期末テストも終わり林間合宿迄の夏休みの間、摩虎羅は父親に連れられてとある料亭に訪れていた。
「ふむ、後は若いもの同士でな。
のうエンデヴァー?」
「冬美、何かあったらすぐに声を出せ。」
「そんな言い方だめだよお父さん!
私は大丈夫だから!」
父親の珍しく真剣な心配を受けて少し嬉しい半分、社交的に相手に失礼な父親を咎める冬美の表情は少し硬い。
「良く出来た娘ではないか。
摩虎羅、期待しているぞ。」
「へーへ。」
摩虎羅は適当に返事をするとエンデヴァーと直毘人は別室へ移る為に退室していった。
二人の間に静寂が流れる。
耐えかねて切り出したのは轟冬美の方であった。
「えっと、ご、ご趣味は?」
「競馬。」
まさかの回答に轟冬美の目が驚く。
「高校生だよね!?」
「あ、ちゃんと名義は親父だから。」
「そういう話じゃないよ!
だめだよ若いウチから賭け事なんて。」
(エンデヴァーって二十歳から子ガチャしてんのにな。)
最低な反論を内心思いながらも、声に出さずにしているとツッコミを入れた冬美は緊張が解けて肩の力が多少抜けたらしい。
「全くもう。
というかそもそも摩虎羅君も迷惑だよね。
いきなりお見合いなんて。」
彼女も馬鹿ではない。
父親から見合いの話をされた時の表情で普通の見合いではないと分かっていたし、母方の親族から見合いの成功を願うような言葉を送られたりと周囲から望まれている事に気づいていた。
禪院家という存在と轟家の共通点、末の弟について考えれば自分にそういう期待をされていると分かると父親や周囲に幻滅した。
(けど、父さんに望まれたって少し嬉しくはなっちゃったんだよね。)
生まれてから滅多に無かった父親からの頼み。
それが彼女がこのお見合いを受けた理由だった。
「別に、ウチなら割と穏便な方だろ。
逆に弟と同じ年齢のガキと付き合えんのかよ。」
「うーん、そもそもそういう経験が無いと言うか知らないと言うか。」
チャンスが無い訳では無かった。
声をかけられた事もあるが、自分の家が普通じゃないことを考えると、そういう話に臆病になってしまった。
「後、確認なんだけどこのお見合いってお父さんの血筋目当てなんだよね?」
「そっちもあるけど、氷叢の血筋の方が価値は高い。」
「…お母さんの?」
予想していなかった答えに疑問符が浮かぶ。
「氷叢家も理由はどうあれ濃い血筋らしい。
親戚婚繰り返して衰退した一族だが、氷の因子が濃くて今や貴重なんだと。」
近い遺伝子同士の交配は遺伝子疾患のリスクが高い。
その中には生まれつき不能であったりといった症状もあり、禪院家としては氷叢の血の濃さに気付いていた物の、繋がり自体は確保しつつ、血を入れるのを避けていた。
エンデヴァーに紹介したのは血を薄めさせる目的であり、将来的に外の交わりを得て薄まった氷叢の血を取り込む為の策でもあった。
予想以上だったのは彼女の母親である轟冷が母体として優秀だった事だろう。
「健康な子供を四人も作れる母体から生まれたアンタは氷叢家からしても貴重な存在だからほっとくと身内から似た話が来ると思うぜ。」
母体として優秀さを評価しているのは禪院だけではない。
氷叢という一族自体は現状離散してしまっているが、本家再興という野望を持ってるかもしれない人間の観点からすると轟冬美の価値は非常に高い者となる。
「…」
自らの血の評価に彼女は思わず俯いた。
個人ではなく血筋が己の人生にここまで負荷をかけるとは思ってもみなかったのである。
「…やっぱり無理かな。
私、普通の家庭に憧れてるの。
お父さんとお母さんがいて、家族で食卓囲んで仲良く話すようなそんな家庭。
摩虎羅君というか禪院家の方ってそういう家庭築ける?」
彼女が一番に望む事は自分の家族である轟家の普通の一家団欒。
それが不可能であったなら、せめて自分の作る家族はそういう暖かい家庭でありたい。
自分の望みは禪院家では恐らく叶えられないだろう。
そう彼女は思っていた。
「俺以外は無理だな。」
意外な回答に再び彼女の目が丸くなる。
「え、摩虎羅君なら大丈夫なの?」
「先ず、俺は当主で禪院家で一番強い。」
故に逆らえる相手は居ない。
「次に俺の個性血統は禪院家でも最強の血統になるから例え子供が無個性だろうと一族での価値は特殊なものになる。」
子供が無個性だろうと子孫が摩虎羅の個性やそれ以上の個性を発現する可能性がある限り、禪院家は蔑ろにすることは出来ない。
「実務は直哉に投げてるから俺には禪院家としてのしがらみは少ないしあっても面倒なら無視する。」
そもそも当主としての義務は最低限しか果たす気がなく、一族経営やらなんやらは直哉に丸投げする気しかない。
「だから一般家庭がどんなのか知らないけどアンタと俺の相性次第じゃ問題ないんじゃないか?」
摩虎羅が望めば使用人やらと距離を置き、二人で生活していく事も可能であった。
「…えっと、摩虎羅君以外だと?」
もし、摩虎羅以外の禪院家と結婚した場合は個性の希少性がなくなりその他の禪院家と変わらなくなる。
その場合は使用人に囲まれて一族の一人として育てられる故に育児という面で母親の価値は下がる。
「端的にはガキ作ったら後は使用人と変わらない生活が待ってるか、ガキ作ったら金受け取ってさよならか。」
「そんな愛の無いことはしません!!」
禪院家の酷い扱いに冬美は思わず声を荒げる。
「…取り敢えず、私の立場と摩虎羅君と結婚するメリットはわかったよ。
けどやっぱり弟と同じ年齢とか色々考えさせてほしいな。」
色々と話を聞いた上で自身の家族を第一として考えるとやはり弟と同じ年齢の相手というのは躊躇があった。
「学校での焦凍の話とか聞いても良い?」
雄英高校に入ってから冬美の弟である焦凍は確実に変わった。
特に顕著なのは体育祭であろう。
体育祭の振替休日に数年間、会いに行かなかった母親に自ら会いに行ったりと精神的変化が凄まじい。
詳細を聞きたいが、家では割と無口かつ天然な弟は学校での話を端的にしかしてくれない。
「良いけど、俺も詳しくねぇぞ。」
(流石にコンプレックス刺激して顔歪ませる程にブチギレさせた事は黙っとくか。)
多少の事は隠しつつも学校での様子を話すと冬美の顔に笑みが浮かんでくる。
弟を中心に雑談していくと時間が経つ。
「ねえ、お見合いを進めるとかじゃなくて、今後も弟の話とか聞きたいから連絡先交換しても良い?」
冬美の提案は摩虎羅にとっても有り難いものだった。
連絡先を交換して定期的に連絡取り合ってるとなればお見合いは順調だと周りが勝手に判断してくれるからだ。
「見合いの答えは適当に決めて良いしなんならワザと数年間掛けても構わねぇ。
ま、俺と連絡取り合ってるならその他は黙るだろうから適当に考えといてくれや。」
「私も自分の周りの事を少し調べたいから時間かかるかもだけど、答えは出すね。」
こうして摩虎羅のお見合いは一旦の終わりを迎えた。
尚、裏で夏雄狙いの工作がされてる模様。