3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
その圧倒的な戦闘力を前に、オモダカは残り3体まで追い込まれ前半戦を終えるのだった。
王者ミシェリと挑戦者オモダカ、両選手が退き、フィールド全体をドローンロトムが飛び回っている。
バトルフィールドの現状保持と不正行為防止の目的である。
「オモダカ選手の残りポケモンが3体となったため、試合に臨むトレーナーのコンディション保持を目的とした10分間のクーリングタイムに入っております!さてシゲルさん、前半戦、両者譲らずな中でチャンピオンが一気に豪快な捲りを見せましたが、後半はどう推移していくものでしょうか?」
「うーん…ただでさえ数的不利に加えて情報アドバンテージを取られている。これは、挑戦者かなり厳しい気はしますね。」
シゲルは渋い顔をして見せる。
「チャンピオンはここまで、戦闘不能になったカエンジシとマリルリ、前半で素晴らしい捲りを見せたグレンアルマ以外手の内を見せていません。対して挑戦者の残す3体のうち2体は前半戦で姿を見せたキラフロルとクレベースなのは露見しています。この差は、残りポケモンの数的優劣以上に響いてますよ。」
言外にオモダカの勝利は厳しい、と見解を述べる。そのシゲルの視線は、オモダカ側のセコンドエリアを注視していた。
「ほらオモダカ。一口でもいいから飲むんだぞ。」
「ありがとうございます。」
オモダカ側のクーリングタイム。セコンドエリアに引っ込んだオモダカに、サトシは用意した真新しいタオルを渡して汗を拭わせ、クーラーボックスから取り出したスポーツドリンクを差し出す。
タオルを頭に被ったままのオモダカは、600mlのペットボトルを一口で空にしてサトシに返した。
「ふぅ…サトシ、どうですか?」
「うん。流石に相手は強いよな。」
相手が悪い、ではなくて、強い。
それは、道筋は狭いながらも、オモダカの勝利を決して疑わないサトシなりの嘘偽りない見識であった。
限界まで全ての力を搾り出せばオモダカの刃はミシェリの喉元に届くという、最大級の後押しである。
「ぴぴかか。」
パイプ椅子に座り休憩を取るオモダカの膝の上にピカチュウが飛び乗る。
その可愛らしい仕草は、敗けがチラつく彼女の暗い精神状態を僅かながら癒し、和らげた。
「オモダカ。ポケモンたちを信じるんだ。それと同じくらい、ポケモンたちが信じてくれる自分自身もな。」
「私、自身も…。」
ピカチュウの頭を撫でながらオモダカはサトシを見る。
ポケモントレーナーにとって、共に戦うポケモンたちに信頼を置くのは当然の話である。
サトシが語るのは、そこから先の話…。
「そして忘れちゃいけないのは、"絶対に勝つ"って気持ちさ。」
「絶対に、勝つ…。」
「チャンピオンになって、パルデアを盛り上げたいんだろ?」
前半戦の試合模様は、オモダカからしてどうにかくらいついてチャンピオンのポケモン2体を倒せた、というのが周囲の認識であり、自身もいっぱいいっぱいなのは間違いない話だ。
エースである蒼眼極炎のグレンアルマの対策などは、実際対面してそのほとんどが画餅に帰している。
戦況は極めて不利…しかし、負けと決まったわけでは、ない。
「クーリングタイムノコリ、1プンヲキリマシタ。」
「オモダカ!」
トレーナーサークルへ向かうオモダカをサトシが呼び止める。
左肩の定位置に戻ったピカチュウと共に、右手でサムズアップして見せた。
「オモダカなら、大丈夫!」
それはサトシにとって、かつて仲間から幾度となく受け取ってきたエール。言葉とは裏腹に、ロクなことにならなかったこともたくさんあったが、それらを踏まえてサトシも今の立場にいる。
オモダカの挑戦も、勝つことを目指すのは前提として、その結果はどう転がろうと必ずや彼女の糧になる。
無駄なことなど、一つもないのだ。
「はい!」
オモダカは頷き、元気よく飛び出した。
「流石によく研究し、対策を練ってきていますね。なかなかに強力な挑戦者だ。」
「で、あるな。」
ミシェリ側のクーリングタイム。左目が前髪で隠れた糸目の紳士がミシェリの身の回りの世話をしている。
マント付きのジャケットを脱ぎ、チューブトップに豊満な胸を閉じ込めた扇情的な姿であちこちの汗を拭い、役割を終えたタオルをミシェリは紳士に投げ渡してスポーツドリンクを飲み干す。
「我が主人もこの試合には大いに注目しております。」
「それはどうでもよい。」
ミシェリは紳士ににべもなく返す。
グレンアルマの放った熱気に当てられ、収まらぬ湯気が彼女の放つ覇気とシンクロしているように、紳士には見えた。
「クーリングタイムノコリ、1プンヲキリマシタ。」
「ようし!」
ミシェリは口角を吊り上げながらセコンドエリアを後にする。
「ミシェリ様。」
「ハンベル!」
紳士ハンベルは、パイプ椅子の背にかけたままのマント付きジャケットに気付き、慌ててミシェリに着るよう促す。
そこに獅子の眼光が突き刺さった。
「今は試合中ぞ。弁えよ。」
「はい。申し訳ありません。」
ミシェリがチャンピオンになった時よりパルデアリーグと繋がりが深い組織『エクスプローラーズ』…このハンベルも、そこから出向している世話係であった。
ミシェリは、仕事振りはともかくとして、彼らの介入がいちいち気に入らなかった。
「改めてギベオンに伝えておけ。"ラクア"とかいう訳の分からぬ話にパルデアを巻き込むなとな。」
そう吐き捨ててからミシェリはトレーナーサークルへと向かう。
エクスプローラーズから再三の申し出が来ているパルデアの大穴の調査隊編成と、その運用。ミシェリは、それに類するような案件をトップチャンピオンとなってからはことごとく握り潰していた。
パルデア地方を、ポケモンバトルにて全国へ売り出していく…その方針の前には、大穴調査などにかまけるのは無意味というのが持論であった。
ミシェリの背を見るハンベルの左目は、前髪から覗かれ、ハッキリ見開かれる。
「所詮はポケモンバトルにしか興味のないイノムー武者か。」
「さぁ10分間のクーリングタイムを終え、両サイドからチャンピオンと挑戦者がそれぞれトレーナーサークルに再び入ります!ここから先はもう休憩なし、どちらかのポケモンが全て戦闘不能となるまで試合は止まりません!!」
「フレー!フレー!オーモーダーカーッ!!」
「「「フレッ!フレッ!オモダカ!!フレッ!フレッ!オモダカ!!」」」
チリが陣頭に立つ学ラン応援団のエール。彼女に続いて男子生徒たちが唱和している。
「「「V!I!C!T!O!R!Y!オ、モ、ダ、カッ!!」」」
「ぬおーッ!!」
チアガールたちのパフォーマンスにも熱が入っている。
リーリエらにスタンツで持ち上げられ、空中に舞うグラジオが半ばヤケクソ気味にポンポンを振っていた。
「もう一度光あれ…キラフロル!」
「ふろぉぉぉし!」
「ほぉ…。」
クーリングタイムのルールとして、相手の残りポケモンを3体に追い込んだ側にポケモンの交代は認められない。したがってミシェリのポケモンはグレンアルマのままである。
そこにオモダカが投げ込んだのは、パートナーでありエースのキラフロルだった。
「挑戦者オモダカ、後半戦早々にエースのキラフロルを再度投入!両者エース対決となったーッ!!」
「この対面を制した方に流れは傾く…!」
「クーリングタイム終了!試合再開!!」
「キラフロル、もう一度ステルスロック!!」
「ふろろろ…!!」
ハッサクのコールと同時にオモダカの指示が飛び、キラフロルが石粒をばら撒いていく。
再度盤面から組み立てに走ったのだ。
「こだわる奴じゃのう!」
ミシェリはキラフロルに右腕を伸ばし指差して見せる。
グレンアルマの蒼眼は、標的を確実に捉えていた。
「撃ち落とせ、サイコショック!!」
「るぁま!」
ギン!蒼眼がサイコパワーを纏い、空間爆撃を狙う。
元よりカエンジシの牙で損傷著しいキラフロルだ。本場のエスパータイプの1発が直撃すればひとたまりもないだろう…。
ギギギギギィ!
「るぁ、がッ…!!」
「どうしたグレンアルマ!?」
サイコショックを放つ直前のグレンアルマが頭を抑えながらよろめく。
ミシェリは声を掛けながらすぐに解に辿り着いていた。
「(ドラパルトの、のろいか!)」
ゴーストタイプののろい攻撃は、呪術によるスピリチュアルダメージを相手に与え続ける。
グレンアルマはその継続ダメージによりグラつかされてしまったのだ。
ボゴォン!
「ふろぁ…!!」
「キラフロルッ!!」
「グレンアルマ、のろいのダメージが効いてよろめいたーッ!!それでも爆撃は止まらないーッ!!」
「グレンアルマ、片眼を瞑らされたな。」
「えぇ。あのグレンアルマのサイコショックは、眼を介してサイコパワーを叩き込む。つまり両眼で放って初めて本来の破壊力が出せる代物ね。」
「それでも弱点のタイプにはたまったものじゃねェがな。」
目敏く見抜くグズマにタイムが応じる。
ここにきてグズマは、キラフロルにテラスタルを切らないオモダカの狙いに、なんとなく気付き始めていた。
「キラフロル、あなたの光を後に繋げましょう。」
「ふろぉぉぉ…!!」
キラフロルのボディに、天より宇宙エネルギーが降り注いでゆく。
「(キラフロルの体力はもはや残り僅か…奴の決め技はただひとつ!!全身全霊のメテオビーム!!)」
それは、ミシェリでなくてもオモダカを知る人ならば誰しもが知る帰結である。
「ふろぉぉぉ!!」
キラフロルの全身に着々とエネルギーが充填されているのがミシェリには見て取れた。
「(今なら阻止することはたやすいが…!!)」
刹那の瞑目、そして開眼する。
「…フッ!!フハハハハッ!!!無粋!!!」
ブッピガン!
ミシェリの声に呼応したグレンアルマはキャノン・モードへ移行する。
長い付き合いから、主人の思考などは知り尽くしていた。
「儂はトップチャンピオン!!挑戦者が乾坤一擲に賭けるなら、真正面から受けて立つのみよ!!!」
「るぁまぁ!!」
ジャコン!!とグレンアルマはキャノンの砲口をキラフロルに向ける。
お互いの最大技による真っ向勝負を選ぶ様は、満場の人々の心を痺れさせるに余りあるものだった。
「あーっと蒼眼極炎のグレンアルマ!メテオビームの体勢に入ったキラフロルを真っ向から迎え撃つ構え!!キャノン・モードを見せたーッ!!」
「この試合3発目の…"獅子王円陣大爆破"が来る!」
「エネルギー、臨界…!!」
この場にいる誰もが息を呑む。
オモダカも、生唾をゴクリと呑み込んだ。
「メテオビーム、てえええッ!!」
「ふろおおおおおおッ!!」
コスッ!モオオオオオオオ!!
「獅子王ッ!円陣ッ!!大爆破ァァァ!!!」
「るぁまあああああッ!!」
カカッ!ボォォォレオオオオオ!!
「すげーエネルギー同士が衝突するぞ〜!!」
「伏せろ〜!!」
カッッッッッ!!ドドドドドオオオオオ!!!
2つの大技、2つの意地がバトルコート中央でぶつかり合えば、四方八方に凄まじい衝撃波が発生する。
「あー!ワシのカツラが〜!!」
「あ〜れ〜!」
観客の荷物はおろか、一部では観客自体が衝撃波に当てられ吹き飛ばされてゆく。
「うううッ…!」
「リーリエッ!くッ!」
華奢なリーリエの体が吹き飛ばされそうになり、グラジオが手を伸ばして繋ぎ止めるもグラジオごと吹き飛ばされてしまいそうになる。
「ぬうううん!!」
それを遮るように分厚い胸板で兄妹をキャッチしたのはサワロだった。
「お二人とも、お怪我はありませんかな?」
「ありがとうございます、サワロさん。」
「あ、あぁ。礼を言う。」
「衝撃波が収まってきたで。対決は、どうなったんや…?」
片膝立ちでどうにか凌ぎ切ったチリは、髪留めが吹っ飛んで乱れた長髪を直すことも忘れてバトルコートに見入っていた。
「胎教、とするには刺激が強すぎやしねえか?」
「このくらいエキサイトする試合を感じてもらわなきゃ、将来有望なトレーナーにはなれないわ。」
飛び交った衝撃波を前に、身籠もっていたタイムが踏みとどまり、ライムが吹っ飛んでいったのはグズマには意外だった。
体重的な話か?とも頭によぎりはしたがそれは口にはしなかった。シンプルに母は強し、なのだろう。
必殺のアーマーキャノンと全身全霊のメテオビームのぶつかり合いが収まり、発生したエネルギー爆発によるモヤが晴れてゆく。
「互いの力と技!そして意地のぶつかり合い!競り勝ったのはどちらだーッ!?」
モヤが晴れてゆく中、シゲルは浮遊している物体が地面にボトリと落下する様が微かに見えた。
「あぁ…。」
すぐに決着の行方を理解する。内心ここで、試合の趨勢は決まった、と結論付けていた。
バトルコート中のモヤが晴れてから、ハッサクは全体の確認を行う。
荒れ狂うバトルの様相を前に審判としてビクともせず進行できるのは、鍛え抜かれた竜の一族の肉体故であろう。
本人がそれを喜ぶかはまた別の話だが。
「むッ!?」
審判エリアから軽やかに飛び出し、駆け寄るのは…地面にぐったりと横たわるキラフロル。
全身がブスブスと焼け焦げており、その表情は完全に目を回していた。グレンアルマは…健在だ。
ハッサクは、明瞭な声音でコールする。それが今の自分の役割であるからだ。
「キラフロル、戦闘不能!グレンアルマの勝ち!!」
ミシェリ…残りポケモン4体。
オモダカ…残りポケモン2体。
『ハンベル』
37歳。パルデアリーグにてトップチャンピオンの身の回りの世話をしている。
本来の所属はリーグの公式スポンサーである「エクスプローラーズ」で、そこから出向の形である。