当時のフロンティアブレーン…ヒロコ、スティーブ、カネコウジの3人を、1年のうちに連破したのは彼のみであり、その勢いのまま、当時のタワータイクーンであるリュウドーに競り勝って見せた。

 コレが、『3鳥越え』の異名の由来である。

 これにてめでたくバトルフロンティア完全制覇とはなったが、ナンテの前にフロンティアブレーン就任待機状態の強者がいた。

 それが後の『最強布陣』として語られるリラ、アザミ、コゴミ、ヒースの4人である。

 順番待ちに甘んじるのはいいとして、その間何もしないでは肝心の腕が鈍ってしまう。ナンテに立ち止まることは許されなかった。

 

 

 

 16歳以降、フロンティアブレーンの空きを待つ立場となったナンテは、全国各地を巡る旅を再開した。

 シンオウ、イッシュ、カロス、アローラ、そしてガラル。距離を置いて久しかったバトル&ゲットの冒険の日々を、さらなるレベルアップに繋げていく。

 この頃になるとナンテは、自身が競技者として戦うのと並行してポケモンバトルに対し、学問という観点からアプローチし始めた。

 旅の傍ら、タマムシ大学体育学科に入学したのもその一環である。

 

 

 

 20歳、体育学科を卒業し、ジョウト地方アサギシティに私塾を開いた。

 デビューを控える明日のルーキーたちにトレーナーとしての技術、それも基礎的なことから、実際に体感してきた10年間の経験を交えての独自カリキュラムは、人を選びこそすれ、赤裸々な分真実味があるとしてそれ相応に受け入れられている。

 マサトやユリーカは、この私塾出身であった。

 

 

 

 そして現在23歳。

 ポケモン評論家として各地の試合に解説役として呼ばれるようになっており、私塾講師としてはリモート授業がメインで、いくつもの草鞋を履きながらフロンティアブレーンの空きを待ちつつ、今に至る…。

 

「さて。」

 

ババッ!

 

「な、なんだ!?」

 

 ヘルガーを連れたハンターが狼狽する。

 ナンテの影から飛び出したのは、橙の電光…。

 

「らあああああい!!」

 

バチバチバチバチバチィィィ!!

 

「がぅあああ!?」

 

「きっしぃ…。」

 

「べぇぇとわぁ…!」

 

 ねずみポケモンライチュウ…ピカチュウの進化系が、全身から放電すれば、ヘルガー、ドクロッグ、アローラベトベトンに電撃が着弾。

 瞬く間に感電によりまひ状態にさせられる。

 

「ち、ちくしょう!なんというパワーの電撃!」

 

「きみたちはその3体。こちらのお嬢さんが眠らされたアローラキュウコンに、私がギャラドスの『グルーヴ』とライチュウの『テディ』の2体を合わせれば、ちょうどトリプルバトルの体裁は保てる訳だが、どうします?」

 

 ハンター3人は言葉を詰まらせ後ずさる。

 アローラベトベトンのハンターが、ナンテの視線の僅かなズレの隙に懐に手をかければ、ニヤ、と下卑た笑みを取り戻す。

 

「あッ!」

 

 リーリエがその不審な動きに気付けば、ハンターが手に構えるのは、手のひらサイズの銃。

 

「なるほど、ポケモンバトルで収める気はない…と。」

 

「あいにく俺たちはポケモンハンターなんでな!」

 

 ナンテの見立てとしては、彼らへの第一印象から、組織ぐるみのポケモンハンターともなればポケモンを捉えるために活用する特殊な非殺傷用の装備の一つ二つは忍ばせてはいるだろうと予測済みの話であった。

 故に、向けられる銃口の数が3つに増えようが動揺する道理はなかった。

 

「ならこちらも正当防衛ということで。」

 

 ナンテが指をパチン、と弾く。

 その刹那、ハンターたちは大きな質量を真正面から叩きつけられていた。

 それぞれが繰り出したポケモンたちである。

 

「ぐぉぉぉぉぉ!!」

 

 その一部始終を、リーリエは特等席で見せられていた。

 なんてことはない。青年が指を鳴らせば、湖から姿を見せていたギャラドスか、その大きな口から膨大な水流弾を発射し、電撃によってまひさせられていたポケモンたちをそれぞれのトレーナー目掛け弾き飛ばしていたのだ。

 ハイドロポンプによる豪快な薙ぎ払いである。

 

「「「どひゃ〜〜〜!」」」

 

キラリ。

 

 ハンター3人がポケモンたちと共に吹っ飛ばされ、先のスリーパーの男同様に彼方へと消える。

 

「ふぅ…お疲れ様。お前たち、ナイスプレイ。」

 

「ぐるぅ。」

 

「らいらい。」

 

 シンプルに極めて高いレベルまで鍛え抜かれたギャラドスとライチュウ。

 その2体を過不足なく動かし、労いも忘れないトレーナーセンスに、リーリエはこの橙色の淵の眼鏡を掛け直す青年は悪人ではないと確信した。

 

「あの、ありがとうございました。あなたが来てくださらなかったら私もこの子も今頃…。」

 

「カ…シ…。」

 

 リーリエが頭を下げれば、ナンテはそれを制する。

 例を言われるだけのことをしたつもりはないのだ。

 

「たまたま近くを散策していただけですよ。グルーヴも、たまたまこの湖で水浴びをさせてただけです。それより…。」

 

 リーリエが背後に庇っていた『枯葉被り』を見るナンテは、首を傾げた。

 

「その子は、あなたのポケモンですか?」

 

「いえ、実は…。」

 

「リーリエ!!」

 

 リーリエが事情を説明しようとする中、割って入るのは彼女と同じオレンジアカデミーの制服に身を包み、その顔立ちや金髪の質感も、彼女と近いものがある少年。

 それもそのはずだろう…。

 

「お兄様!」

 

 彼の名はグラジオ。リーリエの実の兄である。

 

 

 




 『グラジオ』
 15歳。ポケモントレーナー。サトシのライバルの1人で、初回大会となったアローラリーグの決勝を戦った。
 彼のルガルガン真夜中の姿は、げきりん攻撃の混乱すらものともしないほどに鍛え抜かれているぞ。
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