「月堕蹴!!」
「ブベッ!」
合宿所に襲撃してきた蜥蜴は跳ねてきたミルコによって武器ごと一撃でぶっ飛ばされた。
「ヨッシャー!
一番乗り!」
「ミルコ!?
何でプロヒーローがここに居るのよ!!
キャッ!!」
驚くマグ姉をよそにミルコは素早く近づき、蹴り飛ばして木々へと叩き飛ばす。
「おい、お前ら状況は!!」
「A組とB組の生徒がまだ森の中、通信は通じない!!
救援はどれくらいだ!?」
何故外部に漏らしていない合宿所にプロヒーローがいるのかという疑問を一旦忘れて、ミルコと情報の共有をイレイザーヘッドは優先した。
「ワタシとリューキュウに禪院家の炳部隊!
後は知らん!」
(この手配は摩虎羅か!
敵の襲撃に対してプロ2名と炳部隊、WWPは一人重傷…!)
即座にマンダレイの個性で生徒達の個性使用を許可し、この危機を乗り切ろうと図る。
「マンダレイ!
生徒全員に戦闘許可を!
一先ず合宿所を拠点にするぞ!」
「「!!」」
突如として現れた荼毘は相澤達を纏めて焼く為に炎を放つが、相澤達は間一髪で躱す。
荼毘の後ろには脳無が2体。
「しくったな纏まった所を燃やせば良かったか。」
「…脳無っ!!」
(あの時の脳無と同じなら不味いぞ!)
現状の戦力ではミルコを軸に纏まって一体倒せるかどうか。
それが2体居る上で炎の個性持ちの敵もいる。
更に事態は悪化する。
「お、着いたな。
うーん、そこの大柄はハンガーラックには太いか…。
よし、ソファーを作ろう…!」
別方向から現れたのは組屋鞣造。
「敵2名に脳無が二人…!」
更に状況が悪化する中、ミルコが動いた。
「いいね、蹴りがいがありそうだっ!」
「守れ脳無A」
いの一番に脳無を従えている敵に接近して蹴りを放つが、放たれた蹴りは脳無に掴まれて不発に終わる。
「チッ!
木偶の坊にしては丈夫だな!」
『踵半月輪!!』
片足を掴まれた体勢から体を捻って放たれた踵落としは脳無の頭を潰すのに十分な威力だが、脳無は動じない。
即座に肉が盛り上がり頭を治し始めていた。
「残念、再生持ちだ!」
脳無共々、焼き払おうと荼毘が炎を放とうとするが、不発に終わる。
荼毘が視線を向けるとイレイザーヘッドと目が合う。
「イレイザーヘッド、面倒くさいな。
脳無Bやれ。」
相澤達が荼毘達と相対している時、組屋と虎も戦っていたが、戦況は組屋に傾いている。
「掠っただけで我の指を…!」
組屋の斧を虎は躱し切れずにギリギリ指に引っかかる様に触れただけで指が落ちた。
明らかに異常な斧に対して虎は攻めるに攻めきれない。
「じっとしてろよ、素材が作品の邪魔すんな!!」
(あの言動に不可思議な斧、まさか…!)
他人を素材扱いし、異常な武器を使う敵の団体に虎は心当たりがあった。
「貴様、美術家の一人だな…!」
芸術活動を自称して数々の猟奇的事件を起こす指名手配団体、『美術家』彼等の特徴の一つとして挙げられるのが彼等の持つ個性が宿っている様な武器の数々。
「おお!
俺の作品に気づいてくれたのか!!
良いだろコレ!
ガタイはちっちゃいが強かったからインスピレーションが湧いてしょうがなかった…!」
組屋の発言は虎に最悪の予想をさせた。
「まさか…!
その斧は生きてるのか!?」
「…?
死んだら素材の味が活かせない。
当たり前だろ?」
生きたまま、人間を武器に変える。
組屋は己の個性で何十人と武器や家具に変えて生きてきた。
お気に入りの斧もその一つ。
小柄だったという理由で生きたまま斧へと変えられたヒーローの成れの果てだ。
「貴様ァ!!」
「お前もソファーにして大事に使ってやるよ!!」
ヒーローを生きたまま武器にし、悪行を成す。
一線を踏み越えた外道に虎は怒り、組屋へと襲いかかる。
そして森の中では捕食者が暴れまわっていた。
月を背にしたムーンフィッシュは己の歯を伸ばして獲物を追い立てていた。
「肉…ウマイ…!」
「障子大丈夫か!?」
逃げているのは尾白と障子。
障子の複製腕の一部が千切れており、その肉片はムーンフィッシュが貪っている。
「複製腕だから心配は無い。
それより、今は合流をッ!!」
先を急ごうと焦る障子の肩に歯が突き刺さる。
ムーンフィッシュの個性なのであろう。
歯を自在に伸ばして森の中を縦横無尽に動き回り、二人を追い詰めていく。
もっと、牙を突き立てるに相応しい多くの肉を。
ムーンフィッシュは食欲に身を任せて幾重も歯を伸ばす。
「くっそ!
コイツ歯が伸びるだけなのに強い!!」
月明かりを背にすることで明かりを奪い、目まぐるしく変化する木々の中で退路を塞ぎ森の奥へと二人を追い詰めていく。
しかし、ムーンフィッシュは目立ちすぎた。
ムーンフィッシュの頭上から月が消える。
『ドラグーンパニッシュ!!』
ムーンフィッシュより更に上、空中からの全荷重を込めた竜の腕は容易くムーンフィッシュを地に叩き付ける。
歯が折れたのだろう、ムーンフィッシュの口元からは血が溢れ出す。
「新手!?」
「いや、あれはプロヒーローだ!」
リューキュウはその姿故に男子の知名度が高い。
二人も例外ではなく、リューキュウの登場に表情が明るくなる。
「良く持ちこたえました!
ここは任せて避難を!」
敵の一人を抑える事が出来たが状況は悪い。
花御によって森は形を変えて行き、合宿場へと向かうのが難しくなっていく。
(思ったより生徒が散らばっている…!
それに森そのものが動いているのが厄介…!)
「ホークス!
森そのものが動いていて避難が難しい!
何か生徒達への目印を!!」
「了解!
…とは言っても手段に乏しいな!」
今回、ホークスは完全に裏方に徹する手筈であった。
ここで正体がバレて敵連合にマークされると今後予定していた手段が使えなくなる可能性がある。
(向こうに俺の存在がバレるリスクが上がるけどしゃーない!)
しかし、ホークスは生徒の命を助けるためにその羽根を散らす。
ホークスから離れた羽根は1枚1枚生徒達の元へと飛んでいく。
「何だ!
羽!?」
ホークスの羽根は体操服に刺さり、生徒達へ進むべき道を示すかの様に服を引っ張り始めた。
「なるほど、その羽根に従って避難を!
…クッ!!」
ホークスの機転により、生徒の安全を確保しやすくなったが敵はまだ生きている。
押しつぶされたムーンフィッシュはリューキュウへと目標を変えて新しい歯を突き立て始めた。
「ニク、肉肉肉にくぅ!!
竜、美味しそう!!」
己の鱗に突き立てられる歯は明らかに生徒達を襲っていた時よりも固く鋭い。
(様子が変わった…!
それにさっきよりは明らかに強い!
ドーピングか!!)
ムーンフィッシュが使った奥の手。
海外製の個性ドーピング剤であり、即効性と強い効果が売りであり、ムーンフィッシュは口を大きく開いて口内の大量に歯を一気に伸ばす。
『歯食怒涛!』
「クッ!!」
至近距離から放たれる膨大な量の歯の槍は容赦なくリューキュウの体を抉っていく。
「舐めるなぁ!!」
プロヒーローとして敵に負けるわけには行かない。
竜としての巨大で強靭な筋肉に物を言わせて、抉られながらも再びリューキュウはムーンフィッシュに渾身の体当たりを食らわせた。
「に、肉ぅ…。」
押しつぶされたムーンフィッシュの口から歯が抜けていく。
体は血の気が無くなったように白くなり、痩せ細っていく。
ドーピング剤の副作用だった。
リューキュウの体当たりによる絶大なダメージと副作用でムーンフィッシュは気を失い完全に脱力した。
「ハァ、ハァ!
敵一体でこれ程とは!
ホークス、増援を急いで!
敵はドーピング剤も使ってきます!」
敵を倒したが代償は大きい。
リューキュウは竜状態で右脇腹を中心に全身を抉られており、重傷であった。
組屋の斧は『刃先に触れた物体を活断出来る』個性が宿ってます。
素材は新人プロヒーローで小柄な女の子でした。
組屋の家具はメンテナンスとして栄養剤とか必要だし、管理が面倒くさいそうな。
ムーンフィッシュは個人的に一芸を極めた感じが好きなんですよね。
さて、増援はどうしようか。