司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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タイトルは人狼ゲームのオマージュです。




それでは、どうぞ


汝は怪物なりや?(Are You a Monster?)

 

小鳥の腹から飛び出た『嘴』は太い木の幹でさえも軽々と砕き潰し無残な木片へと変える程の力でもって閉じられる。

 

 

嘗て、「より厳しい罰を」と求められた末に自らの体を引き裂いて手に入れた刃は、自らに向けられた攻撃を罪と認識し、その行為への怒りでもって解き放たれる。

 

 

例え大量にバフを積んだタンクであろうとも関係無い、全てを噛み砕く正しく断罪の一撃を執行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

だがしかし、

 

 

 

「ッつあぁッ!」

 

 

 

肝心の粛清対象は未だ健在であった。

 

『………!』

「ふぅ………少しヒヤッとした……」

 

ジョシュアは目線をランプに縛られながらも『罰鳥』の『嘴』を視界の端に捉えた瞬間、真正面から走り込み仰け反りながら両膝を地面に付けて、『嘴』とその根元の『罰鳥』の下へ滑リ込む事で迫るギロチンの刃の如き啄みを回避。

尤も啄みの速度が尋常ではなく髪の一部となけなしのHP半分を失うことにはなったが、まぁ死んでは無いので誤差の範疇だろう。

体幹だけで身体をガバリと起こしながら地面を蹴り、空中で身体を翻して着地すれば、この広場に到着した際の最初の睨み合いと同じような状態へと戻る。

 

「………く、はっ」

 

 

一つ、違う点を挙げるとすれば

 

 

「はははッ」

 

 

ジョシュア(戦闘狂)のスイッチが完全に入ってしまったという事位だろうか。

 

 

「アッハハハハハハッ!」

 

『『『!?』』』

 

思わず、堪えきれず、堰を切ったように空を仰ぎながら笑うジョシュア。

 

突如として狂笑し始めた侵入者に森の守護者達は気圧されたように僅かながら後ろに下がる。

 

「楽しい、楽しいねぇ!もっともっと楽しも(殺し合お)うね!」

 

顔を正面に向けた際に露わになった瞳は喜悦と狂気的な光で染まっており、それでいて視線は一分の隙も無く相手である鳥達を捉えて逃さない。

頬を紅潮させながらとろけるような笑みを浮かべたジョシュアは次元鞄を離し致命の鋸を左手に持ち替えると空いた手を宙に伸ばす。

 

「さぁ行こうか木人形さん!今の僕なら君の力を存分に振るっても大丈夫だろうから!幻想積札!」

 

現れたるは黄色のお札が張り巡らされた一本の戦闘杖、それを掴み取った瞬間からジョシュアの姿が侵食されるように切り替わった。

 

『北部ヂェーヴィチ協会』特有の近代的なデザインのコートや強化外骨格は消え、杖と同様に全体に札が貼られ片腕がノースリーブになった焦茶色の中華風の衣服……俗に言う長袍(チャンパオ)と呼ばれるような衣装がジョシュアの身を包み込み、力を流し込み始める。

 

『誰も泣かぬように』から授けられたEGO、『紅籍』

 

かの木人形が願いと呪いを受け止める存在だった故かその力の断片と同調し身に纏うジョシュアの中にも何十もの呪いじみた何かが脳内に流れ込んで来る。

「親が健康に生きてほしい」「幸せになりたい」という細やかな願い、「憎い奴が死んでほしい」「もっと金が欲しい」という黒黒とした欲、「死にたくない」という思考とも呼べない数瞬のうちに消えてしまいそうなものまで、理不尽に押し付けられてくる。

 

「んー、頭の中がゴチャゴチャし始めたけどまぁいっか!」

 

そしてそれら全てを強靭な精神と湧き上がる闘争欲で捻じ伏せるジョシュア。

力の使い方は向こうから教えてくれている、ならば後は実行するのみ。

 

「先ずはそうだなぁ……うん」

 

手の中でブンブンと杖を回転させて弄びながら獲物を見定めるように3羽の鳥達を見回す。

杖を握り直したジョシュアは一つ頷き、

 

「一番厄介な所からブチのめそうか!」

 

意気揚々とサイドスローで戦闘杖を槍のように投げ飛ばした。

 

『ッ!ぬぐぅっ……!』

 

投げられた『紅籍』は張り詰めた弓から放たれた矢の如き軌道でほか2羽と離れた場所にいた『審判鳥』へと迫るが、胴体に直撃するかと言うところで紙一重で腕のような翼を間に挟んで受け止められる。

しかしながらEGO同調によって上昇した身体スペックと《空穿ち》の効果が乗った投擲を完全に対処しきる事は不可能だったようで、腕を貫通して伝わったダメージは『審判鳥』に苦悶の表情を浮かべさせるには十分過ぎるものだった。

 

「もういっぱぁつッ!」

『ガッ!?』

 

更には突き立てられるような形になった杖の石突に向かってジョシュアが蹴りを1発、普通の蹴りより打撃面が小さくなり一撃の鋭さが上がって胴体を貫くような衝撃を与えて食らった相手にたたらを踏ませた。

 

『審判を……!』

「シィッ!!」

『何ッ!?』

 

疑似パイルバンカーを受けてよろめきながらも手に持った天秤を掲げ目の前の罪人に罰を下そうとする『審判鳥』。

だが、天秤が傾いて有罪判決を下すよりも先に空中で杖をキャッチしたジョシュアの薙ぎ払いによって手元から弾き飛ばされ攻撃手段を失う。

 

「くひ、ひはははっ!」

 

直ぐ様取り落とした天秤を拾おうとするが、それを見逃すほどジョシュアは甘くない。

 

「《ニトロビート》、《スタッフブレイク》!」

『あっ、がっ、ぐぅッ!?』

 

いつも通りのバフスキルに一定時間棒状の物を使用した際の打撃に威力補正を掛ける《スタッフブレイク》を重ねて畳み掛ける。

途中で蹴りや左手の鋸での斬撃も綯い交ぜながらの連撃を繰り出し自身に積み重なる呪いの札の力を受けながら更なる暴を押し付けていけば、とうとう『審判鳥』が蓄積したダメージに耐えきれず崩れ落ちるように膝をついた。

 

「先ず1体目ェッ!!」

 

最後に体を捻りながら深く踏み込み、鋸と杖を重ねてフルスイング。

その一撃は最初の打突で移っていた御札ごと対象の頭をぶち抜き、『審判鳥』は蓄積していたダメージも合わさってか戦闘記録にて散っていった者達と同じように光る頁となって消えていった。

 

『ジャッジ!?』

『お前ェッ!』

「アッハハハハッ!」

 

目の前で大切な仲間が殺られた事で『大鳥』は全ての目を見開いて固まり、『罰鳥』は激昂して翼を唸らせて突撃してくる。

未だ戦意を滾らせる相手にジョシュアは心底嬉しそうに笑いながら致命の鋸をインベントリに送り両手で『紅籍』を握り直して小鳥を迎え撃った。

 

「右上、2回目、回り込んでそっちから!」

『ッ…!なんで分かるんだ!?』

「動きが単調!速さは良いけどパターンが分かりやすい…ねッ!」

『あぶッ!?』

 

高速で移動しながら隙を突くように突撃を繰り返す『罰鳥』。

だが何度も似たような動きをしていた為かジョシュアも対応しきっており、当たる直前に阻むように『紅籍』が差し込まれ挙句の果てには重い一撃を食らってしまう。

 

『コチラを向け……!』

「ッと、さっきの……!」

『パニ!』

『分かってる…!』

 

その連撃を止めたのは手のランプを再び強く光らせた『大鳥』だった。

そして先程と同じように

 

「《クイックステップ》」

『ぐ、また……!ちょこまかしないでよ!』

「えー?だってこのまま終わったら不完全燃焼だよー」

 

しかしその『啄み』が体を噛み砕かんとする直前、スルリと攻撃範囲から抜け出され、『嘴』は空を切る。

ジョシュアはその風圧を感じつつ、今度は誘引ではなく自らの意思で『大鳥』に視線を向けた。

 

「そんなに僕の視線を向けようとするなんて……もう、先に殴って欲しいなら先に言いなよッ!」

『ッ!』

 

狂気的な笑みを浮かべ突貫してくる敵を前にキッ、と全ての目で鋭く睨みつける『大鳥』。

次の瞬間、無数の瞳が赤く染まり、ギュルンとジョシュアを捉える。

 

『来るなら来い!怪物めッ!』

「それじゃあ遠慮なくッ!!」

 

守護者が吠え、それに侵入者が応える。

 

同時に『大鳥』はその巨体に見合わない速度で走り出し鳥に見合わない鋭い牙が並ぶ嘴を開いて倒すべき敵目掛けて突進、野生味溢れる飛び掛かりでジョシュアを狙う。

 

「《ドリフトステップ》!」

『ッ、チィッ!!』

 

その迫る牙をジョシュアは『大鳥』の下を滑るようにくぐり抜ける。

「ステップ」と称されているが本来人の足では出来ないような摩擦と慣性を利用した「スリップ」と言う方が正しい挙動の回避スキルである《ドリフトステップ》で背後を取り、手に持った『紅籍』を槍のように構えた。

 

「《羅貫突》ッ!!」

『おっグッ!?』

 

本来槍用スキルである《羅貫突》だが、戦闘杖である『紅籍』も形状から槍判定が入ったのか問題なく起動し鋭い刃のエフェクトと共に鋭い打突がコチラに振り返ろうとしていた『大鳥』の横っ面に突き刺さる。

それと同時に先程『審判鳥』に与えた連撃や『罰鳥』を何回も弾き返したことでジョシュアの身体に積もりに積もっていた御札が一斉に『大鳥』へと移り、貼り付いた端から歪な願い(呪い)の力を注ぎ込み始める。

 

『なん……だ!?力が……!』

「んー、身体が軽いや」

 

軽く20を超える数の御札に張り付かれた『大鳥』はそれを振り払おうとするものの、その意思とは反対に少しずつ抜けていく力に狼狽えていた。

過ぎた力は枷になり、本来の物を隅に追いやってしまう。しかも貼り付いた御札は段々とその色を変化させ、遂には黄色からおどろおどろしい紫へと変貌していた。

 

『この、サーベから離れろッ!』

「無駄だよ、()()()()()だもの」

 

『罰鳥』が仲間を助けようとその小さな嘴で御札を取り除こうと試みるが変化した御札はまるで元からあった模様であるかのように『大鳥』に貼り付いて離れない。

 

それもその筈、『紅籍』は同調時に相手に付与した《呪いのお札》が30を超えた場合、その全てが本来破裂後に発生する消滅が免除され除去が不可能になる《絡みつく呪いのお札》へと転換される。

 

故にこの戦闘中に於いては『大鳥』は常にデバフを撒き散らす爆弾を抱えたような状態のままなのである。

 

「じゃ、まとめて死のうか」

 

ならばそれが起爆すればどんな被害が出るのだろうか?

 

「《誰かの願い》」

 

手元に現れたのは1枚の緑色の御札。

ジョシュアはピンと張ったそれを掴み取り、思うように動くことが出来ない『大鳥』の元へと投擲する。

 

「『その思いは君達の物ではない、願いは在るべき所へ』」

 

そして着弾、

 

『ガぁッ!?』

『あグァッ!?』

 

全ての御札が共鳴したかのように爆ぜ、込められていた呪い(願い)が解き放たれて『大鳥』と『罰鳥』を飲み込んだ。

 




タイトルの意味
「もうどっちがバケモンか分からんなこれ」


三鳥達の名前

『罰鳥』→罰(パニッシュメント)→パニ
『審判鳥』→審判(ジャッジメント)→ジャッジ
『大鳥』→監視(サーベイランス)→サーベ

それぞれの役割からシンプルに取ってます。

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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