それでは、どうぞ
「シィッ!」
右手に
「《光の種》、敏捷強化」
淡い光がジョシュアの全身から溢れて吸収されていく光景は幻想的な光景にも思えてしまうが、当人はそんな事一切気にせずに強化された状態で再びリュカオーンへと突撃する。
真っ直ぐ向かうのではなく、激しい戦闘で更地にされつつある周囲に僅かに残った奇跡的に残っていた岩山を足場にトリッキーな動きで的を絞らせないようにしながら、嬉々として突っ込んでくる獲物に対し、黒狼が取った行動は地面を叩き壊しての範囲攻撃だった。
「よっ、ほっ、ぬっ」
(瓦礫は向かってくる中でも大きい奴を弾くだけ。避けたらそれだけ余計に気を回さなきゃいけない)
移動する際に邪魔になったり自分を食い破らんとする岩の弾丸を弾きながらも思考を止めず、巨獣に刃を突き立てるために観察を続ける。
小さな破片がかすっても精々1ダメージ入るだけだが、今のジョシュアからすればそれすらも脅威である。
「ん、《旋脚》」
軌跡を描くような回し蹴りで飛んできた岩の一つを蹴り返しながら近づくが、向こう側がただ待つ訳もない。
「グルァッ!!」
「ッ!《スライドステップ》」
片足が地面に付いた瞬間に回避スキルを点火、姿をブレさせながら滑るように動けば先程までジョシュアがいた場所をリュカオーンのアギトが薙ぎ払った。
「後ろ足での攻撃モーションの誘発……からのここッ!」
リュカオーンの背後に回って襲い来る後ろ蹴りをパリィ弾き、そのまま腹の下に潜り込んで斬りつける。スキルを織り交ぜ、クリティカルを叩き出し続けるその連撃は普通のモンスターであれば致命傷になり得るレベルである。
「ん!ホントにダメージ入ってない!」
しかし依然として僅かな切り傷どころか怯む様子すらないリュカオーンは懐に入った獲物を仕留める為に跳躍、そのままジョシュアに狙いを定めてダイブする。
「よっ……とと」
リュカオーンのジャンプモーションとほぼ同時に力を溜め始めてダイブの姿勢に入ったと同時に《ムーンジャンパー》と《四艘跳び》を使用し即座に跳び退いた。
強化されたジャンプは少し離れた場所にあった岩山までジョシュアの体を運んだものの既にリュカオーンは次の攻撃を繰り出しており、着地先を狩られないようも何度も岩山を跳ね回る。
「これ戻るのかな……」
最後に辿り着いた岩山の頂点近くに刃を突き立てて周囲を確認すればリュカオーンが暴れた影響かほぼ更地となりかけていた。
採取ポイントらしき沼中の岩も飛び石代わりにした際にリュカオーンによってバラバラになっており、最早別エリアと称しても違和感が無い程の変貌に若干心配の感情が生まれるがそれも直ぐにリュカオーンからの攻撃に意識を割かれて頭の中から消え去った。
「まるで玩具を追いかける犬みたい。じゃれつき1回で殺されたら溜まったものじゃないけど」
己に明確な死の権化が迫っているにも関わらず、ジョシュアは呑気に感想を漏らしながら刺していた
「ん……一発限りの奴、試してみようかな」
その反動によって更に岩山から離れれば自分の真横を牙が通り過ぎて行くのを尻目に、両手の致命武器をインベントリに仕舞い込んで代わりに壊れかけの傭兵の片手剣とアイアンハンマーを取り出した。それらを構える訳でもなく無造作に掴み取るとそのまま踵を返してリュカオーンとは反対方向に駆け出した。
「クルルルル……………」
少し距離を取ってから振り返ると月が雲に隠れ、辺りが陰に覆われる。それと同時に先程までがこちらをジッと見つめていたリュカオーンの姿は空気に溶けるように消えてしまった。
「っ!」
即座に転移のような物だと判断したジョシュアは腰を落としてどの方向にも対応出来るように構える。
(トリガーは月明かり……と言うより光かな。透明化じゃなくてそもそも実体が無いなら……)
「ん、狙うのはカウンター」
雲が流れ、再び月明かりが沼荒野を照らす。
「そこッ!」
「ッガァッ!?」
ほぼほぼ直感で投げ飛ばしたアイアンハンマーは、ドンピシャでリュカオーンの眉間辺りを捉えた。まさか今の状態でみぬかれるとは思っていなかったのか、モロに顔面へ食らったリュカオーンは動揺したように攻撃モーションへの移行を取りやめたのだった。
「ビンゴッ!そのまま暫くスタンしてて!」
すかさずスキルで大きく飛び、その途中で片手剣を放って代わりに跳ね返ったハンマーを掴み取る。空中で姿勢を制御する姿は月と重なり、まるで月に刻まれた兎のようだったがそれを見て理解出来る存在はココには居ない。
「そこらで売られる投げナイフでも岩を貫く一撃になる
……ならそれを剣に変えたらどうなるんだろう」
その勢いのまま振り下ろされたハンマーは宙を舞う傭兵の片手剣の柄をジャストで捉えて一体となり、重量とスキルの威力、そして剣の鋭さが組み合わさった一撃は、
「アクトブレイク・パイルバンカー」
ハンマーと片手剣の消滅と引き換えに闇狼に頭を垂れさせたのた。
「ガルルルルルル………」
「………ん、ダメージ、そこまで無かったりする?」
しかしながら現実は非常である。
まぁ無理もない話だ、使った武器の性能はモンスターからのノーマルドロップのような散々な物を除けば最低限クラス、そして使用者のステータスもLv.30にすら届いてない。
そんな状態で倒せるのならばこの世界から既にユニークモンスターなど居なくなっている事だろう。
「ルォォォォォォオッ!!」
絶対的捕食者である狼がのっそりと顔を上げ、闇夜に吠える。それは今までのどれよりも大きく、そして響く物だった。
相対する開拓者は突如として体を電気が縛り付けるような感覚に襲われ、身動きが取れなくなる。
「ッ、マズ」
「グルァ」
拘束から解放されたと同時に突如として感じたのは喪失感。
「あぁ………速いなぁ」
既に自分の腕に制御権は無かった。
(…………油断した)
斬り飛ばされた両腕が、断面から赤い光のポリゴンを撒き散らしながら宙を舞う。
(流石に物理攻撃のみでは無いと考えてたけど、強制スタンは予測して無かった。読みが甘かったかな……)
目の前には
そんな光景を両手を失った影響でバランスを崩して倒れ込もうとしていたジョシュアの視界に映った。
「………で、
ダンッ!と地面を蹴って姿勢を制御しながら前に跳ぶ。その動作には一切の迷いはない。
「ん、優しい。まだ頭と足を残してくれるなんてとっても親切。なんか知らないけど生きてるし、まだ戦える」
着地したジョシュアの口には目の前を舞っていた
「少し威力が落ちても文句は受け付けない、最後まで思う存分楽しもう」
最早虫の息とも言えるようなジョシュアはそのまま残っていた右手を噛み潰して消滅させる。
後に残ったのは両腕を失った少年が武器を口に咥えてでも情熱的に笑いながら抗おうとする姿、端から見れば最早気狂い認定されるような状態でもなおその気迫は衰えるどころか増し続けていた。
「フルルルルルルル…………」
喜悦と興奮で満ちる表情を浮かべる餌として認識
一種の溜め動作のようにも思えるその姿にジョシュアも呼応するように腰を低く、クラウチングスタートを連想させるような状態まで利き足を下げる。半ばで断たれた腕は力なくブランと垂れ下がっているが、既に役目は無い為、そこに意識を割くことは無い。
「せめて片目持って行くか………ら?」
パサ
そのまま駆け出そうとしたその時、見覚えのあるものがジョシュアの行き先を阻むように宙を舞っていた。
『ユニークシナリオ 「Library Of Ruina」 を開始
「……………ん?」
どっからどう見ても昼頃に拾った黒い封筒がクルクルと回っている中、現れたのは本人の意志など関係なしに進む物語の始まりを示すメッセージ。
それは図書館からの招待状
宵闇の狼との邂逅から始まった運命は、ここから大きく捻れ狂う事になるのであった。
選択肢?あるとでも?
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
-
いる
-
いらない
-
セルマァ……