それでは、どうぞ
『頭... 金属に... 脳みそが... 滑らか... 金属みたい... つやつやに...』
ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ
「…………」
体を拘束されながらも何かを呟きながらただひたすらに壁に自身の頭を打ちつける『捨てられた殺人者』。姿を捉えたジョシュアは手に持った致命の鋸を腰に差し、その背中に対して声を掛けた。
「ん、ごめんください」
『…………』
ジョシュアの呼び掛けによって壁への頭突きがピタリと止まる。項垂れるような姿勢のまま、拘束された状態ながら器用にこちらをチラリと見た『捨てられた殺人者』はその光の灯らない目で訪問者の姿を捉えた
『あ、あ……』
だが、その目の焦点はグラついており、どうあがいても正気だとは思えない。暴走一歩手前である。
「貴方と話がしたい…けど」
なるべく刺激をしないような口調で語りかけるもどうやら既に意味を成していないらしく、ジョシュアの前で『捨てられた殺人者』の様子が段々と可笑しくなっていく。元から可笑しいと言えばそうなのだが。
『ーーーーーーッ!!』
溜め込んだ物を開放するように思い切り仰け反ったが、その口からは既に人としての声は出ず、金属同士を擦り合わせたような不協和音が鳴り響く。
それと同時に『捨てられた殺人者』の頭部が変成して金属の塊となった。
「まぁ、仕方ないか。アンジェラも対話だけじゃ無理だって言ってたし」
『ーーーーーーッ!!』
明らかに対話が不可能な状態になった幻想体を前に、ジョシュアは残念そうに頭を掻きながら抜剣する。そんな生命体の存在を察知したのか『捨てられた殺人者』は膝を使って足を引きずりながら頭を揺らして近付き始める。
その動きは鈍重であるものの、その奇形の頭部による攻撃の威力は現在居る独房のような収容室のあちこちにあるクレーターにひしゃげていた扉、廊下にあった無惨な死体が物語っていた。
『ーーーーーーッ!!』ブォンッ!!
「よっと」
しかしただ正面から迎え撃つという選択肢のみな訳では無い。ましてや十二分に動き回れるサイズの部屋の中、それを活用しない手はないのである。
「ほら、こっちこっち」
頭を打ち付けるような地面への叩き付けを行いながらジョシュアへと迫るもその攻撃は絶妙な所で避けられており、決定打を与えるにはまだ遠い。
(ん、どうしよっかな。下手に真正面に立てば叩き潰されそうだし……そうだ)
思案したジョシュアは自身に振り下ろされる金属塊に対し迎え撃つようにインベントリから呼び出した致命の鋸を当てる。
「《ジャストパリィ》」
『ーッ!?』
目の前の存在を粉砕せんと迫っていた一撃は世界からの補正を受けた一刀によって弾き返され、『捨てられた殺人者』は頭から変貌した鉄塊の重さもあってか大きく仰け反って隙を晒した。
「見た目通り重いんだねその頭、幻想告解」
すかさず左手に『懺悔』を握り、斬打の二刀流によるラッシュを叩き込む。致命の鋸の名前の通りの特徴的なギザギザな刃は対象の肉を捉えて引き裂き、『懺悔』は精神に干渉しより痛烈なダメージを与えていく。
「取り敢えず一回ぶっ飛ばさないと……ねッ!」
『ーーーーーーッ!!』
打撃武器スキルである『ショットスタンプ』と『パワースラッシュ』を同時に使用し、胴体にクリティカルを叩き込む。
多少なりともダメージはあったようだが更に怒りが揺さぶられたのか先程よりも力任せに暴れまわり始める。その様子は最早爆発的する寸前の爆弾のようだった。
「《光の種》 敏捷」
強化倍率が50%になり持続時間も伸びた特殊スキルを使用し、暴れまわる鉄塊の隙間を縫うように滑り込み背後へと回る。
いくら超重量となった頭を振り回せる爆発的な力があるとはいえ、拘束された状態では背中側へと攻撃を届かせる事は出来ない。そんな拘束から逃れようと藻掻きながら背後を向こうと蠢く『捨てられた殺人者』へ叩き込まれたのは、いつの間にか右手の武器を鋸から包丁へと持ち替えたジョシュアからの刺突攻撃だった。
「《スパイラルエッジ》…うん、中々使える」
手の中で致命の包丁を弄び、持ち方を変えながらもその視線は目の前の敵から離さない。螺旋のような衝撃波によって転がされた筈の鉄塊頭の男はその場所でもたつきながらものっそりと起き上がり、再び自分の頭を振り回して暴れ始めた。
『ーーーーーーッ!!』
しかしその動きは先程よりもキレがなく、少しばかり疲れやダメージの蓄積が見受けられた。それでも暴れ続けるのは痛覚が鈍い故かはたまた理性が消し飛んでいるのか、それを知る由は今のジョシュアには無いが今出来ることは一つである。
「《
未だ慣れぬ背中の生体装備が折りたたまれていた関節を伸ばし斬撃を浴びせる。それが決め手となってか、『捨てられた殺人者』は斬り飛ばされた先で壁にぶつかった後、一度ピクリと動いたかと思えば力が抜けるように倒れた。
そして世界は暗転する。
気付けばジョシュアは剣を振り下ろした姿勢ではなく、ポツンと立った状態になっていた
『…………』
「…………」
先程よりも少しだけ狭くなったような気のする独房にて、ジョシュアは項垂れる『捨てられた殺人者』と向かい合うように立っている。『捨てられた殺人者』の首に絞首刑で使われるような縄が纏わりつき、それによって引っ張られ蹲る事を許されない状況に晒されていた。
「改めて……はじめまして、僕はジョシュア。貴方の名前は?」
『…………』
薄暗い部屋の中、最初の目的である対話を試みる。今度は直ぐに暴れ始めるような気配は無く、虚ろな目でジロリとジョシュアを見やると絞り出すような声で応えた。
『分から、ない……既に、遠く、無くして……あぁ、頭が、重い』
「そっか」
途切れ途切れではあるものの、先程よりも遥かに理性が感じ取れる。しかしその声色からは嫌悪や憎悪、そして絶望といった負の感情が滲み出ていた。
『俺は、死ねない、殺したから、暴かれた、それでも、死ねない』
「………」
『お前も、俺を、哀れだと思うか?』
「いいや」
虚ろな目で睨まれるジョシュアは、それでも動揺せず真っ直ぐに見つめ返す。
「ん、確かに僕は貴方を殺せる。けど今の僕には貴方の不死性をどうにかする力は無いし、貴方をこれ以上どうこうする気もない」
『…………』
「だからせめて貴方と話がしたい。けど貴方が望むなら……」
言葉を切り、取り出したるは湖沼の太刀。振るわれたその太刀筋に迷いはなく、その一閃は
男の首に掛かっていた縄を斬った。
そのまま首を断つ直前で止めた刃を鞘に収めるジョシュアは続く言葉を紡ぐ。
「僕は貴方の死を見届ける。いつになるかは分からないけども、必ず」
『……そうか、なら、それで良い』
真っ直ぐ相手の目を捉え、逸らすことなく睨むような眼力で『捨てられた殺人者』に意志を示せば、やがて男はゆっくりと目を閉じて項垂れた。
その姿は何かに囚われ絶望しているのではなく、ゆっくりと眠り始めたかのような出で立ちだったことをここに記載しておく。
「……」
気付けば周囲は本にまみれた景色に変わり、手には先程開いた本が握られていた。
「あ、お疲れ様なのですジョシュア様」
「ん、ありがとうオルト」
「そのご様子だと、幻想体と言葉を交わせたようなのですね」
帰ってきたジョシュアに気付いたオルトは読んでいた本に栞を挟み脇に抱えて歩いて来る。
「ん、最初は暴れてた。昔はどんな感じだったのかは知らないけど、今はただ静かに眠りたいだけみたい」
本の主たる殺人鬼は疲弊しきっており、漸く止まる事が出来たのだろう。今のジョシュアにその襲い来る絶望を癒すか無くす手段は無いが、使う事を許された力は遠慮なく使わせて貰う事にする。
「幻想拘束」
本から飛び出ていた頁を引き抜きそう唱えると同時に手の内に現れるは『捨てられた殺人者』の変貌した頭部と似たようなデザインの大型ハンマー。掴んだ瞬間から自身の体から力が湧き出て、それによって体が強張るような感覚に襲われつつも性能を確認する。
E.G.O 『後悔』
武器種:大鎚 or 特殊アクセサリー
とある死刑囚の成れの果ての自我の断片を抽出し物体化させた代物。その拘束具、鉄塊には大義の為と尊厳を踏み躙られ、悲しむことすらされず忘れられた事への憎しみと怒りが込められている。キツく締め付けるベルトはその現れなのだろう。
このE.G.Oを装備した状態での攻撃的中時、MPを10消費しスタン値の蓄積率を上昇させる。
(再使用時間 10秒)
筋力+30 敏捷−20
(ん、敏捷が落ちるのはちょっと困る。ミサンガでも相殺しきれないし……けど筋力はいい、光の種の運用を敏捷に回せば何とか……?)
「取り敢えずギフトは……っと」
少し意識を向ければ握っていた歪なハンマーは黒い革のベルトとなって解けてジョシュア目掛けて絡んで行く。体の至る所に巻き付き、鼻から下も何重にもなったベルトによって肌すら見えなくなった所で漸くアクセサリーへの変化が止まった。
「ん、ちょっとキツい」
拘束具、と言うよりもレザー仕様のリボンのように全身に疎らに巻き付いたそれは動きは阻害しないもののキツくジョシュアの身体を締め付けていた。同時に力が巡る感覚と足が若干重くなるような感覚に襲われ、説明通りの効果を体感する。
「割とファンキーな……オルト、どんな感じ?」
「ふむむ、何と言えば良いのでしょう。ワタクシはお洒落等は分からないのですが……とっても奇抜なのです」
「そっかぁ」
いくらリアルでモデルをやっていると言えど、ここまでパンクな衣装は早々着たこともない。と言うより最早拘束具と化しているそれをファッションと形容するのも如何なものだろうか、そんな事を考えながらE.G.Oを解除する。
「なら次行こうか」
「もう一冊もなされるのです?一度休憩を挟まれても良いとワタクシは思うのです」
「大丈夫、休むのはこの幻想体を鎮圧してからにする」
「ふむむ……ジョシュア様がそう判断なさるのであれば、ワタクシもお付き合いするのです」
「ん、本でも読んでゆっくり待ってて」
「なのです!」
机に置いた本を入れ替え、今度は冬の路地裏と何か燃えた跡が描かれた表紙が特徴的な本を手に取り、最初の頁に目を通す。
『君の元に行こう。やがて私のように灰になってしまう、君の元へ。』
※ジョシュアくんは症候群のせいでコミュニケーションが困難な弟の相手を長年し続けた影響で相手の求める物が無意識に理解できるコミュ強です。
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……