摩虎羅の個性伸ばしの要請に対して先ずは相澤先生が行うことになった。
オールマイトは非常勤の教員として雄英高校に所属しているが、No.1ヒーロー基本的に多忙かつ1日の稼働限界を考えるとスケジュール調整の必要があった。
取り敢えず三人は訓練場に移動した。
「摩虎羅君の個性の今までの『適応』が0になる可能性は無いかい?」
「俺の適応は肉体そのものに反映されるから深刻なリセットは無いと思いますけど。
まあ、あるとしたら直前の適応対象の初期化とか。」
摩虎羅の個性『適応』は自身が受けた事象を解析→適応→解析のループにより肉体を受けた事象を解析し続けて、事象の無効化、あるいは排除出来る肉体にアップデートをし続ける。
故に最大の強みは『適応の蓄積』にある。
摩虎羅が生まれて15年の月日、日常に存在する事象に対して解析と適応し続けた摩虎羅の肉体は見た目こそ人だが、その中身は人外といっても過言ではない。
抹消はあくまでと個性の発動を封じる能力であり、既に個性の作用を受けて変質した物体を元に戻すことは出来ない。
「つまり、適応済みの肉体ではなく、俺の抹消を受ける直前に解析を始めた事象に対する適応が行われない可能性があるのか。」
「後は既存の事象に対する適応前の解析中のデータが消えるとか。」
「なるほど、禪院少年の個性は大分受け身なんだね。」
「ま、そこが俺の欠点ですかね。」
摩虎羅を倒す手段は超火力による一撃必殺か初見殺しの概念系個性。
個性を活かす戦闘スタイルで考えると摩虎羅は基本的に相手の攻撃を受けた上で適応で後出しで圧倒するスタイルであり、前者は長年の適応による耐久力で何とかなるが、後者は難しい。
「そこら辺の見極めは教えられるから真面目に授業受けろよ。」
「へーい。」
「もしかして、勉学にも個性が発動してるのかい?」
「…そうすっね。
初見の問題でも答えが出てきます。」
「思考を聞くタイプの問題増やすか。」
コレを機に知識ではなく、学年全体で数学的思考や論理を問う問題が増える事になった。
「というかどうやって『抹消』が効いてるか判定するんだい?」
「「あっ…」」
根津の言葉に摩虎羅と何故かオールマイトも声を上げた。
摩虎羅の個性は常時発動型であり、適応の完了合図は何時鳴るかはわからない。
抹消を受けながら未知の事象を体験するか、未知の事象の体験後に抹消を受けて様子を観察しなければ、本当に抹消が効いているのか、あるいは抹消に対して適応するのか判定が付かないのだ。
「やっぱりオールマイトにぶん殴って貰った方が。」
「今日は活動限界が…」
「よし、解散!
後日しっかりと打ち合わせして実行しようか!」
取り敢えず相澤先生に個性を発動して貰った摩虎羅だが、やはり抹消に対して適応しているのかイマイチ分からず、本格的な検証は後回しとなった。
「そう言えばお前は体育祭マジメにやれよ。」
「心折れちゃいますよ。」
「その程度で折れるならどの道、三年間で除籍だよ。」
「じゃあ一位は貰っときますよ。」
訓練場からの帰り道で頂いた相澤先生からの注意に摩虎羅は真面目にやると宣言をした。
そして体育祭当日。
ヒーロー科1年の入試トップである摩虎羅が選手宣誓を行う。
『選手宣誓、精々就活頑張れよ。』
『『BOOOOO!!!』』
『あの馬鹿…!』
会場中からのブーイングの中に、プレゼント・マイクに無理矢理解説として連れてこられた相澤の呟きが混ざる。
摩虎羅は選手として真面目にやるとは言ったが、選手宣誓を真面目にやる気はなかった。
「どの立場で何様の態度じゃ!」
「宣誓じゃねーだろ!!」
「模範となる宣誓をしたまえ摩虎羅君!!」
上鳴や峰田は声を上げ飯田も注意し、A組の大半から白けた視線を浴びせられた摩虎羅はどこ吹く風で壇上から降りようとしていた。
『やり直し!!』
「チッ。」
開会式の進行を進めるR18ヒーローであるミッドナイトからやり直しを命じられて渋々壇上に戻らされた摩虎羅は適当にそれっぽい言葉を言おうとして、ふと、ブーイングしてくる一般科や観客を眺めた。
(有象無象が馴れ馴れしい。)
摩虎羅にとって一般人は有象無象、先程の宣誓にブーイングを言うヒーローも有象無象に毛の生えた程度の雑魚。
禪院家にいたら、ギリギリ「炳」の下働きが精々程度の雑魚が自分に向かってブーイングを放つ。
実際向こうから見たら雄英の1年が生意気言ったという見方であり、民度はともかく悪いのは摩虎羅ではある。
(決めた。)
「選手宣誓ー」
「格の違いを見せてやる。」
摩虎羅は宣言と共に観客に向けて圧を放つ。
殺気とも言いかえても良い。
「「ーー!」」
会場が静まる。
殺気に呑まれて固まった観客を尻目に今度こそ摩虎羅は選手宣誓を終わらせた。
殺気に呑まれなかったのは警備として参加していたヒーローと轟を見に来たエンデヴァーだけだった。
「あれが禪院家の秘蔵っ子か。」
「あの直哉を退けて次期当主になるだけはあるな。」
「つーか禪院家に選手宣誓やらしたら、こうなるわな。」
「直哉がいた三年間は士傑でも荒れたって噂聞いたな。」
「デビューしたらヤバそうだな。」
「フン。」
警備の禪院直哉とデビュー時期が近い若手ヒーロー達が口々に摩虎羅の評価をしていくなか、観客席にいたエンデヴァーは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
『一応宣誓だから良し!
早速競技を始めるわ!!』
摩虎羅がA組の列に戻ると、ミッドナイトが空気を替えようと競技説明を行うと徐々に観客達も緊張が解けて騒がしくなっていく。
最初の競技は障害物競走。
スタジアムの外周を4km走り、上位42名が次へと進める。
ルール説明が終わり、扉が開き生徒達が合図を待つ。
『よーい!
スタート!!』
合図を聞いて全1年生徒が狭いスタート地点から飛び出してコースを進んでいく中、会場ではプレゼント・マイクの実況が響く。
『さあ、いきなり障害物だ!!
先ずはロボ・インフェルノだー!!
…ってスタート地点にまだ残ってる奴がいるぞ!?』
『選手宣誓でかました禪院選手、まさかの試合放棄かー!?』
摩虎羅はスタート地点から一歩も動いていなかった。
思ったけど騎馬戦で組んでくれるやつおるんか?