3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
これまで倒れていった仲間たちの思いを背に、今『総大将』が出陣する…!!
ミシェリの推察は的中していた。
オモダカの最後のポケモンはドドゲザン。と、なればその狙いもおのずと明らかであった。
ドドゲザンに向けて、オモダカのボールホルダーから5条の光が放たれ、その身を包んでゆく。
「どぉぉぉどどどぉぉぉ!!!」
ドドゲザンの咆哮が、テーブルシティ中に木霊した。
「挑戦者オモダカの最後の1体はドドゲザン!出てきたと同時に凄まじい気合いを放っています!!」
「気合いだけじゃない。あのドドゲザンは、実際に凄いパワーを手にしています。」
「ドドゲザンの特性は確か、"そうだいしょう"!兄様!!」
「あぁ…なんて奴だ。あのトップチャンピオンを相手に、実質5体で試合を回していたとは。」
「いったれ会長は〜ん!!」
「細工は流々、後は仕上げを御覧じろ…の仕上げの部分だな。」
シゲル、グラジオ、グズマを始めとした実力者や、オモダカをよく知る人たちにもこの光景は朧げながら既に見えていた。
ドドゲザンの特性"そうだいしょう"。倒された仲間から力をもらい、その身に宿したのだ。
「(ステルスロック…!)」
オモダカの念に呼応し、石粒が浮き上がれば次々とサザンドラめがけ襲いかかる。
「ぐるる…。」
牽制にもならないのは分かりきっていた。
ほんの一瞬でも相手ポケモンの意識をドドゲザンから逸らせることができるならそれだけで儲けものといえよう。
「どぉーどどどどど!!」
ステルスロックに合わせてドドゲザンが腰を上げ一目散に走り出す。
どかっと座り込んでいるイメージの強さからは裏腹に、陸上選手のような綺麗なフォームの走りは、ある意味ではシュールな印象を見るものに与えていた。
「来るか!サザンドラ!」
ステルスロックに苛立ちながらもサザンドラは、しっかりと走り来るドドゲザンを捉えていた。
湧き上がる怒りのボルテージを叩き付けるにちょうどいい標的であろう。
ミシェリは高らかに指示を飛ばした。
「くらわせてやれい!三連だいもんじじゃあ!!」
「ぐぉあああああ!!」
「あーっとサザンドラ、全力疾走して迫るドドゲザンへ、3つの頭が口を大きく開き、灼熱の炎を放つ構えだーッ!!」
「頭を複数持つポケモン特有の3連打攻撃だね。それにしてもトップは炎の扱いが上手い。」
ポケモンの生態を活かしている以上にカエンジシ、グレンアルマに続き、3つの首でだいもんじを放たんとするサザンドラを見て、ミシェリのトレーナーとしての強さ、その根源をシゲルは垣間見ていた。
熱い勝負を好む、情熱的な女性なのだと理解していた。
「かぁ!」
シュボァァァ!!
「どげし!!」
サザンドラ右腕の頭から1発目のだいもんじが放たれる。
それをドドゲザンはタイミングを読み、ジャンプして回避する。
「2発目!」
「かぁぁ!!」
跳躍し、上を取るドドゲザンめがけ左腕の頭から2発目が放たれる。
「ドドゲザン!」
「げざし!」
新たに迫る大の字を、ドドゲザンは自慢である頭の巨大な刃で縦に真っ二つに斬り裂いて凌ぐ。
「これはどうじゃ!!」
「かぁぁぁ!!!」
本体の頭部からすかさず3発目のだいもんじが発射される。
空中のドドゲザンに逃げ場はない…。
「全力で走り抜けましょうドドゲザン!かわらわりッ!!」
「どげぇぇぇ!!」
オモダカの闘志がドドゲザンの瞳に伝染したかのように発光しては、両腕の刃もそれに続き、左腕を横薙ぎ。
今度は横一文字にだいもんじを斬り裂いてみせた。
「ぬううッ!?」
「やぁぁぁッ!!」
「げぇぇぇぇぇん!!」
バチコォォォン…!!
ドドゲザンは急降下しながら、残る右腕の刃を勢いよくサザンドラの中央、本体頭部へ思い切り叩き付けた。
その破壊力からくる衝撃に、ミシェリは目を見開き、額から脂汗を垂らしていた。
「げし。」
ドドゲザンは右腕を振り抜いてから、サザンドラのボディを蹴って反動を付け、バク宙しながらオモダカのいるトレーナーサークルのすぐ前、ニュートラルポジションへと舞い戻り腰を下ろした。
椅子にするものが見当たらず、仕方がないので胡座をかいて座る。
「ざぁ…がッ…!」
一方、浮遊していたサザンドラが背中から地面に墜落したのを見たハッサクが走り寄り、容態を確かめる。
本体の頭部はドドゲザンの右腕が振り下ろされた箇所が若干凹んでるように見え、目を回していた。
「サザンドラ、戦闘不能!ドドゲザンの勝ち!」
ミシェリ…残りポケモン2体。
オモダカ…残りポケモン1体。
ウオオオオオオオッ!!ウオオオオオオオッ!!
ドドゲザンによる鮮やかな一撃KO劇で一気に観客が沸き立ってゆく。
「よしッ!」
オモダカは思わずガッツポーズを作っていた。
胡座をかいて座り込んだままのドドゲザンは涼しい表情で瞑目し、次の相手を待っている。
「サザンドラの思考を司るのは中央の頭部、そこを弱点であるかくとう技で正確に射抜かれたのは確かに痛い。しかし、いくら特性そうだいしょうといえど一撃で撃破は…あり得るのか。」
残り1体から上がる反撃の狼煙に、シゲルは、解説の仕事も忘れて思案を巡らせる。
「パワーを受け取ったのが5体なら。」
ほどなくしてその解に辿りついたのは、彼が優秀な研究者であり、バトルの世界にも精通していたからであろう。
「キョジオーンの大爆発を読めなかったオモダカの奴と同じように、ここにきてトップ側もCDルールの頃のイメージが切り離しきれなかった弊害が出たな。」
「どういうことだい、ブラザー?」
「トップは、最大効果を発揮した状態のドドゲザンのパワーアップ度合いを読み違えたのよ。」
グズマに尋ねたライムに、タイムが代わりに答える。
「当初の6C3D方式で戦っていれば、おそらくはドドゲザンが受け取るパワーの量が足りず、サザンドラのだいもんじで返り討ちに遭ってただろうよ、ってことさ。」
「タイトルマッチだからっていうトップの計らいが裏目に出たって訳かい?」
「多少びっくりしたみたいだけど、当の本人はまだ余裕綽々っぽいわね。」
「すまぬサザンドラ。よく休め。」
ミシェリはサザンドラをボールに戻す。この1敗は、確かに想定外であった。だが、依然として優位に変わりはない。
それは、これから繰り出すポケモンが証明することになるだろう。
「ゆけい!出陣じゃあーッ!」
ミシェリが5体目として投入したのは、頭部と一体になっている丸く黒い身体に、赤い角付きの金の兜をかぶったような姿のポケモン。
大きめの角と顎当てが特徴の個体をリーダーとし、その背後にぴったりと5体の兵隊が付き従っている。
「へーい!」
「「「「「たたぁい!」」」」」
先頭の『ヘイチョー』の指示が絶対である5体の『ヘイ』。彼らを総称して、へいたいポケモンタイレーツなのだ。
「チャンピオンミシェリ、最後に姿を見せたのはかくとうタイプのタイレーツだーッ!!」
「なるほどね。彼女の余裕の理由はあの子たちか。」
あく、はがねタイプのドドゲザンにとって、両方ともかくとうタイプの技が弱点であり、それを最も得意とするタイレーツは、まさに最悪の対面と言えた。
オモダカはタイレーツの投入に合わせ、ステルスロックの石粒を起動させぶつけてゆく。
しかし、キョジオーン相手以上に効力は薄い…。
「ヘイチョー!"六星陣"にて囲い込め!こうそくいどうじゃ!!」
「へーい!」
「「「「「たいたぁい!!」」」」」
ミシェリももはやステルスロックに関しては意に介してすらいない。
絶対的有利な盤面で、確実に詰みへ持ち込むための一手を打つのみである。
ババッ!バババババッ!!
「兄様、ヘイチョーとヘイたちが!」
「それぞれが個別に動き包囲する気か!」
周囲を縦横無尽に飛び回る6つの影を前に、ドドゲザンは腰を上げていない。
オモダカも指示を出さない。いや、正確には『このまま動かないでいる』事こそが、暗黙の指示とミシェリは見抜く。
「こちらから動くのを受け止めるつもりか。ならば!総員、はいすいのじんと心得よ!」
「へーい!!」
「「「「「たいたいたーい!!」」」」」
目まぐるしくドドゲザンの周囲を疾駆、跳躍し続けるタイレーツの動きが徐々にスピードを増してゆく。
それでもドドゲザンは、動かない。
「タイレーツ、はいすいのじん!自らの退路を断ち、能力を高めてドドゲザンを仕留める算段かーッ!?」
「対するドドゲザンは全方位を飛び回られ、完全にマークされている。」
タイレーツからの攻撃をかわしきるのは望めない。仮にタイレーツをどうにか出来ても、蒼眼極炎のグレンアルマがまだ控えているのである…。
「諦めた訳じゃあねぇだろうが…。」
360度包囲されてなお微動だにしないドドゲザンとオモダカを見て、グズマは呟く。
そのオモダカが、おもむろにズボンのポケットに手を突っ込む仕草を見逃しはしなかった。
「やっぱりな。」
それは、元々関わりがあるが故に見抜けたルーティンと言えよう。
グズマは確信する。勝負はまだ終わらない、と。
いやに落ち着き払っている…ミシェリはオモダカの様子に一抹の疑念を抱かされていた。
しかしそれは、仕掛けない、という選択肢にはなり得ない。
既にタイレーツの退路は断たせたのだ。
「あらゆる角度を総員で飛び回り、逃げ場を潰す!これぞ儂とタイレーツの"六星陣"よ!!」
ミシェリはサッ、と右腕を前に伸ばし、右手はドドゲザンへ向ける。
そして高らかに告げるのだ。試合を決める号令を。
「総員、突撃ィィィィィ!!」
「「「「「「へい、たぁ〜!!」」」」」」
「あーっと!なんとこれは!ヘイチョーとヘイの全員が一斉に己が身を肉弾としてドドゲザンめがけ飛び込んでいったーッ!!」
「上下左右の逃げ場を潰したうえでの、一斉インファイト…!!」
金の弾丸が6つ、ただ一箇所を狙って放たれる。
その狙いの中心にいるドドゲザンは、ここで初めてゆっくりと開眼。その瞳は、少しも勝利を疑ってはいない。
オモダカがズボンのポケットから取り出したのは、テラスタルオーブだ。
「我らが未来の道行きに、パルデアの未来に、より一層の光あれ…ドドゲザン!!」
思い切りテラスタルオーブをドドゲザンの頭上に投げ込めば眩い輝きに包まれてゆく。
「構うな!そのまま突っ込めぃ!!」
テラスタルを前にミシェリはたじろがない。
ラスト1体なのだ、どこかで奥の手を使うことなど分かりきっていた話だ。
「あくテラスにしろはがねテラスにしろ、この包囲からの一斉攻撃を受ければ致命傷は避けられまい!!」
タイレーツもミシェリの闘志に呼応し、ドドゲザンへ肉薄を図る。その6つの弾丸が、標的のボディへ到達は…しなかった。
「インファイトの勢いが今一つに抑えられておる、じゃと…!?」
言い切ってすぐに、ミシェリの視界に『解答』が広がる。
ドドゲザンの頭部のテラスタルジュエルは、赤と緑の風船の形をして煌めいていた。
「挑戦者オモダカ、ここでテラスタルを使用!!しかもこ、これはッ!!ひこうテラスです!!」
「ポケモンのテラスタイプは必ずしもその個体が持つタイプと同じとは限らない、と言うのはクラベルさんから聞いてましたが、なるほど…テラスタルは、こうやって使えば弱点をカバー出来るのか。」
自身のタイプと異なるテラスタイプを持つポケモン、というのがまず希少であり、テラスタル自体が全国規模で馴染みの薄い概念であったがゆえに、このオモダカのかくとう封じはセンセーショナルであった。
「タイレーツの攻撃が、テラスタルのオーラに阻止されて…。」
刹那、悪寒がミシェリを襲う。
「ま、まずい!総員離れよ!今すぐに…!!」
「逃しませんッ!!ドドゲザン!テラバースト!!」
「どぉげし!」
テラスタルジュエルが砕け、ドドゲザンの背中に巨大なエネルギーの翼が生える。
漆黒のボディに純白の翼。その異様なコントラストが見る者の喉を鳴らした。
「ずぁぁぁぁぁん!!」
「へ、へぇ〜〜〜い!!」
「「「「「たい〜ッ!」」」」」
ドドゲザンの全身から放たれるオーラにより、前タイレーツは6体とも弾き飛ばされてしまった。着地も出来ず、次々と地面にめり込んでゆく。
ハッサクがチェックに入れば、ヘイチョーもヘイも目を回していた。
「タイレーツ、戦闘不能!ドドゲザンの勝ち!!」
ミシェリ…残りポケモン1体。
オモダカ…残りポケモン1体。
『六星陣』
パルデアリーグトップチャンピオンミシェリのタイレーツによる必殺の戦陣。
空に浮かぶ星々のように相手ポケモンの周囲を飛び交って包囲、逃げ場を奪い不可避の襲撃をかけるのだ。