スライムボディースーツはその名の通り、スライムを原材料とし、血を混ぜて作られるよ。
スライムボディースーツの最大の特徴はその自在性。
魔力を流し込むことで、自分が思うように動かすことができるよ。
あと、この世界で最も魔力伝導率が高いと言われるミスリルでも半分はロスするよ。だけどスライムボディースーツ、スライムソードなら伝導率は脅威の99%だよ。
というわけで、ちょっとした説明だよ。
陰実を見てないっていう人の為にこれからも本文で説明しきれないところは前書きで説明するよ。
君は今日からアルファだ……
あの日の事は今でも鮮明に思い出すことができる。
私が本当の私として再誕した日。
貴女との約束をした日……
闇夜に沈む廃村。
光源は月のみで、とても頼りない夜。
廃村の一角にたたずむ小さなみすぼらしい小屋。
だけど、私にとっては何物にも代えがたい素晴らしい思い出の場所。
私、アルファはそこで生まれた。
本当に覚悟はできてるんだね?
ええ大丈夫よ
貴女は月光が作る陰の中、何処か物寂しそうに……はたまた哀れみだったのだろうか。芸術品とも見紛う見事な造りの顔に哀愁を込めて言った。
君の仕事は……魔人ディアボロスの復活を陰ながら阻止することだ
魔人ディアボロス……?でもあれはお伽話じゃないの?
今思えばあの時の私は何とも愚かな物だった。
〈悪魔憑き〉として売られても未だに
それでも、貴女の苦しみを思えば……
勇者によって倒されたディアボロスは死の間際、三人の勇者に呪いをかけた。それが〈ディアボロスの呪い〉
〈ディアボロスの呪い〉?そんな話、聞いたことがないわ
〈ディアボロスの呪い〉は存在するよ。〈悪魔憑き〉。君の……そしてボクの体を蝕んでいた病のことさ
驚愕に目を見開き仰天する私を、貴女は小さな微笑みで落ち着かせてくれた。
母……生みの親からも感じなかった昼下がりの優しい日差しのような笑顔。そこに私は強烈な母性と……劣情を感じた。
魔人ディアボロスを倒した勇者たちの子孫は長らくこの病に苦しんできた。しかし、昔は〈ディアボロスの呪い〉は治せるものだった。そう、君のように……〈悪魔憑き〉は英雄の子孫であることの証明だった。世界を救った英雄の子であるとして保護され、感謝され、称えられていた。かつては……
今は感謝されるどころかッ……
誰かが歴史を捻じ曲げたんだ。英雄の子という証明を隠し、呪いの治療法も隠し、それどころか〈悪魔憑き〉と蔑まれる存在に……
……ッ!一体誰が!
目の前が赤く染まる。頭が憤怒に支配されていく。
だが、それもすぐに氷解した。貴女はやはりずるい……
それこそが魔人ディアボロスの復活を目論むものたちだ。〈ディアボロスの呪い〉を患う者は、例外なく膨大な魔力を有し、勇者の血を濃く受け継いでいる。つまり人類にとっては貴重な戦力であり、奴らにとっては邪魔な存在
だから〈悪魔憑き〉と称して始末する……
そうだ。君もボクも〈悪魔憑き〉などと偽りの罪を被せられ、故郷も家族も失った。それはとても悲しいことだ……だから、この悲劇はここで終わらせなくてはならない
ええ、悲劇はもうこれで十分。これ以上は胸焼けしちゃうわ
私の回答に満足したのか、貴女は鷹揚にうなずいた。
……ディアボロス教団。それがボクたちの敵だ。奴らは決して表舞台に出てこない。だからボクらも陰に潜むんだ。陰に潜み、陰を狩るんだ
一拍置いて貴女は続けた。
困難な道のりだろう。だが、ボクらは成し遂げなければならない。協力してくれるかい?
貴女が少し自信なさげに、手を指し伸ばす。
私はそれを何の躊躇いもなくつかんだ。
貴女がそれを望むなら、私はこの命を懸けましょう。そして、勇者の子孫に救済を……
我らは『シャドウガーデン』……陰に潜み、陰を狩る者……
小さな手作りの椅子。
貴女はディーアイワイと言っていたかしら。
私よりも、同世代の子の平均よりも小さな背丈。それを見窄らしい椅子に預け、堂々と語る姿は傍から見たら滑稽な物だったのかもしれない。
だけど、私にとっては、世界の終わりを前にしても公然と語る予言者のように、古今東西類をみない稀代の英雄のようにも見えたそれは、間違いなく幻覚などではなかった。
自分の殻に閉じこもり、掴むことができないとわかっていながら、現世を望む愚かな私を救ってくれた救世主だった。
一体いつ、どこで、それを知ったのか私は分からない。
貴女の望む所がどこにあるかも、馬鹿な私には分からない。
けれども、守るべき家族に裏切られた貴女の心の痛みは解かる。
だから……
「……ルファ様、アルファ様!」
古都アレキサンドリアにある大きな館。
そこを二人の少女が歩く。
一人は、十歳を超えて三年しか経っていないとは到底思えない程の淫靡な雰囲気を醸し出す、美しい金髪のエルフ。
もう一人は、金髪のエルフと同い年、けれども胸を除いて年相応に可愛らしい銀髪のエルフ。
「あら、ごめんなさいベータ。少し昔の事を思い出していたわ」
「昔といいますと、『シャドウ』様と出会った時ですか?」
「まあ、そんな所ね」
「わあ、そのお話ぜひお聞きしたいです」
「ふふ、今度時間に余裕ができたらいいわよ」
興奮して話の催促をするのが銀髪のエルフ、ベータ。
それを窘めるのが金髪のエルフ、アルファ。
二人の少女が長い通路で、ワイワイと喋りながら進む。
通路の奥、その何処からかハンマーが弦を叩く旋律が聞こえた。
二人の少女の和気あいあいとしたお話はそこで途切れ、エルフ特有の長い耳で旋律の詳細を聞こうと努力する。
「月光……ね」
ピアノソナタ第14番、月光。地球の音楽界の巨匠、ベートーヴェンが残した曲。
これを聞くとアルファは昔を思い出す。
『シャドウ』に救われた日を。
暗闇の中、何処に行くのかも分からず迷っていた自分を月の光で導く貴女を。
「光を見ることのできない彼女の為に、音楽でもって月の光を感じてほしい……」
「アルファ様、何ですかそれ?」
「彼女が言っていた月光ソナタの意味よ」
「へ~なんだかすごいロマンチックですね」
「ええ、まるで私みたい」
「アルファ様、何か言いましたか?」
「いえ、何でもないわ。彼女が待ってる。早くいきましょう」
日が沈まないことはない。
日が昇らないこともない。
日は必ず人を照らす。
けれども、私たちが日に照らされることはない。そしてあってはならない。
私たちは陰に潜み、陰を狩る者。
だから、貴女は日ではなく月として、私たちを照らしてくれる。
身体が傷ついても、心が傷ついても、優しい貴女は必ず私たちを照らすだろう。
それはとても悲しい事。
だって、貴女はずっと誰にもわかってもらえない。
それは孤高ではなくただの孤独。
そんなことあってはならない。
だから、私がずっと貴女の傍に……
◇
『シャドウガーデン』設立からだいたい3年たった。
ボクとアルファは13歳に。
で、今いるのは、古都アレクサンドリアの館の部屋の一つ。
そこでボクはピアノを弾いている。
別に大した理由はない。いや、大した理由がないのが理由になるのかも?
そんなことはどうでもいい、とにかくボクはピアノを弾いている。
すでに廃れ、少し前までは霧の龍によって支配されていた古都。そこにある館で月光を弾く陰の実力者。最高だ。
あとは、時間帯が夜になってくれれば最高だけど……
暇だからね、仕方ないね。
少し前まではアルファたちと一緒にツーバイフォーの家を作ってたけど、アルファと他の七陰が〈悪魔憑き〉の子をほいほい連れて来るものだから、ごっこ遊びする人数も増えて、ボクは戦力外通告されたんだ。寂しいね。
「ねぇボス!遊ぼ!」
「うん、ごめんね今忙しい」
因みに、七陰は『シャドウガーデン』のボクを除く最初の7人のことを言う。
「そうだ!前のフリスビー?楽しかった!あれやろ!」
「うん、ごめんね今忙しい」
そして、さっきから月光を弾いて悦に浸っている僕の邪魔をする犬、ことデルタも『シャドウガーデン』4番目のメンバー、つまり七陰の一人だ。
「それとそれと!盗賊狩りしたい!」
「うん、ごめんね今忙しい」
七陰は総じて、頭がよかったり、戦闘力が高かったりする。
もちろん、人によって善し悪しがあるから、頭がとてもよくても戦闘力というか、戦闘センスが壊滅的なのもいる。
そして、このデルタは戦闘センスは凄まじいが、その反面頭が兎に角弱い。
一応、庇っておくと、彼女の種族である獣人は一部の例外を除いて皆頭が弱い。まあ、彼女はその中でもさらに弱い部類なのだが……
「ボス!いい?いい!」
「うん、ごめんね今忙しい」
「やった!ボスが許可くれた!早速行こ?今すぐ行こ!」
「うん、ごめんね今忙しい……て、人の話を聞いてた?」
「うん!ボスと一緒に遊ぶって!」
「いや、だから……」
ガチャ
部屋の扉が開かれ、スライムボディースーツを纏った二人のエルフの少女が入って来る。
「アルファとベータか……」
「ええ」
「はい」
「二人して珍しいね、今日はどうしたの?」
ボクがそう言うと、アルファは言いづらそうに口ごもりながら語り始めた。
「前から監視体制を敷いていたクレア・カゲノーが誘拐されたわ。ゼータが監視していたけど、私に報告に来た時に誘拐されたみたい」
「お姉ちゃ……いや、クレア・カゲノーはまだ生きてる?」
ん?何かアルファとベータの顔が一瞬曇った気がするけど……気のせいか。
デルタはなぜか怒気を発してる。ボクと遊べると思ったからかな。まあ遊ばないけど。
「邪魔するな!なのです!デルタは今からボスと遊ぶのです!」
「デルタ。私は今から彼女と大切な話をするの。静かにしてなさい」
「う~、アルファ様でもダメなのです!デルタはボスと遊ぶのです!」
「もう一回言うわ。デルタ静かにしなさい」
アルファから魔力の帯びた濃密な殺気が溢れる。ボクは何ともないけど、ベータは青ざめてるし、直接浴びたデルタは本能で鼻を鳴らしお腹を見せている。
デルタは確かに強い。フィジカル単体ならアルファに勝つ。でも、頭が弱すぎて頭のいいアルファの戦いについて行けず必ず負ける。
「ふう、貴女のさっきの質問に答えるわ。恐らく生きてると思うわ」
「助けられそう?」
「!?……貴女が望むなら」
ん?どういうことだ。ボクはただ、助けられるか聞いただけなんだけど……もしかして、ボクが出なきゃいけない程の強敵がいるのかな。
アルファは正直言ってもう相当強い。そのアルファが助力を請うんだから、相当なものだろう。これは少し楽しみだな。
「分かったボクも出よう」
二人とも随分と驚いているけど、どうしたんだろう。
もしかして、最近ボクが鍛錬以外、ずっとここにいるから出ることが意外だったのかな?
それは少し心外だ。
「犯人はディアボロス教団の者。それも恐らくは幹部クラスよ」
「幹部クラスか……それで、教団はどうしてクレア・カゲノーを?」
「前からクレア・カゲノーに『英雄の子』の疑いをかけていたそうよ。実際、ゼータからの報告だと、1年程前からクレア・カゲノーの背中に〈ディアボロスの呪い〉と思われる痣があったそうよ」
「……1年前?」
おかしい。〈悪魔憑き〉を患った場合、長くても数ヶ月、短かったら数週間しか持たない。それが1年というのは異常だ。
「!?……ごめんなさい。こちらの不手際よ。貴女の心情を考えて報告してなかったわ。クレア・カゲノーが1年も何事もなかったのは、ゼータが逐一最低限の治療を施していたからよ」
「そうなんだ」
それなら納得だ。ゼータにアルファを含め、七陰の全員は〈悪魔憑き〉を治す力がある。
だから、アルファたちは捨て猫を拾うような気持ちでじゃんじゃん〈悪魔憑き〉を拾ってくることができるのだ。
「まあいいや。それよりもベータが持ってるのは何?」
「あ、はい。こちらは今回の件に関する資料です。こちらをご覧ください。我々が集めた最新の調査の中にクレア・カゲノーが攫われたと見られるアジトが……」
ベータがそんな感じで膨大な資料を並べ始めたけど……わからん。
半分以上は古代文字だし、分からん数字やらなにやら、いや君たちこういう雰囲気のある資料作るのうまいね。その分野に関してはもう完全にボク以上だと思うよ。
ボクはベータの説明を適当に聞き流すと、懐に仕舞っているスライムボディースーツから小さい欠片をちぎって投げナイフを作る。
それを、ベータが並べた資料の中で唯一理解できていた地図に向かって投げつけた。
カッと。軽い音を立ててナイフはある一点に刺さる。
「そこに」
「ここ、ですか?一体なにが?……」
「そこにクレア・カゲノーがいる」
アルファとベータは一瞬困惑した顔になるけど、直ぐに「まさか!」みたいな驚愕した顔になった。
わかるよ、実はそこにありましたってやつでしょ。
「流石だわシャドウ。決行は今夜でいいかしら?」
「問題ないよ」
二人とも一礼して去っていく。
やっぱ演技がうまいね。
二人のアカデミー級の演技に乾杯!
曇らせを書くのはとても難しかったよ。
他の曇らせ作品を見て勉強してくるよ。