3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
チャンピオンテストは最終盤、両者ラス1対面までもつれ込むのであった…。
「ドドゲザン、絶対不利なかくとうタイプのタイレーツを相手にひこうテラスからのテラバーストによる見事なカウンター!!コレで2体抜き、チャンピオンを追い込み返しましたーッ!!」
「残るは蒼眼極炎のグレンアルマ…月並みな言い回しだけど、最後にして最大の壁だね。」
「お互い残りポケモン1体同士!ここからが正真正銘、ラストバトルです!!」
「やった!やった!兄様!会長さん、凄いです!!」
「喜ぶのは早いぞリーリエ。まだ勝ったわけじゃあない。」
「でも凄いじゃないですか!トップチャンピオンさんにアレだけ戦えるなんて。」
「まぁ、それは…な。」
ポケモンバトルとは、どこまでいっても勝ちを目指さなければならない。その為に己が思考を極限までフル回転させるのがポケモントレーナーであるのをグラジオは人よりは知っているつもりだ。
で、あるからこそ、オモダカのラスト1体からの粘りは驚嘆と同時に敬意すら感じている。
しかし、勝ちを目指しているのは、ミシェリも同じなのだ。
「ここから先、何より問われて来るのはトレーナーとしての精神力。"絶対に勝つ"っていう強い心だ。」
「欲するvictory!ぶつかるdestiny!勝利の女神は超crazy!yeah!」
「あらあら、ライムもノッてきたみたいね。」
グズマは、胸に湧き上がる高揚感を否定しない。
今は先を越されたが、自分もまた、頂点を目指すトレーナーとして闘いの舞台に立つことを強く心に誓っていた。
「ご苦労であった、タイレーツ。」
タイレーツをボールに戻し、ミシェリは天を仰いで大きく息を吐く。
挑戦者の実力は認めていた。油断はなかった。少なくとも四天王を相手にしてきた彼女の実力は。
「(こじんまりしたような奴と、そう思っておった。今もそれは間違ってはおらぬ。)」
天を仰いだ顔を正面に向き直しながら瞑目する。
「(ならば、この試合の中で大きくなったと言うか。)」
戦いの後ではない。戦いの中で、成長し続ける。それは、ミシェリの標榜するポケモントレーナーの理想であった。
ポケモンは戦わせるものであり、トレーナーもまた戦いに適応し、力を身につけ続けねばならない。
それはむろん一生、死ぬまで…。
「ふふふ、ははッ!!」
こうして自身を追い詰めて見せた挑戦者に、チャンピオンたる資格と資質があるのは認めよう。
しかし、それはそれとしてである。
ミシェリは、負けたくないのだ。
「はーっはっはっはっはっは!!」
王者の豪快な笑い声がバトルコート上に響き、皆ミシェリにギョッとした視線を向ける。
視線に映る彼女は、口角こそ吊り上がるも、その双眸は勝利への執念に燃え狂っていた。
「改めて認めようぞ挑戦者!その実力を!!じゃからこそあえて声高に言わせてもらおう!!」
ミシェリが最後の1体の入ったボールを持ちながらの右手人差し指をオモダカへハッキリと指す。
「負けてたまるか!小娘ェ!!勝つのは儂じゃ!!」
「いいえ、私ですッ!!私がぁ…。」
オモダカもすかさず返す。
「勝つッ!!」
それは売り言葉に買い言葉ではない。
パルデア地方を全国入りまで導いた功労者として、偉大なチャンピオンとして最大級のリスペクトを抱いた相手だからこそ、何が何でも勝つと決めた。
故に、自分はこの場に立っている…。
「やれるものなら、やってみよ!!」
全身の勢いを使った右の上手投げで放り込まれるのは最後の1体、言うまでもなくグレンアルマのボールだ。
それのすぐ後に、ミシェリは左手から下手投げでもう1つ何か物体を投げていた。
「"ダブルボール"で…テラスタルオーブを!?」
「蒼眼極炎のグレンアルマ、その本領を見せようぞ!!」
「るぁまぁぁぁッ!!」
ボールから出てきたグレンアルマが、同時にテラスタルオーブから放たれた輝きに包まれる。
テラスタルジュエルは、点火された蝋燭を模したほのおテラス。その燃え盛る炎は、グレンアルマのそれと同じく、蒼白い輝きを放っていた。
「チャンピオンミシェリ、グレンアルマを繰り出したと同時にテラスタルを使用!!蒼い輝きのほのおテラス、これこそが蒼眼極炎のグレンアルマ最終形態と言えましょう!!」
「テラスタイプは単タイプに切り替わるから、グレンアルマのエスパータイプが消え、ドドゲザンのあく技が効果抜群ではなくなる訳だね。」
研究者として学術的な観点からテラスタルという概念の理解に着手し、専攻の授業を受け持つ立場のシゲルも、高いレベルでの実践運用を間近で見ることでそれぞれの扱い方やその理屈を肌で理解出来る。
解説者としてのオファーを受けたのは大収穫と言えた。
「両者テラスタル状態でラスト1体!どちらが先に倒れるか、最終決戦となります!あら!?」
「ドドゲザンが、いない…!?」
グレンアルマが再度登場と同時にテラスタルを発動し皆の視線が釘付けになった。
その間にニュートラルポジションにて、サザンドラを倒した時同様、胡座を描いて座り込んでいたドドゲザンの姿が消えていたのだ。
どこにいったんだ?と観客はあちこちを見回している。
「ふぅ…左じゃ!グレンアルマ!」
「あまッ!!」
ガキィィィン!!
ミシェリはグレンアルマをテラスタルさせながら、ドドゲザンの動向も逐一チェックしていた。
蒼白の輝きがバトルコートを照らす中、ドドゲザンはぬっ、と立ち上がり、テラスタルエネルギーの翼で飛翔。皆の視界から消え、ふいうちを仕掛けてきたのだ。
グレンアルマは、全身からサイコパワーによるエメラルドグリーンの光を放って防御している。
「くッ!サイコフィールドかッ!」
「甘いわ!!」
「るぁ!」
「どげ!」
グレンアルマがサイコフィールドでドドゲザンを弾き飛ばす。すかさず追撃で双眸が光る。
「サイコショックじゃ!!」
「るぁまッ!!」
「ドゲザン攻撃!!」
「どげん!」
サイコパワーによる定点爆破がドドゲザンの頭をカチ上げるも、負けじとドドゲザンもその頭の刃を縦一文字に勢いよく振り下ろし、飛ぶ斬撃がグレンアルマを捉える。
「そうか、ドドゲザンさんはテラスタルでひこうタイプになってるからエスパー技が効いちゃうんだ…!」
「対して蒼眼極炎は、エスパータイプがテラスタルでなくなっているからあく技が抜群で入らん…旗色はやはりチャンピオン優勢か?」
「いいや、ここまで来たら小手先のタイプ相性やない!どっちが先にええの1発入れるかどうかの勝負や!」
苦虫を噛み潰すような表情のリーリエとグラジオに、チリは白い歯を見せ、顎先で戦況を指差す。
飛ぶ斬撃を持ち堪えたグレンアルマも、足に来ているのが分かった。
「ドラパルトののろいに、キラフロルとのぶつかり合い。グレンアルマにもダメージは蓄積されて来てる。」
「震えるheart!刻めよbeat!かませや1発over drive!yeah!!」
「オモダカちゃーん!あと一息よー!」
「ぴかぴ。」
「あぁ、そうだなピカチュウ。」
ピカチュウにサトシは頷く。
オモダカの姿が、3年前の自分にダブッて見えていた。それは紛れもなく、マスターズトーナメント決勝戦。
「いけー!オモダカー!!」
「ぴぴかか〜!!」
圧倒的な実力差の中、紙一重の連続で無敵のダンデにくらいつき、そして打ち破ったあの日の自分も、オモダカと同じ顔をしていた。
そんなオモダカは、3年前の自分よりずっと筋がいいと来ている…。
サトシもピカチュウも、自然と声が出ていた。
「グレンアルマよ!」
「るあーま!!」
「むッ!ドドゲザン!!」
蒼眼極炎のグレンアルマの双眸がまた発光する。
それを見たドドゲザンは身構え、そして動きが封じられてしまった。全身が蒼白い光に包まれている…。
「あーっと蒼眼極炎のグレンアルマ、ここにきてサイコショック、と見せかけてのかなしばりだーッ!ドドゲザン捕まってしまって動けなーい!!」
「どちらも両目からサイコパワーを放って扱う技、土壇場で引っ掛け作戦を使うとはね。熱くなって見せながらも獲物を狩る冷徹さは忘れない…まさに獅子王。」
「ど、どどげ…。」
「ドドゲザンッ…!」
「ここまでよう奮闘した。敬意を込めてこの一撃で幕を下ろすとしようか。」
ブッピガン!!
ミシェリがサッ、と右手を上げれば、グレンアルマは両肩の肩当てを両腕に合体させる。
キャノン・モードに移行し、砲口にエネルギーがチャージされてゆく。
「4発目の…獅子王炎陣大爆破!!」
「それもテラスタルで強化されておる!!」
ミシェリのあげられた手が、ドドゲザンを指す。発射の号令に合わせて決着の1発を放つのだろう…。
「今こそ力を…キラフロル!」
「なにをッ!?」
オモダカが指をパチリ、と鳴らす。
「こ、これはッ!?」
ミシェリは、完全に虚を突かれていた。
「あーっと!バトルコート中の石粒が起動し、グレンアルマの周囲を飛び回っているーッ!!」
「そうか、ステルスロック!このタイミングまで発動を遅らせていたのか!!」
キャノン・モードに入り、必殺のアーマーキャノン発射態勢となれば、対処のしようがない。
これにはシゲルも思わず上手い!と膝を打った。
「突き刺され、石粒よッ!!」
「ぬうううッ!!」
ドスッ!ドスススススッ!!
ステルスロックの石粒が次々と肩当てのキャノンに突き刺さってゆく。そのうちのいくつかがキャノンに穴を開け、その穴々からエネルギーの漏出が起こった。
「るぁぁ…!」
「このままではほのおエネルギーが暴発してしまう!」
「これで…!」
「おのれぇぇぇ…!!」
ミシェリが俯き、地団駄を踏んでみせる…が、顔を上げたその表情は、酷く獰猛な獣の笑みをオモダカに突き刺していた。
「…とでも言うと思うたか?」
その酷薄たるプレッシャーに、オモダカは思わず身震いしてしまう。背筋が凍るとは、このことか、と…。
「こ、これはーッ!?グレンアルマ、損傷したキャノンの砲身を直接撃ち出してドドゲザンにぶつけようというのかーッ!!」
「エネルギーの暴発を相手に押し付けるつもりなんだ!!」
「ふはは!!油断したなァ!!アーマーキャノンとは元よりこう言う技じゃあ!!」
エネルギーの奔流を叩き付けるのはあくまで技の応用に過ぎない。
肩当てそのものを弾丸として相手にぶつける。急場凌ぎではない、元々の技の形に戻しただけなのだ。
「るあああああ、まッッッ!!」
ドギュウウウウウ!!
グレンアルマが肩当ての砲身もろともエネルギーの塊を発射する。
迫る砲弾に、オモダカの思考は獅子のプレッシャーに呑まれ、完全にフリーズさせられていた。
「オモダカーッ!!まだやれるぞーッ!!」
「ぴぴかか!ぴっかーッ!!」
「は…はうあ!!!」
背後からかけられた声に、フリーズしていたオモダカの思考が復活する。
彼女に背を向けるドドゲザンは、微かに全身を震わせ始めていた。かなしばりが解け始めているのだ。
「まだ…やれる…!」
ドドゲザンはまだ、舞える。完全に見逃していたのは自分だ。
それを気付かせてくれたのは…サトシだ。
「ドドゲザン!!奮い立ちなさい!あなたにバトンを渡した仲間たちのために!!」
「どげ!」
オモダカの声に、ドドゲザンは両眼をくわ!と見開く。
両腕をクロスの形で顔の前に構え、ガードの姿勢から、その両腕をプルプルと震わせ、そして…。
「ざぁぁぁぁぁん!!」
思い切りクロスを切って両腕を振り切り、かなしばりの拘束から脱出して見せた。
そこに、蒼白い灼熱の砲弾が飛び込んだ。
チュッ、ドオオオオオオオン!!!
この試合、1番の規模の強烈な爆発が起こる。バトルコートが黒煙に包まれ、皆の視界を封じる。
「勝った…!」
ミシェリは勝利を確信する。
このモヤが晴れれば、力無く倒れ伏すドドゲザンが、視界に映る…はずだった。
「るぁま!」
「どうしたグレンアルマ?」
グレンアルマが血相を変え、辺りを見回す。
怪訝な表情でミシェリは目を凝らせば、グレンアルマに倣った。あるべき姿がそこにない。
ドドゲザンがバトルコートにいないのだ。
「むッ!!」
左右を見渡していないならば、それと同時に感じる気配を見上げる。
言葉にするまでもなく観客席からドドゲザンの居場所は声が上がっていた。
「上だーッ!!」
「ドドゲザン、貴方は最高のエースだ…。」
オモダカはしみじみと呟く。
かなしばりを解き、テラスタルエネルギーの翼をはためかせ、ギリギリのところでドドゲザンはアーマーキャノンを回避して見せたのだ。
威風堂々たる総大将が、眼下に敵の大将首を捉える。
「突撃ィィィッ!!」
「どげぇぇぇッ!!」
オモダカのシャウトに応え、ドドゲザンは急降下、一直線にグレンアルマへ一撃を加えるべく突っ込んだ。
「まだじゃ!!この獅子王を、みくびるでないわぁ!!」
「るぁま!るぁま!るぁま!」
アーマーキャノンはもう撃てない。しかしミシェリとグレンアルマの闘志は尽きてはいない。
双眸が輝き、サイコパワーの爆撃を幾度となく放つ。
「どげぇ…!」
急降下するドドゲザンのボディに、テラスタルのオーラを突破してサイコショックの一撃が何度も突き刺さる。
苦悶の表情を浮かべながらもドドゲザンの突撃は、止まらない。
「ドドゲザンさん!頑張って!」
「もうひと踏ん張りだぞ!!」
「気張れやぁーーーッ!!」
リーリエが、グラジオが、チリが…。
「ブッ壊せッ!!」
「YAーーー!!HAーーー!!」
「やだ、決着付いてないのに涙出て来ちゃった。」
グズマが、ライムが叫び、タイムはハンカチで目元を拭う。
「テラバースト…いッッッけぇぇぇぇぇッッッ!!!」
「ずあああああん!!!」
ドドゲザンが、最後の力を解き放つ。
『くぇあああああ!!』
『くれぉぉぉぉぉ!!』
『がぁろぉあああ!!』
『ぱるぁぁぁぁぁ!!』
『ふろぉぉぉぉぉ!!』
人々は、見た。
クエスパトラ…クレベース…ブリガロン…ドラパルト…そして、キラフロル。ドドゲザンとともに咆哮する、この試合で死力を尽くしたオモダカのポケモンたちの影を。
皆で繋いだ力、テラスタルエネルギーの右翼がグレンアルマの腹に突き刺さった。
「るぁッ!?」
ドドゲザンが勢いをそのまま強引に突っ切り、横切れば、盛大に轢かれた形のグレンアルマの体は空中に投げ出された。
「グレンアルマッ!!」
「ぐれぁぁぁッ…!!」
「どげッ…!!」
空中に投げ出されたグレンアルマは、着地もままならず頭から地面に落下する。
ドドゲザンもまた勢いのまま、腹から墜落の形で地面に滑り落ちていた。
『獅子王円陣大爆破』
トップチャンピオンミシェリのエースポケモン、通称"蒼眼極炎のグレンアルマ“が誇る最大の奥義。
その破壊力はZワザに迫るものがあり、複数回の発射による取り回しの良さを併せ持つ。何より恐ろしいのは、弱点をつけば防御技すら一方的に突き破る性質があるのだ。
【日付設定の不備から投稿遅れました。申し訳ありません。】