3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 手痛い先制劇でペースを握られながらも最初にダウンを取るオモダカ。
 ミシェリが投げ込む次鋒マリルリは、ステルスロックにより異様な反応を見せた。


スカーレットアドベンチャー チャンピオンテスト ミシェリvsオモダカ③

 サトシの脳裏で時は遡る。

 それは3年前、サトシがアローラスクールに通っていた頃。

 メレメレ島の砂浜で、恩師であり、第2の父と言えるククイ博士に特訓に付き合ってもらっている時のことの会話が蘇る。

 

「いいかサトシ。ポケモンバトルにおいて攻撃は最大の防御だ。それはお前も嫌と言うほど理解してるよな。」

 

「うん。」

 

「だが、闇雲に攻撃してダメージを与えればいいってもんじゃあない。ポケモンには俺たち人間と同じように経絡秘孔、要はツボって概念があってな。」

 

「場所やタイミングが悪いと、逆に自分の攻撃で相手をパワーアップさせちゃうってこと?」

 

「ああ。手練れのトレーナーほど、相手の作戦を逆に利用しちまうもんだからな。」

 

 気をつけろよ?とククイ博士に人差し指で額をツン、とつつかれる。

 無鉄砲なきらいがあるサトシにはタメになりながらも、耳の痛い個人講義であった。

 

 

 

「トップチャンピオンミシェリの2番手はマリルリ!そこにキラフロルが散布したステルスロックが襲いかかるもこれは一体!どうしたことかーッ!」

 

 

 

「まりぁぁぁぁぁ!!」

 

「よいぞマリルリ!パワー全開じゃあ!!」

 

 マリルリの全身が活性化し、卵形のキュートなボディがさながら筋肉の塊へと変貌してゆくのを見てミシェリが快哉する。

 そのメカニズムをすぐ解明したのは、ポケモン研究者として相応にキャリアを積んできたシゲルの面目躍如であった。

 

 

 

「ステルスロックを逆用して、はらだいこで刺激するお腹のツボを突かせたのでしょう。なるほど、この為に敢えてどくびしだけを処理させたわけだ。」

 

「なんと!マリルリはみずとフェアリーの複合タイプなことも関係してたりするのでしょうか?」

 

「それも、ありますね。」

 

 

 

「ステルスロックを逆手に取ってくるとは…。」

 

「りぃるるるるぅ!!」

 

 オモダカが唸る。

 その腹に突き刺さったステルスロックを、マリルリは引き出された凄まじい腕力でまとめて握り潰してしまった。

 キラフロルが手傷を負いながら設置した仕掛けは、あっさりと薙ぎ払われてしまったのだ。

 

「み、みじゅま…。」

 

 マリルリのあまりの豹変ぶりに、流石の惚れっぽさも引っ込んでしまったミジュマルである。

 

「クエスパトラ、もう一度"スティンガー・サイケこうせん"!」

 

「くぇぇぇ!!」

 

 クエスパトラの両目が再度発光し、螺旋の光線が放たれる。

 

「マリルリ、アクアジェット!」

 

 ミシェリの号令にマリルリは全身を屈め、地面スレスレを超低空跳躍しては真正面から光線とぶつかり合い、その筋力を存分に活かして弾き飛ばし、クエスパトラに肉薄する。

 

「マリルリを引き剥がすのです!ルミナコリジョン!!」

 

「遅いッ!!アクアブレイク!!」

 

「りるぁぁぁぁぁ!!」

 

 クエスパトラが全身からカエンジシにカウンターを喰らわせる不可思議なる発光攻撃を放つも、2度目は通用しなかった。

 マリルリがアクアブレイクの指示にて全身に纏ったみずエネルギーのオーラが、視界への暴力を封じたのだ。

 

「ぬぅッ!」

 

「やれぃ、マリルリ!」

 

 マリルリがクエスパトラのボディを掴み、抵抗する隙を与えず後方へ身体を反らし、跳躍する。

 

 

 

「あーっとマリルリ、クエスパトラを掴み上げたまま美しい曲線をフィールドに描いて跳ぶ!こっ、これはぁーッ!?」

 

「バックドロップ、だね。」

 

 

 

バァァァァァン!!

 

 マリルリのバックドロップが決まり、クエスパトラの脳天が地面に叩き付けられる。

 クエスパトラは全身の力が抜け落ち、その場で沈黙した。

 完全に目を回している。

 

「クエスパトラ、戦闘不能!マリルリの勝ち!」

 

ミシェリ…残りポケモン5体。

 

オモダカ…残りポケモン5体。

 

 

 

「マリルリ、アクアブレイクから流れるようにバックドロップでクエスパトラを撃破!瞬く間に数的不利を取り返したーッ!」

 

「しかもただ取り返しただけじゃあない。マリルリはパワー全開状態で体力にも余裕がある。下手をしたら…ここで挑戦者の編成は壊滅させられてしまうかも。」

 

 機運を掴んだ相手を止めるのは容易なことではない。

 それは、オモダカのセコンドに入るサトシを見ながら語るシゲルには、実感であった。

 

 

 

「クエスパトラ、よくやってくれました。ゆっくり休んでください。」

 

 オモダカがクエスパトラをボールに戻す。

 キラフロルのお膳立てがあったとはいえ、実際カエンジシにトドメを刺せたのは紛れもなくクエスパトラの功績だ。

 この奮戦、決して無駄にしてはならない。

 

「圧倒的なパワーに対するは、圧倒的なディフェンス…!」

 

 オモダカが次のボールを取り出す。

 

「ナッペ山のように…雄大たれ、クレベース!」

 

 投げ込まれたボールから飛び出す巨体がマリルリを見下ろす。

 

「くれおおおおお!!」

 

「まりゃぁ!?」

 

 咆哮を浴びせかけるクレベースに、マリルリもメンチを切って応戦している。

 

「PWTの時よりまたおっきくなったな、クレベース。」

 

「ぴかぴか。」

 

 クレベースの氷のボディから放たれる冷気を肌でバシバシと感じ取る。

 まさしく動く永久氷壁とすら形容できる威容は、筋肉の塊と化しているマリルリにも決して見劣りしていない。

 

「臆さず攻めるぞマリルリ!アクアブレイクじゃ!!」

 

「りるぁぁぁ!!」

 

モリモリモリモリィィ!

 

 王者に後退の意思はない。あってはならない。

 マリルリはダブルバイセップス・フロントのポーズを取り隆々とした筋肉を披露しながら突撃する。

 

 

 

「挑戦者オモダカの3体目はクレベース!チャンピオンミシェリのマリルリは真正面からいったーッ!!」

 

「マリルリははらだいこ効果でパワー全開、さらにおそらく特性はちからもち。一気に押していく訳だね。しかし、クレベースの物理耐久力も半端ではない。」

 

 

 

「受けなさい、クレベース!!」

 

「くれぉあ!!」

 

ズガァン!!

 

 みずエネルギーのオーラを纏いながら筋肉の弾丸と化したマリルリの突撃を、クレベースは真正面から受け止める。

 もっともこの巨体だ、器用に回避など出来ようもないが。

 

「この手応え…!!」

 

 想定よりも…硬い。

 マリルリの表情もギョッとしている。

 

「くれぉぉ…。」

 

「いかにパワー全開であろうと、物理攻撃ならばクレベースは!!」

 

 クレベースの全身がにわかに鋼色を帯びていく。

 がっぷり四つと顎下に組み付くマリルリを依然見下ろしたまま余裕を崩さない。

 

 

 

「マリルリのパワー全開アクアブレイクを前にクレベース動じていない!凄まじい物理耐久だーッ!!」

 

「クレベース自身の耐久もさることながら、それに加えててっぺきの技も使ってるね。アレを物理で突破するのは厳しいんじゃあないかな?」

 

 

ウオオオオオ!!

 

 マリルリ渾身の筋肉質量弾を受け切るクレベースに満場の人々が沸く。

 それでこそ、とミシェリは笑みを深める。歯応えのない挑戦者など、王者(チャンピオン)としても願い下げなのだ。

 

「ならばこいつはどうじゃ!?マリルリ、やれぃ!!」

 

「りるぁ!!」

 

 マリルリの双眸が再度ギラリと輝く。そして組み付いたクレベースの顔面を掴み…。

 

グググググ…!!

 

 

 

「えぇッ!?」

 

「な、なんてパワーだ…!」

 

「0.5トンやで…?」

 

 

 

「あーっと!マリルリ!高さ2mに加え、重さ500kgはあるクレベースの巨体を、も…持ち上げたーッ!!」

 

「凄まじい怪力だね。本家かくとうポケモンもびっくりだよ。」

 

 

 

 いかに筋肉の塊と化しているとはいえ、ミシェリのマリルリの高さは標準的な個体とあまり変わらない0.8m近くである。

 それが巨体のクレベースを垂直に持ち上げるのだ、リーリエたちが絶句するのも無理はない。

 グズマたちも流石に空いた口が塞がらなかった。

 

「受けてみよ!儂のマリルリの全身全霊をかたむけたブレーン・バスターを〜!!」

 

「不味いぞオモダカ!!」

 

「はいッ!!」

 

 確かにクレベースは全身をてっぺきの技により、元から高い物理防御をさらに強化している。

 しかしそれでも、急所である脳天をピンポイントに狙われ、叩きつけられては話は別だ。

 背後から飛ぶサトシの警鐘に、ハッキリとオモダカは頷いて見せる。

 

「そうはさせない!クレベース、こうそくスピン!!」

 

「なんとッ!?」

 

「くれくれくれくれくれ…!!」

 

ギュルルルルル…!

 

 ホールド状態にあったクレベースが急激に回転すれば、掴み上げていたマリルリの両手はおろか、全身が弾き飛ばされる。

 

「りるッ!」

 

 弾き飛ばされ、尻餅をつくマリルリ。

 難はまだ過ぎ去ってはいない…。

 

「クレベース、そのままボディプレス!!」

 

「くれおおおッ!!」

 

 

 

「あーっとクレベース!マリルリのブレーンバスターから逃れ、そのまま全体重をかけたボディプレスだーッ!!」

 

「タイプ相性以前にアレは強烈だね。」

 

 

 

「そんなもの!マリルリ、受け止めよ!」

 

「りるぁ!!」

 

 頭上に落下してくるクレベースの背をすかさずマリルリは掴み、踏みとどまる。

 むざむざ押し潰されるつもりは毛頭ない。むしろ、逆に投げ飛ばそうというのだ。

 

「りるる!?」

 

「どうしたマリルリ!?ハッ…!!」

 

 ボディプレスをかましてくるクレベースを受け止めたまではよかった。しかし、投げ飛ばすのが、出来ない。

 

 

 

「どうしたことかマリルリ投げ飛ばせない!あーっとそれどころか、こっ、これはーッ!!」

 

 

 

ガチィィィィ…!

 

 

 

「マリルリの両手から、凍り付いている。」

 

 

 

「分かりました!マリルリさんはパワー全開、全身の筋肉が活性化して、その分発汗機能も通常よりたくさん働いてます。だからその汗からクレベースさんの氷のボディが放つ冷気により直接触れた両手が凍ってしまったのです!」

 

「これを会長は…。」

 

「間違いなく狙ってやったやろな。」

 

 

 

「いいぞオモダカ!」

 

「クレベース、いけぇッ!!」

 

「くれぁぁぁぁぁ!!」

 

「りぁぁぁ…!!」

 

 オモダカのシャウトにクレベースが応え、全身の体重をかけてゆく。マリルリは筋力で踏ん張るも、体重の差からやがて押し切られ…。

 

ドスゥゥゥゥゥン…!!

 

 下敷きになってしまった。

 

「クレベース、交代です!」

 

 背中からひっくり返った形で落下し、身動きの取れないクレベースをオモダカは引っ込める。

 そのクレベースに押し潰されたマリルリは、仰向けに倒れ目を回していた。

 

「マリルリ、戦闘不能!クレベースの勝ち!」

 

ミシェリ…残りポケモン4体。

 

オモダカ…残りポケモン5体。

 

 

 

ワァァァァァ…!ヒューヒュー!

 

 再び王者のポケモンが倒されたことで歓声が飛ぶ。挑戦者の奮闘にエキサイトさせられていた。

 

「ご苦労であった、マリルリ。」

 

 ミシェリがマリルリをボールに戻し、労いの言葉をかける。

 

「カエンジシにマリルリ…三分の一を倒してくるとはじゅうぶんな実力よ。」

 

 ミシェリは、オモダカをハッキリと強き挑戦者と見定めた。そして、その実力も。

 

「(パルデアのチャンピオンになるがよい…今より先、更なる力を身につけた上でな。)」

 

 実力は認めた。だが負ける気はさらさらない。

 獅子王の瞳が、覇気が、勝負師の殺気を急激に孕んでいた。

 

 




 「スティンガー・サイケこうせん」
 オモダカのクエスパトラが身に付けているサイケこうせんの強化型。
 サイコパワーの応用により螺旋状に軌道を描くエスパーエネルギーのビーム攻撃は本来の幻惑効果以上に貫通力を高めている。
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