それでは、どうぞ
話し掛けた先、日の光か完全に無くなり星明かりすらも拒む真っ暗闇の中からジョシュアや三鳥とはまた違った存在の声が返ってくる。
即座に立ち上がって警戒する『罰鳥』達を他所に、ジョシュアは呆れたような表情を浮かべていた。
「いつからお気付きで?」
「ずっと視線感じるんだもん、気配だけ消したところで意味ないよ」
「ははは、いやはや何とも、貴方の実力を測り損ねましたね」
木の陰から出て来たのか、漸く大鳥のランプが照らす範囲にその声の主が入ってくる。
『お前……まさかあの時の!?』
「ふむ………失礼、どこかで面識でもありましたかな?」
『とぼけるな!』
「どうどう、落ち着いて」
見覚えがあったのか声を荒げて迫ろうとする大鳥を押し留めながらジョシュアは姿を現した存在……この"黒い森"に入る前に出会った旅人へと視線を戻した。
「で、質問の答えは?」
「ふむ?いったい何のことやら」
「こう言った方が良い?「君が言った予言の通りにならなかったけどどうするの?」」
不敵に笑っていたローブの男が沈黙した。
「最初は僕が物語に組み込まれて『怪物』役の配置になったのかと思ったけど、この子達は僕のことを「部外者」って呼んだ。僕がココに来た時点でこの森には既に『怪物』が居るはずだから、それじゃあ辻褄が合わない」
一歩前に踏み出す。
確信を持って。
「かといって今のこの子たちが怪物かと言われたらちょっと疑問がある。鳥達の姿に変化はあれその殆どは元の形と変わらないって話だから」
鋸を構え直す。
推定ながらも確実に敵と言える存在に対処する為に。
「だったら『怪物』は何処に居る?その怪物は何を条件として出現する?」
語るのはこの物語の根幹部分、しかしずっと抱えられていた矛盾の話。
「そのフラグは多分、僕が折ってしまった。だから今は何処にも『怪物』は居ない。けど、この子たちが言うには昔に1回『怪物』が現れたらしいんだよね」
鋭い目線がローブの男に突き刺さる。
その様相は絶対に逃さないと言外に伝えていた。
「誰かが既に一度条件を満たしたんだ。そして物語は終わって『怪物』は一度消えた。けれど
『『……?』』
『何を言っている……?』
一見すれば支離滅裂な言葉に鳥達が困惑する気配を無視して、ジョシュアは静かに答えを待つ。
「成る程、確かに私が『怪物』を呼び出す動機があれば成り立つ話ですな」
静かに殺意を研ぐジョシュアを前にして、それでも尚ローブの男は一切怯むこと無く朗々と言葉を紡ぐ。
「しかし私は噂を知っていただけで初めてココを訪れました故、その話とは無関係………」
「何呆けた事言ってるの?」
未だに困惑した雰囲気を見せ無関係であることを貫こうとする旅人の首元スレスレに鋸の刃を構える。
何時でも引き抜けばそのまま首を断つことが出来る姿勢で、
「鳥達だけが聞いてた筈の予言の内容を一言一句違わず言えてた時点で君が何かしら関与してるのは分かってるんだよ」
そう端的に事実を述べた。
「……は」
「はっはっはっ」
「ハッハハハハハハハ!!」
堰を切ったかのような笑い声が森に響く。
「確かに、えぇ確かに!いやはやうっかりしておりました。全く、この回る口も矢張り良いことばかりではありませんなぁ」
その語り口は道化師の如く喧しく、それでいて話術師のように耳に入る。
不快とも心地よいとも言えないその声は、触れてはならない物を見てしまったような感覚に陥らせてくるようだった。
「では、もう貴方は既に察しているのですね」
「…………やっぱり、そういうことなんだね」
「えぇ、矢張り貴方は優秀な方だ」
真剣な開拓者を前に、"旅人"の皮を被っていた役者はやり取りをしながらカラコロと表情を変え、そして一つ思案する。
「ふぅむ、しかしコレでは予言の通りとは行きませんな。この物語を締め括るには『怪物』が必要不可欠……ではこうしましょう」
ローブの男がパチン、と指を鳴らした。
『あそこに怪物がいる!この森には怪物が住んでいるんだ』
「何を?……ッ!?」
何処からともなく聞こえてくる悲鳴じみた叫び。
悲痛さが乗った物でありながらどこかで空虚なその声にジョシュアが疑問を抱いた次の瞬間、背後からドロリとした気配を感じ取って、反射的に振り向いた。
『守らなきゃ!守らなきゃ!』
『森を害する者には罰を……!!』
『何処に居る!絶対に見つけ出してやる…!』
そこにいたのは先程まで話をしていた三鳥達。
しかしその様子からは正気と呼べそうな物が消え去っており、各々が頭を抱えたり尋常ではない様子で瞳を動かしたり腹からズルリと『嘴』を飛び出させたりしていた。
「っ、あの子たちに何をした!」
「何をした、と申されましても…あくまでも私は次の頁を捲っただけで御座います。
『でも、どうしよう』
『この森は広すぎる、私達だけでは限界がある』
『やがて私達では役目を果たせなくなる……』
最早ジョシュアが居たこと、あの預言者が居ることすらも記憶の彼方に消え去っているのか、おどろおどろしい気配を纏わせながら3羽は互いに身を寄せ合う。
『『『あぁ、なら……』』』
『『『力を合わせれば良いんだ』』』
そして先程のジョシュアの提案を塗りつぶすように
3羽の翼が重ねられた。
「ッ……!?」
現れたのは異形の鳥
『審判鳥』のような頭部は継ぎ接ぎのようで赤い皮膚の囲まれるように黄金の一つ目が輝く
胴体には大穴の如き口が開き、『罰鳥』のような嘴が獲物を捕らえんと蠢いている
翼には『大鳥』のような無数の瞳が生え、そのすべてが周囲を見逃さんとギョロリと動く
今まで遭遇したどの幻想体よりも遥かに悍ましいナニカを感じ取ったジョシュアは、ガツンと頭を思い切りぶん殴られたかのように正気度が持っていかれるような感覚を覚えた。
おおよそマトモとは言えないし見えない、
存在してはいけないと本能的に悟る、
脳が理解を拒む、
息が詰まる
「つ"あ"ぁ"ッ!!」
思考に侵食してくるナニカを無理矢理振り払う。
ズキズキと痛む頭を押さえながらも、ジョシュアの目にはしっかりとした生気が宿っていた。
「あぁッ、何ということだ!予言通り"怪物"が現れて森を荒らそうとしている!このままではこの森は終わってしまう!」
「ッ、シィッ!」
そんな中でも本気で嘆き、悲しむような口ぶりでありつつもその口元には笑みが浮かんでいる男に対し鋸を振るうが、スルリと抜け出すように回避され距離を取られる。
逃さないと言わんばかりの連撃も虚しく空を切り、予言者は既に闇の中へ消え掛けていた。
「おやおや、貴方の相手は私では無いでしょう?漸く貴方が望む"怪物"が出て来たというのに」
「目の前で盛大なマッチポンプやっといてよくそんな言葉が吐けるね」
「ははは、私はただの
腹立だしさを隠しもせず鋸の刃を向けるジョシュアをカラカラと笑い飛ばすローブの男。
そこに乗った感情も、既に読めなくなっている。
「……もしかして、君も幻想体?」
「おっと、話はここまで。元々私は「森を入ることを断られた存在」、この場にいるのは不自然ですからね」
「まだ聞きたい事山程有るんだけど?」
「私には答える事は出来かねますね、権限を持ち得ないので。それでは、良い夜を」
仰々しく一礼した次の瞬間、ローブの男は本の頁が捲られたかのように消えてしまった。
『『『あぁ、あぁ!』』』
「……一旦、大人しくさせるしか無いかな」
残されたのは悔しそうにしながらも口元に笑みを零す1人の人間と、誰であろうと化け物と呼ぶ姿となった1羽の鳥のみ
「さぁ遊ぼうか?」
『『『"怪物"め!何処に居る!!』』』
終末が、黄昏を伴って訪れた
ローブの人間
旅人であり、開拓者であり、予言者でもあったが、同時にそのどれでもないもの。
彼は物語を進める為の端役であり、何かであって何者でもない、ただそこにいる意味だけを持つ者である。
※『何もない』では無いです。
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……