司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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まさかリンバスがコラボするとは……来年が楽しみですね。





それでは、どうぞ


やがて希望は燃え尽きて

「…………」

 

飛ばされたのは夜の帳が下りて仄かな光を放つガス燈が表通りを照らす、何処か古ぼけた街だった。一応まだ厚着であるテインのコアページを纏っては居るものの結構な肌寒さを感じる。どうやら空間内は冬場らしい。

 

「マッチ、冬……『マッチ売りの少女』?」

 

頭の中でピースがハマったかのような感覚を覚えながらも思い浮かんだ作品を口に出す。恵まれぬ少女が火の中に見出した夢に包まれながらも儚く命を落とす、バットエンドの物語。

しかしこのユニークシナリオに出てくる存在……幻想体へと変貌した場合はどうなるのだろうか。

 

「ん、探さない事には始まらない」

 

ぐるぐると回る思考を振り払い、ジョシュアはファーコートを靡かせながら冷たい街を歩き始める。

 

(………人がいる)

 

歩き始めて直ぐ、違和感を覚えたのは人の往来。夜とは言えどその人影はそこそこ多く、大通りを往く人の人数は軽く数えても視界内に20は居る。

 

「これも幻想体の……いや、どっちかって言うと背景に近いのかな」

 

しかしいくら自分から近付こうにもその人影に接触する事は叶わず、自分の周囲だけがポッカリと空いた空間になるように時空が歪んでいる感覚に陥る。いくらアクションを起こしてもまるで認識していないかのようにこちらに反応する様子は一切無い。

 

「さっきの研究所といい……幻想体の記憶の一部だったりするのかな」

 

そんな事をぼやきながらもその足は止まらず、そのまま歩き続けて数分後…

 

「…………?」

 

同じような風景ばかりで特に新しい収穫は無く、どうしようかと悩み始めていたその時、不意に背後から感じる気配に違和感を覚えた。

 

 

『……………』

 

 

振り返ればそこには一つの小さな人影……正しくは体自体が真っ黒な少女のような存在がポツンと立っていた。

 

 

 

幻想体(アブノーマリティ)

『マッチガールに遭遇しました』

 

 

 

少女……『マッチガール』は鉛筆でグチャグチャに塗りつぶしたかのような表面の体に空いた穴のような白い目で、ボンヤリと虚空を見つめていた。

 

「……そう来るんだ、中々凄いねシャンフロ」

 

その姿を見たジョシュアは口ではそう言いながらも中々に険しい表情をしていた。

少女をよくよく見てみれば、そのグチャグチャになった部分は何かが焼き焦げてボロボロになったものだというのが分かる。そしてこの世界に入る際に見た表紙の焚き木の跡のようなものを合わせて考えると、あの少女がどの様な末路を迎えたのか想像が付くだろう。

 

「最後の夢すら与えられなかった末の姿って所かな……あのマッチどうなってるんだろ」

 

じっと虚空を見続ける少女の胴体にはその身の丈程の長さのマッチが突き刺さっており、背中側にある頭薬部分には火が灯っていた。何がどうなってあんな奇妙なオブジェのようになったかは知らないが、恐らくアレが彼女の求めた夢の正体なのだろう。

 

『…………』

 

いつの間にかこちらを見ていた少女と視線が合う。無手のジョシュアが見つめ返せば、少女は少し動揺したように体を揺らした。

 

『………君も、私から希望を奪うの?』

ズズズズズ…

 

瞬間、少女の影から細い何かが現れる。正しくは少女の背後にあったのだろうそれの見た目は少女のようにこれまた奇っ怪だった。

 

「ん、燃え尽きたマッチに手足生えてる」

 

まるで後から手足が書き足されたような違和感のあるそれは、頭薬部分から6割程度が炭化し残り火が燻り続けるマッチの残骸だった。彼らは自身すら夢ごと燃え尽きてしまった少女が縋った物の末だったのだろうか、等と思考を巡らせながらジョシュアは致命の鋸を取り出しふぅ、と息を吐く。吐息は外気に晒されていた白くなり、空中に霧散していく。

 

「少し手荒になるけど許してね、お嬢さん」

 

その口にいつものような笑みが浮かぶことは無く、ただ真剣な眼差しで少女を見やる。

そんな風に戦いの火蓋は静かに切られた。

 

『ーーーーーー』

『ーーーーーー』

「シッ」

 

まず飛び掛かってきたのは手足の生えたマッチ達。少し動きがぎこちない物のその攻撃にはこちらを倒さんとする意思が感じ取れた。

しかしジョシュアはその程度では動揺すらしておらず、2体からの挟撃に対し冷静に鋸の一閃を合わせて弾き返す。

 

「《スピンスラッシュ》」

 

線のように細い見た目通りパワーはあまり無く、弾き返された際に致命的なまでに隙を晒したマッチ達に回転斬りを浴びせる。

ミシ、という木特有の繊維が千切れて亀裂が入る音と共に地面を転がるマッチを他所にジョシュアが悠々とマッチガールへと歩を進めれば、不意に肌寒さが無くなり始めている事に気が付いた。

 

「寒くない……というかなんか暑い?」

『このマッチの炎だけが私の希望なの……』

 

段々と体感温度は高まって行き、次第に肌を焼くような熱さを感じ始める。明らかな異常の原因は探す必要も無くそこにいた。

 

『暖かい暖炉……沢山のご馳走……華麗な飾り付け……』

「……まさか」

『もし私が燃え尽きて消えないといけないなら……』

「ッ!《ムーンジャンパー》ッ!」

 

メラメラ、メラメラと、少女に刺さったマッチの先の炎がその勢いを増していく。

それが少女の感情の発露によるものなのかは分からない、だがただ一つジョシュアが察したのは『このまま近付けば自分が消し飛ばされる』という事実。

 

 

『君もそういう風にしてやる』

 

 

既に導火線への着火は済まされていた。

 

 

チュドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………』

 

爆発の中心地にいた『マッチガール』は地面に放射状に出来た爆発痕の中でポツンと立っていた。全身が燃え尽きた状態の彼女をそう表現するのも変な話だが、爆発したというのに無傷な辺り幻想体という存在の異常性が良く分かる。

 

「危ない危ない……もう少し遅れてたら一撃でやられてた」

『!』

 

しかしながら彼女にとっての脅威は未だ健在であった。若干煤けては居るものの何処かを欠損している様子は無く、先程まで持っていた鋸の代わりに大鎚である『後悔』が握られていた。

 

「正直、只の子供に殴り掛かるのは嫌……だから」

 

 

憎悪と憤怒が込められた奇形の鎚はその見た目通りの鈍重さを見せながらも使用者に締め付けるような感覚を与えると共に力のリミッターを外す。

 

 

「こうする」

 

 

そうして強化されギリッ、と音が鳴るほどに握りしめられた『後悔』は……

 

 

 

バキャッ!

 

 

 

 

道端に転がっていた燻り続けるマッチに振り下ろされ、その胴体を完全に圧し折った。

 

『あ……!』

「これらを通して夢を見ていた君に申し訳無いけども、僕は前に進まないといけない」

『止めて……』

 

マッチが折れると同時に明らかに動揺し不安定さが醸し出された少女の静止を聞き流し、ジョシュアはもう一方の独立したマッチの元へ足を運ぶ。

 

『ーーーーー』

「遅い」

 

少し時間が空いたからか体勢を立て直していたマッチが飛び掛かって来るも、既に予測していたジョシュアが発動した《アクトブレイク》によって木っ端微塵に砕け散る。

 

『あ、あぁ……』

 

マッチ達は耐えきれず、やがて灰となって散っていく。その光景にショックを受けた『マッチガール』は瞳を揺らし、ふらふらと覚束ない足取りで下がろうとしてその場で躓いてしまった。

 

「最後の夢は未だに燃え続けるそれ?」

『…………』

 

『マッチガール』は答えない。目の前に立っている筈のジョシュアに気付いていないのか、それとも意識を向ける事すら出来ないのか、それを知る術はジョシュアには無かった。仕方ないと頭を振ったジョシュアはそのまま背後に回り、

 

「《ショットスタンプ》」

 

無慈悲な振り下ろしで火の灯るマッチ部分を圧し折る。

 

 

 

 

 

そして灯りが潰え、世界は闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けばジョシュアは月明かりが僅かに照らす裏路地の入口の前に立っていた。視界にはしんしんと降り積もる雪が映り、一拍置いてから肌を刺すような寒さを感じ取る。

後ろを見てみれば、先程までと同じ様に影にしか見えない人影達が行き交っていたが、その冷たさは一際大きくなっているような感覚がした。

 

「…………」

 

自身の存在を一切認識していなさそうな通行人(背景)にそれ以上気を向けてもしょうがない、そう意識を切り替えてジョシュアは路地へと踏み込んだ。

 

「ふぅ………」

 

吐いた息が明確に白くなる。人が2人並ぶのがやっとな程の道を僅かに降り積もった雪に足跡を残しながら歩いていれば、やがてこの世界の主の姿が見えた。

 

『……………』

 

薄暗い路地の片隅、街灯の灯りどころか月明かりすら差し込まない奥まった所の壁に背を預け、足を放り出して『マッチガール』は座っていた。周囲にはマッチやそれを入れていたであろう籠がほんのすこしながらもその原型を留めているが、何れも深刻なまでに燃え尽きて炭を残すのみである。

 

『暖かさも、満腹感も、華やかさも……全部消えたの。もう何も残ってないのね……』

「…………」

 

か細い声を出す姿は絶望と悲壮感が綯い交ぜになっており、その過去の経験がどの様な物だったか推し量る事は出来ない。

しかしそれでもジョシュアは歩みを止めず、少女の前に立った。『マッチガール』もその事に気が付いてはいたが、既に少女に何かする気力は残されていない。

これから起こる事に思考を巡らせた少女は脅威から目線を外して静かに目を伏せる。

そんな思いを知らぬジョシュアはしゃがみ込み、少女と向かい合って

 

 

 

 

 

 

ポン

 

 

 

 

 

『………え?』

 

 

 

 

少女の頭に優しく手を置いた。




すんごいサクサク終わってしまった……

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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