それでは、どうぞ
「おぉ、ホントにワープ出来た」
光る頁が舞う中、司書補姿のジョシュアとオルトが現れてその地に降り立った。
「ここは…セカンディルなのです?」
「ん、図書館の招待状を拾った場所。人が殆ど居ない路地裏を選んだからファストトラベルの瞬間は見られて無いと思う」
キョロと周りを見ても相変わらず人気のない路地がそこにあるだけである。
「それでこれからどうするのです?」
「先ずは装備を整えたいかな。リュカオーンと戦った時に武器が殆ど壊れちゃったし残った鋸も修理したい」
「なら目指すは武器屋なのですね」
「ん、ちょっと待って」
意気揚々と歩き出そうとするオルトを引き止めれば不思議そうにこちらを見てくる。
やる気があるのは大変よろしいのだが、それよりも早急に解決しなくてはならない問題がある。
「多分目立つよね、オルトが町中に居たら凄い騒ぎになりそう」
「その点はご安心を、こんな事もあろうかと図書館で対策となるであろうアイテムを用意していたのです!」
流石に喋るヴォーパルバニーをそのままに街へ繰り出す訳にもいかない為、頭を捻ってどうしようかと思案するジョシュアに対してオルトが取り出したのは1枚の頁。
それを徐ろに自身の胸に近付ければ、司書補のコートに吸い込まれ、次の瞬間には全く別の衣装を身に纏うオルトがそこに立っていた。
「ファーコート…で、いいのかな」
「こちらは図書館にて行われた戦闘の記録から抽出したコアページというものなのです。厳密には図書館にて本にされた人物の格好をコピーした、ということになるのです」
フフンと胸を張るオルトはオレンジと白を基調としたフード付きのファーコートをヒラヒラと靡かせる。
「へぇ、幻想体以外にもそういうのがあるんだね」
「ジョシュア様も図書館に帰った際に戦闘記録の閲覧をしてみるです?」
「ん、そうする……でも君が格好を変えたとしてもまだ問題は解決してないんじゃ?」
「これを使うのはワタクシではなくジョシュア様なのです」
「あ、僕も使って良いんだこれ」
光る頁が散らばるようにして元の司書補のコート姿に戻ったオルトから頁を受け取り、試しにそのまま自分の胸へと近づける。すると、先程と同様に頁が自分の装備に溶け込みそのまま光によって格好が上書きされたかのように切り替わった。
「凄い、コートがそのまま上書きされた感じかな」
「そしてワタクシがそのファーの部分に紛れ込めば!」
自身の服装が現実に近いものになったジョシュアが身体の調子を見ていると、すかさずオルトが後頭部目掛けて飛び込み、ファーの付いたフードの中にすっぽりと収まる。
「これで完璧なのです!」
「うん、まぁこれは良いんだけどさ……」
窓ガラスに映る自身の姿は少し雰囲気がファンタジーから外れている気がしなくもないがまぁ許容範囲内ではあるだろう。
「この背中に生えてるやつ何?なんか自分の意思で動かせるし」
ジョシュアはコアページを纏った瞬間から右肩の肩甲骨辺りから生えた蟷螂の鎌のような部位を見やる。
試しに触れると触覚等はしっかりとあるようで握った部分に圧が掛かるのが分かるものの、本来ならば存在しない器官の感覚にゾワゾワするのは仕方ない事だろう。
「ワタクシにも良くわかりませんが、この格好の元となった「テイン」という方の本では「生体装備」と呼称されてたのです」
「ふーん……これはこれで表に出したら凄いことになりそう、引っ込められないかな」
鎌を体から生やす人物などシャンフロのプレイヤーの中に居るはずもなく、どうにかして誤魔化そうとした結果折り畳んで背中にピッタリ沿わせる状態が最も目立たないという事が分かった。
多少違和感はあるが、武器を背負っていると誤魔化せば何とか弁明は出来るだろう。
「ん、なんとかなった」
「では武器屋に出発なのです!」
自分の姿に物珍しさを感じたプレイヤーの視線を無視し、辿り着いたのは昨日も訪れた鍛冶屋。扉を開ければ備え付けのベルがガランガランと鳴り、来訪者の存在を知らせている。
「こんにちは」
「らっしゃい…ん?っておお、昨日の嬢ちゃんじゃねえか、格好が変わってて一瞬気付かなかったぜ」
武器の陳列をしていた店主に声を掛ければジョシュアの事を覚えていたのか気さくに返事をしてくれる。その事に安心しつつもジョシュアは早速本題に入った。
「ん、どうも。武器の鍛造と修理依頼をしに来た。ちょっと多くなるけど大丈夫?」
「ほほぅ、どうやらだいぶたんまりと素材を取ってきたみてぇだな?よし、採掘した鉱石見せてくれ」
移動したカウンターに昨日の成果……多数の鉱石と狩りまくったロックリザードの素材を並べれば店主は少し目を丸くし、感心したような声を漏らす。
「ほうほう、これはまた随分と……っと、沼棺の化石もあるじゃねぇか。それにコイツは獣甲石か?この数揃えるたぁ良い腕してんなぁ」
「それで、どんなのが作れそう?」
「そーだなぁ……ラインナップとしてはこんなもんだ」
そうしてお出しされるラインナップは店売りの代物よりも数段性能が向上した装備の数々。
「おぉ、良い感じなのが沢山。ん〜………ならこの
「おう、嬢ちゃんの持ってきた素材の量なら十分だな。昼頃には仕上げるからそれまで待っててくれ」
「ん、楽しみにしてる。あ、あと致命の鋸の修理もお願い」
「あいよ」
インベントリから取り出した致命の鋸も受け渡し手を振りながら店を出ると、そのまま次の目的地を目指して歩き始める。
「あの店主様、ジョシュア様の性別間違えてましたけど訂正はしなくてよろしいのです?」
「別に困ることも無いから、わざわざ言う必要も無い」
「ふむむ、ジョシュア様がそれで納得していらっしゃるならワタクシが突っ込むのも野暮というものですね」
「ありがと、じゃあ装備ができるまで沼荒野の方でレベリングしようか」
「承知したのです!」
「ん、ここなら人目を気にし……」
「幻想哀悼ッ」
数分後、人気のない沼荒野の一角にてジョシュアの服から跳び出てきたオルトが詠唱したかと思えば攻撃を開始する。
周囲のマッドフロッグや隠れ潜んだロックリザードに武器を向けて
「おぉう……」
「ふふん、いかがなのです?」
絞り出したかのような声を出すジョシュアの視線は着地してこちら振り向いたオルトの手元に注がれていた。
「まさかの銃…しかも対になった2丁拳銃?とてもカッコいい」
「これがワタクシのメインウェポンの1つ、『E.G.O 崇高な誓い』なのです!」
(……シャンフロの世界には銃が存在しないって聞いてたけど、これは本格的に隠さないと狙われそうだなぁ)
白黒の2丁拳銃を構えてポーズをキメてドヤるオルトの頭を撫でながらジョシュアは思考を巡らせる。
ただでさえ『喋るヴォーパルバニー』というだけでもとんでもない爆弾であるのに、そこに『誰も知らないユニークシナリオ』と『シャンフロに明確に存在する銃』まで絡んで来るのだ。いくら戦いが大好きなジョシュアといえど面倒事は御免なので慎重にならざるを得ないのは理解している。
「まぁ、其の辺は追々考えるしか無いかな……さて、僕もコレの試運転がてらしっかり殺らなきゃ、幻想告解」
「ワタクシもじゃんじゃん殺るのです!」
気を取り直したジョシュアは昨日手に入れた力を開放し、手に『E.G.O 懺悔』を握って構える。
獲物となったモンスター達がどうなったかは言うまでもないだろう。
オルト
図書館にいた影響で強さは兄弟の中でも上位に入るレベル。無尽の毒に耐えられる直系の中の一羽。
なお複数ある戦闘スタイルの一つはガン=カタとする。
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……