それでは、どうぞ
「さぁ、始めよ……ッ!」
先に動いたのはリュカオーン、ジョシュアの動き出しを狙うように超速で近づいて前足を振り下ろした。
狼型のモンスター、もしくは巨体なモンスターであればよくある引っ掻きや踏み潰しだが、それを最高峰のスペックを持つリュカオーンがするとどうなるか。
結論、暴風を伴う爆発、最早下手な爆弾の威力を軽く上回るレベルである。
「最後まで言わせて欲しい、なッ!」
背後に跳んで回避した後、飛んでくる岩の破片を弾いて避けていく。
耐久に一切ステータスポイントを振っていない紙装甲な現在、一発でも掠ってしまえばそれだけで致命傷になりかねないが、それすらも自らを追い込み逆境を覆さんとする気力の為の燃料とし、攻撃へと転じた。
「パワースラッシュッ!」
剣系統の基礎スキルを袈裟斬りの形で放ち、リュカオーンの前足を斬りつける。クリティカルが発生した表示が出るレベルに綺麗に攻撃は入ったのだが、向こうの黒毛は揺らめくばかりでダメージどころか毛が散る様子すら無い。
「っ!」
続け様に補正のない斬撃を食らわせるも、こちらもダメージになっている様子はない。
チマチマとした攻撃を鬱陶しがったのか、リュカオーンは再び前足をジョシュア目掛けて叩き潰すように振り下ろす。
「よっ、ほっ、ぬっ!?」
連続で繰り出される踏みつけを回避していれば、突如としてディレイを挟んだ噛みつきが襲い来る。
シンプルな噛みつきと言えども侮るなかれ、その速度はまさしく断頭台で手放されたギロチンであり食らってしまえばひと溜まりもないだろう。
バックステップと共にスキル《三艘跳び》を起動したジョシュアは強化された脚力で狼の牙から逃れると、そのまま岩山を蹴って跳んでいく。
「いい、とっても良い。この一瞬だけでも死の予感をヒシヒシと感じてる!」
声色には喜悦が混じり、頬は紅潮したまま。
明らかに興奮していますといった様子だが、その実思考の一部は冷静に現状を分析していた。
(耐久の減りが早い……主装備の
立っていた岩山を破壊されながらも逃げ回り、同時にインベントリを操作する。
リュカオーンの攻撃に際して巻き上がった土煙から飛び出したジョシュアの手には残り本数が少なくなった獣の棍が握られていた。
「ん、まずはこれでお試しッ!」
ジョシュアを追いかけるように土煙を裂いて飛びかかったリュカオーンを安全重視で動いて避け、その流れのまま身体の側面に《インパクトノック》から進化した《アクトブレイク》を食らわせる。
ドゴォッ!!
振り抜き方や姿勢は完璧であり攻撃の入り方も理想的な物だった。
ダメージはあったかどうか分からないが衝撃によってリュカオーンの身体を少しだけずらす事に成功するも、当のジョシュアは苦い顔をしていた。
「元々耐久が少なかったのもあるだろうけど1回でこれかぁ!やっぱり並大抵のモンスターとは比べ物にならないなぁ!」
手に握られた獣の棍は今の一撃で警告が出るまでに破損し、ポリゴンを撒き散らしている。
今1番ジョシュアが危惧……というよりも直面している問題は
耐久が半分程の
これがジョシュアが今持つ武器のラインナップなのだが……目の前の闇狼を相手するのであれば圧倒的な準備不足であると否応無く理解させられている。
尚、回復アイテムもあるのだが現在進行系でオワタ式な為役に立たない物とする。
「フッ!」
バキンッ!
ジャストパリィで前足による薙ぎ払いを弾くと同時に獣の棍がポリゴンとなって砕け散る。
柄だけになった棍棒を即座に投げ捨て、インベントリから最後となった獣の棍とゴブリンの手斧を取り出しながら回避運動をとっていたその時だった。
「……ん、消えた」
雲が月を隠し、大地をほんのり照らしていた月光が遮られた瞬間、リュカオーンの姿が元から存在しなかったかのように掻き消える。
姿は無くともヒシヒシと感じる殺意に笑みを深めながら周囲を警戒するジョシュア。
「ッ!スライドムーブッ!」
再び自分の周囲が月光が降ってきた瞬間、即座に回避スキルを点火してその場を離れたジョシュアは何とか超威力の踏みつけから逃れる。しかしそれによって発生した土煙や岩の破片が周囲に飛び散り、反撃しようとしていたジョシュアは更に離れる事を余儀なくされた。
「そこ!」
左手に持ったゴブリンの手斧を土煙の中に投げ込めば再び動き出そうとしていたリュカオーンにコツンと当たって砕け散る。せいぜい羽虫がぶつかった程度にしか感じていないだろうが、そもそも投げたジョシュア自身もダメージは期待していない。
「意識を逸らしたな?」
狙いは手斧がぶつかった音からの位置の把握、そして自分から僅かでも意識をずらす事である。
「ん、スカルシェイカー」
バゴンッ!!
強化された脚力で最後の獣の棍と引き換えにスタン特化の打撃スキルを顔面目掛けて振り抜ぬいて直撃させる。更に『幕末』で慣れた激しい動作中のインベントリ操作によって取り出された
「スクーピアス」
黒毛を握りながら放たれた青い光を伴った刺突は仰け反ったリュカオーンの淡く光る眼球に向けられる。
奇しくも数時間前に打倒した貪食と大蛇と似たような構図で、その刃は闇狼の瞳を貫かんと迫っていた。
ガキンッ
しかし、
「ッ………!瞼だけで!」
ジョシュアが目にしたのは、半分だけ閉じられた瞼へ己の放った刺突が突き刺さらんと迫り、そのまま止まってしまった光景。
下手な金属よりも硬い者に刃を突き立てた感覚が伝わってくる事実に、掴んでいる黒毛の硬度の概念がどうなっているのか気になってしょうがない彼だったが、直ぐにリュカオーンの顔面に《旋脚》を食らわせながら離れる。
「おっとと……!」
ジョシュアが顔から離れると同時にリュカオーンは自分の顔の近くを前足で凪ぐ。その姿はまるで自分の周りを飛び回る虫を追い払うようで、打撃によって怯みはしていたものの後引くダメージ等は全く見られなかった。
「獣の棍は今ので最後、ゴブリンの手斧もあと一本………ん、いい、楽しくなってきた!拳でもダメージ通るかなぁ!?」
揺らぐ黒毛は変わらず月光を飲み込み、顔に入った模様と眼球を金色に爛々と輝かせ、唸りながら牙を覗かせる。
相対するジョシュアもリュカオーンとは対照的な月光を反射して輝く金髪を翻し、そしてリュカオーンにも劣らない程に目を輝かせて
「あはっ、アハハハハハッ!」
一瞬も気を抜けない戦いの最中でも、
夜の帳はまだ降りたばかりで
それでも心底愉しそうな笑い声が絶えなかったのは確かである。
※多重人格というわけではなく、最大限までテンションが振り切れるとニッコニコになり始めるだけです。
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……