陰の実力者『シャドウ』ちゃん   作:ちんすこー

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シャドウちゃんのたわわは大きいよ。
異論は認めないよ。


トルコアイス屋『シャドウ』ちゃん

ボクは15歳になった。

本来ならプランA*1の通り、ボクは王都にあるミドガル魔剣士学園に入学する予定だったけど〈悪魔憑き〉になって、貴族としての地位もボッシュートされたからいけないんだよね。

ミドガル魔剣士学園。大陸最高峰の魔剣士学園で、国内のみならず国外からも未来有望な魔剣士が集う場所。明らかにメインストーリーの舞台になりそうな場所なだけ少し残念だ。

 

大陸最高峰なだけあって、校舎も非常に広大で、何個もある道場にグラウンド、生徒玄関の前にはバカでかい銅像や噴水もある。また、広すぎる敷地の一部は一般にも開放されている。

一応、王侯貴族の子女が集まる学園なのにそれでいいのかと思うが、その子女も全員腹筋だけで空を飛べるゴリラなので、なんともないのだろう。

 

ところで今、ボクは一般開放されている敷地でトルコアイス屋をやっている。屋台で。

 

別にトルコアイスに意味はない。

断じて転生する前に、ガチトルコ人のトルコアイス屋にやられたムカつくパフォーマンスを、この世界に生きる者たちに味わわせてやろうとか。断じて思ってない。

ボクの心はマリアナ海溝よりも深いし、ガ〇ジーが助走をつけて殴り掛かってくる程の事でも、許してしまう程に広いのだ。

 

「うおぉぉぉ!ヒョロ君!もっと右です!」

「分かってるよ!でも、取れないんだよ!」

 

一般トルコアイス屋モブのボクの見事な技を前に、二人のモブ生徒の怒号の声が響く。

 

一人は、細長い金髪の生徒。おしゃれに気を使っているようだが、いつも絶妙にダサい……いや、普通にダサい。遠くから見れば雰囲気イケメンでいけそう……やっぱいけない。彼はボクが認めるモブなのだから。ちなみに、名前をヒョロ・ガリという。

もう一人は、ジャガイモ頭の丸刈りの男子生徒。小さな背丈に芋っぽい見た目。三百六十度、遠くから見ても近くから見ても、どこから見ても完璧なモブの見た目。唯一の欠点を挙げればあまりのモブらしさに、逆に目だってしまうこと。名前をジャガ・イモという。

 

そんなモブコンビ二人はこの店の常連さんだ。羽振りもいい。

 

ボクのトルコアイス屋はその目新しさから、結構な人気店。

放課後などは行列ができるほどだ。

 

この二人は、長時間繰り返し結構な額を払って何回もトルコアイスを注文して、それを掴み取ろうとする。

その理由は……

 

「ヒョロ君頑張って下さい!最初よりも明らかにキレが出てますよ!あと少し!あと少しでレミさんとデートが!」

「そうだなジャガ!何が何でも取るぞ!これに親からの仕送り全部使っちまって今月は貧困生活確定だけど、レミちゃんとデートが出来たら本望だ!……そして一夜の過ちを!」

 

そう二人は息巻くがボクが操るトルコアイスを取ることは、このモブ二人では今後100年たって不可能だろう。

ボクは人の魔力の流れをよく見る。魔力の動きを見れば、その人が次どのようにして動こうとしているのかがわかるからだ。

つまり、彼らがどれだけ努力しようとも、魔力に頼っている間は絶対に取ることができない。

ボクにとって、この二人はただのカモってわけ。

 

「はい、そろそろアイスが溶け始めるから」

 

ボクはそう言って、金属製の長いヘラみたいな棒からアイスを取り、ヒョロに手渡した。

 

「うおぉぉぉぉ!また負けたぁぁぁ!」

 

ヒョロはそう叫びながら、高速でトルコアイスを口の中に詰め込んでいく。

作った者としては、もっと味わってもらいたいが、思春期で多感な時期だから色々あるのだろう。

 

「クッ!ヒョロ君が負けましたか……ですか彼は僕たちの中で最弱!だが僕にも情がある!彼の仇、取ってやりましょう!!」

 

そう何時ものお決まりを言って、ジャガが台の上に勢いよく硬貨を置く。

因みにだが、今日の内にこのやり取りは3回行われている。人のいない授業の合間だからできることだ。

後ろに他のお客さんがいたら、二人とも引きずられても文句は言えない。

 

「時間は大丈夫?」

「大丈夫です!それまでに勝ち取ってみせますから!」

 

今のところ全敗なのに、果たしてその底なしの自信は何処から来るのか甚だ疑問だ。

この姿は……そう、あの頃のボク。

前世のころ、地球にないとされた魔力を、“存在を証明した人はいないが、ないと証明した人もいない”と無我夢中に探したボクの姿と重なる。

結局、ボクは魔力を見つけたわけだが、彼ももしかしたらいつか……はたまた今日かもしれない。彼がボクの操るトルコアイスをその手に取る時が。

 

だけど、認められない。

言っては悪いが、彼程度の努力で取らせるわけにはいかない。

それでは、“陰の実力者”と“性欲”が同格になってしまう。

 

それだけは絶対に認められない。

だから本気を出そう。

 

ボクが編み出した最強の技を……

モブ式奥義四十九手!!

 

速さはいらない、力もいらない。

ただ自然にアイスと、それにくっ付くコーンをジャガの前に持って行く。

彼は飢えた犬だ。

ボクは前世も今世も犬を飼っている*2。犬の扱いには慣れているのだ。

 

ジャガは必ず食いつく、魔力の流れもそれを語っている。

彼が、手を伸ばしコーンを捕まえた。

 

「と、取った!!」

「フフン、まだだよ」

 

彼が掴んだのはコーンだけ、手に持つ棒を上げれてやればアイスとコーンは簡単に二つに分かれる。

 

「なッ!」

 

唖然と口を広げ、驚くジャガをしり目に棒を下に降ろす。

コーンとアイスは再びドッキングし、元の形になる。

先程よりも強く押し付けて、上に引っ張る。

 

ジャガは今気づいたようだが、もう遅い。

その程度の反射スピードでボクと対峙しようとは……もし、ボクが今持っている得物が棒ではなく、刀なら君の首と胴はあっという間に泣き別れていただろう。所詮君はその程度の人間でしかないというわけさ。

 

『モブ式奥義・華麗なるモブのアイス捌き(マエストロ・デ・ロス・チーテレス・モブ)』!!

 

すでに君はボクの術中にはまっている。

さっさと懐に入ったゼニーをボクに渡すんだ!

 

右へ、左へ、上へ、下へ。さらには、前、後ろ。ボクが操る棒に従ってトルコアイスは動く。

魔力を使っているジャガの方が早くとも、ボクが先に動くのだから彼が捕まえることはできない。

物質が宇宙に存在する限り光速に達せないように、水が上から下に向かって流れるように、それは普遍の原理なのだ。

 

「おいジャガ!お前ならいける!さっき取っただろ!」

「捕まえるなら早くした方がいいよ」

「分かってます!僕はこの一手で決める!!」

「行っけーッ、ジャガ!!」

「うおおぉぉぉぉ!」

 

モブがモブを応援し、モブがモブの声援で覚醒する。

何ともありきたりなご都合主義であるが、ここは現実。そんなことはあり得ない。

ボクは何とも思わず、アイスを上げ、その手を避けた。

 

まあそうだよね、とあきらめ顔のモブ。あと少しだったのに、と悲壮感あふれるモブ。いっぱいのゼニーに嬉しいボク。校舎の方から聞こえる鐘の音。

 

「おいジャガ!もう授業だ!さっさと戻るぞ!」

「は!そうですね!戻りましょう!」

 

確実に遅刻なのだが、それでも足掻こうとする姿はどこまでもモブだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なのよあいつ」

 

空が黄色に染まり、そろそろ日も沈みそうという時。私は一人道を歩いていた。

思い出すのは、あのムカつく顔。

昔から神童だとか、天才などと言われ、今では王国の剣術指南役。

長身で流れるような金髪と、甘いフェイスラインはどこかの絵本から飛び出したかのような見た目。

 

まさに完璧。

 

だからこそ、私はあいつが嫌いだ。

 

道端に堕ちていた手頃な石を、やつの顔だと思って蹴り飛ばす。

 

ゼノン・グリフィ。その名前を聞いただけでも虫唾が走る。

 

『いつまでも逃げられるわけじゃないよ』

 

今日あいつに言われたことが頭の中を反芻する。

 

あいつは私の婚約者候補の一人だ。しかも、最有力候補ときた。

さらに、あいつは私が通う王都ブシン流1部の先生でもある。

 

つまりは、私はあいつと顔を合わせたくなくても、半ば強制的にそうせざるを得ないのだ。

私を囲う最悪な布陣を思い出し、何か大きな力が動いているのではないかと嫌に勘ぐってしまう。

 

「はぁー」

 

最近はストレスで便秘気味な気もする。

ここは、何か甘いものでも食べて気持ちをリフレッシュしたい。

そこでふと思い出す。たしか、ここら辺になにやら一風変わったアイスの屋台があるという。

 

遠目に見ると、あった。

“とるこあいす”?

どういう意味かは分からないが行ってみるのもありかもしれない。

気に入らなければ、文句を言ってストレス発散にしようと思う。

 

少し早歩きで近づいてみると、何か様子が変だ。

 

「あれ、お客さんですか?」

「……ええ、そうよ」

「すみません。もう閉店です」

 

店主なのだろうか。

恐らく同い年の女がいた。

こちらに背を向けるように屈んで、恐らく片付けだろうか。それをしていた彼女はこちらに振り向く。

私が今まで見たあらゆる絹よりも滑らかだろう黒髪が夕日を反射して金色(こんじき)に見えた。瞳はどこまでも黒く。顔の造形は神の作り出した芸術品が如くだった。

息をのむ、生まれてから15年。あらゆる美術品を鑑賞する機会があったが、これほどのものを見た事はなかった。

だが、それも一瞬。

その姿はすぐに、そこらへんの町娘のものに戻った。

 

いや、戻ったのではない。

私はすぐに結論を出した。

 

何時も猫を被っているからこそわかる。

目の前にいる女の違和感を。

 

こいつ化粧でッ……!?

 

さらに気づく、この胸!

 

気に入らない……

 

頭に浮かぶムカつくやつの顔。現実に現れるムカつく胸。

 

私、アレクシア・ミドガルは自身の不運を呪った。

*1
2話参照

*2
犬のジョンとデルタ




トルコアイスにした理由は特にないです。
強いて言うなら、シャドウ♀だったら何か実力者修行もできる物を選びそうだなと思ったから。
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