(これ以上適応が進むと俺はどうなっちまうんだ?)
異能じみた能力の獲得という形での適応という新たなステージに立ってしまった事実は摩虎羅のやる気を完全に削いでいた。
最早敵連合の将来的な脅威も抑えられており、後は既存のヒーローや緑谷が頑張ればAFOは倒せるだろうし、最悪原作とズレて上手くいかなかったとしても摩虎羅が生きるうえでの影響は少ない。
(チート個性のせいで思ったより俺自身が原作への興味が無くなってる。)
普通ならというかより良いハッピーエンドを目指すべくチートを活用して邁進するのが転生者の醍醐味だろうが摩虎羅は最近興味を無くしている。
適応が自動発動かつ蓄積されていくため、努力をせずに肉体が最強になるという状況は摩虎羅を無気力な性格に追いやってしまい、それに加えて生まれた家が超金持ちでありこの世の贅を大体体験した事で摩虎羅の生きる周囲に刺激になるようなモノが存在しなくなってしまっていた。
(人と違い過ぎるとこうなるのか。)
自室で大の字でダラッとしていると携帯が着信を示すバイブが鳴った。
公安なら無視しようと決めて画面をみると相手は『轟冬美』だった。
お見合いであった二人だが偶に連絡を取り合う程度の仲にはなっていた。
恐らく林間合宿の一件で心配したのだろう。
「…もしもし。」
「もしもし冬美です。
摩虎羅君は林間合宿大丈夫だった?」
轟冬美の第一声は淡白な確認だった。
ニュースで被害状況が報道された上で摩虎羅なら無事だろうとは思っていたのだろう。
実際、摩虎羅は深手を負うことも無かった。
「問題ないな。」
「…大丈夫?」
摩虎羅の声色から冬美は違和感を感じた。
冬美の心配に対しても摩虎羅は思った事をそのまま口に出す。
「有象無象にとっては大騒ぎだろうが、俺にとっては退屈ってだけだ。」
ヒーローを目指す雄英生として失格とも言って良い言葉だった。
「…もうちょっと詳しく聞いていい?」
摩虎羅がヒーローという職業に興味がそんなに無い事は会話の中で感じていたが、明らかにいつもと違う振る舞いに対して教師としての感が働いた。
「世間だとか敵とかに興味が沸かなくて個性が強すぎて張り合いもねぇ。」
摩虎羅は轟冬美に対して転生者云々をぼかして、端的に今の現状を伝えた。
「…摩虎羅君ってもっと好きに生きても良いと思うよ。」
「はぁ?」
否定というか性格を矯正するような言葉が出てくると思っていた所にまさかの好きに生きろと言われて思わず摩虎羅は声が漏れた。
「私も教師やってるから子供達向けの本とか読むんだけど、とあるファンタジー小説にドラゴンが出てくるの。」
その話はよくある王道の勇者と魔王が出てくるありきたりな話だ。
「そのドラゴンは強くて、勇者とか魔王ですら跳ね除けちゃうくらいなんだけど、世界平和とか興味ないんだよね。」
ドラゴンはとても大きく強く、その鱗は硬く、牙と爪はとても鋭い。
勇者は聞いた。
『その強さで何故魔王を倒し平和を作らないのか。』
『興味がない。
俺は魔王に何もされてないからな。』
ドラゴンにとって己の邪魔をするなら敵だが、そうでないなら興味を持たず、気儘に暮らすだけ。
「けど、そのドラゴンが住んでる地域は凄く平和なんだ。
周りに興味無くて自由気儘に生きてるけど、周りが勝手に調和してのどかで一番平和な場所なんだ。」
ドラゴンの周りにはたくさんの魔物や人の村があった。
『あのドラゴンは俺達を食わないし、興味もない。
けど凶暴な魔物はドラゴンにビビって近づかない。
勇者様も頼むからドラゴンを刺激しないでおくれよ。』
『ぷるぷるぷる。
あのドラゴンがいるから人間も大人しいし、僕らも安心して生きられる。
魔王様が関わってほしくないな。』
「で?」
「摩虎羅君ももっと自由に生きて振る舞って、そうすれば周りが勝手に摩虎羅君の周りで平和を作ってくんじゃないかな。」
「ハッ、ヒーローの娘の台詞じゃなねぇな。」
絶対的な存在が君臨することで、周りが勝手にビビって平和を維持しようと心がけて平和を保つ。
ヒーローが支える現代社会とは真逆の発想だ。
「かもね…けど、縛られて鬱憤たまるよりは全然良いと思う。
それに摩虎羅君の性格で好き勝手振る舞って壊れちゃうならそれまでの社会だと思うし。」
「それが本音か。」
轟冬美もヒーロー社会の被害者であった。
彼女の心境を摩虎羅は知らないが、それが小さなSOSであることくらいは分かる。
「…。」
「ま、ドラゴンってのは悪くねぇ。
確かに有象無象を気にするくらいなら好き勝手生きた方がマシだし、俺が有象無象の強制を受ける筋合いもねぇか。
取り敢えず、お前は俺の周りで暮らす村人1号か?」
「うーん、そうなれたら楽だけど色々とそうはいかないよ。」
「けどドラゴンには関係ないよな。」
ドラゴンが翼を広げ始めた。
摩虎羅ライジング的な話
個性 ゴア・マガラは生存罪という意見が多数で笑った。