3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
窮地を脱したリーリエは、『枯葉被り』を保護目的でゲットするのだった…。
「きゅおわぁ〜!」
「わぉあ〜〜〜!」
サワロ少年が呼んだそらとぶタクシーにグラジオ、リーリエの兄妹とサワロが乗り込み、数多のイキリンコが羽ばたき始めては飛翔してゆく。
それをサトシとオモダカが乗るケンタロスと、ナンテが乗るギャラドスが追いかける形となった。
「流石はワールドチャンピオン!ライドの技術も一流なご様子で。」
「ケンタロスのおかげです!そのギャラドスも凄く強そう!」
「チャンピオン殿にそう言われると嬉しいもんですな、ははは!」
爆走するケンタロスに、ギャラドスは雌の証である白銀の髭を靡かせながら、その巨体でぴったり追従し、飛行して見せている。
「初めまして!私はオレンジアカデミーの…。」
「オモダカ選手でしょう。PWT、見事な優勝でした。」
言の葉を、ナンテは読んで見せる。
おや、とオモダカは目を丸くした。
「申し遅れました。自分はナンテ。生まれはカントー、マサラタウン!浅く広く食い繋ぐポケモン評論家をやってます。パルデアには、塾に持ち帰る教材を集めがてら休暇を使ってフィールドワークに来ていたのですが…。」
なにやら面白…面倒なことに首を突っ込んでしまったのかもしれない、と言外に含んで見せる。
それでもいち抜けしない辺りが、生来としての正義感の高い青年なのだな、とは『枯葉被り』を中心に彼と知り合った者たちの共通認識であった。
ナンテの興味はと言えば、その『枯葉被り』が対象でもあるのだが…。
パルデアの大穴の南側の麓に位置するパルデア最大の都市。昔から交易が盛んに行われており、新しい技術や知識を求め、たくさんの人が訪れている。
通称『学園都市』テーブルシティ。その所以たる街の中心部には、エントランスを中心に六方向に建てられた四階建ての棟と、中央の巨大なモンスターボールの意匠が特徴的な尖塔で構成されている巨大建造物オレンジアカデミーが鎮座している。
『枯葉被り』を保護したリーリエを守るようにグラジオとサワロが向かったのは中央エントランス…ではなくその脇に併設されているアカデミー傘下の研究所であった。
サトシとオモダカ、ナンテもすぐに追いつき、合流している。
「な、なんと…リーリエさん、この子を、ポケモンハンターが狙っていたというのですか?」
出迎えてくれた研究所主任のクラベルに、リーリエはサトシたちにしたのと同じ説明をしながら『枯葉被り』を見せた。
その姿にクラベルは血相を変えながら一旦その場を離れ、すぐに奥の資料室から年季の入った書物を引っ張り出してきた。
「かつて、太古のパルデア地方を収めていた王様が、東の国から来た商人から、異国の地の宝物である『ウツワ』『ツルギ』『モッカン』『マガタマ』の4つの宝を買い取ったと言われております。」
「ウツワ、ツルギ、モッカン、マガタマ?」
「ぴかぴか〜?」
書物を読み始めるクラベルに、サトシとピカチュウは首を傾げる。言葉の意味はなんとなく分かるが、イマイチ要領が掴めていない。
「モッカン、木簡とは、昔の人たちが文字を書いてやりとりするための木の板だと授業で聞いたことがありますな。」
サワロが『枯葉被り』に今一度視線をやれば、その背に着目した。
「ややっ!もしや、この背中に巻かれている大量の木の板こそが、その木簡なのでは!?」
「はい。おそらくはその通りかと。」
サワロにクラベルは首肯して見せてから、その視線を再度書物に移した。
「その日の夜、一夜にして王城は倒壊。大いなる災厄となったと聞きます。」
「城が、一夜で倒壊…?」
「4つの宝は、多くの人間の手を渡っていったことによって人間の欲望や呪いを蓄えていき、王様の欲望が引き金となり4体の『わざわいポケモン』となってしまったのだそうです。」
「お宝がポケモンに…?ハッ!!」
リーリエが口元を押さえながら『枯葉被り』を見る。
クラベルが語る文献から察するに、導き出される答えは1つしかなかった。
「後に王は、高名なポケモン使いを呼ぶことで災いを収め、このポケモン使いにより聖なる杭を用いてパルデア地方各地の祠に封じられたとされています…。」
「まさか、こいつが…?」
「リーリエさんが保護してこられた『枯葉被り』さん…その名は、わざわいポケモンチオンジェン。」
クラベルがパタン、と書物を閉じれば、一同絶句する。
リーリエの側に付くどこか愛嬌を見せるこのポケモンが、古代の文献に残る災厄の張本人だと言うのだ。
「わたくしは…『枯葉被り』さん、いいえ、チオンジェンさんが好きで酷いことをしたとは思えません!」
「リーリエ…。」
「そ、それはその通りです。わざわいポケモンたちの誕生には、人の欲望が大きく関わっている。しかしてそれは、この子たちが純粋悪であると言う証明には、決してなりえません。」
リーリエの剣幕に、クラベルが慌てながらに同調する。それは彼女に圧倒されたのもあるが、研究者としての公正な見識もあってのものであった。
「あの、1つお聞きしても?」
それまでクラベルの読む文献の内容をタブレットにメモ書きしていたナンテが挙手する。
「あなたは?」
「あぁ、申し遅れました。自分はナンテ。リーリエさんがチオンジェンを連れてポケモンハンターから逃げていたところにたまたまおりまして。」
「それはそれは。一体なんでしょう?」
「このチオンジェンがわざわいポケモンとなる大元は、背中の木簡だと言うことでしたが、つまり…残り3種の宝物にちなんだわざわいポケモンも別に存在している、とか?」
「賢しい推理、正しい定義、拡がる先には厳しいストーリー、yeah!」
ナンテの質問にクラベルが口を開こうとする前に研究所にズカズカと入り込んできたのは、パンク系のファッションに身を包む韻を踏む褐色の女性。
彼女が肩を貸していたのは、ボロボロになったグズマであった。
「ライムさんに…グズマさん!?」
クラベルは、慌ててグズマに駆け寄る。
「どうしたのです、そんな大怪我をして!」
「ヘッ、ちょっとドジ踏んじまった。頼まれごとをしてたアンタには、どうしても伝えておきたくてな。」
「そのような状態で無理をしてはいけません!後日メールででも構いませんのに…。」
「あいにく、そのドジのせいでスマホロトムはブッ壊れちまったんでな…ま、機械の中のロトムはこいつに頼んで助けてもらったんだが。」
力なくグズマはライムを指差す。
「だからそもそもメールできねェし、頼まれた側のケジメって奴さ。これだけ伝えたら病院に行く。聞いてくれや。」
「…なにがあったのです?」
「凍裂の祠の周りを守ってた、杭を抜いて回る怪しい連中を見つけたんでブッ壊してたんだが…封印を解くのを阻止できなかった。わざわいポケモンパオジアンは、もう野生に解き放たれてる。」
「ぬ、ぬうう…!」
グズマからの報告に、クラベルは絶句した。
そしてその報告は、ナンテの質問への答えそのものにもなっていた。
「やはり…ポケモンハンターどもの狙いは、チオンジェンだけじゃあない。」
「わざわいポケモンの4体すべて…!!」
ライムがグズマに肩を貸しながら、研究所の入り口より立ち去ってゆく。
クラベルは、俯いて身を震わせていた。
「…実を申しますと、このような兆候は度々見られてはいたのです。研究所に協力してくださる生徒の方々から、今まで刺さっていたはずの杭がなくなっている、と…。」
「パルデアリーグに報告しなかったのですか?ハッサクさんなら…。」
オモダカにクラベルは首を横に振る。
「リーグは今現在全国入りを果たしたばかりで、外部にどんどんとパルデア地方を売り出していきたい、と言うのが方針としてあるようで…ハッサクさんへの取り次ぎも、握り潰されている有様でして。」
「そんな…!」
オモダカは憤った。
ポケモンハンターが跋扈している中で人を呼び込むなど正気の沙汰ではない。あまりにも利益優先に過ぎる、と。
「ん…。失礼。」
クラベルがポケットに閉まっていたスマホロトムの振動に気付く。ポケラインのグループにメンションがあったのだろう。
それを見てまたさらに愕然とした。
「クラベル博士?」
ナンテが声をかける。それに応えるように天を仰ぐクラベルはゆっくりと口を開いた。
「オコゲ林道にある塵土の祠…北2番エリアにある火難の祠…その2箇所も崩されていると、たった今、協力してくださっている生徒さんたちから、連絡が来ました。」
「なんですと!?それはつまり…。」
「はい。モッカンのチオンジェンさんだけではない。ウツワ、ツルギ、マガタマのわざわいポケモンたちも、封印が解かれたことになります。」
最悪の事態に、場が沈痛な空気で包まれる。そこから最初に言葉を紡いだのは、サトシであった。
「残りのわざわいポケモンたちは、ポケモンハンターたちに捕まっちゃったのかな?」
「いや、それはないだろう。」
サトシの疑問に、グラジオは首を横に振ってみせた。
「リーリエからのポケラインを見て南3番エリアに向かう道中、ポケモンハンターを率いていたLとかいう男を、俺は倒している。リーリエと合流してから倒したはずのやつがなぜすぐまた襲いかかってきたかの理由は想像つかないが…。」
ひと呼吸置いてから、グラジオは続ける。
「このチオンジェンをはじめ、わざわいポケモンとは…言い伝えを聞くに、おそらくは伝説のポケモンやUB…ウルトラビーストに匹敵するポテンシャルを持つ分類なんだと思う。ならば、いくら組織立って動く連中とはいえ、そうそう捕獲まで漕ぎ着けられはすまい。リーダー格と言えそうな男は、俺に負けるくらいだしな。」
グラジオは一瞬サトシを見て自嘲して見せる。3年ぶりに顔を合わせ、実力差が縮まるどころかさらに広がっている気がしていたからだ。
「グラジオくんに勝てるのはひと握りの、相当な実力者と言えましょうぞ。」
「フッ。世辞として受け取っておく。」
サワロのフォローにグラジオは腕を組んだまま視線も向けないが、内心悪い気分ではなかった。
「リーグからの応援は望めない…残り3体のわざわいポケモンは、すぐにポケモンハンターの魔の手に落ちることはないにしてもタイムリミットがないわけではない…残り3体をチオンジェンのように保護したくとも、それぞれの動向も掴めない…。」
オモダカが状況をまとめ上げてゆく。
「はは、どこもかしこもない、ない、のないないまみれですな。よし!」
ナンテが乾いた笑いを挙げてから、決意を固める。
「乗りかかった船だ、残り3体のわざわいポケモンの動向、なんとか探ってみましょう。」
「本当ですか!?いや、しかし…。」
「自分とてポケモントレーナーの端くれ。危うい立場のポケモンを助けてあげたいという気持ちは、人並みには持ち合わせてるつもりですよ。それに、今回のパルデア行きはそれなりにまとまった期間をかける予定でしたからね。」
「だったら俺たちも行きます!」
「ぴかぁ!」
「おっと、それはいけない。」
サトシが身を乗り出したのをナンテが制する。
「伝説のポケモンを狙う大それた連中とは言え、所詮はポケモンハンター…チンケなならずものの集まり。ハッキリ言って、ワールドチャンピオンの存在はあまりにも過剰戦力に過ぎます。下手に奴らを刺激して、隠密性を高められても面倒だ。」
「でも…。」
「真の主役には真の主役に相応しい出番がある、ということです。わざわいポケモンたちを保護するという大事な出番が、ね。」
ナンテがウインクしてみせる。彼が語ったのは、サトシに対する全幅の信頼が故の策であった。
「クラベル博士に協力してくれている各地の生徒さんたちとも連携を取って調査に当たります。大丈夫、生徒さんたちも守ってみせますよ。」
アカデミーに無関係だからこそ動きやすい立場でもある、とナンテは胸を叩く。クラベルは、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。どうか、生徒の安全だけは。」
「もちろんですよ。お任せください。」
ナンテは力強く頷いて見せる。
そこにはマサラ育ち特有の、根拠のない自信が満ち溢れていた。それがクラベルには妙に頼もしかった。
『ライム』
28歳。ポケモンバトルに自信ありな霊感の強いラッパー。
スカした空気が意気投合し、パルデアにやってきたグズマとよくつるんでいる。
一見近寄りがたいが気さくで面倒見のいいお姉さんだよ。