3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 『枯葉被り』を保護したリーリエを護衛しながらテーブルシティへ辿り着いたサトシたち。
 アカデミーに併設された研究施設にて、クラベルよりその正体と、同じ身の上のさいやくポケモンの存在を知らされるのであった…。


スカーレットアドベンチャー サトシ、オレンジアカデミー入学

 オモダカによりわざわいポケモンに関わることは、研究所に居合わせたメンバーらの間だけで情報を押し留めるいわゆる『緘口令』が提案され、皆それに頷いてからその場は解散と相なった。

 そこからサトシは翌朝にアカデミーのエントランスに入学希望届を提出し、瞬く間に入学許可証と制服が届けられた。

 これは全国入りからの売り込みを積極的にしたいパルデアリーグと、オレンジアカデミーとの間での水面下でのやりとりの結果なのだが、当のサトシからすれば、予定通りテラスタルをマスターできればそれでいいことであった。

 

「へへ、どうだピカチュウ?」

 

「ぴかぴ、ぴかっちゅ〜!」

 

 入学許可証を受け取ったサトシはすぐにアカデミーの学生寮に入り、翌朝には真新しいアカデミーの制服に袖を通していた。

 ピカチュウはサトシに対しサムズアップしてから肩に飛び乗る。

 何重にもかけられたスマホロトムの目覚まし機能が、今回は奇跡的に役割を果たせたので遅刻することもない。

 

「よし、行くか。」

 

「ぴっぴかちゅう!」

 

 サトシとピカチュウは、勢いよく自室を飛び出した。

 向かった先は校長室。入学の挨拶として立ち寄るよう言伝されていたのだ。

 

「わたくし、ここの教頭先生のことあまり好きになれないんです。」

 

「んー?」

 

 道案内を快く引き受けたリーリエが道中ポツリと口を開く。

 リーリエという女の子は心優しく、人当たりも良い子だ。それがこうもハッキリと他人への不快感を露わにするのはただごとではない。

 それは、アローラスクール時代からの付き合いであるサトシからしても同様である。

 そして、その理由もすぐに理解できた。

 

「ようこそサトシくん、オレンジアカデミーへ!校長のイヌガヤです。」

 

「よろしくお願いします!」

 

「ぴぃかちゅう!」

 

 校長室にて、サトシは校長のイヌガヤとガッチリ握手を交わした。

 黒縁眼鏡に褐色肌、きっちりとアカデミーの教員服を着こなした彼には、信頼を寄せるに足りる誠実さを感じた。

 問題は、その横に控える痩せぎすの貧相な男であった。

 まるで品定めするようにサトシを見る彼に、ピカチュウはあからさまに不快感を募らせる。

 

「ぴぃ〜…?」

 

「ピカチュウ。」

 

 サトシは優しくピカチュウを宥める。

 フン、と鼻を鳴らした男は無遠慮に口を開いた。

 

「失礼ですか…そのピカチュウは、いつもそうしてボールから出しておられるので?」

 

「はい。俺のピカチュウは、モンスターボールが嫌いで。」

 

「ほーん…そこを矯正するのがポケモントレーナーの仕事では〜?」

 

「それは…。」

 

「教頭先生!」

 

 イヌガヤが一喝しては、教頭は素直に引き下がる。

 サトシのピカチュウはモンスターボールを嫌がって中には入らない。これは、サトシとピカチュウを知る人間ならば誰しも知っている事実だ。

 PWCS制覇後、ジャーナリストのパンジーによる単独インタビューにて、サトシはデビューからダンデに勝利するまでのことを彼なりの言葉で語っている。

 ところどころサトシの語彙力の拙さにより、内容そのものがボヤけてはパンジーに助け舟を出される始末であったが、ピカチュウとの経緯はきっちり語っている。

 そしてその記録は、ポケチューブに動画として今も残っているのだ。

 ただしかし、それがゲットしたポケモンをボールの外に出したままにしておくことの理由として納得できるかどうかも、個人の意思によるものではある。

 教頭の言わんとしていたところがサトシには分からないでもなかった。

 

「あの、俺のピカチュウは、意味もなく誰かを傷つけたりはしないですよ。そりゃあ、ほっぺを無理に触られたら怒るけど。」

 

「気にしないで下さい。彼は少し神経質なところがあるだけでして、アカデミーのことを真剣に考えるあまりに時折こうなってしまうだけで。」

 

「ぴかちう。」

 

 サトシとイヌガヤの会話は、所詮は人の理屈のことである。知性はさておき本能に生きるポケモンからすれば、それでおいそれと引き下がると言ったらまた違った話だ。

 ピカチュウからしたら教頭はこの時点で限りなくアウトである。

 この男、放置していてはそのうちとんでもない禍根を残すだろう。そんな確信を抱く。

 それでもピカチュウが手を下さないのは、彼がサトシのポケモンであるから…その一点のみが理由であった。

 

 

 

 リーリエが愚痴をこぼすのもむべなるかな、と思いながらサトシは校長らの案内を受け、グラウンドへ向かった。

 ガラス張りの巨大モンスターボールの下層にある屋内の中庭、全天候型で広くスペースがあり、トラックの中にバトルコートも用意されている。

 そこに全校生徒がクラスごとに整列していた。当然そこにはグラジオやリーリエの姿もある。

 オレンジアカデミーには基本的に全校生徒が集まることがない。それは、アカデミー最大の目玉である課外授業『宝探し』により、いわゆる学園行事の前後や、月に1回行われる全校集会の日がその例外であった。

 そして、今日がその全校集会である。

 

「サトシ。」

 

「オモダカ。」

 

 生徒会長として全校集会を取り仕切る役割のオモダカがサトシに合流する。

 

「教頭先生には何か言われたりしませんでしたか?」

 

「え、あぁ、別に。」

 

 オモダカが手招きしてきては近寄れば、耳打ちに聞かれたことがコレである。

 彼女も教頭の態度や物言いに対して見知りしたのか、実際に経験したのか、思うところはあったようだ。

 

「ぴかぴか、ぴぃかちゅう、ぴっか!」

 

「やっぱり…校長や他の先生方はいい人なんですが…。」

 

 サトシが言葉を濁し、明らかに不機嫌な顔のピカチュウが何やら訴えてくれば、オモダカも校長室でのやりとりのだいたいが予測できたようである。嘆息しながらに呟いていた。

 そうしているうちにオモダカが呼ばれ、全校集会が始まり、恙無く進んでいった。

 

 

 

「俺、マサラタウンのサトシ!テラスタルの勉強をしに来たんだ。こいつは相棒のピカチュウ!よろしく!!」

 

「ぴっ、ぴかちゅう!」

 

 紹介に預かったサトシの簡素な挨拶も合間に済み、全校集会が終われば、それぞれのクラスに一旦戻り、担任の教師による軽いオリエンテーションの後に解散となった。

 午後からはそれぞれが各々の決めた予定に合わせて動くことになる。

 

「サトシは早速テラスタルの授業を受けるのですよね?」

 

「そのつもり。居眠りせずに話聞いてられるかなー…?」

 

「ぴかぴー…。」

 

 睡眠時間の問題ではない。

 シンプルに座学というものが、自分とは果てしなく相性の悪いものだとサトシは認識していた。

 活発に外を走り回るイメージをサトシに定着させていたオモダカも、失礼であるとは思いながらもクスリと笑いが漏れてしまう。

 彼が真面目に机に向かう姿が想像出来なかったのだ。

 

「笑うことないだろー?」

 

「フフ、失礼しました。でも、テラスタルの授業は、座学も面白いと思いますよ?」

 

 イマイチ場所の位置を掴みきれていないサトシに、エントランスへの案内をしながらオモダカは話を続ける。

 

「テラスタルはバトル学の延長でもありまして、相応の実力者を外部から招聘して座学を担当してもらうことも多いんです。」

 

「そうなんだ。強い人ならバトルして欲しいな。」

 

「真面目に授業を受ければ、もしかしたら付き合ってくれるんじゃあないですか?」

 

「オモダカ〜。」

 

「ぴっかかか…!」

 

 失礼しました、と再度謝罪してみせるオモダカは微笑んだままだ。完全におちょくっている。

 ピカチュウも口元を抑えて笑っていた。サトシは憮然とさせられるよりない。

 3日間の旅で打ち解けたが故のやりとりといえよう。

 

 

 

「あっ、サトシ!」

 

「サトシくん!」

 

 オモダカに案内されてたどり着いたエントランスは、午後の授業の出席予約を取りに来た生徒たちでごった返す。

 そこにサトシが混ざって騒ぎにはならない。オモダカが言うには以前、イッシュリーグチャンピオンのアイリスが一時期登校していた際、彼女を中心に騒ぎが起きて収拾がつかなくなったことにより、全校集会にてアカデミー内にていわゆる役職持ちの生徒に対しそれが理由の接触を禁ずると言う取り決めが通達されているのだ。

 それでも個人的に付き合いができたごく一部は話が違ってくるものではあるのだが…。閑話休題。

 

「リーリエにサワロ。あれ、グラジオは?」

 

 呼び掛けてきた2人にサトシが駆け寄って辺りを見回すも、グラジオの姿は見られない。

 

「お兄様は解散後、すぐフィールドワークに出掛けて行っちゃいました。トレーニングと、俺も俺でわざわいポケモンの動向を探ってみるって。」

 

「グラジオくんが強いことは知ってますが、相手なポケモンハンター。卑劣な手を使ってくるかも。ワガハイ、心配してしまってます。」

 

「大丈夫さ。グラジオなら。」

 

 それは、リーグの頂点を競ったライバルへの全幅の信頼から出た確信であった。言葉を発する瞳には一点の曇りもない。

 

 

 

『まだ終わりじゃない!カウンターにはカウンターだぁぁぁッ!!』

 

『なにィッ!?』

 

 今でも脳裏にハッキリと思い出せる、3年前の光景。アローラリーグ決勝戦。

 互いにゼンリョクを尽くし、ついにはルガルガン対決に全てが委ねられた、死闘。

 グラジオの真夜中の姿のルガルガンが決めたカウンターのアッパーカットに、サトシの黄昏の姿のルガルガンが空中で一回転しながらカウンターを決め返した、決着の瞬間。

 それは、サトシが念願のリーグチャンピオンというタイトルを手にした瞬間でもある。

 だがそれ以上に、その最高の一撃は、心から認めたライバルであるグラジオが相手であったからこそ放てたのだという自覚も持ち合わせていた。

 

 

 

「アローラリーグが終わった後にもグラジオとはバトルロイヤルで戦って、そこでさらに強くなったのは伝わった。そこから3年も経ってるんだ。昔とは比べ物にならないくらい強くなってるに違いないさ!そうだろ、リーリエ?」

 

「は…はい!それはもう、とっても!」

 

 リーリエは、サトシがこれだけ兄を買ってくれているというのが素直に嬉しかった。

 当の本人がここにいたら、間違いなく照れ隠しにそっぽを向いてるであろうというのは、妹故の確信であった。

 

「それではみなさん。テラスタル授業頑張ってください。それからリーリエさんには、『枯葉被り』さんによろしく。」

 

「またなーオモダカ!」

 

「必ず伝えます!」

 

「大会から帰って来られてすぐ生徒会の仕事とは、会長さんも大変なんですな。」

 

 とうの昔にテラスタル授業の単位は取得済みなオモダカは、サトシをリーリエとサワロに引き渡す形でエントランスを去って行く。

 サワロが口にした通り、PWT参加の際のポケモンの強化や調整に時間を割いていた分、本来生徒会長として片付けねばならない案件を溜め込んでいるとのことであった。

 ほどなくしてエントランスでサトシ、リーリエ、サワロはテラスタル授業への参加予約を完了させる。

 

「特別講師のシゲル先生が担当されますテラスタル授業に参加ですね。」

 

「おや、フリッジタウンのジムリーダーをしておられるタイム先生から、講師が変わったのですな。」

 

「はい。タイム先生は産休に入られまして、その間のヘルプとしてイヌガヤ校長が招聘されたようで。」

 

「あぁ、そうでしたな!これはワガハイ、すっかり失念しておりました!」

 

 受付の事務員とサワロが朗らかに話をする中、リーリエが振り返れば、サトシの表情が明らかに引き攣っているのが見えた。

 

「サトシ…?」

 

 

 

「やぁやぁやぁ生徒諸君!ごきげんよう!産休に入られたタイム先生に代わり、この僕がテラスタル授業の担当として、短い間キミたちの学校生活に良き彩りを加えられるよう全力で教鞭を振るう所存………。」

 

 生徒たちが教室に集められ、予鈴とともに入室してきた白衣姿のやたらと饒舌で、トゲトゲとした茶髪が特徴の美少年…というよりは色男、イケメンと形容するのが相応しい臨時講師が居並ぶ生徒の中から一点を見つめ、動きが止まる。

 

「ぴかぴ…。」

 

「すっげぇこっち見てる…。」

 

 サトシとピカチュウはこちらに目をつけ、ツカツカと歩いてくるシゲルから目を逸らす。

 そのサトシはというと、前髪をパッツンと切りそろえた金髪ロングのウィッグを被り、ピカチュウは頭に大きなリボンを付け、尻尾にも細工をして、雌の特徴に近付けている。

 要は、女装をしていた。

 

 

 




 『カウンター・カウンター』
 サトシのルガルガンがアローラリーグ決勝で決めた必殺技。
 相手がこちらのパワーを倍返ししてきた一撃を、さらに倍にして返す究極のカウンター。
 当時は無我夢中かつ咄嗟に繰り出したが、今では完璧にマスターしているぞ。
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