■ ■
「トマトは最も人が嫌い、しかし同時に好む野菜だ。つまり、トマト以上に難しい野菜はない」
「れんにぃ、うるさい」
東京都某区、ビル屋上。
法月蓮は、望遠鏡を使って速度を丁寧に保ったまま暴走するバスを眺めながら語り始めたが、そんな自語りを隣で座る少女はうるさいと一蹴する。
綺麗な銀髪ロングの少女の名は、セーラ・フッド。かの有名な森の狩人、ロビン・フッドの子孫である。
「おいおい、もうちょっと聞けよ。これからが面白いんだ」
「そう言って面白かった試しがない」
じとー、とした目で見詰めるも、しかし当の本人はまるで意にも帰すことはない。
彼の同期である夾竹桃と出会った際に言われた事―――『法月蓮の話は無視しなさい。付き合うだけ無駄』と言われたが、それが出来たら苦労しないとセーラは肩を竦める。
無視しても必ず話は続けるし、何度も話題を振ってくる。我慢比べにおいては
「酷い言い様だ。まぁ、聞けよ。お前、ピザは好きか?」
「……好きか嫌いで言えば、好き」
「ピザはイタリアで生まれた。そして、トマトを料理に使って、トマト料理として成立させたのはイタリアが初めてだと言うぜ」
「ふーん」
素っ気ない反応をするセーラだが、これでも感心はしているのだ。
決して面白い話ではないが、それでも雑学としてはまぁまぁな話ではある。まだ12歳の少女という身でありながらイ・ウーに所属する彼女だが、それでも12歳の少女だ。
必要以上の知識は有していない。だからこそ、こういう使う事が早々ない知識には興味を惹かれたりするものだ。
「トマトが嫌いな人間でも、調理されたトマトは大丈夫な奴って結構居るだろ? でも俺はダメだ、調理されててもダメ。ケチャップすら」
「…ケチャップも無理なの?」
「あぁ、無理だね。口に入れた瞬間に拒否反応を起こす。おえーっ、てな」
「それは…もはやアレルギーじゃない…?」
「そう思うだろ? けどアレルギーじゃないんだよこれが。ここまでくると俺がトマトを嫌いなんじゃなくて、トマトが俺を嫌っているとまで思える」
「れんにぃ…かわいそう」
セーラは本気で憐れんでいた。
くっそどうでもいい事を自慢げに語る彼を憐れんでいた。
12歳の少女に憐れみを抱かせるとは、中々に痛々しいものである。
「おい、憐れむな。俺は全然気にしてねぇんだぞ、あぁ気にしてねぇとも。バーガーもピザも完璧に味わえねぇのが勿体ないなんざ思ってねぇさ」
「ブロッコリー、要る?」
「お気遣いどうも。だが俺は味付けされてるのが好きなんだ、特にアヒージョ。後は十分に塩が振りまかれたのも最高」
「子供だね」
「うっせ。あ、おい見ろよ。遂に神崎と遠山が動き出したぜ」
話題を変える様に、再び望遠鏡でバスへと目を向ける。
綺麗な薄紅色の髪をツインテールにした少女と目付きの悪い黒髪の少年。『武偵殺し』―――峰理子が狙う2人の武偵だ。
「神崎・
「そして遠山キンジ。アイツが1番のイレギュラーだろうな、何を仕出かすか予測がつかん」
「れんにぃ、負けそう?」
「いいや? 勿論の事、俺が勝つさ。俺がやるのは勝負じゃなくて
「それ、フラグって言うんでしょ?」
「おっけー分かった、夾竹桃だな。当たりだろ?」
「ううん、峰理子」
「くそが。後で鬼電してやる」
妹分に余計な知識が蓄えられている。やはりあの2人は教育に悪い、預けるならばジャンヌに預けるべきだったろうかと蓮は後悔した。
それはそれとして、取り敢えず事が終わった後に理子に鬼電する事にしよう。
「ねぇ」
「なんだ?」
「どうして、私を呼んだの?」
「暇そうだったから。後は話し相手だ」
「それだけ…?」
「おう、マジそれだけ」
セーラは思わず顔を顰めたに、まぁ待て待てと蓮は笑う。
「敵情視察って大事じゃん? 神崎と遠山はイ・ウーと確実にかち合うんだ、それもある。遊び相手になって欲しかったのもある」
「…それ、後付け」
「そうとも言う。だがな? 傭兵として依頼ばっかなお前は勿体ないんだ、もっと子供らしく遊ばなきゃ」
「…別にそんなの、れんにぃには関係ない」
「いいや、あるね。大いにある。イ・ウーに居ようが子供は子供だ、そしてお前は俺の友達だ。友達が娯楽を知らないのを見過ごすなんて出来ないね」
人生は面白く可笑しく。
例え悪人であろうがなんであろうが、子供は皆等しく楽しむべきなのだ。