別・原神の世界に転生したので自由に生きたい 作:ヘルメットのお兄さん
数日後、俺はウェンティに振り回されながらこの世界についての勉強をしていた。
まずこの世界はテイワットと呼ばれている事、大陸には7人の神が居て、神の目という力の源を人々に与えている事、その他諸々この世界の基礎知識というのは最低限身についたと思う。
そしてそれと並行して俺の力についても勉強した。
この世界には元素力という力に満ちているが、俺は火、水、雷など……そのいずれにも属さないエネルギーを感知し操作出来る。
実体的な力とは別の……概念的? なこのエネルギーをあの神のセリフなどと照らし合わせて虚数エネルギーと呼称する事にした。
俺は虚数エネルギーを操作する事で空間に影響を与えることが出来る、空間転移や亜空間への収納、上手くやれば空間ごと切断なんかもできそうだった。
とはいえまだまともに扱う事は出来ない、要練習の力だ。
……と、宿の机で俺はここまでの話を自分なりにメモに書き留めると空が突然暗くなった。
まだ昼なのに奇妙な現象だと俺は窓を開け外を覗き込むと大きな龍がモンドの上空を通っていくのが見えた。
「また風魔龍か……」
ウェンティや他の吟遊詩人が語っていた、確かモンドの守護龍的存在で、風神バルバトスの友だったとかなんとか……まだモンドに来て数日だが何度も奴の姿を見ている。
思い返すと、ウェンティがこの詩を詠う時は少し表情が変わっていた。それがどんな表情かはわからなかったが……少なくともいい感情ではなかった。
「飛び去って行った……相変わらず目的がわからないな」
俺は見えなくなっていく風魔龍を見送ると、見物は終わったと窓を閉めようとする。
「……あれ、ウェンティ?」
ふと地上を見ると、ウェンティがいつになく足を速めてモンド城を出ていく姿が見えた。
その姿に焦りの感情を察知した俺は宿から出るとウェンティを追いかける事に決めた。
ウェンティの尾行を始めて数時間、いつの間にか森の奥に辿り着いていた。
空間を操作してウェンティから姿を隠しつつ探っていると、空から巨大な龍がウェンティの前に降り立っているのが見えた。
「(……いや、というか風魔龍じゃないか)」
「────―怖がらないで」
ウェンティは風魔龍に語り掛ける、それはまるで宥めるかのように優しい声だった。
「……安心して、僕は帰って来たよ」
少なくとも、悪い事をしていないとわかった俺はウェンティ達から離れようとしたが、その時ウェンティから離れた位置に、少女と何か浮いてる小さいのがウェンティを監視しているのを見つけた。
「お前達、何を────」
「うわぁ!? い、いつの間に!?」
俺が背後から話しかけると何か浮いてる方が声を上げてしまった。
その声に反応した風魔龍は驚いたのか咆哮をあげ飛び去って行った。
「……しまった、軽率だったか」
「誰!?」
ウェンティもその声に気づいたのか俺に気づく前に一瞬で姿を消してしまった。
……俺はウェンティ行方が気になったがひとまずこの不思議な二人の話を聞こうと思う。
「……それで、お前のお兄さんを見つける為に遠くから来たのか」
話を聞くと二人の名前は蛍とパイモンと言い、蛍は旅の途中離れ離れになった兄を探し、そしてパイモンはそんな蛍を助けようと共に行動しているらしい。
所々ぼかされたが……パイモンは分からないが恐らく蛍はこの世界の人間じゃない。
というのも蛍は殆ど直感なのかわからないが俺の虚数エネルギーに勘づいた節がある。
他の人間は今まで一度も反応しなかったというのに彼女は俺が最初に空間を操作しながら隠れていた時、一瞬だったがこちらに気づいていたようだった。
彼女を近い境遇の人間として近づくべきか、警戒すべき相手とするかは測り兼ねる。
「そうなんだ! それでお前はセスだったな、モンドに探し物があるって言ってたか?」
「ああ、人に頼まれてモンド城にあるって事はわかってるんだが……」
「だったらオイラ達が手伝ってやるぜ!」
「ええ?」
「オイラはこいつのガイドとして今まで役に立ってきたんだ! お前より知ってる事もあると思うし、蛍も強いからきっと助けになるぞ!」
パイモンの言葉に俺は考える、手伝い……をしてくれるのは頼もしい限りだが裏があるかと勘ぐってしまう。
特にこの二人は(言ってしまえば俺もだが)怪しい出自だ、助けた後に俺の神の敵対者だったなんて事があったら目も当てられない。
「気持ちは嬉しいが……俺も探し物がどんな物かはわかってないんだ」
「ええ? なんだよそれ」
「俺に頼んできたヤツは見ればわかると言ってきたんだが曖昧でな」
「それって、見つけられるの?」
蛍は随分無口な様で、ようやく口を開いた。
「さぁ……別に期限は無いし何年かかけるつもりだったからな」
「何年って!? ますます不憫だな……蛍、オイラ達も手伝おうぜ!」
なんか同情された。
とはいえ俺も一度ウェンティを探しにモンド城へ戻るつもりだったし二人もモンド城が目的地だ、ひとまずそこまでは一緒に歩く事になった。
「所でセス、お前も神の目を持っていないみたいだけどさっきはどうやったんだ?」
「えーっと、さっき俺に探し物を頼んだやつがいたって言っただろ? そいつからこの力を教えてくれたんだ」
「不思議な力を使うんだな……あ! 七天神像が見えたぞ!」
七天神像、この世界に来た時はただの像だと思っていたが不思議と近くにいると疲れが取れるから重宝しているんだよな。……この像、どことなく見覚えがある筈なんだがどこで見たのだろうか?
七天神像について説明するパイモンを後目に蛍が像に触れるとそれは起こった。
「!?」
共鳴、とでも言うのだろうか? 何か力のようなものが蛍に入り込んで……力の流れが変わった。
「これは……」
蛍が手を前にかざすと風が巻き起こり近くの物を吹き飛ばしていった。
「元素力か?」
驚いた……俺が触れた時は何ともなかったが蛍にだけ特別な何かがあるのだろうか? 改めて俺が触れるがやはり何も言わない。
「どうやらお前にだけ起こる現象みたいだな……」
「気を落とすなよ! 先へ進もうぜ!」
気を落とした訳では無いのだが、ひとまずパイモンに従い先に進むと森の道中であるものを見つけた。
「なんだこれ……赤い結晶?」
涙の形をした結晶だ、見るからに禍々しい気を放っておりなんだか嫌な感じがする。
「お、おい蛍! 持ってても大丈夫なのか?」
「大丈夫みたいだな、ここに置いてても危険そうだし回収してもいいんじゃないか?」
どうやら蛍とパイモンはそれを持っていく事に決めたようだった、正直捨てた方がいい気もするが現状何も起こらないし構わないか。
なんだか今日はイベントが多い気がする、なんて考えているとまたイベントが起きた様だった。
「ねぇ、あんた! 待ちなさいっ!」
「うん?」
後ろの方から声がしたかと思うと赤い少女が俺たちを飛び越え道を阻んできた。
「風神のご加護があらんことを」
「その決まり文句……西風騎士団か?」
「あ! あんた最近有名な吟遊詩人でしょ? その体、噂になってるよ?」
「いや、吟遊詩人じゃ無いけど」
「あれ?でもいつも緑の吟遊詩人と一緒にいるからてっきり……おっと、忘れる所だった……私は西風騎士団の偵察騎士、アンバーよ。そっちの怪しい二人、身分の証明は出来る?」
「お、オイラ達怪しい人じゃないぞ!」
「怪しい人は皆そういうわ、そっちの……そうだ、確かセスって名前だったでしょ、二人の身分の保証は出来る?」
「え?」
「一緒に歩いてきてたじゃない、知り合いなの?」
「えー……っと」
知り合いになったと言えばそうだが、身分の証明が出来るかと言えば……よくわからない。
「おい! なんで黙ってるんだよ!」
「知り合いにはなったけど身分の証明となると……」
「なんでそこは真面目なんだよ!」
パイモンがぷんすこしていると蛍が一歩前に出た。
「こんにちは、私は蛍」
「蛍……この辺じゃ珍しい名前ね、それからそっちの……マスコットはなんなの?」
「こっちはパイモン、非常食」
「えっ?」
「全然違う! マスコット以下じゃないか!」
びっくりした……めちゃくちゃマジなトーンで言うから一瞬本気かと思ってしまった。
「とにかく……二人は旅人よね? 今はモンド城の周辺で大きな龍が出現しているの、早く城内に入った方がいいわ」
「あぁ……風魔龍だろ」
「セスは知ってるのね、そうだ! モンドまでは遠くないし、西風騎士として三人をモンドまで送ってあげる! 」
「いいのか?」
「ええ、任務はあるけどそれをこなしながらでも三人を守るのは出来るから、それに……怪しい人を放っておけないからね!」
「怪しくないぞ! 失礼だな!」
「あっ、ごめん。騎士としてあるまじき発言だったかも……えっと……尊敬出来る旅人さん?」
「ぎこちない……」
「な、騎士団ガイドで決められた言葉に不満でもあるの!?」
俺と蛍はアンバーをなだめながらモンド城へ向かう事になった。
「所で、旅人さんはどうしてモンドへ?」
「蛍は遠い遠い旅の途中でお兄さんと離れ離れになってな、オイラはこいつと兄を探す旅をしてるんだ」
「そうなんだ……それなら後で任務の後にモンドにお知らせを……」
「そういえば任務ってなんだ?」
「最近、城に近づくヒルチャールが増えてきてるの。その巣の掃除が任務よ」
アンバーがそう言うと、丁度その拠点らしき建造物が見えてきた。
「あれだよ、三人は待ってて!」
アンバーは弓を構えると軽々と近くの岩場に飛び乗りヒルチャール達を撃ち抜いていく。
ヒルチャールは怒って反撃してくるが、軽快なアンバーを捕えることは難しい様だった。
「蛍、オイラ達も行こうぜ!」
「うん!」
俺が見物していると蛍が剣を構えアンバーの手伝いに参戦してしまった。
「……俺も手伝うべきだよな」
だが生憎戦闘経験というものが俺は薄い、空間操作もまだ上手くいかないし、武術も特に知らない。体当たりでもすれば少し効きそうだが……
「あ、そうだ」
俺は近くの岩に手を添えると空間を操作した。
アンバーが4体、蛍が三体目のヒルチャールを倒した辺りでパイモンはふとセスが戦いもせず、かと言って隠れることもしていない事に気がついた。
「セスのやつ、何やってるんだ? ずっと岩に寄り添ってるぞ」
「うわっ!?」
アンバーが声を上げたのに気がつくとパイモンは声を上げた原因を直視する。
「ヒルチャール・暴徒だ! こんな所にもいるのか!?」
「っ!」
蛍は剣を構え突撃し、大きな盾を構えたヒルチャールに攻撃するがその堅牢な盾は剣を通さず防いでしまった。
ならばと風元素の力を使うが相手が重かったのかヒルチャールを吹き飛ばすには至らなかった。
蛍だけの力では厳しいと考えたパイモンはヒルチャールを観察する、すると奴の持つ盾に注目した。
「蛍! あの盾燃えやすそうだぞ! アンバーに────」
そこまで言った時、ヒルチャールの頭上が暗くなった事に気がついた。
パイモンと蛍、そしてアンバーまでもが絶句している事に気づいたヒルチャールは何だと上を見上げる。
それは巨大な岩だった。
セスが寄りかかっていた巨大な岩を彼は転移させ、圧倒的な質量で押し潰そうとしたのだ。
反射的に盾を捨て全力で持ち上げようとしたヒルチャールだったが、生憎相手は何人も登れそうな程の岩、ヒルチャールが持ち上げられるはずもなくそのまま押しつぶされた。
「よしっ、上手くいったな」
「お、オイラお前が少し怖くなったぞ……」
「?」
上手くいってよかった、動く目標に当てられるか不安だったが幸い成功したようだ。
俺は武器を仕舞う二人の下に向かうとさっきより不審な目で見られている……何故か蛍にまで。
「楽勝楽勝! でも二人とも戦えるなんて思わなかったよ、アンタはまあ……変わった戦い方だったけど」
「まだ使いこなせてないんだ」
「だったら西風騎士団に興味は無い? アンタは体格は良いしきっと活躍できるよ」
騎士団か……この体をくれたという事は遠からず戦いに巻き込まれるという事を神は想定していたという事なのだろうか、なら知識だけでも身に着けておくのはいいのかもしれない。
「まあ……考えとくよ」
「そういえば、どうしてこんな所にヒルチャールがいるんだ? 普通は都市から離れたところに巣を作るだろ?」
「風魔龍のせいよ、最近頻繁に出現するようになってキャラバンのルートにも影響が出たの」
時々暴風のせいで怪我人が出る話も聞いた、西風騎士団はその対処に追われているようだし大変だろう……
「それじゃ行きましょ、今度こそ街を案内してあげる」
特に何もなく。
俺達はモンド城に到着することが出来た。
「改めて、風と蒲公英の牧歌の城、自由の都モンドへようこそ!」
「やっと野宿しないですむな!」
パイモンが嬉しそうに飛ぶが、俺はそろそろウェンティの方が気になっている。
「それじゃあ俺はこの辺で別れるよ」
「ええ!? もう行っちゃうのか?」
「少し気になる事ができてな……探し物に関してはまた今度頼むよ」
「またね、セス」
蛍の声に俺は手を振り返すと三人から離れる、あの時の事をウェンティに聞いておきたいからだ。
そして程なくして、俺は風神像の手のひらの上に座っているウェンティを見つけたのだった。