それでは、どうぞ
「ん、キャラメイク」
『幕末』にて満足行くまで暴れ回った翌日、休日となったその日の朝食を済ませたジョシュアは諸々の準備の後、早速『シャングリラ・フロンティア』を起動していた。
「まずは見た目……いつも通りこのまま変更無し。名前……もいつも通りジョシュア」
目の前には現実世界の自分と瓜二つのアバターが立っており、特に何処も弄くる事もなく名前を空中に浮いたパネルに打ち込んで行く。
そして次に現れたのは職業の選択肢。
思い切り画面を弾きスクロールしても5秒はかかるその量に若干気圧されつつも、ジョシュアはそれぞれに詳細が付けられた画面とじっとにらめっこし始める。
「色々と使えるのは……ん、これにする」
そうして選ばれたのは「傭兵」。
他の職業には武器の適正にある程度制限があるのに対し、この役職に関しては魔法関係以外の武器を軒並み扱えるという特徴があり、武器を一つに絞らないスタイルのジョシュアにとっては有り難いものだった。
片方を無手の状態にしたいという理由で初期装備は片手剣を選び、最後に表示されたのは出身の項目だった。
「……ん〜、ん?」
どれもイマイチ自分に合わないと頭を悩ませつつも適当に選ぼうとしたその時、一つの出身を見つけた事でその手を止めた。
『戦帰り』
漸く終えた戦いの気配は、今もなおその身の中に宿っている
・開始場所が探索エリアになる
・自身よりもレベルの高いモンスターとのエンカウント率が上昇する
・取得経験値が5%減少する代わりにスキルLvの上昇率が微増する
・一部NPCの好感度に影響を与える
「ん、とても良き」
すぐにモンスターと戦える、より強いモンスターと出会いやすくなる、レベル上げの難易度を上げることで自分からより多くの戦いを経験する必要がある、という普通のプレイヤーであれば顔を顰めて拒否する要素のオンパレードなのだが、ジョシュアにとってはいい効果にしか見えないようで、とてもホクホクと満足そうな顔で『戦帰り』を選択した。
「よし、始める」
一通りの初期設定を終え、確認画面の「OK」と書かれたボタンを押す。
その瞬間、今まで無機質でだだっ広いだけの白い空間だった景色が時空が飛んだように宇宙の中に放り出される。
そして流れてくるのはプロローグなのだが……
「ん、邪魔」
本来であれば中世位の世界観にSF要素を詰め込んだあらすじを眺める筈だが、さっさとモンスターと戦いたいが為に森の中で始められる出身を選んでいるジョシュアに長い文字列が流れ終わるまで待つ利口さがある訳もなく即座にスキップされる。
そして本格的に意識を電脳世界とリンクされる、様々なVRゲームを長年経験していた彼にとっては慣れた感覚が過ぎた後、ふと感じたのは日の光。
「ん………おぉ」
顔を上げながら目を開けば木漏れ日が目に入り、思わず手を翳す。
段々と慣れてきた所でしっかりと周囲を見れば現実のように鮮明な自然がジョシュアを出迎えた。
「とてもクオリティが高い……木の葉一つの質感もしっかりと再現されてる」
身体の調子を確かめたジョシュアは早速探索を始め、《跳梁跋扈の森》の中をトコトコと歩いていた。
ヒラリと舞い落ちる木の葉の下に手を差し伸ばせばしっかりと掌の上に着地し、そのまま物質として存在し続けている。
仮想空間でここまで細かい物理演算が働いている事に感心したようにマジマジと観察していたジョシュアだったが、不意に耳に入った音に反応して即座に裏拳をかました。
「グギャ!?」
不意打ちで手作り感満載の手斧を振り下ろそうとしていたモンスターは獲物からの予想できない先制攻撃に面食らい、防御が間に合わないまま頭を殴られ近くにあった木に叩きつけられる。
「ん、成る程。一応生身の拳でもダメージは通る」
「ギギ……!」
「じゃあ次は蹴り」
頭にモロに食らった為かスタンが入って動けないモンスターへ徐ろに近づいたジョシュアはそのまま刈り取るような蹴りを放ち、ゴブリンは耐えきれずポリゴンと化して消え去った。
後に残ったのはモンスターが使っていた手斧とレベルアップのファンファーレのみである。
「ゴブリンの手斧……武器としては弱いけど投げればいくらか………ん、スキル?」
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PN:ジョシュア
レベル:2
メイン職業:傭兵(片手剣使い)
サブ職業:無し
体力 30 魔力 10
スタミナ 20
筋力 10 敏捷 10
器用 15 技量 15
耐久力 1(15) 幸運 30
残りステータスpt.5
装備
左:無し 右:無し
頭:無し
胴:皮の服 (耐久力+8)
腰:皮のベルト (耐久力+3)
脚:皮の靴 (耐久力+3)
3550マーニ
スキル
・スピンスラッシュ
・ナックルラッシュ
・足払い
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「そんなのあったんだ……そういえば剣使うの忘れてた」
インベントリを操作してすぐ、腰に最初から存在していたかのように片手剣が現れる。
デザインはシンプルで俗に言う「初期装備」を体現しているようなそれを抜き放ち何度か振るって調子を確かめていれば、丁度良く
「ん、スピンスラッシュ」
「グギャゴッ!?」
「ナックルラッシュ」
「ギャバッ!?」
剣を構えたジョシュアがスキル名を呟けば自身のアバターが回りながら剣を振りかざし、飛び掛かってきたゴブリン2体をすれ違いざまに斬り捨てる。
スキルによる回転の勢いを静止させ別のスキルを使えば、無手だった方の手がブレ、残っていたゴブリンを連続で殴打して地面に叩きつけた。
僅かにHPが残ったのか、最後のゴブリンは地面を数回バウンドした後に顔を上げたのだが…
「ん、投げやすい大きさ」
インベントリを操作して取り出されていた同族の遺品の投擲を避ける事は出来ず、そのまま他のゴブリン同様ポリゴンとなって消えるのだった。
手斧を投げた姿勢での残心を解いたジョシュアはその光景を眺めながら、再び現れたレベルアップの画面を見ることなく空いた手で閉じる。
「………ん」
一度伸びをしようと頭の後ろで組もうとした手はその途中で降ろされる。
ジョシュアの真正面、森の中の茂みの方から僅かに聞こえた草木を揺らす音の元が段々と近づいているのが察知できた。
「………ふふっ」
自然とジョシュアの口元に笑みが浮かぶ。
今の自分のステータスはこの世界の中では雑魚も同然、序盤の弱いモンスターといえど囲まれてしまえばひと溜まりもないだろうが、その状況も彼にとっては願ったり叶ったりである。
片手剣をだらんと構えて全身の力を抜いてリラックスする、武器を使う際のルーティンだ。
「ぷぅ」
戦闘態勢が整った所で現れたのは可愛らしい兎に一本角が生えたモンスター、アルミラージ……の群れ。目視できる範囲でもその数おおよそ5羽以上、いずれもジョシュアを一撃で葬り去る可能性のある脅威である。
「さぁ、やろう」
跳梁跋扈の森の中、鎧を着込んだ剣士らしき青年と魔法使いのような帽子を被った少年、俗に言うレンジャーのような格好の弓を持った少女が歩いていた。
「何かさ、いつもよりモンスター少なくない?」
「確かにな……」
「そうかな、ここ一応初心者用のエリアだしこんなもんじゃないの?」
「まぁこれからエリアボスに挑む訳だし、それまでの消耗は少ないほうが良いだろ。このまま次の街まで行くぞ」
「「はーい」」
最初の街『ファステイア』から出発し、次の街『セカンディル』を目指す初心者を含んだ男女3人組はレベル上げで訪れた時よりも静かなフィールドに首を傾げていた。
先頭の青年はこういう系統のゲームに慣れているのか、他2人の友人のサポートをしながら進んでいるようだ。
「ぷぅ!」
「あ、アルミラー……」
「逃さない」
「キュッ!?」
「うえぁっ!?」
そうして漸く現れたモンスターに魔法使いの少年が杖を向けようとした瞬間、何処からともなく飛んてきたゴブリンの斧がアルミラージの頭に直撃して仕留めた。
瞬間的に起きた出来事に呆然とする3人を他所に、木々の間から出てきたジョシュアはドロップアイテムを回収する。
そこでやっと近くにいた青年達に気がついたようで、少し目を丸くしながら頭をペコリと下げた。
「ごめんなさい、獲物奪っちゃった?」
「い、いや、別にそんな事は無いけど……」
「ん、ならよかった。これは驚かせたお詫び、さっきのアルミラージ倒したら出てきた」
インベントリから形の綺麗な角のアイテムを指定して実体化させて、近場にいた魔法使いの少年に手渡す。
それを見守っていた青年は手渡された物を見て目を見開いた。
「は、これドロップ率5%位のやつじゃ……!?」
「5個ぐらいあるから問題ない、それじゃ」
「え、あ、ま、待って!?」
少女の静止が聞こえなかったのかはたまた無視したのかは分からないが、少なくともジョシュアは振り向いたり立ち止まったりする事なく走り去っていく。
その背中を呆然と見送っていた3人組が再び動き出すまで暫くの時間を要したのたった。
「何だったんだろうあの子……」
「さぁ……結構可愛かったな」
「この角どうしよう………?」
「取り敢えず大事に持っときな、装飾品に加工出来るとこまで行けばいいアクセサリー作ってもらえるからよ」
『戦帰り』はかなり不人気の出身の一つです。
理由としては
・エンカウント率上昇が最初から効果を発揮する為、ステータスが雑魚な序盤の難易度が跳ね上がる
・レベルを上げたいがシンプルに若干レベルが上がりにくくなる
・レベルを上げてもよりレベルの高いモンスターが向こうからやってくる
等といった感じです。
メリットもあくまでもスキル『Lv』の上昇率の微増であり、スキルの進化は兎も角習得には影響しません。
余程の変態か戦闘バカじゃなければ選びません。
まぁ別側面のメリットもありますが。
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……