果たして幸せになれるのだろうか。
とある雑居ビルの地下にあるバーにて。
「礼儀知らずとガキ。
…だめだ、勝てない。」
死柄木弔は紹介人である義爛から紹介された二人を見て溜息を吐いた。
全身の焼け爛れ皮膚を無理矢理繋ぎ止めている男とそこら辺にいそうな女子高生。
どう考えてもこの二人があの男に通用するとは思えない。
「ステイン使ってもこんなもんか。」
ステインという過激思想とカリスマを利用した事で敵連合はステインの思想を継ぐ組織として注目を集めていた。
義爛はその知名度を利用して元々渡りを付けていた相手の中で反応が良かった二人を連れてきていた。
「勝てないって言うのはオールマイトか?」
死柄木の勝てないという発言に礼儀知らずが反応した。
「違う、もっとイカれた奴だ。」
「もしかして摩虎羅様?」
敵連合の雄英高校襲撃という情報と体育祭での印象的な生徒の活躍から女子高生は正解を言い当てた。
「…!!
その名前を出すな!!!」
摩虎羅、その名前を聞いただけで死柄木の体は震えだす。
ドクターに治してもらった縫い目だらけの両手から潰された時の痛みが蘇ってくる。
突然の凶変に義爛達、3人は驚愕する。
「ごめんなさい!
ステ様もかっこいいけど、マコ様も自由で好きです!
血を流した所を見てみたいです!」
女子高生は意味が分からない弁明をしたが、死柄木の耳には入っておらず症状は酷くなるばかりで過呼吸まで起こし始めた。
「はあ、はあ…!」
「イケない弔、薬を。」
黒霧が事前に用意していた精神安定剤を奪い取るようにして手に取り水もなしに呑み込んでいく。
「不安だな…、敵連合のトップが学生相手にビビってんのかよ。」
死柄木の様子に礼儀知らずが懸念を示す。
黒霧が弁明をしようと口を開くが、その前に義爛が死柄木のフォローをした。
「まあまあ、ま〜ビビるのも無理ないぜ。
禪院家自体がイかれててヤバいんだ。
噂じゃ、次期当主って話だしな。」
裏の世界でも禪院家は有名である。
『禪院家に見つかったら交番に自首しろ。』
と言われる格言がある。
禪院家は敵を巻藁か何かと勘違いしており、普通のヒーローなら捕縛目的で敵を捕えるが、禪院家は個性の試しとして敵を死なない程度に攻撃して生きてたら捕える。
敵からしたら禪院家と戦うと重症以上は確定。
故に禪院家と相対したら即自首した方が命は助かる。
ここでポイントなのは交番に自首することだ。
絶対に禪院家のヒーローに向かって自首してはいけない。
『自首のフリして騙そうとしてるに違いない。』
と言って普通に襲ってくる。
裏の世界の常識として禪院家の縄張りで商いはしない。
一歩でも法に触れてると分かれば彼らは容赦なく一切の許し無く処断する。
「ふぅ~。
取り敢えず、名を名乗れ。」
死柄木は安定剤で落ち着きを取り戻した。
「トガです。
トガヒミコ!
ステ様かっこいいしマコ様も自由で好きです!
二人の血が見たいです!」
トガヒミコから見ると摩虎羅は圧倒的に自由な人間であり、体育祭の時からずっと血を飲みたくてしょうがなかった。
「荼毘で通してる。
ヒーロー殺しの意志を全うする為にここに来た。」
荼毘は摩虎羅を知らなかった。
飽く迄もステインの意志の為にいることを改めて強調してきた。
「体育祭の活躍は見たが、そんなにヤバいのか?」
「あんなのお遊びだ!
ダメージ与えても適応で回復した上に無効化されるし、無効化の過程で身体能力も可笑しい巫山戯たチート野郎だ!!
アイツを殺さなきゃ、オールマイトを殺しても何も変わらない!!」
荼毘の疑問に対して死柄木は興奮しながら如何に禪院摩虎羅という存在がチートであるか力説した。
オールマイトを殺して社会を壊した所で次に君臨するのが摩虎羅に代わるだけであり、自分の想像通りの形はやってこない。
(禪院摩虎羅、敵連合を単体で退けたって噂は聞いていたけど反応を見るに本当ポイな。)
死柄木の様子を観察していた義爛は摩虎羅の脅威度を内心で修正していく。
「商売的にも禪院家は目の上のたんこぶだから、消してくれるとありがたいねぇ。」
禪院の名前が出てくると裏で手を引く人間は多く、例えば犯罪計画を実行する地域のヒーローが禪院のヒーローと仲が良いという噂だけで中止になるほどだ。
「ならもっと寄越せ!」
死柄木は二人の態度について文句は言わなかった。
摩虎羅を倒すためには質も大事だが、量もほしい。
気に入らなかったが、それよりも重要なのは摩虎羅を殺せるか否かでありそれ以外は一旦、飲みこんでいた。
「彼ら以外にもアプローチで良い感触があるから心配しなくてもドンドンご用意しますよ。」
(と言っても何人が禪院家に敵うかね。)
敵連合に紹介出来る、一級品の敵のリストでも禪院家のヒーローと事を構えられる強さを持つ敵は少ない。
禪院摩虎羅に、引いては禪院家に打撃を与えるための投資と考えて、義爛は赤字覚悟でよりすぐりを紹介していくつもりだった。
「…なら良い。
取り敢えずお前らは合格だ。
黒霧、後は任せた。」
雄英高校襲撃時にチンピラ敵100人近くを紹介した時は子供大人と呼べるような程度の低い敵だった死柄木だが、今回の死柄木弔は義爛の目から見て確実に成長していた。
「この前より随分大人しくなったじゃないか。」
一悶着程度はあると覚悟していた義爛だが実際は問題なく事が進んでいく。
「想定外の敗北が響いたようでして。
取り敢えず今後の事は改めて連絡致します。」
そして林間合宿当日。
とある広場に降ろされた雄英高校1年A組は土砂に巻き込まれていた。
「悪いが、合宿はもう始まってる。
後、爆豪と禪院は特別コースだ。」
二人をA組から分離させようと土石流は別方向に二人を押し出そうとしていく。
「「!!」」
「爆豪勝己と禪院摩虎羅は本気でやって良いって聞いてるからスペシャルコ〜ス!」
ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!の一人、ピクシーボブは目を見開いた。
二人は土石流を駆け上がっていた。
僅かに紛れ込んでいる岩や石を器用に踏んで、ピクシーボブの前に降り立つ。
「良かったな爆豪、お前は彼奴等より上だってよ。」
「ケッ、テメーを超えなきゃ意味がねぇよ!」
「土石流登られちゃった!?」
涼しい顔で土石流を登りきった二人にピクシーボブは唾を付けるのも忘れて驚愕した。
「前もって聞いてたけど予想以上ね…」
「…そこは落ちとけよ。」
マンダレイも事前に聞いていた話以上の実力に舌を巻き、相澤は空気を読まずに登ってきた二人に溜息を吐いた。
「個性使いに襲われたら根本を断つのは常識だろ。」
(個性使い…古い言い方だな。)
相澤の溜息に言い返した爆豪の台詞の中にある『個性使い』とは個性社会黎明期に使われた言葉。
知識面でも禪院家の影響が出始めたことに相澤は警戒心を強めていく。
「取り敢えず、お前らもさっさと降りて合宿場に向え。」
「10分かな。」
「なら俺は5分だ!」
相澤の言葉を聞いて二人は空を駆ける。
摩虎羅は脚力で空間の面を捉えながら蹴り飛んでいき、爆豪は両手の爆破で器用に飛んでいく。
(爆豪の飛行が安定していて速い。
以前の爆豪の個性限界も考えると一度に数十メートルが限界だが滞空して合宿場まで飛べるスタミナと出力か。
…アイツには林間合宿いらないな。)
摩虎羅はともかく爆豪の成長ぶりから相澤は爆豪も補助として使うと決めた。
「当たり前のように飛んじゃって!
甘いっての!」
二人を串刺しにせんと多数の土槍が伸びていくが全てかわされる。
「嘘!?」
土石流の様なヤワな技ではなく、対敵用の本気の技が学生にかわされるのはショックであった。
「ハッ!
コッチは岩槍砕いてんだよ!!」
「ああ、あの年齢分かんないジイサンか。」
二人の余裕そうな姿に今度はマンダレイが動く。
「物理が駄目なら音はどう?」
マンダレイの個性はテレパス。
思考を伝える個性であり攻撃性は一見無い。
マンダレイが自身のテレパスで、ある音声を流すまでは。
「「!!!!」」
大音量の雑音が頭の中に直接叩き込まれる。
ノイズと大音量による強力なストレスが爆豪の集中を削り動きが止まる。
「ナイスマンダレイ!!」
「ガハッ…!」
その隙を見逃さずに土槍が爆豪の腹に突き刺さる。
一本の土槍が突き刺さると更に地面から触手の様な動きの巨大な土碗が出てきて爆豪を地面に引きずり落とす。
ガコン!
「テレパスか。
久しぶりに喰らったな。」
一方、大音量のノイズを頭に叩き込まれた摩虎羅は適応により自身に伝わるテレパスに対して一定以上の音量を抑える機能とノイズキャンセリング機能を追加してノイズ攻撃を無効化していた。
「爆豪もまだまだだな。」
ちょっとだけ敵連合サイドを話しつつ摩虎羅の林間合宿開幕編。
二人はクラスメイトと格が違うので即分断される。
呪詛師を敵として出そうかな。