禪院直哉の個性『投射』は『己の視覚を画角とした時の一秒を48分割した動きのイメージの実現』という十二分に強力な個性であり、実現可能な動きならば自動的に脳内にイメージした動きを全自動で発動する。
欠点として過度な物理法則や加速度を無視した動きを実行しようとするとトレース不可として一秒間フリーズしてしまうという欠点があるが、禪院直哉は天性のセンスで欠点に陥いる事はない。
この欠点は逆に言えば『多少程度なら物理法則や加速度を無視出来る。』という事でもあり、一回発動による加速に制限が付くが、個性の連続使用で最高速は指数関数的に跳ね上がる。
現在、直哉は禪院摩虎羅の周囲を円を描くように廻り続ける動きで最高速まで加速していく。
(勝負は一発、アイツの適応は攻撃を受けなきゃ発動せん!
初手で殺す!)
直哉は着物の下にアメリカで発表されたばかりの最先端の素材を使用したインナーを着る事で空気抵抗による自身へのダメージを抑える事で最高速度はマッハ2.0まで上げることが出来る。
直哉が摩虎羅を一瞥すると彼は軽く腰を落とした状態で円の中心から動いておらず適応の音も鳴っていない。
直哉相手に『待ち』の態度をとってる姿に腹が立つ。
(舐め腐りおって、死ね。)
摩虎羅の右側面、脇腹を直哉の貫手が抉った。
(まだや!)
残心と慢心もせずに、抉り抜いた直哉は速さを維持して今度は背面から左の脇腹を抉る
両脇腹を抉る致命傷を負わせても、直哉は止まらない。
これくらいじゃ巻き返されると知っている。
マッハ2の速さで摩虎羅の周りをすれ違いざまに削り取っていく。
一番柔らかい脇腹を抉り、次に四肢の関節を狙って体をもいでいく。
左腕。
右腕。
左足。
右足。
両足を無くし、宙を舞っている摩虎羅に対して正面から直哉は仕掛けようとしていた。
(後は正面から心臓潰して終いや!)
最速の両貫手が摩虎羅の胸元へと突き刺した。
肋骨の割れる感触があった。
(取った!)
最高速で修練場の壁を突き破り母家の壁を何枚も破壊してようやく止まった。
直哉の貫手は摩虎羅の胸に深々と突き刺さっている。
四肢を無くし、脇腹も無く夥しい量の血が滴り落ちている。
誰が見ても死んでいる。
直哉も摩虎羅の死を確信して僅かに脱力した。
ガコン!
「!?」
方陣の回る音と同時に直哉の顔に衝撃が走った。
殴られたのだ。
(は?)
クズでもプロヒーロー、直ぐに体制を立て直した直哉は眼の前の光景に唖然とした。
「初手で全力をぶつけるのは正解だよ。
けど遅かったな?」
それは奇妙な風貌だった。
ガリガリの四肢に肋骨の浮いた胴、死にかけの孤児のような見た目の摩虎羅が立っていた。
「適応したぜ?」
「っ!
まだや!」
(あの、ガリガリの見た目からして失った質量は補えてない!
このまま攻め続けて、適応に体がついていけなくなれば勝ちや!)
個性『適応』の弱点。
それはあくまで摩虎羅の肉体にしか個性が適用されないことだ。
怪我は治るが、物理的に失われた肉体は戻らず、適応した結果残った肉体で無理やり四肢を再生した。
直哉は弱点を看破し追撃を放たんと個性を使い加速する。
衝撃で吹き飛んだ奥内、広さは十分にある。
(最速やなくてもダメージはまだ与えられる筈や!)
直哉は躊躇なく離脱した。
最高速度の一撃を受けて適応された時点で、最速以外の一撃は意味がないと悟ったのだ。
(中途半端な速さじゃぶち抜けん!
もう一度最速を…ッ!)
「待てよ。」
「ガッ!」
視界がブレると同時に浮遊感からの衝撃。
逃げようとした足を掴まれて叩きつけられたのだ。
適応した摩虎羅に投射の初速は遅すぎた。
「ー?」
摩虎羅の時間が止まった。
既に足元に直哉は居ない。
(…チッ、投射の強制か。)
建物が壊れる音がする。
どうやら、直哉は再び加速に入っている。
摩虎羅はその場に留まり自分の感覚を確認していた。
(にしても躊躇なく欠点突いてくる辺り、クズでもプロヒーローか。)
『適応』には欠点がある。
今の摩虎羅の様に、欠損した肉体を補う形で『適応』は行われる。
再生持ちの個性の様に完全な再生ではなく、残った肉体で四肢を補填する形で四肢は再生する。
故に肉体の欠損に弱い。
「ま、肉体に依存するのは人の証やな。
にしても今回の適応は『眼』が中心か。」
再生した時に細くなった四肢だが、動かした感じでは出力は前と変わらない。
その時点でかなりの強化であるが、一番は直哉を目で追える様になった眼であった。
「にしても、また待ちか。」
悠々と摩虎羅は敢えて広いところへと移動していった。
一方、直哉は加速していく中で次の策を考えていた。
(俺は次の適応の前に殺らなきゃ終わりや。
けど、今のままじゃ勝てん。)
『投射』の最高速度は青天井だが一回の加速量は決まっている。
そして加速量はフレーム数で変わる。
今現在の48fpsでは恐らく適応まで間に合わない。
しかし、48fpsは禪院直哉の限界。
普段ですら24fpsで本気の時しか48fpsは出さない。
しかし、本気でも禪院摩虎羅には届かなかった。
(アッチ側に行くには今じゃ足りん…!
限界を超えなアカン。
チッ、東の校風と被ってムカつくわ。
オールマイトも雄英の教師になるって噂もあるしクソやな。
…しゃーない、本気超えたるか。)
直哉の動きが滑らかになる。
48fpsを越えた60fps投射!
集中が切れればフリーズするが、投射に適応しはじめた摩虎羅を超えるには更に上から殴り付けるしか手段はない。
「来いよ、直哉!
ビビってんのか!?」
方向から恐らく玉砂利の庭にいるであろう摩虎羅の挑発が響く。
(五月蝿いわボケ!
つーか、敬語使えやカス!)
トップスピードに至った直哉は真正面から摩虎羅へと向かっていく。
音速の壁を破った直哉はソニックブームで障害物を全て弾いていく。
摩虎羅と目があった。
だが、驚いた表情をしている。
その顔を見て直哉はニヤリと笑みを浮かべて攻撃を仕掛けた。
顔を狙った右手の貫手はギリギリ避けられて顔を抉った程度だった。
そしてカウンターで放たれた摩虎羅の拳が顔へと刺さる。
「…!!」
(自分、顔に嫉妬しとるやろ?)
顔へのカウンターが刺さるが、それすら織り込み済みの動きで、自動的に体が動く。
顔への衝撃で意識が飛びそうになるが、肉体は関係なしにトレースした動きを追従する。
顔への打撃を前提としたカウンター返しで放たれた左の貫手は再び摩虎羅の胸元を貫いた。
「!?」
心臓を貫いた感触がない。
否、肋骨は貫いた。
確実に心臓へと到達している。
貫手から心音が伝わってくる。
「ああ、なるほど心臓が一番『適応』したのか。」
左手を掴まれる。
個性を発動して逃げようにも掴まれた状態ではフリーズするだけで拘束は解かれない。
「…詰やな。」
「ああ、俺の勝ちだ。」
「顔ばっか狙って嫉妬キモいで?」
「顔が胡散臭くてムカつくねん。」
トドメの一発が放たれた。
なんだろう、描いてて思ったけど人間で適応は結構外れ個性な気がしてきた。
呪力という万能エネルギーの塊である摩虎羅が持ってるから強いんだよなぁ…(主人公が次元斬が絶対打てない事実から目をそらす。)