3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 オレンジアカデミーに入学して日々を過ごすサトシ。そんな中で舞い込んだオモダカのチャンピオンテスト。
 世紀の一騎討ちに、サトシもオモダカのセコンドに付くのだった…。


スカーレットアドベンチャー チャンピオンテスト ミシェリvsオモダカ①

「トップチャンピオンのミシェリ…奴は強いぞ。」

 

 チアのグラジオが、自身の格好に恥ずかしがるのも忘れてトップチャンピオンの放つ闘気に息を呑む。

 その目は慣れるはずもない女装に困惑する様から戦士を見定めるものに変わっていた。

 

「デビューした年には早々にチャンピオンランクに昇り詰め、3年前、16歳の時に先代よりトップチャンピオンの座に就いた。今年19歳にてその手腕を存分に活かしてついにはパルデア地方の"全国入り"を承認させたやり手の女…。」

 

「その間ずっと無敗を誇る、まさに心身ともに全盛期と言える"グレート・チャンプ"ですな。」

 

 言葉を続ける学ラン姿に身を包んだサワロにグラジオはうむ、と頷く。

 

「でも…でも会長さんならきっと勝ってくれますよ!サトシだってついてます!」

 

 リーリエが手に持つポンポンを揺らし乱しながら兄に食ってかかるように返す。

 グラジオとてオモダカの実力を知らないではない。しかし、内心で推し量る力の差は、如何ともし難いというのが正直なところではあった。

 目の当たりにしたトップの闘気に、自分が戦うでもないのに萎縮させられていたのだ。

 

 

 

 挑戦者オモダカ側のトレーナーサークル後方に用意されたセコンドエリアにサトシが着く。

 仁王立ちし、腕を組んではこれから行われる戦いを1番近いところから見届けるのだ。

 

「ぴかぴ。」

 

「大丈夫さ、オモダカなら。」

 

 不安げな声色のピカチュウ。臨時で枠線の敷かれたバトルコート中央部にて試合前の挨拶に入る2人に、真剣な眼差しを向けたまま優しく返していた。

 

 

 

「よくぞ8つのジムチャレンジと四天王の関門を突破し、儂に挑みに来た。まずはそこを称賛しよう。」

 

 どこまでも涼やかな声音とともに差し出された右手にオモダカは応える。

 

グググ…!!

 

 握手を交わすお互いの右手、右腕の筋肉が脈動する。それはさながら、両者の闘志が握力として伝染していたといえよう。

 

 

 

「両者健闘を誓い合う固い握手!女性同士なのもあって実に華やかで、爽やかな光景であります!」

 

「そうですねぇー。」

 

 そんなわけない、とシゲルは内心呟く。

 女同士以前に、トレーナー同士。これから行われるのは、チャンピオンというタイトルを賭けた死闘なのだ。面前に広がる浮ついた爽やかさなどは、表面的なものでしかない。

 それこそが、ポケモンバトルの醍醐味であり、このピリついた空気に、シゲルは懐かしさすら感じていた。

 

 

 

 絶対に勝つ、そんな決意を押し付けあった固すぎる握手の後、試合をする両者はトレーナーサークルに散ってゆく。

 

「ほう…。」

 

「これは…。」

 

 ミシェリもオモダカも、モンスターボールを握る右手に痺れを感じていた。それほどまで強く、相手の手を握っていたのだ。

 改めて互いに睨み合う。その口元は、不敵に吊り上がっていた。

 バチバチと視線がぶつかり合う中、バトルコート中央サイドの審判サークルに入るのは、パルデア四天王最若手のハッサクである。

 

「ではこれより、パルデア地方ポケモンリーグチャンピオンテスト最終戦!トップチャンピオンミシェリvs挑戦者オモダカの試合を始めます!!」

 

ヒューヒュー!イイゾーニイチャン!

 

 齢18ながら朗々と口上を進める金髪の青年にも声援が飛んでいる。

 

「試合方式はシングルバトルで6C3…。」

 

「待てぃ、ハッサクよ。」

 

 試合ルールの確認のところでミシェリから待ったがかかる。ギョッとしながらハッサクはトップを見た。

 

「これだけ多くの人々が現地に集まり、しかも試合そのものは生配信され全国に伝えられゆくこの大一番!如何に6体使うとはいえその半分が倒れたところで終わりでは尻切れヤンヤンマであろう?」

 

「では、どう致しましょう?」

 

「決まっておる。フルバトルにせよ。」

 

 ミシェリの申し出におおっ、と歓声が沸く。

 ポケモントレーナーが一度に連れて行ける限界数の6体。それを余すことなくバトルに用いて雌雄を決しようというのだ。

 現在においてフルバトルは、地方リーグの決勝トーナメントないしはマスターズトーナメント準決勝からでしか運用されていない。

 チャンピオンの資格、その有無を問うという意味では、じゅうぶんこの試合もその格式として見合っているだろうというのがミシェリの言い分であった。

 

「(まさに"獅子王“の名に恥じぬ剛毅さよ。)」

 

 これにハッサクは唸りながらチラ、と挑戦者を見る。

 ハッサクとオモダカは四天王として対峙して以降、個人的な知己でもある。

 それはそれとして、試合の根幹たるルールに関わる話には直接戦う挑戦者として発言の権利と自由は当然有しているのだ。

 

「私は構いません。」

 

 ハッサクからの視線に、まず結論たる意見から簡潔に述べ、息を吸う。

 感じる喉の渇きが、どうしようもない緊張をオモダカに伝えていた。

 

「私は、どんなルールであれ、全力で戦うだけです。そのための準備を整えて今日、この場に立っている。そして…。」

 

 ボールを握る右手をトップチャンピオンに向け、人差し指で指差して見せる。

 

「あなたに勝ちます。」

 

ウオオオオオ!シビレルゥ〜!

 

 オモダカのパフォーマンスもさることながら、フルバトル自体そうそう拝めるものではない。これから始まる試合内容に関わらず、チャンピオン級がぶつかり合うような強度の高いバトルを堪能できるというのは見る側からすればありがたい話だった。急な開催地決定により、今回の観戦席には特に入場料もかかってないのもあるし…。

 

 

 

「あーっと、トップチャンピオンミシェリによるルール変更の提案、6C3D方式からフルバトルにしようという申し出を挑戦者オモダカ選手、真っ向から受けて立ったーッ!!」

 

「こうなることを見越して挑戦者さんも6体きちんと自信のあるメンバーを選んできたわけだね。」

 

 

 

「挑戦者の言や良し!!ハッサク!諸々の問題起こらば、儂自らが責任を取ろう!!」

 

 両者共に依存なしならば、とハッサクも頷く。

 

「畏まりました!改めまして、使用ポケモンは6体!どちらかのポケモンが、6体全て戦闘不能となった時点で決着と致します!!」

 

ウオオオオオ!フルバトルキター!!

 

「各種バトルシステムの使用はどれか1種類を1度のみ!」

 

「そこは構わぬ!!」

 

 ミシェリがチューブトップに閉じ込めた豊満な胸部を揺らし、凛とした立ち姿を決める。

 

「それではドローンロトムのバリア展開の後、先発ポケモンの投入と同時に試合開始と致します!!ヘイ、ロトム!」

 

「リョウカイ、バリアフィールドテンカイ。ジンコウガラテラリュウシ、フィールドナイ、サンプ。」

 

 臨時バトルコートの頭上を陣取り、飛行していたドローンロトムから、コート全体を覆うバリアフィールドが展開される。

 次いで各種バトルシステムの使用を解禁する特殊な粒子の散布は、近年の公式戦においてはもはや恒例のルーティンと言えた。

 

 

 

「さぁいよいよ試合開始です!新たなチャンピオンランク誕生なるか!!それともトップチャンピオンが力を誇示して終わるのか!!」

 

「試合のペースを握るための大事な緒戦。先発適性の高いポケモンを繰り出すか、その辺の適性をあえて無視して信頼度の高いポケモンを繰り出すか…。」

 

 先程まで気楽にトークをしていたシゲルの目の色が変わっている。

 バトルの世界から退きながらも、心はまだまだ戦う者の意識を失っていない証左といえた。

 

 

 

「オモダカ!気合いだ!気合いで負けちゃいけないぜ!!」

 

「ぴかぴかちゅう〜!」

 

 背後からサトシの声が聞こえる。

 その発破にオモダカは奮い立ち、乾いた喉に唾液を流し込んで無理やり潤わせる。

 

「はい!」

 

 胸に抱く多幸感は、バトルを前にして初めての経験…。

 

「私の気合いを乗せて、光あれ!キラフロル!」

 

「ふろぉぉぉし!!」

 

 オモダカの投げ込んだボールから飛び出したのはキラフロル。

 彼女の最も信頼を置く相棒ポケモンだ。その仕上がりを見て頷くミシェリの投げるボールから飛び出すのは…。

 

「がるおおおおおッ!!」

 

 その分類に恥じぬ赤く、大きな炎のたてがみを顔の周りに生やした巨体を見せたのはおうじゃポケモンカエンジシ。

 その立派なたてがみから、雄であるのは明白だ。

 

 

 

「トップチャンピオンの先発はカエンジシ!挑戦者の先発はキラフロル!シゲルさん、どうですかこの対面は?」

 

「タイプ相性の上ではいわタイプであるキラフロルに対し、ほのお、ノーマルタイプのカエンジシでは有効打があまりないイメージではありますね。」

 

「と、なると先発はオモダカ選手の出し勝ち、と言える感じですか?」

 

「表面的にはそう見えるかもしれませんね。ただ…エキスパート同士の戦いにおいて、表面的なタイプ相性などはあくまで前提にすぎません。油断は禁物ですよ。」

 

 それは、リーグの舞台で戦って来たシゲルだからこそ出すことのできる含蓄であった。

 

 

 

「それでは試合開始…よーい、ドラゴン!!」

 

 酷く特徴的な掛け声と共に試合開始のコールが通った。

 浮遊するキラフロルは高度を上げていき、花弁を広げながら回転を始める。

 

「(カエンジシに、キラフロルへの有効打はないはず…ならば!)」

 

「相性有利な所を活かして盤面を構築、か?」

 

「ッ!?」

 

 最初の一手が完璧に読み切られている…。

 そう頭によぎったオモダカに頭の中を整理させる暇を与えるトップチャンピオンではない。

 

「そやつは確かどくタイプでもあったはずじゃのう!」

 

「くッ!ステルスロック!」

 

「いただくぞッ!」

 

 キラフロルが空中で花弁を広げ、全身を回転させれば、あちこちに石柱を撒き散らしてゆく。

 読まれたといえど、無理に一手を変えるのは余計大きなリスクを抱えることになりかねない。

 この時オモダカは、カエンジシ側にキラフロルへの有効打があることを確信させられていた。

 

「跳べッ!カエンジシ!!」

 

「がおおおおう!!」

 

 四つ脚による力強い跳躍を見せ、カエンジシが、瞬く間にキラフロルに肉薄する。

 

「ふ、ろぉ!?」

 

「サイコファングよ!!」

 

「がぁぁぁぁッ!!」

 

ガブァッ!

 

「キラフロル!」

 

 空中での交錯、石柱をばら撒くキラフロルの胴体めがけ、カエンジシが容赦なく噛みつき、牙を突き立てる。

 どくタイプはエスパータイプの技に弱い。効果は抜群であった…。

 




 『"かわせ"という指示の衰退』
 相手の攻撃をとにかく回避に専念せよという意図の指示は、そのまま連続攻撃の起点になるケースが多く、この3年間の内でトレーナーズスクールのカリキュラムでも非推奨とされている。
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