3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 シゲルに実技試験を免除してもらったサトシは、テラスタルの座学を受ける日々を送っていた。
 そんな中、トップチャンピオンとの試合を控えるオモダカと語らい、エールを送るのだった…。


スカーレットアドベンチャー 女流パルデア"頂"決戦 トップチャンピオン現る

 翌日、テーブルシティの中央広場には、生徒のみならず各地より足を運んできた多くの来訪客が集まっていた。

 パルデアリーグ・チャンピオンテスト…その最終戦の舞台が、この地と決まった為である。

 

『我がパルデアが誇るべきポケモントレーナーの模範たるチャンピオンの試合を閉じられた舞台で致すは万民に対する裏切りである。チャンピオンの試合とは、常に人々の目に焼き付けられなくてはならない。ネット配信のみ?ハッ!無粋なり!』

 

 それは、トップチャンピオンたっての希望でもあった。

 慣れ親しんだテーブルシティの街並みを背景に戦えるのは、オモダカにとっても精神的に楽になるだろうと言うのが彼女の側の支持者の意見だ。

 

 

 

「それでは今回のチャンピオンテスト最終戦!強大なるトップチャンピオンに立ち向かう我らが生徒会長オモダカの応援団長として不肖、この2年生チリちゃんが音頭を取らせてもらいます!皆々様、どうぞよろしゅう頼みます!」

 

「よっ!チリちゃん、パルデアいちッ!」

 

「おっとこっまえ〜!」

 

「ちょいちょーい!そこは美人さんやろ〜。」

 

 急ピッチで設営された臨時の応援席、その最前列にて、学帽までしっかり被った古風な学ラン姿のチリが同じ出で立ちで集まった応援団の指揮を執る。

 元より整った顔立ちにマッチしたその姿に、あちこちから黄色い声が飛ぶ。

 

「チアガールにいるのアレ、1年のリーリエさんだよね?」

 

「だと思うけど隣にいるのは誰かしら?リーリエさんって確かお兄さんはいるとは聞いてるけど…。」

 

 チリが陣頭指揮に入る応援団の華であるチアガールの集団の中でも、可憐さが際立っているのがリーリエだった。

 その隣で、お揃いのチア衣装に身を包んでモジモジとしているのは…兄のグラジオ。

 

「何故俺がこんな格好を…。」

 

 

 

 時は少し遡る。場所はオレンジアカデミー。

 シゲルの受け持つ最後の座学を終えたサトシは、そそくさと教室を飛び出して行った。

 サトシの後を追うリーリエが、道中鉢合わせしたのが、別の授業を受けた後のグラジオである。

 

「兄様、サトシはどこに行かれたか知りませんか?」

 

「通り過ぎた先は生徒会室だったな。おそらくはこの後のチャンピオンテストに何か噛んでるんじゃあないか?」

 

「あぁ…。」

 

 リーリエからしてパルデアでの再会の際、既にサトシとオモダカは昵懇なように見えていた。

 彼女が大一番を迎えると言うなら、そこにエールをかけに行くのが友情に厚いサトシという男であることも知っていた。

 そんな状況に割って入るのは無作法と言えよう。

 

「では…サワロさん。」

 

「御意。」

 

「え?」

 

 ガシリ、とリーリエの一言に応じたサワロがぬるりと背後に回り込み、グラジオを羽交い締めにする。

 筋骨隆々な肉体からする甘ったるい香りに困惑しながら、グラジオはジタバタ体を動かすが、その拘束から逃げられる気配はない。

 その様を見ながらリーリエはババッ!と指と指の間にメイク用具を挟んで構える。

 

「兄様にわたくしたちの練習台になってもらいます。」

 

 ジリジリと詰め寄るリーリエの目は、ギラギラと輝いていた。

 その輝きはグラジオが見るに、3年前に直接対決をしたアローラリーグの舞台のそれより激しいものであった。

 

「や、やめろ!やめてくれぇー!!」

 

 

 

 時を戻そう。

 こうして妹の女装メイクの餌食となったグラジオの動きは自然なものになりようがなかった。

 それはそれで一部の趣向の持ち主には美味しいと言えるものではあるが、それはまた別のお話である。

 

「兄様、もっとポンポン振ってください。」

 

「できるかぁー!!」

 

 

 

「Hey!ブラザー。経過はどうだい?」

 

「医者も大袈裟なんだよ。」

 

 臨時応援席の別所にて、ギプスで右腕を固定している状態のグズマが立ち見するところに声をかけてきたのは、パルデアで見つけた波長の合う友人であるライムだ。

 その傍らには、彼女によく似た褐色の美女が、勝ち気な印象を与えるライムとは対照的に朗らかな笑みを携えている。

 

「アンタは、出歩いてていいのかい。」

 

「ウフフ、妊婦さんには適度な運動も必要だってお医者さんに言われてるのよ。」

 

 膨らんだお腹を愛おしげに撫でながら答える彼女はタイム。

 『雪と鎮魂の町』と呼ばれるナッペ山山頂付近の町フリッジタウンのジムリーダーであるが、現在は産休中。

 グズマとは、テラスタル試験の実技考査を受け持った間柄であった。

 

「それにこの熱気…これから始まる凄いバトルのエネルギーを、この子に感じてもらいたくて。いい胎教になると思わない?」

 

 タイムにグズマは言葉で返答はしなかった。ただ短く頷くのみである。

 なんとなくであるがグズマは、タイムは、いい母親になるだろうなという所感を持った。

 今のところ所帯を持つ見込みもない自分からすれば、それを口にするのは失礼に思えたから、それも言葉にはしなかった。

 

「おっ、人が座ったね。そろそろみたいだ。」

 

 ライムが目ざとく仮説の放送席を見て話す。

 グズマもタイムも、スタジアム代わりとなる広場の中心部に視界を向けた。

 

 

 

「全国のポケモントレーナーの皆さま及び、ポケモンバトルファンの皆様お待たせ致しました!これより、パルデア地方ポケモンリーグ主催、チャンピオンテスト最終戦を執り行います!実況は私ジッキョーが、解説はフリーのポケモン研究家であるオーキド・シゲルさんをお招きしてお送りします。シゲルさん、本日はよろしくお願いします。」

 

「どうも。よろしくお願いします。」

 

「シゲルさんは、かのポケモン研究の第一人者であるオーキド博士のお孫さんなのですが、3年前のジョウトリーグではベスト16入賞、研究業界に転身してからは、かのプロジェクト・ミュウの中核メンバーとして目覚ましい活躍を続けておりますが、今回の試合はどう見てますでしょうか?」

 

「そうですねぇ。正直なところ、バトルはもう引退した身ですので、純粋ないちファンとして高い次元の駆け引きを、試合を見る方々と一緒に楽しめたらいいなと気楽に考えてますね。」

 

「自然体ですね。流石は大物オーキドファミリーの一員と言ったところでしょうか。」

 

「緊張感がないだけですよ。あっ、挑戦者が出て来るみたいですね。」

 

「あ、ホントだ。えー…コホン。」

 

 ジッキョーが喉にひと呼吸を置かせる。

 オープニングトークを無難にこなし、シゲルの視点も戦場へと向いた。

 

「オレンジアカデミー1年生にして生徒会長!圧倒的かつ絶対的なカリスマを持ち、学業と生徒会活動に並行しながら瞬く間にジムチャレンジを完走!その勢いのままにチャンピオンテストの四天王をも全員撃破!最終戦前に参加した、イッシュ地方でのPWT…ポケモンワールドトーナメントジュニアカップでも優勝を果たし、最高のタイミングとテンションで以てトップに挑みます!」

 

ワァァァァァ…!

 

 野次馬たちが詰め掛ける入場通路からオモダカが姿を現す。

 その隣にはサトシが左肩にピカチュウを乗せて続く。

 

 

 

「挑戦者、オモダカ選手入場ォォォーーーーーッ!!!」

 

ウオオオオオオオッ!!

 

 

 

「顔色ええな。気負ってる訳でもない。程良く気合い入っとるわ。」

 

 後輩であり、友人であるオモダカをまず認めてチリは安心する。

 あれならばいい試合をするだろう、と。

 

「サトシがセコンドか。」

 

「相手もチャンピオンですもの。会長さんもきっと心強いはずです!」

 

 リーリエの理屈は正しい。

 しかし、グラジオからすれば、サトシという男はどこまでいっても自らが戦うことに意義を見出すタイプである。

 誰かのサポートをするセコンドの立場をこなせるかどうかは未知数に思えた。

 

 

 

「きみが勝つのは容易いだろうが、きみが勝たせることは果たして出来るかな?」

 

 元よりテラスタルの座学を受け持つ以外は基本的にフリーな立場からたまたま受けた試合解説のオファー、言ってしまえば路銀稼ぎの暇潰しである。

 そんなシゲルの興味も、グラジオと同じところに帰結していた。

 

 

 

 時は遡る。

 昨日、必勝を誓ったオモダカは、思い出したようにサトシを見る。

 

「そうだ。エールを頂きついでと言ってはなんですが。」

 

「ん?」

 

 首を傾げるサトシに、オモダカは一瞬気恥ずかしげに視線を逸らしてから、すぐに戻す。

 

「明日の試合…セコンドについてくれませんか?アドバイスはなくてもその…近くにいてくれるだけで構いませんので。」

 

「あぁ、いいぜ。」

 

 オモダカからすれば急な無茶振りをあっさり承諾したサトシは、至って真剣であった。

 パルデアに到着してから、道に迷うことなくスムーズに旅ができたのは、ひとえにオモダカの案内があってのことである。

 彼女がいなければ、マメバッタをゲットすることは出来なかったかもしれないし、リーリエの危機に駆け付けることも出来なかったかもしれない。

 そんなところから、サトシはオモダカに恩返しをしたかったのだ。

 

 

 

「本当にありがとうございます、サトシ。」

 

「なにが?」

 

「ぴかぁ?」

 

 時を戻そう。

 入場通路からサトシはオモダカの後ろについて歩き、広場の中央まで辿り着く。

 

「セコンドを受けて下さって。」

 

「なんだ、それか。そんなの当たり前じゃん。俺たち、仲間なんだしさ。」

 

「仲間…?」

 

「ぴかぴかぁ!」

 

 快適な旅を提供してくれた恩返しの気持ちは大きい。それと同じくらい、サトシにとってはオモダカは大切な仲間となっていた。

 大一番を迎えて頑張る仲間の背中を支えてあげたいと願うのも、サトシの嘘偽りない本心であった。

 

「サトシ…。」

 

 オモダカは胸が一杯になる。まだ試合はこれからだというのに、だ。

 これではいけない。そう、分かってはいるが、とめどなく感情が溢れてくる。

 これは喜び、なのはそうだろう。それとは別の、胸が暖かく、頬が紅潮してゆく感覚は、ポケモンバトル一筋で突っ走って来た10歳のオモダカには、うまく言語化出来ないでいた。

 

ゴアアッ!

 

「むッ!?」

 

「来たな。」

 

「ぴぃかちゅ…。」

 

 反対方向の入場通路より浴びせかけられる突き刺さるような闘気を前にオモダカは振り返る。

 

「(3年前のシロナさんやカルネさんより凄い波導だ…。)」

 

 その闘気…波導を前に、サトシは心内で冷静に姿を現す相手の力量にアタリを付けていた。

 

 

 

「対するはパルデア地方“全国入り"の立役者にして、『不動なる獅子王』!!その苛烈な牙が今宵も、満場の人々の面前で挑戦者の夢を無惨に引き裂くのか!?」

 

 

 

「フフ…。」

 

 銀髪の美女が、頂点に立つ者の闘気を放ちながら歩を進める。

 銀の長髪が風に靡き、白のチューブトップとホットパンツに発育したプロポーションを閉じ込め、胸元を開けたジャケットの背のマントがたなびいている。

 その威風堂々たる佇まいは、まさに王者の風格…。

 

 

 

「パルデア地方トップチャンピオン、ミシェリ入場ォォォーーーーーッ!!」

 

オオオオオーッ!!カッカーッ!!

 

 

 

 『閣下』と愛称を持つ獅子の眼光が獲物を捉える。

 誰が喰われるものかとオモダカは視線をぶつけ返す。

 

「ほぉ…。」

 

 互いの闘気がぶつかり合う。萎縮していない少女のそれに、獅子王は目を細めた。

 少しは楽しめそうだ…と。

 

 

 




 『タイム』
 30歳。フリッジタウンのジムリーダーで、ライムの姉。
 オレンジアカデミーにも講師としてよく出入りしている。現在は産休中。
 いわタイプの使い手で、朗らかな態度ながらバトルでは岩岩(ガンガン)相手を攻め立てるスタイルだ。
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