3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
オモダカは、キラフロルを倒され痛恨の事態を迎えていた…。
「エース対決の結末は、チャンピオンミシェリ!蒼眼極炎のグレンアルマに軍配が上がったーッ!!キラフロル、ここで戦闘不能です!!」
「うーん。コレは流石に、挑戦者厳しくなってきましたね。なにしろエースポケモンと言うのは、パーティーにとって扇の要…トレーナーにとって精神的支柱ですからね。それが失われては、瓦解も時間の問題だ。」
こう話さざるを得ないのが解説者としての仕事である。
しかし、言葉を紡ぎながらもシゲルは、オモダカ側に微かな違和感を覚えていた。ミシェリの側へと大勢が半ば決したと言う空気に間違いはない。ただ、その割にはボールにキラフロルを回収する彼女の仕草は、前半に見せていたそれとさほど変わりがなかった。
要は、考えているよりショックが見えないのだ。
「(まさか、まだ奥の手があるのか?)」
疑問が浮べば解決に着手したくなるのが研究者の本能である。
「ちょっと失礼しますね。」
シゲルはタブレットを取り出し、オモダカの過去の試合記録を洗い出す。
ほどなくして、彼女の振る舞いの違和感に辿り着いた。
「なるほどね…。」
そしてそれは、まだ口にはしない。確証がなければ、相手側に事前に知れ渡っていいような狙いでもないからだ。
「凄いやつだ、オモダカは。」
サトシはポツリと呟く。圧倒的に不利な状況に追い込まれながらも、オモダカはまだ明確に『勝ちの目』を残している。
この試合を見ている何人かは…なんなら対峙しているチャンピオンも既に気付いているのかもしれないが、その発動スイッチ自体はどこまでいってもオモダカが握っており、それを奪うことは如何にミシェリが強かろうと真っ向から阻止など出来ようもない。
「ぴかぴか。」
ピカチュウの頭を撫でる。
それは、気合いと根性で格上に食らいつき続けて栄冠を手にした自分にはとても出来ない芸当である。
サトシは、オモダカのクレバーさを同じトレーナーとして尊敬していた。
「頑張れ、オモダカ…。」
「戻れい、グレンアルマ。」
ミシェリはグレンアルマを引っ込める。
ドラパルトからかけられたのろいによる継続ダメージを嫌っての一時後退である。
サトシの見立て通り、彼女もオモダカの『奥の手』の存在を朧げながら掴みかけていた。
「なるほどのう。」
確証はない。それに、そうだとしても対応は出来るはず。
ミシェリの余裕が崩れることはない。
「ならば!」
ミシェリとオモダカがボールを構える。この試合で3度目の同時にポケモンを繰り出す流れだ。
「今一度、雄大たれ!クレベース!」
「ゆけぃ!キョジオーン!!」
「くれぉぉぉ!!」
「きよおおおッ…!!」
オモダカが繰り出したのはマリルリを下したクレベース、ミシェリの繰り出した4体目のポケモン、全体的に角ばった胴体の色は基本的に白いが、頭・上腕・上腿は濃い茶色から薄い茶色のグラデーション。白い菱形の模様と少し色が薄い縞が複数存在する巨体は、ひと目で無機物と分かるフォルムをしていた。
サトシはすかさずポケモン図鑑アプリを起動する。
『キョジオーン。がんえんポケモン。ジオツムの進化系。指先を擦りあわせて、塩をケガしたポケモンに振りかけると、ひどい傷もたちまち治る。』
「タフそうなポケモンだな。」
「ぴかぴか。」
キラフロルの残したステルスロックをオモダカが操作し、ぶつけるも意に介していないキョジオーンに、サトシとピカチュウは険しい視線を向けた。
「挑戦者オモダカは再度クレベースを投入!チャンピオンミシェリはここで新たにキョジオーンを繰り出したーッ!」
「クレベースでどこまで爪痕を残せるか、なんだろうけど…。」
流石はチャンピオン、逆転の芽を摘むのも抜け目がないとシゲルは嘆息してみせる。
先程のキラフロルとグレンアルマの大技対決に持ち込む豪胆さとは打って変わって、詰め将棋のように相手を追い込む冷徹さ…。
この相反する2つの要素の融合、調和こそが強いトレーナーを生むのではないか、という仮説が生まれていた。
対峙する巨体同士。巨大であるが故に激しい動きは見られない。
むしろ、如何に相手を動かすかが肝と言えよう。
「クレベース、てっぺきを!」
「くれぉ!」
「させんよ!キョジオーン、しおづけ攻撃じゃ!」
「きょおおお…!」
ガチガチガチ…!
クレベースが全身を硬質化させ、元より高い物理耐久をさらに高めにかかる。
マリルリを仕留めるのにも活用したボディプレスへのコンボに繋げる流れだ。
そこにキョジオーンが両腕から放った怪光線が放たれる。
ビキキキキィ…!
「くれぉぉッ…!」
「なッ…!こ、これはッ!?」
オモダカは目を見開いて驚愕する。
てっぺきにより防御力を強化したはずのクレベースのボディのあちこちに岩塩が張り付き、エネルギーを吸い出しているのだ。
「しおづけはその名の通り、あいてをしおづけ状態にして体力を抜き取ってゆく。さらにそれがみずタイプ、はがねタイプの場合はその効力が倍増する…こおりタイプであるはずのクレベースが何故?と顔に書いてあるぞ。」
完璧な看破にオモダカは目に見えて狼狽してしまう。
その様をカカカとミシェリは笑い飛ばした。
「そこいらの個体ならばそれで間違いはない。しかし儂のキョジオーンは特別に鍛えておってな。単純なみずタイプとはがねタイプはもちろんのこと、それら2タイプの技をレパートリーに持つポケモンにも、同様の効力を及ぼせるようになっておるのよ!!」
「と、ということははがねタイプの技であるてっぺきを覚えているクレベースも…!?」
「当然、しおづけの効力は倍増じゃ。」
「あーっとチャンピオンミシェリのキョジオーンの放ったしおづけでクレベース、苦しんでいるぞーッ!!」
「ポケモンは覚えている技のタイプエネルギーを大なり小なり体内に保有しています。まさか、そのタイプエネルギーに作用するように技を強化するとは…。」
やはり公開情報として見えていたクレベースをマークするためのキョジオーンだったのか、とシゲルは舌を巻く。
一撃の真っ向勝負に賭ける熱き武人としても、相手を追い詰める冷たき策士としても、ミシェリはオモダカの上にいるのだ。
「クレベース…!一気にいきますよ!」
「れぇおおお!」
「翔びなさいッ!!」
オモダカが右手を高らかに振り上げる。
それに合わせてクレベースはその巨体を振るわせ、跳躍した。
「クレベース翔んだーッ!?なんという身のこなし!!これは文字通りビッグプレイです!!」
「進化前のカチコールの頃からおてんばさんだったのかな?」
おどけたように話すもシゲルの眼差しは真剣そのものであった。彼が見るオモダカは、まだまだ勝負を捨てていないのだ。
「きょおッ…。」
「ほぉ、そのような鍛え方もしておったか!!」
500kg台のクレベースが、キョジオーンの頭上を取ったのだ。
見上げるキョジオーンに動揺はなく、ミシェリも虚を突かれてはいない。
「クレベース、ボディプレス!!」
「くれおおおッ!!」
キョジオーンめがけクレベースが降下する。キョジオーンもまた巨体である。急な身動きは取れようがなかった。
ミシェリからしたら、取る必要もなかったが…。
ドシィィィィィン!!
「き、よじッ…!!」
「あーっとキョジオーン、ボディプレスで飛びかかってきたクレベースを受け止めたーッ!」
「クレベースは500kgに対してキョジオーンの重さはだいたい240kg、このままでは重さの違いからクレベースが押し切ることになるけど…。」
ミシェリの崩れない余裕な表情を見るシゲル。その瞳の奥に、冷たい策士としての深淵を感じ取っていた。
「くくく、れおおお…!!」
マリルリに対してと同様、クレベースはキョジオーンを押し潰しにかかっている。一度上手くいった成功体験からか、思い切りが良くなっている。
頭と両腕で持ち堪え続けるキョジオーンの両足は少しずつ地面に沈み込み、逃げ場が失われてゆくのが見える。
「いいですよクレベース!そのまま…!」
「このまま、ではキョジオーンも押し潰されてしまうのう。」
そう呟くミシェリの口角は吊り上がり、瞳はギラついている。
ピィィィィィ…!
彼女の呟きに呼応したかのように、キョジオーンの体が発光し始める。
「ハッ!しまったッ…!!」
オモダカが気付いた時には全てが遅かった。
自分は、誘い込まれていたのだ。
「きぃぃぃよぉぉぉぉぉ…!!」
「くれぉッ!?」
キョジオーンの体の発光が強まっていき、エネルギーが高まる。そして…。
「爆ぜよ、キョジオーン。」
カッ!!ドッカアアアアアアアン!!
凄まじい爆発が起きた。
「だいばくはつが決まったァァァーーーッ!!」
「完全にチャンピオンの想定通りにハメられましたね。」
エース対決ほどではないにしろ、大爆発による爆風が生む突風は強烈であった。
モヤが晴れ、ハッサクが巨体同士組み合っていた場所まで走って様子を確かめにゆく。
「キョジオーン、戦闘不能!」
自らの体力を犠牲にだいばくはつを発動させたキョジオーンが戦闘不能なのは当然として、審判といい立場からジャッジする為の問題はクレベースである。
「クレベースは…。」
ハッサクはクレベースを見る。
だいばくはつを至近距離で受け、背中を完全に地につけ仰向けでぐったりしているその表情は、目を回していた。
「クレベースも戦闘不能!両者引き分け!!」
ミシェリ…残りポケモン3体。
オモダカ…残りポケモン1体。
「CDルールが頭から抜けきれてなかったな。完全にだいばくはつを無警戒だった。」
「仕方ないわ。人間って、一度上手くいったことは繰り返したくなっちゃうもの。」
グズマとタイムが淡々と話す中、メテオビームとアーマーキャノンの衝突による衝撃波で吹っ飛ばされていたライムがようやく2人の側まで戻ってきては、いつの間にやらオモダカがラスト1体まで追い込まれているので目をギョッとさせていた。
CDルールにおいては、いかにポケモンの体力を残してパーティーを戦況に合わせて編成するかが肝である。
じばくやだいばくはつといった、いわゆる自滅技の価値は、このルールではどうしても使いづらいものである。ポケモン愛護の観点からもあまり推奨されないのもそうだが。
「どうしましょう兄様…会長さん、あと1体しか…。」
「落ち着けリーリエ。勝負はまだ決まったわけではない。」
「でも…。」
「お兄さんの言う通りやリーリエちゃん。よーく見とき。ウチらの会長の底力は、ここからやで。」
3対1という残りポケモンの差にリーリエは焦る。
対照的にグラジオとチリは落ち着き払っていた。彼らもオモダカが最後に繰り出すポケモンに、大方の検討がついたのだろう。
「お疲れ様です、クレベース。良き仕事をしてくれました。」
オモダカはクレベースをボールに戻す。
同じくキョジオーンを戻したミシェリはすでに次のポケモンの入るボールを手にしていた。
おそらくは『詰みの一手』を打つ為の1体だろう…。
「あと、1体、この子だけ…。」
最後の1体が出番を待つボールを見る。ボールを握る手の力が強まる。
泣いても笑っても、この子の戦い如何で勝負が決まるのだ。
「すまぬがコレで詰みじゃ。ゆけぃ!!」
「ぎゅあああああッ!!」
ミシェリはオモダカを待つことなくボールを投げ入れる。
ボールから飛び出すは、中央に1つ、両腕に2つの頭を持ち、紫色の瞳がオモダカを睨み、首から首元、腕にかけて黒い毛で覆われており、背中からは6本の黒い翼が生えているきょうぼうポケモンサザンドラだ。
「チャンピオンミシェリの5体目はサザンドラ!!ここに来て強靭なドラゴンポケモンです!!」
「ドラゴンであるが故の高いステータスに加え、広い技範囲。確実にオモダカ選手の喉元に刃を突き立てた形ですね。」
解説しながらシゲルはオモダカ陣営を見る。
セコンドエリアから身を乗り出すサトシの姿がそこにはあった。
「オモダカー!!」
不意に聞こえる呼び声に、オモダカは背後を振り向く。
セコンドエリアのサトシとピカチュウが右手でサムズアップして見せながら何やら口を動かしていた。
何を言っていたのかは会場の喧騒で完全には聞き取れなかったが、その中身はハッキリと伝わった。
"ダイジョーブ!!"
それは、サトシなりの今一度のエール。
オモダカの心は、大きく奮い立った。ここまで来れば、最後の『奥の手』を切るのになんの不安もない。
「トップ!まだチェックメイトとはいきませんよ!!」
「ぬう!?」
勝負はこれからだ。そう、ハッキリとつげてからオモダカは大きく振りかぶり、ボールを投げ入れる。
「栄光へのバトン、繋げましたよ…今こそ我らに光あれドドゲザン!!」
「どげぁし!!」
オモダカ最後の1体は、ドドゲザン。
ボールから姿を現した威風堂々たる佇まいは、勝利を決して諦めないオモダカの決死たる信念を背負っていた。
『特別製のしおづけ攻撃』
トップチャンピオンミシェリのキョジオーンが放つ鍛え抜かれたしおづけ攻撃。
本来ポケモンのもつタイプに反応し、みずとはがねの2タイプにより作用する力の範囲が、ポケモンの技にまで拡大している。