3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 念願のオレンジアカデミー入学を果たしたサトシ。
 早速テラスタルをマスターすべく授業を受けることにしたのだが、その講師はライバルのシゲルだった。


スカーレットアドベンチャー 最高のライバル、シゲル

 時はほんの少し遡る。

 テラスタル授業の講師の名前を聞き、あからさまに動揺しているサトシから、リーリエとサワロが話を聞くことになった。

 

 オーキド・シゲル。サトシにとって、最高の…永遠のライバル。その因縁は言うまでもなく長く、深い。

 同じマサラタウンに生まれ育ち、家族ぐるみの付き合いで、なにかとくだらないことが原因の喧嘩を繰り返してきた幼馴染であった。

 同い年の2人は、当然同じ年にトレーナーデビューを果たし、カントーリーグセキエイ大会と、ジョウトリーグシロガネ大会に参加し、シロガネ大会で実現した直接対決。結果、サトシが引導を渡す形で、シゲルはトレーナーの道を諦め、研究者としての道を歩み始めた。

 それからも交流は続いており、サクラギ研究所に身を置いていた頃は、サトシとバディを組んでいた少年ゴウに対して憎まれ役を買って出てくれていた。

 

『チャンピオンになったきみは、どこまでポケモンマスターに近付けたのかな?』

 

 3年前、故郷で羽を伸ばしていた頃に会った時の、シゲルから投げかけられた言葉は今も頭に時折反芻している。

 その答えに足りる言葉は、未だ浮かんでは来ない…。

 

 

 

「仲は、よろしいのですよね?」

 

 ひと通りシゲルとのこれまでの関わりを語り終えたのを見計らい、リーリエが問い掛ければ、サトシは首肯する。

 そこに対してサトシは続けた。

 

「会いたくないわけじゃあないんだよなぁ。ただ、先生って言うと、なんか、なにこの感じーっていうか?」

 

「それロケット団じゃあないですか。」

 

 この場ではサトシとリーリエしか分からない表現に、サワロは首を傾げている。

 

「あ、そうだ。」

 

 サトシがポン、と左の掌に右手を置く。

 

「リーリエで例えたら、ルザミーネさんがスクールに来た時みたいな感じ、かな。」

 

「あ…あ〜…あぁ〜〜〜…。」

 

 なるほど、と真底リーリエは納得させられてしまった。

 父親が帰還し、だいぶ精神が安定してきたとは言え、基本的に過保護な母親の介入は、リーリエやグラジオからしたらたまったものではない。

 それに近いもの、とされては頷かざるを得なかった。

 

「それなら分かりました。サワロさん!」

 

「はい!なんでしょうかリーリエさん。」

 

 そして、こう聞かされてしまってはなんとかしてあげたい、とリーリエのスイッチが入ってしまった。

 

「今こそ日頃から練習していた私たちの技術を実践する時です!」

 

「おぉ、なるほど!扮装にて、先生がサトシくんだと認識できないようにするのですな!!」

 

 何やら2人で盛り上がっているのを、サトシとピカチュウは怪訝な表情で見つめるより他にない。

 

「はいッ!サトシ、私たちと一緒に来てください!」

 

「腕が鳴る、滾って参りましたぞ〜!!」

 

「え?えっ?えええ〜っ?」

 

 激しく燃え上がるリーリエに触発され、サワロが全身に力を入れれば、シャツのボタンが上から筋肉の膨張に負けてあちこちに吹っ飛んでゆく。

 この2人のテンションの上がりようにサトシは困惑しながらも覚えがあった。

 

「大丈夫ですサトシ。わたくしも3年間で、メイクはバッチリレベルアップしてますから!」

 

「なんでそうなるの〜!?」

 

 アローラスクール時代、体調を崩したジョーイさんのポケモンセンターにヘルプで入って働くことになった際、このリーリエと、同じくクラスメイトであるマオ、スイレンの3人により好き放題メイクをさせられ女装するハメとなったのだ。

 まぁ、サトシにとって女装自体はそれより前に幾度か機会はあったのだが…。

 

 

 

「だ、大丈夫ですかなリーリエさん?完全に目をつけられておりますが…。」

 

 時を戻そう。

 テラスタルの座学が始まり、シゲルに明らかにガン見されまくっているメイクアップ状態のサトシの姿に、隣同士の席のサワロがリーリエへ耳打ちする。

 

「大丈夫ですよ。」

 

 リーリエは根拠のない確信に満ち溢れている。

 すっぴんのような自然な雰囲気の中で、綺麗な肌の血色感を演出し、目鼻立ちもくっきりさせたナチュラルメイク…ハッキリ言って、自分の顔にするメイクより上手くいったという会心の出来であった。

 

「ならば大丈夫ですな、うむ。」

 

 いつになく自信たっぷりなリーリエの横顔を見れば、サワロもすぐに同調した。

 サワロは、リーリエに絶大な信頼を寄せている。その発端は、これも少し時を遡ることになる。

 

 

 

 サワロ少年の家族構成は、気弱な父が家庭を守り、剛毅な母がその屈強な肉体を活かして全国各地を回って観客を魅了するボディビルダー。

 特に母は、パートナーであるかいりきポケモンカイリキーを隣に並べても全く見劣りしない、まさに筋肉のドレスと形容される肉体美を誇り、姉3人も母と同じ進路を辿った。

 後に生まれたサワロは、母譲りの豊富な筋肉量と、父譲りの優しい心を併せ持つ少年として育った。それはよかった。

 

「あいつが1年のサワロか。すげぇ筋肉だな。」

 

「きっと将来はゴリゴリのからておうだぜ。」

 

 周りの生徒たちからの好奇の目、イメージは、本来のサワロの姿からはかけ離れていた。

 筋骨逞しい武闘派そのものな容姿からは対極的な、可愛いものや甘いものを好むのがサワロという少年であった。

 周りのイメージを崩してはならない、といつしかクラスの集団からあぶれ、1人で行動するので、余計にイメージが固着するという悪循環。

 そんな中、転機になったのが、エーテルパラダイスよりやってきた兄妹の転入であった。

 

「わたくしも可愛いポケモン、大好きなんです。」

 

 放課後のひととき、アカデミーの片隅にて見つけたサワロ憩いの場所。そこに広がる花畑には、南西のエリアから風に飛ばされやってきていたふうせんポケモンプリンや、花畑の花から蜜を運ぶはちのこポケモンミツハニーなど、可愛らしいポケモンが集まっていた。

 その場所にたまたまやってきたリーリエと話してみれば、自然とウマが合ったのだ。

 

「リーリエさんは、ワガハイの見た目と趣味がその…あまり合っていないとか思ったりしないのですかな?」

 

「えっ?どうしてです?」

 

 サワロからの問いかけに、リーリエは心底不思議そうに首を傾げてから、こう返した。

 

「可愛いものが好きという理由に、見た目とかそういう、可愛がる側に必要な要素なんて、論理的結論として私はないと思いますよ。」

 

 目を見開くサワロに、リーリエは優しく微笑みながら右手を差し出す。

 

「わたくしとお友達になってくれませんか?同じ可愛いものが大好きなトレーナー同士!」

 

「は、はい!是非とも!」

 

 体を屈めながら視線を合わせ、差し出された小さな手を痛くしないよう、細心の注意を払いながらサワロは握手に応じる。

 オレンジアカデミーに来て、初めて『同好の士』を得た日のことを、彼は生涯忘れはしないだろう。

 

 

 

 そんなリーリエと2人で仕上げたサトシの女装メイクなのだが、結論から言えば、シゲルから正体を隠すという役割としては全く機能していなかった。

 これは、後述の展開で語ることにするが…。

 

「きみ、どこかで僕と会ったことないかい?」

 

「さ、さぁー…?」

 

 精一杯声色を変えながら、サトシはシゲルからの問いに答える。

 それに納得したのかしていないのか、それ以上の追及はなかった。

 

「ふーん…。」

 

 シゲルは教壇に戻り、授業に入っていった。

 

 

 

「疲れた〜〜〜。」

 

「ぴかぁ〜〜〜。」

 

 授業は特に問題なく終了し、サトシはグラウンドの片隅、サワロが敷いたレジャーシートに大の字で寝転んでいた。

 ピカチュウもサトシの傍で同じように大の字だ。

 

「お疲れ様ですな。」

 

「座学を4回受けたら、その次は各地のジムを回っての実地試験。その後に最終試験をクリアしたら晴れて自分だけのテラスタルオーブが支給されるんです。あと3回の辛抱ですよ、サトシ。」

 

「あと3回かー。」

 

 サワロとリーリエは、持ち寄ったティーセットに紅茶を入れながらお菓子を摘んでいる。

 憩い、というよりは日々の修練を披露し合っているというのが正しい。

 

「やっぱりサワロさんのクッキーはいつ頂いても美味しいです!」

 

「いやはや、ワガハイのは父からの受け売りに過ぎませんからな。一から仕上げたリーリエさんは流石ですぞ。」

 

 正座で朗らかにティータイムと洒落込んでいる2人を見ては、足が痺れないのかな?と思いながらサトシは上体を起こす。

 俺も小腹が空いた、とお菓子を頂こうと胡座のまま距離を詰めようとした時、両の肩にズン、と重みが来た。

 

「お互い募る話もあろうけど、あえてこの呼び方をさせてもらおうかな?」

 

「い゛ッ。」

 

 背後からの声色で、たまらず変な声が出る。

 恐る恐るサトシが首だけ向けては、そこには不気味なまでに営業スマイルなイケメンがあった。

 

「あっ…シゲル先生。」

 

 リーリエとサワロも声がして振り向けば、全てを察する。

 

「久しぶりではありませんか、サートシくぅ〜ん?」

 

「シ、シゲル…。」

 

「ど、どうして!?メイクは完璧、ウィッグだって自然なものを用意したのに…。」

 

 サトシが見上げるシゲルの瞳は、女装の企みなどあっさり看破していた。

 納得いかないとリーリエが口走れば、その瞬間しまった、と口元を覆う。墓穴を掘ったも同然な自供であった。

 

「んー、いやー…なんというか。」

 

 リーリエの問いに、シゲルはバツが悪そうに頭を掻いた。

 

「きみたち生徒は授業を受ける際、エントランスで受付さんに授業参加の予約を取り付けるだろう?」

 

「そ、そうですな。」

 

「その時提示する生徒手帳、またはトレーナーカードには、それぞれのIDが記載されているじゃない?」

 

「あ、あぁ〜…。」

 

 ここまでシゲルが話せばリーリエは理解し、頭を抱えた。

 生徒の授業参加、出席の有無はトレーナーIDによって紐付けされている…。

 つまり、教師側は席に着く生徒のIDを見れば、それが誰かすぐに特定できてしまえるのだ。

 

「つまり、ワガハイたちが良かれと思ってしたことは最初から徒労だったと…。」

 

「いやいや、きみたちが施した扮装の完成度は実際凄く高かったよ。問題があるとしたらモデルの方だね。」

 

「悪かったな、お前ほどイケメンじゃあなくて。」

 

「ぴぃ〜かぁ〜…。」

 

 渾身の女装メイクが全くの無駄骨であったことにショックを受け天を仰ぐリーリエとサワロにシゲルがフォローを入れては、彼に両肩を持たれたままサトシは胡座で腕を組み、憮然とするしかなかった。

 

 




 『シゲル』
 13歳。研究者志望の元ポケモントレーナー。
 オーキド博士の孫で、シンジがサトシにとって最大にして最強のライバルならば、シゲルは最大にして最高のライバル。
 相棒はトレーナーデビューの時からずっと一緒のカメックスだ。
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