それでは、どうぞ
『夢貪る濁流』を鎮圧したエリアから離れて数分後、ジョシュア達は次の街へと続く道を歩きやがて小高い丘を登りきって周りの風景を見渡せる位置に到着していた。
「ん、壮観」
「あれがサードレマ、首都であるニーネスヒルに並ぶこの大陸の主要都市なのです!」
「ホールケーキみたいだね、層ごとに違いもあるし」
「商いでここを訪れる事が多い弟のピーツが言うには、真ん中にある城郭にこの都市を治める大公が住まわれていらっしゃっており、その大公様の許可を得た者のみ周囲にある上層エリアに入れるらしいのです!ワタクシは訪れたことが無いので楽しみなのです!」
遠くから見てもその大規模さが伺える都市をジョシュアは感心したように眺め、オルトも興奮を隠せないようにぴょんぴょこ跳ねる。
「ん、それなら町中の散策もしよっか。本屋もあるなら立ち寄る?」
「是非!」
そんな他愛もない会話を交わしつつ移動を再開する。しかしその道中、不意にジョシュアがピタリと足を止め、それを不思議に思い振り返ったオルトが見上げるとその表情は険しそうにわずかながら歪められていた。
「……オルト」
「む?どうされたのです?」
「少し早いけどここに入ってて。人の気配がするし、なんか殺気立ってる」
「ッ!了解なのです」
いそいそとフードの中に収まったのを確認してから再び歩き出す。
そしてその数分後、サードレマの入り口が見えてきた所まで来ると徐ろに装備を固めたプレイヤー達がぞろぞろと現れジョシュアの周囲に集まる。
「よぉ、止まりなそこの嬢ちゃん」
「…………」
「止まれっつってんのが聞こえねぇのか?あぁん?」
声をかけられたが一切合切無視して通り過ぎようと試みるも、行く手を遮るように移動した事で渋々ながらも応対し始めた。
「僕のこと?」
「そーだよ、ちょいと話を聞きたくてなぁ?」
ニヤニヤと笑う男達の目線はジョシュアの服に向けられていた。どうやらシャンフロでは珍しい現代的な装備に目を付けたようで、その表情から「どうやって奪ってやろうか」という思考がありありと感じ取れる。
「待ち合わせしてるしさっさと街に入りたいから行っていい?」
それでもなお、ジョシュアは自分のペースを崩さない。
冷静に観察し続け、チラリと頭上を見ればPNの横に赤い髑髏が見え、相手方の素性をある程度察しながらもそれらは問題になり得ないと判断する。
「ほぉ~ん?テメェ自分の置かれてる状況が分かってねぇみたいだな?」
「ただひたすらに面倒な連中に絡まれてるってことは理解してるよ?」
「あ?」
凄んでもさらりと受け流して淡々と煽り返す生意気なプレイヤーに元々そこまで堪え性の無い集団は脅しから強行手段に出ようと武器をインベントリから取り出す。
人数、そして恐らくレベルや装備の質もあちら側が軒並み上、普通のプレイヤーであるなら焦り、初心者ならば瞬く間に冷静さを欠いてしまうような状況だ。
だがしかし
「ねぇ」
「あん?」
「武器を抜いてこっちに向けたって事は、
ここに居るのは
「だから……
蕩けるような喜悦の笑みを浮かべ、自身に向けられる武器を握った腕を斬り捨てる姿は紛れもなく
「は?え、は?」
「シャンフロ始めてから1週間も経ってないし、他のプレイヤーとの交流も無かったからPVPの機会なんて無かった………だから楽しみなんだ」
絡んでいた男は突然片腕から大量のポリゴンが溢れ出し、続け様にその腕を掴んで引き寄せられていつの間にか取り出していた致命の包丁を喉元に突き刺される、という訳の分からない状況の中、トドメと言わんばかりに刃を捻られた事で継続ダメージが加速しそのままHPが尽きる。
「あれ、もう死んじゃった……まぁいいやあと5人もいるし」
「ひっ……!?」
予想していた抵抗もせずそのままくたばった男のドロップアイテムを若干残念そうに眺めていたものの、直ぐに思考と標的を切り替えて笑いかける。
が、そんな光景は向けられた側からしたらホラー映像でしか無く、早く何とかしようといつものように取り囲んでリンチにしようと試みた。
「恐らくこういう手口をよく使ってるのかな、囲み方が手慣れてる、そういうグループなの?でもまぁ……」
繰り出されたメイスの振り下ろしを最小限だけ体を後ろに引いて避け、後ろから迫る斧は側面を体を捻りながらの蹴りで叩いて反らし、振りかぶられた短剣は腕を絡め取ってそのまま下手人の懐に潜り込んで肘鉄を顎に叩き込む。
「攻撃の隙間が多い」
矢継ぎ早に攻撃が繰り出される中でもその隙間を縫うように敵の体に傷を残していく。
「ん、ちゃんと殺意を込めて首を狙って、やり甲斐が無い。手本はこう」
「は、ちょ、ギャッ!?」
そして自分目掛けて繰り出された胴凪ぎの一撃を跳んで避けたかと思えば、そのままの勢いで宙返りし肩に掛けるように足だけで武器を振り切ったプレイヤーにしがみつくとそのまま致命の鋸の根本部分の刃を当てる。
自身の置かれた状況を遅れて理解し顔を青くするプレイヤーにニッコリ笑い掛けたあと、そのまま鋸を引いて細かい山のような刃でもって首を断ち切った。
「で、他の人は来ないの?」
「ぐ…くっそたれ!阿修羅会を舐めんじゃねぇぞ!!」
余裕綽々と次々倒されていく仲間を見て、馬鹿にされていると感じたのか激昂しながら突っ込んで来る男相手でもやることは変わらない。
「右、背後、足狙い、上から、ほい、ほい、ほいほいほい」
「クソッ、当たれよこのガキッ!」
「連携が乱れ過ぎ、大人数で獲物が一つなら賢く立ち回らないと……んしょ」
「うぉッ!?」
最早余裕を完全に失った残りに囲まれ各々から攻撃が飛んでくる中、ひらりはらりと無傷でやり過ごしていたジョシュアが不意に一人の足を蹴る。攻撃モーションの途中に力を加えられた事で制御も叶わずつんのめったプレイヤーは何が起こったのか分からないような顔を晒し、
「ん、こうなる」
他のプレイヤーが振り下ろした刃によってHPを全損させてポリゴンとなって消えていった。
同士討ちを意図的に誘発するという技巧を見せたにも関わらずそれが何でもないかのように振る舞う強者は次の獲物を定める為に自身を囲む者達を見回した。
「数の暴力は一定以上の質が無いと逆に弱くなるよ。勉強になったかな?」
「ヒッ!?な、何なんだよテメェは!?初心者の筈じゃねぇのかよ!?」
「そ、そうよ、チートでも使ったんじゃないの!?」
まるで責め立てるような言動に思わずジョシュアはきょとんと少し驚いたかのように目を丸くし、その発言を聞いた瞬間にピタリと動きを止めて武器を下ろす。
「そんなつまんないこと言われても、正真正銘シャンフロは始めてまだ数日しか経ってないし…素人の集団リンチ位なら他のゲームの経験とかでどうとでもなる。それよりもう終わり?まだ出来るでしょ?早く武器構えて、戦意の無い人を殺しても殺し合いじゃないし楽しくない」
うっとりとした笑みから一転、一切の感情が読み取れない真顔へと変貌し、かかってこいと言わんばかりに煽って挑発する。しかしながらその異様な雰囲気に飲まれたプレイヤー達は一向に動こうとする気配が無く、じっと待っていたジョシュアはやがて溜息と共にポロリと愚痴を吐いた。
「……こういうゲームのPKerって強い人が多いと思ったんだけどなぁ、期待外れだったかも」
既に熱は冷めてしまい、ここからどう処理するかに思考をシフトし始める。
その時だった。
「やぁやぁ!随分派手にやってるねぇ。街の方で大分噂になってたから来ちゃったよ」
突然その会話に割り込む存在が現れ、その場にいた全員がそちらを向く。
そうしてサードレマの入り口を向いたジョシュアの視線の先に一人、明らかに自分を取り囲んだ連中とは一線を画す強さを感じる槍使いが余裕の足取りで現れた。
「ん!……ん?あれ、その声…」
「ペンシルゴンさん!」
新たな敵の登場に一瞬心が湧き立ち、直ぐに違和感を覚えて鎮静化したジョシュアを他所に、阿修羅会のメンバーは最強戦力の存在に歓喜の声を上げ、勝利を確信したようにニヤつき始める。
「へへ、終わったなお前…阿修羅会の副リーダーであるペンs「あ、ゴッメーン、君達邪魔だからさっさとくたばって☆」
ドスドスッ!
「はぇ?」
「え、なん」
しかし強大な戦力が加わったことで余裕を取り戻し反撃に臨もうとした瞬間、その戦力として認識されていた人物はその手に持つ黄金の槍を躊躇いなく背後から心臓部目掛けて突き刺した。
光を反射し煌めく穂先は頑丈そうな防具をいとも容易く貫通し、哀れな被害者達は困惑の中瞬く間にポリゴンとなって崩壊、装備していた武器等を辺りに残して消えていったのだった。
「やっほージョシュアくん、随分と大立ち回りしてたみたいだねぇ。シャンフロを楽しんでるようで何より」
「ん、やっぱり先輩だった」
武器を仕舞いひょこひょこと惨状を作り出した魔王……ジョシュアをシャンフロに招いた張本人である天音永遠こと『アーサー・ペンシルゴン』に近づく姿には既に先程までの狂気的なまでの戦意は見えず、それに相対する方も特に動揺することもなくそれを迎え入れる。
「さっきの人達は先輩の仲間?副リーダーとか言ってたけど」
「そんなとこかな〜。ただアイツら私でも顔把握しなかった位下っ端だし、キルしたことに関しては私としてはどうでもいいんだけどね。まぁウチのリーダーは面子がウンタラカンタラうるさくなるだろうけど……」
「もっと強い人達が襲いに来るかな……?」
「そんなに目ェキラッキラさせてるなら杞憂か」
先程の及び腰になってしまった連中ではイマイチ物足りなかったのか、新たな敵が自分を狙うと聞いて怯むどころかワクワクが止められなくなってる後輩の様子にその敵の副リーダーたるペンシルゴンは思わず苦笑をこぼす。
しかしそれでも崇拝や下心も無く、本性を前にしてもなお純粋に慕ってくれる後輩は可愛いもので一先ず頭をワシャワシャと撫でる。
それを犬のように目を閉じて嬉しそうに受け入れる辺りも可愛いと思わせる要素なのだろう。
「とりあえずここで話すのも何だし街入ろっか、穴場の店も紹介するよ」
「ん、了解」
親しい先輩からの誘いを断る筈もなく、ついてくるようジェスチャーで示したペンシルゴンの後ろをてってこ付いていく事にしたジョシュアであった。
「あ、このドロップアイテム拾って良い?売って資金にしたい」
「いーよー、別に大したもの無いだろうからジャンジャカ売っちゃって」
しかし争いの場となったのは大都市の入り口、即ち多くのプレイヤーが行き交う大通りの始まりなのである。
「あのプレイヤーヤバくね?」
「廃人狩りじゃねぇか!?何者だあのプレイヤー!?」
「今の絵面だけ見れば滅茶苦茶目の保養なんだよなぁ、ついさっき阿修羅会の集団全滅させてなければなぁ」
「くっ……!トワ様とシアちゃんの絡みとかご褒美にも程がある……!これがアバターじゃなく現実だったら死ぬ所だった……!」
大量のユーザーが居るシャングリラフロンティアにおいて、公共となる場にて起きた出来事は揉み消す事の出来ない記録として残るのだった。
ちなみにジョシュアを囲んでしまった彼らのレベル平均は50程です。
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……