3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
そこでピカチュウとブラッキー、因縁の両ポケモンが対峙する…。
時は遡る。
3年前、セキエイリーグベスト16に続けて、オレンジリーグにて名誉トレーナーになったサトシは完全に調子に乗っていた。
オレンジ諸島マンダリン島で出会った四天王カンナとのやりとりで多少の礼儀を意識するようにはなったものの、元来のお調子者な性格から、少し事が上手くいったらすぐ天狗になるところは相変わらずであった。
その辺りの悪癖は、この時を問わず3年前の段階では時を選ばず散発的に顔を出していた。
そんな風に伸びた天狗の鼻がその度に毎回キッチリへし折られるところが、サトシの飛躍に繋がっているのもまた事実であり、幸運といえよう。
オーキド博士から頼まれたお使いを済ませ、オレンジ諸島から帰ってきたサトシの天狗の鼻をへし折ったのは、シゲルだった。
「よし、かみなりだぁ!」
「イーブイ、ロケットずつきィ!」
「ぴぃぃぃ!」
「ぶい!」
ドゴォ…!
ピカチュウが大技のかみなりを放つ一瞬の隙を突き、イーブイの会心の一撃が入る。
空中にカチ上げられたピカチュウがかみなりの電撃を虚しく暴発させてから地面に落下し、決着がついた。
オレンジリーグにてベッドリーダーユウジとの死闘を潜り抜けたサトシは、マサラタウンに帰り着いてすぐのライバル対決で、シゲルに敗れたのだ。
完敗だった。
「2人ともなかなかの勝負じゃったぞ。シゲルはアレから随分と修行を積んだようじゃのう。」
「前進あるのみだものねお祖父様。」
審判を務めた糸目の青年タケシにカスミ、ケンジと共にバトルを見届けたオーキド博士が2人を労った。
シゲルは人差し指の上でボールをクルクル回しながら答える。
「きみも頑張るんだね。」
シゲルはサトシを見やり、簡潔に言った後、イーブイをボールに戻し、背を向け立ち去った。
「シゲル!次は俺が勝つからな!」
サトシが投げかけた言葉に、シゲルは振り向かず、背を向けたまま右手を挙げて応える。
その後ろ姿には、同じ日に旅立った、ガールフレンドを引き連れて高笑いしている高慢ちきな姿はどこにもなかった。
「カメックス、戦闘不能!リザードンの勝ち!」
『カメックス敗れる!勝者は、マサラタウンのサトシ選手です!!』
ワァァァァァ…!!
そこから少し経ち、舞台はジョウトリーグ決勝トーナメント1回戦。サトシは、シゲルにリベンジを果たした。
しかし、ライバルとの決戦に際して選び抜いた6体の中にピカチュウはおらず、シゲルの6体の中にもイーブイの進化したブラッキーはいなかった。
サトシは、シゲルが得意とするパワーファイトの土俵に、あえて真っ向から乗っかる形で勝負を仕掛けていった。
ケンタロス…ヘラクロス…ベトベトン…ベイリーフ…カビゴン…そしてリザードン。コレが、サトシの選び抜いた対シゲル用決戦メンバーである。
対するシゲルはニドクイン…ブーバー…ウインディ…ハッサム…ゴローニャ、そして、相棒のカメックス。
そのカメックスを中盤から投入するという奇襲策を見せ、圧倒しながらも後半戦、サトシのカビゴンとリザードンに一気に捲られて逆転を許してしまった。
シゲルはシゲルで、でんきタイプのピカチュウをキッチリ意識してじめんタイプのニドクインとゴローニャを投入していた辺り、抜け目がない。
試合後、シゲルはバトルの世界から足を洗い、研究業へと進路をシフトしながらも2人の交流は続き、時折バトルをする事もあった。
だがピカチュウがイーブイ、いや、ブラッキーにリベンジを果たす機会は訪れていなかった。
時を戻そう。
ピカチュウとブラッキーが対峙する。サトシとピカチュウからすればようやく訪れたリベンジのチャンス。
シゲルとて、ワールドチャンピオンにまで昇り詰めたサトシと今の自分との間に名状し難い実力の差がある事は分かりきっている。
それでもなおこの勝負を持ち込んだのは、勝つ算段以上に、やはりサトシに負けたくない、一歩先にいたいと考える意地が何処かにまだあったのだと、この時シゲルは自分のことを納得して見せた。
「僕もまだまだ大人になりきれてない…か。」
ポツリと呟きながらも自己否定には走らない。
道を違えようと、サトシに負けじと張り合って生きてきたのもまた自分なのだと、シゲルは自己認識できる男であった。
「さぁいくよサトシ!勝負はここからが本番だ!」
「おう!シゲル!お前だけには負けらんない!」
シゲルはサトシに負けたくない。サトシもシゲルに負けたくない。
バトルの道からいなくなったとはいえ、会うたびに自分の知らない世界を先に知っているシゲルもまた、サトシからすれば道は違えどライバルであるのは変わらない。
事実、テラスタルにだって先に触れているのはシゲルなのだ。
「あぁっ!お二人がテラスタルオーブを!」
サトシとシゲルは同時にテラスタルオーブを起動させる。
完全にマスターしているシゲルは慣れたもの。サトシはグズマやオモダカ、アイリスが使っていたのを見よう見まねであるが使用に特に問題はないようだ。
「ピカチュウ、見せてやろうぜ!俺たちのゼンリョクの輝きを!」
「ぴっかぁ!」
「受けて立つともさ。僕とブラッキーの研鑽の輝きを見せよう!」
「ぶぅら!」
両者、同時にテラスタルオーブを投げ込んだ。
カッ!ピキピキピキピキィ!!
ピカチュウとブラッキーの頭上に投げ込まれたテラスタルオーブの輝きがクリスタルとなり、2体を包む。
「ぴぃっかぁ!」
「ぶぅらっき!」
クリスタルが弾けて姿を見せたピカチュウの頭には雷のマークが刻み込まれたでんきのテラスタルジュエルが、ブラッキーの頭には凶悪に笑う漆黒の顔が浮かぶあくのテラスタルジュエルがそれぞれ被せられる。
「両方同時にテラスタルだ!」
「どちらも元のタイプのままの基本的な奴だ。」
野次馬の生徒たちが口々に話している。
サトシは、念願のテラスタルを果たした相棒に目を輝かせていた。
「やったなピカチュウ!俺たちテラスタルしたんだ!」
「ぴかぁ…。ぴっかぁ!」
サトシの言に、ピカチュウはまじまじと自分の体を見つめる。
漲るパワーは、未知の充足感をもたらしていた。
「隙アリィ!!」
「ぬうッ!?」
テラスタルの感動に浸るサトシとピカチュウの隙を突き、ブラッキーが飛びかかる。
しなやかなボディに卓越した身のこなしは、イーブイ時代から健在だ。
「テラスタルパワー!バークアウト!!」
あくのテラスタルジュエルがギラギラと輝きを増し、ブラッキーに力を与える。
「ぶぅららららららららら!!」
ブラッキーの口が開かれれば、放たれる怒号そのものが音の質量弾としてピカチュウを襲う。
「ぴぃぃぃ…!」
「こっちも迎え撃つぞピカチュウ!テラスタルパワー全開だ!!」
ブラッキーのけたたましい怒号を受けて後退りさせられるピカチュウがサトシの指示に頷けば、でんきのテラスタルジュエルがそれに呼応するように輝いた。
「10まんボルト!!」
「ぴぃぃぃかぁぁぁ…!」
「負けるなブラッキー、バークアウトを放ち続けるんだ!」
ピカチュウの電撃チャージを前にしてもシゲルは怯まない。
バークアウトには、相手の特殊攻撃力をダウンさせる効果がある。加えてブラッキーは耐久力に秀でたポケモンだ。
それは、ポケモントレーナーとして、そして研究者として、双方の見識から導き出した応戦策であった。
「ちゅううううう!!」
バリバリバリバリバリバリ!!
「ぶらッ!?きぁららららら…!」
「なにィッ!?」
ピカチュウの10まんボルト、その電撃があくエネルギーを強化されたバークアウトを一方的に突き破り、ブラッキーを襲った。
「ブラッキー!!」
全身に電撃を浴びせかけられ、たまらずブラッキーは側面から地面に落着させられる。
辛うじて戦闘不能にはなっていない。だがしかし、ダメージは甚大。バークアウトによる特殊攻撃力の減殺効果がなければ、間違いなくこの一撃で倒されていたことだろう。
「すげぇ…!すげぇパワーだぞ、ピカチュウ!!」
「ぴかぁ…!ぴっかぁ!!」
姿だけではない。持ち前のでんきエネルギーがより強化されたピカチュウのパワーに、サトシは感激していた。
ピカチュウも自身に付与された力の使い方を心得たようである。
「(まさか、これほどとは…。)」
シゲルは、ピカチュウがサトシのポケモンとなる前の頃からその存在自体は知っていた。
幼き日、祖父のオーキド博士が全身黒焦げになりながら保護し、特注した専用のモンスターボールの中に入れていたのを、相当に癖の強いポケモンなのだろうと見ていた。
そんな気性難なピカチュウが、数奇な運命からサトシのパートナーとして様々な試練、強敵を乗り越えてきたことは、シゲルのみならずサトシを知る者ならば周知の事実である。
それはそれとして、だ。テラスタルにより引き出されたピカチュウのパワーは、相手取るシゲルからすれば完全に規格外のそれであった。
さりとてじっくりと戦えるだけの体力的余裕は、先程の10まんボルトによりブラッキーからゴッソリと削り取られてしまっている故に全くない。
「(短期決戦、それも隙を突いて会心の一撃を入れるしかない。)」
シゲルの中に交代という選択肢はない。無論、リベンジを簡単に許すつもりも、毛頭ない。
「ピカチュウ!でんこうせっか!」
「ぴっかぁ!」
シュバ!シュバ!シュバァァァウ…
グロッキー状態となったブラッキーを逃す道理はサトシにはない。
ピカチュウが高速で距離を詰めれば、その動きはまさに稲光。
「くッ!速い…!」
「速すぎて見えないです…。」
リーリエら野次馬はピカチュウの動きを視界に捉えられず、シゲルも目で追うのがやっとな有様であった。
「(でんきエネルギーがピカチュウの筋肉系に刺激を与え、そもそもの身体能力をパワーアップさせるなんて。)」
テラスタルとは、ポケモンの保有するタイプをテラスタイプに基づきトレーナー側が適切な場面にて運用してゆくのが基本的な運用法である。
ポケモンのタイプ相性に働きかけるのが主な役回りであり、基礎的な身体能力向上にまで繋がるのは、そもそも保有していたタイプエネルギーが他者よりあまりにも膨大であるサトシのピカチュウだけの話であろう。
研究者としては非常に興味のそそられる話だが、トレーナーとしてはひたすらに脅威である。
「ぴかぁ!」
ピカチュウがスピードに乗ってブラッキーに飛びかかる。今度は、シゲルが迎え打つ番となった。
『パワーファイトのライバル決戦』
ジョウトリーグ決勝トーナメントでのシゲルとの一戦、サトシは相棒のピカチュウをメンバーから外してまでシゲルの得意なパワーファイトに持ち込み、シゲルはピカチュウが応援席にいるのを見て自身のポケモン選出に狂いが生じたことをそれぞれパンジーからの取材で答えている。